魔法使いの旅行方(5)
考えなければならないのは、自分の利益と、相手をいかに敵に回さないかの二つである。
ベッドに転がりながら思考に耽るクルト。軽い軟禁状態ではあるが、部屋自体はなかなかに上等なので、まあなんとかリラックスできている。
「いくら腹が立つからって、一国の王様みたいな相手と大学長を敵に回すのは愚手だ。でも、何の意趣返しもせずにいるのは僕の利益に反する。つまり、向こうが歯軋りして悔しがりながら、一方で僕を敵だと思わない方法が一番だってことか………」
何かをするチャンスと言えば、イーストカガの魔術同盟との会合時だろう。今はこの部屋にずっと居ることを強いられているし、会合が終わったら終わったで、すぐに帰国させられるはず。
「敵に回さない第一条件として、こっちが何の策を弄するにしても、それに気付かせないことが重要……だよね。それはできるだろうか?」
隙ならある。まず、今回の黒幕であるハル・カガと魔法大学大学長は、魔法知識に詳しくない。
例えば会合の際、魔法使いにしか分からない専門用語で話せば、監視されていたとしても、その内容を判断される可能性は少ないだろう。
「問題は、魔術同盟側がカガ家と内通している可能性だ。もし魔術同盟が向こう側だったなら、下手なことをして、こっちの悪巧みが筒抜けになる恐れが………」
できればこの町の魔術同盟についての情報が知りたい。直接向かうのは難しいだろうが、ある程度なら知る方法はある。
クルトはベッドから立ち上がり、部屋の入口まで向かう。
「すみません、ちょっと良いですか?」
扉を開けて、部屋の前へ立つ兵士らしき相手に話し掛ける。
「なんでしょうか。申し訳ありませんが、部屋からの外出はできる限り控える様にとの命令を受けております」
それはそうだろう。そのための監視だ。
「ちょっと、どう言えば良いのかな……とある資料か何かが欲しいんだけど。これだけで意味は通じる?」
「とある資料? それはどういう?」
首を傾げる兵士。この反応を見れば、どうしてクルトが監視されているかを知らない様だ。
「うーん。これが通じないとなると、もうちょっと立場が上の人に話した方が良いかもしれないね。僕を監視する様に命令している上司がいたら、僕が資料を欲しがってるって言えば、何かしら通じるはずだよ」
「はあ………。わかりました。少々お待ちを」
兵士は別の兵士に部屋の監視を頼み、持ち場を離れる。勿論、クルトが部屋を出る隙なんてない。そもそも部屋を出るつもりはクルトにはない。
だが、これで何かしらの情報は入ってくる可能性はあった。
「なに? 資料が欲しい? それだけ?」
「は、はあ。そう伝える様にと」
妙な子どもを監視する様に命令された、イーストカガ自警団の二等団員ことケインは、非常に緊張していた。
資料が欲しいという子どもの伝言を上司へ話すと、上司はなにやら慌てて、今度は上司のさらに上の人物に話を通した。最終的にどこかへと到達したらしく、そこへケイン自身が向かう様に命じられる。
そのどこかというのが、まさかイーストカガ統領の執務室だとは思いも寄らなかったが。
「どういう資料かは聞いていない?」
自分にとってどころか、国民から見ても最上級に位置する相手に話し掛けられて、ケインの心臓は張り裂けそうになる。ケインよりも若く見える男だが、ケインの首なんて口先一つで飛ばせる相手なのだ。
「はい! 資料だけでわからなければ、上司に同じ言葉を伝えろとのことでした!」
緊張しながらも、滑舌を悪くしないために声を張り上げる。
「ああ、大声を出さなくても聞こえるよ。それにしても……ふむ。内容を伝えないのはこちらへの配慮かな? 恐らくは会合に関係する資料が欲しいんだろうけど……」
なにやら悩んでいる様子のハル統領。自分にはまったく何のことかはわからないが、会合とやらは重要なのだろう。それにあんな子どもが関わっているとは俄かに信じ難いが。
「あ、あのう。わたしはこれからどうすれば………」
「うん? ああ、そうだね。まあ、渡せる内容のものなら渡しておくか。いいよ、下がって。相手にはすぐに持ってこさせると伝えておいて」
手でこの場を去るように伝えてくるハル統領。緊張で固まる体を動かして、カインはすぐに部屋を去った。
すぐに明日の会合の資料と合わせて、“交渉相手である魔術同盟のこと”や“イーストカガの現在の情勢”などが書かれた資料が届いたことに、クルトは満足していた。
