魔法使いの研究方(2)
「幽霊を見たことがあるか? 幽霊を信じるかじゃなく?」
ヘックス教室のナイツが一応の主催をしている魔法研究会。そこでアーシャという女生徒から、幽霊を見たことがあるのかと問われたクルトは、当然、戸惑っていた。
「意味的に同じじゃないのさ。何? もしかして、本当に見たことがあったりするの?」
アーシャの相方らしいカーリーが、クルトの発言につっこむ。かなり鋭い意見だ。
(霊魂的なものじゃないけど、ゴーストなら知っているんだよなあ)
クルトはゴーストと言う存在をこの目で見ていた。ただし出会ったことは、その件に関して不正な方法で研究資料を得ているため、おいそれと口に出来ない事情があった。
「さあ。どうだろうね。僕の魔法研究に関わることだから言えないね」
おいそれと口に出来ない以上、遠回しに知っているということを伝えてみる。勘さえ良ければ気付いてくれるだろう。
「あの……多分、知っているんだろうと思うから話してみますね」
アーシャが話す。まあ、うん。勘が悪くても気付く言い方だったか。
「私の実家では、幽霊が出るっていう噂があるんです」
「噂は噂でしょ? 実際、それが本当かどうかは、住んでる本人が一番知っているはず」
幽霊屋敷がいくらでもあるが、本当に幽霊が出る屋敷なんて殆ど存在しないだろう。
「はい。私も見たことがあります」
「あ、見たことあるんだ」
この話が嘘かクルトを嵌めようという意図が無い限り、本当にアーシャという女生徒の実家は幽霊屋敷ということになる。
(あれ、そうなると。もしかして僕の魔法研究に役立つんじゃあ………)
話を詳しく聞いてみるのも良いかもしれない。なにせこの場は魔法研究会なのだから。
「この娘さ。父親が姓持ちらしいのよ」
アーシャの話を聞きたいのだが、何故だかカーリーの方が積極的だ。二人の関係はいつもそうなのかもしれない。
「姓があるってことは貴族?」
「ううん。私は姓を持ってないし。国立騎士団員でもないの」
「なら名誉で貰う方のか」
マジクト国における姓とは、自分の立場を現す姓と名誉としての姓の二つがある。前者は職業だったり、統治者としての地位の保障をするための姓であり、家系そのものに与えられる。そしてこれらを持っている一族を貴族と呼ぶ。一応、国立騎士団員が持つ姓もその一種だが、こちらは本人だけが名乗る事を許されている。
そしてもう一種類。名誉としての姓だ。マジクト国へ多大な貢献をしたり、英雄的行動によって認められた場合、個人に対して姓が与えられる。前者程、権力的な意味合いは薄いが、国がこいつは凄い奴だと認める様な物で、貰った際の利益は大きい。
「私のお父さんは王城の建築に関わってて、その時に作った調度品が王家の人達に気に入られたらしいの。それで………」
「なるほど。まさに名誉の姓だ」
姓とは物や実際に手で触れられるものでないため、王家は簡単にその姓を他者へ与えることがある。
王家御用達の店では、その店主の多くが姓を持っていたりする。
「貰った姓はニケン。遠いご先祖様に領地を持った貴族がいたらしくて、そこから貰ったそう」
姓について随分と詳しく話す。恐らくは幽霊話という奴も、この姓にまつわる何がしかが関わってくるのだろう。そうでなければただの自慢話だが。
「今はきみのお父さんが貰っているってことは、そのご先祖様の貴族は没落したってこと?」
「そうなの。元々はマジクト家に仕える騎士と言えば良いのか……そういう立場だったらしいんだけど。国が出来上がっていく内に、家自体は平民になったらしくて」
「へえ」
騎士とはっきり言えないのは、騎士という階級ができる前のことだからか。まあ、マジクト家の軍事力を担う人間だったのだろう。
そうして武力を担うという役目は、国が安定してくればその権力を失う。没落したのはそういう理由だったからかもしれない。
「そんな姓を貰ったから、お父さん、舞い上がっちゃったみたいで、その貴族が持っていた領地に家を建ててそこに住もうって決意したそうなの」