「曖昧に言った甲斐があったよ。結構な収穫だった」
クルトは想像以上に詳しく書かれた資料を見て満足する。向こうは今回の会合をできるだけ内密にしたいから、詳しく部下に指示できない。だから資料が欲しいと頼まれれば、恐らくは会合の資料だろうと考えるけれど、他の可能性もあるからと、大雑把にまとめた資料を渡してこいと頼むはず。
つまりカガ家側が考える必要最低限以上の情報が、クルトに伝わってくる可能性が高かった。
「目論見は大成功。魔術同盟に関する資料があれば御の字だったけれど、まさかこの町の情勢までついてくるなんてね」
さっそく目を通して行く。会合相手の魔術同盟の名前は『山猫』。どうしてそういう名前なのかは書いていないが、構成員はそこそこの数がいるらしい。
地方周辺の魔法使いがこぞって参加しているそうだが、何故かと言えば、カガ家が魔術同盟員に給料を払っているかららしい。同盟員になるだけで金が貰えるならばと参加者が後を絶たないそうだ。
自分の首根っこを掴まれているとも知らないで。
「こうなると、魔術同盟側はカガ家寄りだと覚悟しなきゃなあ」
内密の会合を開けるくらいなのだから、この町の魔術同盟はカガ家の傘下であると分かってはいた。しかし資料でその事実を知れば、自分の味方をしてくれるかもという望みは完全に絶たれてしまう。
「でも、やっぱり味方は必要だよ。僕一人だけじゃあ、やれることが限られる」
だが、この町はまさしくカガ家のホームである。クルトの味方になってやろうという心情の者など一人もいないはずだ。
「つまり、こっちの味方をしているつもりがないけど、やってることはこっちの味方って人材を作る必要がある」
魔術同盟との会合の間で、それが可能だろうか。
機会は限られている。その短い間に、魔術同盟側の人間を観察し、見極め、知らず知らずにこっちの思い通りにする。そんなことが可能か?
「まず無理だあ。そりゃあね、同年代や同じ魔法使いの中では、こういう物事に慣れているつもりだよ? だけど特別優れているわけでもないんだから、そんな芸当できるわけない」
知り合いの大貴族などは、そういうこともできるのだろうか。経験豊富で立場と才能に恵まれた者なら、超能力の様に相手の心を読めるのかもしれない。
「そういう魔法が使えれば便利なんだけどねえ。まあ、諦めるかどうかは、資料を全部読んでからだ」
会合関係の資料については、会合の進め方から、どこでクルトが話し、どういう風に魔術同盟側の代表が返してくるかと言った物が書かれている。
「事務仕事だよねえ。こんな予定通りに進む話なら苦労しないって」
張本人のクルトが会合を搔き回すつもりなのだ。上手く行くことは絶対にないと断言できる。
「さて、最後に町の情勢か。人口の推移なんて見せられてもなあ。ふうん、ここ最近は減り続けてるんだ。意外だよ」
ここはカガ国の首都のはずだ。むしろ人口の増加に頭を悩まさなければならない場所のはずだが………。
「そうか。いくら本来の首都だからって、他二つの首都が経済的、立地的に優れているから、そっちに人が行っちゃうんだ。げ、最近は住民が出て行くことを制限してるよ。末期的だなあ」
このままなら近い将来、イーストカガは首都としての地位を奪われるだろう。単なる町の一つとなる。そういう傾向が、渡された資料から見て取れた。
「だからカガ家も、なんとかして他を出し抜こうとする。放っておけば、この町を拠点とするカガ家も没落するだろうから」
国家として決まった約束を反故にしてまで密会をしようとする裏には、そういう危機感があるのだろう。
「町の特色として、魔法都市でも演出するつもりなのかなあ。魔法大学との裏取引も、そのノウハウを得るためだったりして」
冗談程度の独り言だったが、実は的を射ているのではないかとクルトは考えていた。
「カガ国に魔法都市ができて、裏に魔法大学が絡んでいるとなれば、大学側も利益を得る側だ。なるほどなるほど。魔法大学側から人員を何人か送れば、カガ国の内政にすら関与できるかもねえ」
あくどい考えだ。単なる予想であり、予想しているのがクルトなので、クルトの思考が小賢しいとも言える。
「ふふふ。もし予想が当たりなら使えるぞ。小さな汚れかもしれないけど、あのカガ家当主や大学長の面目を、少しくらいなら潰せる」
そうして、クルトにも多少なり益のある話になるかもしれない。クルトは俄然やる気が出てきたのだった。
準備万全かと聞かれれば、まったくと答える。そんな状態であるが、予定が迫っているのなら行動する必要がある。
朝が来て、さっそく魔術同盟へと向かう様に命令された。横にまた別の兵士を連れながらだ。今回は魔術同盟との交渉を監視する役であろうから、ハル・カガ直属の部下かもしれない。
「あのさあ。もう季節は春なんだからさ。こういう頭まですっぽりと覆うフードなんて着てたら暑いんだけど………」
クルトは後ろを歩く兵士に向けて話す。後ろは振り向かない。振り向けば兵士の仏頂面が見えて、さらに暑苦しく感じるからだ。
「命令だ。きみは昨日、自警団によって捕まった身だと言うのを忘れないでくれ。そんな人間が町中を歩いていれば、嫌でも目についてしまう」
「ああ、そう」
自警団の団員を後ろに引き連れた小男というのも、目につく姿だと思うが。
「何度も話す様だが、くれぐれも勝手な真似はしない様に。もし予定に逆らえば、きみの安全は保障できない」
「わかってるって」
こういう台詞を吐けるということは、今回の兵士は、魔術同盟との会合がどういう意味を持っているのかを知っているということだ。
(まあ、会合の監視をするってことは、事情を知らなきゃできないか………)
非常にやりづらい。組織の裏事情を知る人間とは2種類いる。裏で策謀を続ける人間か、ただ実直に命令に従うゴーレムの様な人間かだ。
この兵士は恐らく後者。カガ家の命令に忠実で、少しでもクルトが不穏な真似をすれば、すぐにカガ家へと報告するだろう。
(もしくは、罰を与える役目も担っているのかもね)
厄介な相手だ。できればいなくなって欲しいが、そういう願いが叶うことはないだろう。ならば少し試しておきたいことがある。
「この町では、魔術同盟の人達は役に立っているの? 会合する相手が何の利益にもなってない人間だとやる気にならないんだけど」
「魔法使いは町のインフラに大きく貢献している。役立たずであれば、カガ家が彼らを支援するはずがないだろう」
「なるほど」
まるで棒読みだ。何かしらで覚えた内容の言葉を話しているだけだろう。つまり、多少の機転を利かせて話すだけの知識がないのである。
(魔法の知識に関してはあんまり詳しくはないと。これは僕にとっての幸運だ)
出し抜ける可能性があるということ。この兵士は味方ではないだろうが、難敵ではない。
「ところでその魔術同盟はどこにあるのさ。もう随分と歩いているけど」
「町の北東部に緩やかな小山がある。その上に魔術同盟の屋敷が建っている。だから、もう少し歩いて貰うことになるな」
「なるほど、山の上にあるから名前が『山猫』か………」
うんざりする。どうせなら、もっと便利の良い場所に建てたらどうなのだ。
(きっと、デザインやら格好つけなんだろうさ。山はともかく猫はどこから来たんだよ。猫はさ)
クルトは心で愚痴を吐きながら前に進む。目の前に見え始めた山なりの道に心を折られながら。
「いやはや、格差というのはどこにでもあるものですが、何もかもが上であるというのは、憎らしさを通り越して、清々しさすらありますな」
「は、はあ。そうですか?」
目の前で小太りで眼鏡を掛けた男が話す。魔術同盟『山猫』側の交渉役であるバーンズという男らしい。
クルトが魔術同盟の屋敷まで来てから、最初に出迎えてくれたのは彼だ。屋敷に入った途端、綺麗なお辞儀を見せられた時はどうしようかと思ったが。
(僕が来るってことを事前に伝えられてたんだろうねえ。他の魔術同盟とは、これまた随分と違った対応だよ………)
何故か柔らかいソファーと冷たい飲み物まで用意されて行われる会合は、自分が偉くなったと勘違いしかねないので止めて欲しい。少なくとも今は、クルトもどこかの誰かに体よく使われているに過ぎないのだから。
「まあ上に立つ者がいるということは、そこから何かを吸収できるということです。そう考えれば、上に立つ方は成長のための糧がない。それは不幸かもしれません」
魔術同盟側の交渉役であるバーンズは、何やらぐだぐだと良くわからないことを話し続けている。
(いったい何を言いたいんだろうね、この人は)
一応、今はお互いを知るための話し合いの段階だ。この後、クルトが自分の目的を話し、今後の交渉を提案。魔術同盟側がそれを了承するという“予定”だ。
「そういう不幸を背負う上位者が、新たな経験を得るには、むしろ下位の者との交流が必要だと思うんだが……」
何故かこちらの目を覗き込む様に見るバーンズ。まるで、上手く行っているかとこちらに尋ねる様に。