「ちょっと待って。ご先祖様の領地に家を建てるって言っても、もう別の人の領地なんじゃあないの? 勝手にそんなことして大丈夫なわけ?」
領地という名目が有る以上、そこの全権は基本的にその地の領主が管理する。貴族の力を削ぎたい王家と、王家からの干渉を避けたい貴族達の間で、それなりの兼ね合いはあるものの、マジクト国内では領地の領主がその地の権利者だ。
要するに、勝手に住む場所を変えたり、移動したりと言ったことは、その地を管理する王家か貴族の了承が必要なのだ。
「場所のことなら大丈夫だったの。私達一家は王領出身で、昔領地だった場所も、今じゃあ王領だから」
「そりゃそうか。没落した古い貴族の領土なんて、だいたいはアシュル付近の王領になってるもんね」
王家は貴族の領地を切り取ろうと必死だ。偶然にしろ必然にしろ、貴族の没落によって土地が空いたのなら、真っ先に王家が掻っ攫うだろう。
「問題があったのは家を移った後だったらしいわ。ねえ、アーシャ」
今まで黙っていたカーリーが口を開く。ここからが本番だとばかりに。
「ええ。ご先祖様が住んでた土地はアシュルから少し離れた土地なんだけど、その分、空いている土地が多くて、新しく家を建てるのは簡単だったの。父さんも自分で設計するんだって張り切って」
アーシャが笑う。今はまだ楽しい思い出を語っている段階か。
「そこで問題が起こったってことは、家に幽霊がでる様になったとか? まさかねえ。建てたばっかりの家に幽霊なんて―――」
「そのまさか。アーシャの新しい実家にさ、いきなり幽霊が現れたんだってさ」
「本当に!?」
カーリーはまるで呆れた様な口調だった。そりゃそうだ。出来立ての家に、いきなり曰くが付いてしまったのだから。
「本当なの。男の幽霊が出るって、最初は母さんが見たって騒いで、馬鹿にしてた父さんも自分の目で見て、嘘じゃないってわかったらしくて………。最後には私も」
見たのだろう。幽霊を。でなければ、わざわざ研究会の場で、クルトに話し掛けては来ないはずだ。
「ううーん。けど、それだけじゃあなんとも」
「解決策とかは知らないの?」
カーリーは訪ねてくるが、どう返せば良いのやら。
「僕らは魔法使いだからね。何かを解決できるのなら魔法によることだよ。その、もし幽霊が本当にいたとして、それを解決するには、幽霊が魔法と関わる存在じゃないと無理だ。幽霊の特徴とかはどんな?」
クルトは幽霊。個人的にはゴーストと呼んでいる存在を知っているし、それに対する解決も、ある程度ならできると考える。というより、それに対する研究こそが、クルトの魔法研究なのだ。
今回、持ちかけられた相談も、恐らくはそれに類する物ではないかと考える。
(そうであれば、むしろ幸運かもしれない。けど………)
そうでなければ、クルトには何もできない。クルトは死後、人間が霊魂となって現れるということを信じていないが、だからと言って、幽霊のすべてがクルトの研究対象と同様の存在とも思っていない。
(例えば、集団ヒステリーの可能性とか、無いわけじゃあ無いんだよ。うん)
見る限りアーシャはまともだし、その可能性は低いのだろうが。低い方の可能性が当たっていた場合は、クルトに解決など不可能だ。
「特徴………顔は良く見えなかった。というより、全体の輪郭があやふやで、体だって透けてたわ。ただ、薄い光がそこに何かいるって」
「それでも男だってのはわかったんだ?」
「ええ。でも……そうね、本当に男の幽霊だったのはわからない。ただ、見えた輪郭が男の人みたいだったから、そう思ったのかも」
クルトが知る幽霊と同じ特徴はある様子。前に見たものは、もっとはっきりとした姿だったが、弱った状態であれば、丁度アーシャが見たものと同じ姿だった。
「その薄く光る幽霊だけど、色はどうだった?」
「色?」
「どちらかと言えば、青い光じゃあなかったかな」
魔力の光は青く輝く。クルトが知るゴーストとは魔力の塊であるため、同様に青く輝くのだ。
「そう言えば……そうだったかも」
アーシャは呟く。
「それはもしかして、魔力光じゃないか?」
と、視界外から声が聞こえる。