(ここから、魔法大学と魔術同盟との交渉に繋げて行けってことかな? 魔法大学が上の立場で、ここの魔術同盟が下の立場。となると、向こうもカガ家から何らかの命令、監視がされているということになるか………)
既にお互いが定期的な技術交流を望んでいるということだ。国として禁止されている交流に。
「上か下かの話であるなら、どっちがそうなのかはまだわかりませんよ? ご存知ですか? 魔法大学では最近、ゴーレム研究が盛んになっています。ですが、その知識の根幹にある物の多くが、大学外の魔法使いが行った研究によるものなんです」
クルトは相手が魔法についてどれ程の興味を抱いているかを試してみる。このまま本当に予定通りに進めば、相手について知る機会が無くなってしまう。それではまずいのだ。もう少し、このバーンズという男を知らなければ。
「ほう。在野……と言えば良いのですかな? 魔法大学と言えども、内部だけの研究では立ち行かない?」
「それはその通りです。魔法という技術分野は、まだ始まったばかりなんですね。だから、設備が整わない様な状況だとしても、まったく違った新たな発見がよくあります。そして、そういう発見の方が役立ったりする」
これについては本当だ。だからクルトの師などは、大学外の研究を積極的に集めているのである。
「なるほど。だとすれば私達の研究が、実は世界の最先端である可能性も無くはない?」
「そうですねえ。触りだけでも聞いてみないことには、何とも………」
さて、この言葉に相手はどう返すか。
「触りだけでも……ですか。そうだ、構成員の一人にミズルという女性がいるのですが、彼女の研究がわたしから見ても非常に面白いものでして―――」
「話が脱線している様に見えるが、それは良いのか?」
クルトとバーンズの会話に、交渉の場にもついてきた例の兵士が水を差す。
可笑しな真似をすればどうなるかと言う脅しの意思も、恐らくはある。話が余所へ向かえば、彼らの目論見が達成できなくなるだろうから。
(まあいいさ。バーンズって人がどういう人なのかについては、さっきの返しでなんとか予想はできた)
まず魔法についての興味と知識はある程度はあるはずだ。魔法研究を面白いと表現できるのは、そういう人種だ。
そして他人の研究について紹介できるのは、魔術同盟という組織の中では中心人物である可能性が高い。なにせ魔術同盟は、魔法大学ほど他人に研究内容を話す様な組織ではないのだ。それでも他者の研究を紹介できる程の知識を持つのであれば、それはその人物が他人の話を良く聞く人物であるということ。
(あー、全部妄想だよねこれ。希望的観測。外れてたら相当恥ずかしいぞ)
相手の何もかもを予想しようとするな。どこかの誰かに言われた忠告だ。
「ここまでの話で、魔術同盟とは何であるかは、ある程度知ることができました。魔法大学についてですが、渡してある資料を見ていただければ理解し易いかと」
「ああ、これだね。もうなんというか、組織の規模というか、在学生がなにやらとか、違いというものを見せつけられる資料だったよ」
まだ見ていないことになっている資料を、良く読んだ風に話すバーンズ。
(この人も、茶番じみた会合の準備を事前にさせられてたってことか)
もしここに監視役の兵士がいなければ、すぐにでも意気投合していただろう。
「それなら話が早い。こういう風にお互いを知るのは、得る物が多いと思いませんか? できるのなら、今後も定期的な会合や、その、技術的なあれを」
決められたことを破る。つまりこれから悪い事をしようとしているのだ。居心地の悪さを感じて、クルトは言葉が詰まってしまう。
「あ、ああ! そうだね、魔法大学と仲良くするのは、こちらとしても、ほら、良いことなんじゃないかと、知識も当然それだかさ」
バーンズも同じ様子である。この会合が終わって暇があるのならば、一緒に色々と愚痴を言い合いたい物だ。まあ、そんな暇もなく帰国させられるのだが。
「ふむ。両者の意見が一致したということは、ここに魔法大学と魔術同盟『山猫』の協定が成立したということで良いかな?」
話を聞くだけだった兵士が、どうしてだか話のまとめに入る。これも予定の内だ。そもそも協定成立というが、詳しい内容は既にカガ家と魔法大学の間で決定しているのである。後はあの兵士が用意しているであろう契約書にサインをして終了という手筈である。だから―――
(何か、僕の意思をこの契約に反映するには、今しかない!)
あくまで自然に、しかし相手の記憶に残る様に。ゆっくりとクルトは口を開いた。
「協定成立の前に、ちょっと世間話をさせてくれませんか?」
「何?」
明らかにこちらを睨む兵士。それはそうだろう。事前に決められた以外の行動をクルトはとったのだ。
「さっきバーンズさんが話そうとした魔法研究について、ここで聞いてみたいんですよ。どうせ契約書にサインをしたら、すぐにここを去ることになるんですから、聞く機会と言えば、この瞬間くらいじゃないですか」
あくまで我が侭であること演出して、クルトは兵士に要求する。
「………駄目だ。世間話程度と思うかもしないが、この場で行われるのは曲がりなりにも国家間同士が行う契約だぞ。契約とは関係の無い話は、極力無くすべきだ」
まあ、この人はそう答えるだろう。だからもう一押し。
「なら僕の方からも、魔法大学が行ってる魔法研究を紹介するって言うのはどうすか? そりゃあ人がいっぱい居ますからね。面白いものも沢山ある。両者が研究を紹介し合うって形なら、技術交流にも大いに関係あるんじゃないですか?」
なんとしてもバーンズと話し合う機会を作らねばならない。クルトの目的とはそれだった。
「いや、無駄話には違いないだろう。技術交流ならしかるべき場所で、決められた人物同士で行えば良い」
そうだ、当然断る。見るからに真面目な人物なのだ。しかし、クルトが本当に言葉を聞かせたかった相手はどうだろうか。
「ちょ、ちょっと待ってください。そりゃあこうやって契約を結ぶのですから、交流の機会はいくらでもあるでしょうが、今、彼の話を聞いてみたくもある。あなた方の言うしかるべき場所での交流とやらが今後続くのであれば、気安く話せるのは今回くらいでしょう?」
(よし、食い付いた!)
バーンズが兵士を説得するのを見て、クルトは笑いそうになった口をとっさに隠した。これを待っていたのだ。
兵士がクルトの話に興味がなくても、同じ魔法使いであるバーンズなら、他人の魔法研究に必ず関心向ける。そう考えていた。
「しかしなあ。俺にも命令が………。ああもう、わかったわかった。少しだけだぞ」
あんまりにもバーンズが真剣な表情をするので、兵士は折れた模様。
(僕の時は断固としてたのに、バーンズさんの説得は聞く。カガ家と魔術同盟の間には、ある程度の信頼関係があるってことかな?)
これは好都合かもしれない。ここの魔術同盟が持つカガ家への影響力は、それなりに大きい物かもしれないから。
「良かった。さっきの魔法研究の話が気になって。本当に丁度良いタイミングで話が聞けなかったでしょう?」
「確かに。あそこで区切られると、わたしでも気になりますよ」
兵士が会話に入ってくることは暫くない。そういう状況だからか、和やかな雰囲気なる。
「こっちにも面白い話が幾つかあります。どちらから話します? 僕としては、楽しみは後に取っておきたいんで、こちらから話しても良いですけど」
「ほう。でしたら、さっそく聞いてみたいですな。魔法大学の話もそうですが、マジクト国の魔法研究というのも、どういうものか知りたい」
良い調子だ。クルトはちらりと兵士を見る。
(って、窓の方を向いてるよ。良いのかな? そんな調子で)
兵士は会合がほぼ完了したのを見て気を緩めてしまっているのだろう。
「そうですねえ。これは同期生の一人がしている研究なんですけど、魔力を物に伝達する過程で―――」
クルトはバーンズへと魔法大学の魔法研究について伝えて行く。バーンズはそれを興味津々に聞いているが、一方で専門的な話になったため、魔法に関しては素人な兵士は蚊帳の外となり、すっかり興味を失っている様子。
(ははは。良いじゃないか。そうやって監視の目を緩めてくれるのなら、本当に助かるよ)
なにせ、既にクルトの策は始まっているのだから。