「ナイツ! 急にどうしたんだよ。他の魔法使い達と話しているんじゃ無かったの?」
声の正体はナイツだった。クルト達の話を聞いていたらしく、思い付いたことを話してみた様だ。
「ああ、そうだったけどな。面白そうな話をしているから、つい口を挟んでしまった」
「何やってるんだよ。あのねえ、この場は魔法研究会なんだ。もっと、色んな魔法研究について、あちこちで話し合うべきなんじゃあないかな?」
仲間がいるからとそこに集まっていれば、まったく研究が進まなくなるじゃないか。
「うーん。クルトくん? どうも、そういう状況じゃあないみたいよ?」
カーリーが頭を掻きながらぼやく。クルトはその声によって辺りを見渡す。クルトの周囲に集まっていたのはナイツだけでは無かった。大凡、この酒場に集まっていた魔法使いすべてが、こちらに目を向けていた。
「幽霊と魔法の関係がどうとか。随分と面白そうな話だから、どうにも興味の対象がお前達に移ったんだよなあ」
悪いとナイツは謝る。面白そうな話にはすぐに飛びつく。魔法使いという人種はみな似た者同士ということだった。
「幽霊と言う存在が、魔法によって形作られた物ってのは興味深いね」
「何もそう決まったわけじゃあないだろう? もっと実例が必要だ」
「アシュル街の裏には幾つもそういうのが出るっていう心霊スポットがあるわ。実際に調べてみるのはどうかしら」
酒場『親方商売』では、現在、魔法大学生徒達による、幽霊の正体は魔法が関わる何かか、という話題で盛り上がっていた。
切っ掛けはクルトとアーシャという生徒の話だったが、今はあらぬ方向に向かっている様にも思える。
「いや、その、悪いね。なんか相談が中途半端になってるみたいで」
クルトはその話の輪から少し離れて、同じようにしているアーシャに謝る。最初は彼女の家の幽霊について話していたのに、それは途中で終わっている。
「ううん。良いの。ここで幽霊の正体に魔法が関わっているっていう結論がでれば、少しは安心できると思うし」
幽霊や化け物と言ったものに対する恐怖とは、要するに未知なるものへの不安である。人間も動物だから、知らない物には警戒心を抱く。
だから幽霊に魔法が関わっているのだとしたら、その恐怖も和らぐだろう。
(けど、それで終了じゃあ面白くない)
不謹慎なことを考えるクルトだが、アーシャの相談ごとは、クルトの魔法研究に役立つかもしれない。だとすると、話だけでなく直接幽霊を見てみたいという衝動に駆られる。未知なる物に抱くのは警戒心だけでなく、好奇心だってあるのだ。
「あのさ、アーシャ? こういうのってできないかな?」
クルトはとあることをアーシャに相談してみる。魔法研究会での話だから、魔法研究に関わることである。
「うーん……。家はアシュルから近いし、できると思うけど………」
「ならそうしよう! やっぱり魔法使いとして、中途半端に問題を終わらせるのは駄目だ!」
あえて大声を出して既成事実を作り始めるクルト。酒場中の人間に聞こえれば、全員の興味をひける。
「おいおい。何の話だ?」
「主催者がまた何か始めるみたいよ」
「いや、この会の主催は俺なんだけど………」
幽霊話で盛り上がっていた魔法使い達の目線が、思惑通りこちらを向く。
「みんな、幽霊がどんな存在であるかを話すのは良いけど、まず発見された場所を調べることが先決だと思うんだ。現地に行って、直接この目でみる。研究者としての有り方って、そういうものじゃないかな」
「え、ちょっと。え?」
隣のアーシャが困惑した様子で話し掛けてくる。しかし申し訳ないが、クルトは自分の欲望を優先することに決めていた。
「彼女、アーシャの家はそこそこ大きいみたいだから、何人かお客が来ても大丈夫らしい。そこで、この会の中から数人を選んで、彼女の家の調査をしてみようと思うんだけど。行きたい人はいる?」
アーシャの意思もそこそこに、今後の予定を決めて行くクルト。
「あー、俺、行きたいかも」
「わたしもわたしも!」
「みんなが行くんだったら行くよー」
さすがは魔法使い。アーシャ本人の意思を確認せずに、自分の興味だけで動く。なんとも頼もしい奴らなのだ。
「よーし。今日言って、今日向かうのはさすがに気が早いから、今日から希望者を募って、一週間後にはアーシャの家に向かえる様にしよう! みんなよろしく!」
「おー!」
こうして第一回魔法研究会は、参加者の一人であるアーシャの家へ調査に向かうというイベントを生み出したのだった。
「………どうして?」
アーシャ本人の意思を無視しながら。
そうして一週間後。魔法使い達は、アーシャの家に向かう馬車に揺られていた。
「こんな人数で帰って、大丈夫かなあ………」
不安そうに馬車内部を見るアーシャ。馬車の中には、彼女を含めて6人の魔法使いがいた。
あまり大勢で家にお邪魔するのも失礼だからと、一応の厳選をした結果らしい。
「大丈夫なんじゃあないかな。これが1人か2人だったら何が目的なんだって怪しまれるけど、魔法大学の生徒が6人となれば、もう魔法研究のための調査にしか思われない」
軽くそんなことを言い放つのは、こんな状況を作ったクルトという生徒の一人だ。彼は同年代の生徒達の中では、かなり名の通った生徒である。
曰く、魔法大学に圧力を掛けようとした国立騎士団員を追い返した、曰く、とある貴族から、大学内部を調査する依頼を請けたエージェントである。
そんな馬鹿らしい噂が流れる程には、変わった生徒らしい。魔法研究の才能云々の話が無いのは笑える話だが。
(けど、悩み事を相談したのは間違いだったかも………)
噂の一つに、大学外へ良く出ることが多いという話をアーシャは聞いた。クルトが在籍する教室の教師が、オーゼ教師という良く大学外での仕事を請け負っている人物であるから、真実味のある噂であったのだ。だから、色んな話を知っているかもしれないと、実家に現れる幽霊の話を伝えたのだが、まさかこんな事態になるなんて。
「なーに暗い顔をしてるのよ。もしかしたら、悩み事の一つが解決するかもしれないのにさ」
落ち込むアーシャに軽々しく話し掛けてくる生徒がもう一人。大学の友人であるカーリーだ。自分と違って気が強い彼女がいれば、流されがちなこの状況を変えられると思ったのだが。
「カーリーも止めてよ。私、こんな人数を家に呼ぶなんて初めてなんだよ?」
「ええー。面白そうじゃん。幽霊が出なくても、家でパーティーできるよ」
この調子だ。頼りになると思っていたが、実際は状況の変化を後押ししている。
「うう……父さんや母さんになんて言おう」
できるなら、それだけでも考えなければならなかった。アシュルを出て2時間程。馬車で移動し続ければ、それで辿り着ける場所にアーシャの実家はある。それまでに、この人数を家に泊めるための言い訳を。
「いやあ、楽しみだなあ。幽霊か。どんな姿で出て来るんだろう」
アーシャの悩みを余所に、諸悪の根源であるクルトという生徒は、楽しげにしていた。その姿に酷い苛立ちを覚えたとしても、別に悪い事ではないだろう。
アーシャの父、マノリネク・ニケン宅に到着したクルト達一行。
辺りは未開な部分も多いが、それでも町並みと言える風景であり、そんな中でニケン宅は、町の端と言えば良いのか、近くに町と自然の境界である森が存在している場所に立っていた。
一応、事前にアーシャから伝えられていたはずの訪問であるが、正直、歓迎されるとは、クルトでも思っていなかった。
しかし意外なことに、出迎えてくれたアーシャの母サリナは、喜ばしいことでもあったかの様に歓迎してくれた。
「まあ! こんな大勢のお友達が? 嬉しいわねえ。これからも、うちのアーシャと仲良くしてあげてね?」
要するに親にとって、自分の子どもとは何時までもそうだということだ。アーシャが面倒な客を連れて来たというより、娘がお友達を沢山連れて来たという認識なのだろう。
「とりあえずみんな、家に上がって」
なんだか非常に疲れた風のアーシャに言われた通り、ニケン宅へと上がる一行。家は極端な装飾はされていないが、それでも広い。今、クルト達が全員一部屋を使って寝泊まりしたとしても、部屋は幾つか余るのではないだろうか。
「家族は3人だけ? それでこんなに大きな家なの?」
クルトは疑問をアーシャにぶつける。大きな家と言うのは、クルト自身、自分の実家で慣れている。だからこそ、家族3人だけの家であるというは不自然に思えるのだ。要するに維持が大変そうで無駄に思えるのである。
「お手伝いさんも何人か雇っているんだけど、それでも掃除が行き届いていないところも多くて………。お父さんがこだわって建てたから、文句も言えないの」
趣味が高じて建てられた家ということか。今日、この家で泊まることになるのなら、寝る部屋の掃除を念入りにしなければ。
「良いんじゃないか? センス良いよ、この家。材料も良いものを使ってる……多分な」
やってきた魔法使いの一人、ナイツが屋内を見渡しながら話す。そう言えば元々は商家の次男だったか。
「そりゃあ、アーシャのお父さんは王家に雇われたこともある建築家よ? そんじょそこらの人間じゃあないわ」
何故かカーリーが自慢げに話す。口ぶりからすると、アーシャの家についてはそれなりに知っているらしい。何度かこの家に来たことがあるのだろう。先ほど、アーシャの母親とも親しげに話していた。
「みんな、うちに泊まる予定? だったら、まず部屋に案内するけど………」
アーシャの言葉に甘えて、それぞれの部屋に案内されるクルト達。ちなみにクルトとナイツは同室であった。
「部屋はあるのに、どうして俺とお前が一緒の部屋なんだろうな」
ナイツがベッドに寝転がりながら話す。
部屋へと案内されたクルト達は、とりあえず休憩時間とし、30分くらいしてから広間へと集まる手筈としていた。
「部屋があるって言っても、ベッドのある部屋が多いとは限らないんじゃない? むしろ、来客用の部屋が幾つか用意できているのにびっくりしたね」
クルトがいる部屋のベッドは3つある。そして、こういう部屋が他に2つ程あるらしい。
「なんというか、作りは良いんだが、少し古いデザインな気もする。確か、彼女の父親は、先祖が昔住んでいた場所に、この家を建てたんだっけか?」
「うん。そう聞いているよ。この地で領主をしていた先祖と同じ姓を与えられたから、ここに再び住もうとした」
聞く限り芸術家と言った印象だ。この家の来た時、一同で挨拶もしたかったのだが、今は家を出ているらしい。
「なら、この家も何かの再現なのかもな。時代を遡った領主宅を現代風にって感じだ」
「なるほど。なら来客部屋が多いのも、家が大きいのも納得できるね」
貴族と家とは、一日を過ごす用途以外にも、やってきた来客を持て成す、領地管理の中心地とするなどの機能を必要とする。それらを含めると、どうしても大きな屋敷になってしまう。別に伊達や酔狂で家が大きいわけではないのだ。
「まあ、この家の場合は、贅沢の範疇なんだろうけど………」
いくら再現のためと言っても、それが実生活のために不必要なものであるならば、普段の余裕から来るものだろう。
「で、どう思う?」
「どう思うって、何が?」
ナイツは睨む様な目線で尋ねてくる。
「幽霊だよ幽霊。どうにもお前が率先して今回のことを計画した様に思えるんだよな。何を考えてるんだ、いったい」
「そういう言い方されると、なんだか僕が悪い事をしてるみたいじゃないか。幽霊に興味を持って、この家を調査することに参加したいって言ったのは、他の魔法使いも同じじゃないか」
「提案したのはお前だけどな」
「………」
さて、どうやって言い訳したものやら。裏で良からぬことを考えているというのは正解なので、クルトは嘘を考えなければならない。
「そーだね―――」
「きゃあああああ!!!」
なんだかとても丁度良いタイミングで聞こえて来る悲鳴。女の声だ。いったい誰の。
「なんだ、何かあったのか!?」
ナイツはすぐに部屋の扉を開けて廊下に出た。クルトもナイツを追うが、彼ほど驚いてはいなかった。
(なんだかなあ。やっぱり何か起こるんだよね)
なんとなく、幽霊云々の話を聞いた時、必ず何かしらの事件が起こる。そういう予感がしていた。
だからか、クルトは不思議と冷静だったのである。




