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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの勧誘方
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魔法使いの勧誘方(5)

 ヘックス教師との話が終わり、生徒組合に戻ったクルト。運良くルーナがそこにいたので、さっきヘックス教師から頼まれた仕事について、いっさいがっさいを話すことにした。

 本人には内密にと言われたが、その姉には黙っておくようにとは言われていない。別に良いではないか。

 義理不義理を言うのなら、ヘックス教師の言うことは聞いているし、アンナの姉であるルーナには話を聞いてもらうことが義理を通すことになるはずだ。

「へえー。大学の先生ってそんな心配もしなきゃいけないんですかー」

「どうだろうねえ。ヘックス先生なんかは、アナンの魔法使いから授業テクニックを聞き出したいだけじゃないかな。教師としても、生徒の才能を伸ばせる授業なんて羨ましい限りだから」

 ただ本当に特別な授業を行っているかどうかが疑問だから、その授業を受けたはずの本人から、授業内容について聞き出すよう、クルトに頼んできたわけである。

「そうですねー。おじ様の授業については、わかりやすいと言えばそうでしたよー。なにせ、文字が読めない人にも教えてましたからー」

「へえ。それはすごい」

 魔法を学ぶことは、それを使うまでの理論を学ぶことである。つまり理的な考え方をする必要があり、尚且つその資料の殆どは紙媒体である。文字を読めぬ程度の社会と、そこに住む者にとっては、あまり向いている技能ではないのだ。

「魔法を勉強するという行為自体が理解できない人にはー、それこそ一般教養から教え込んでいましたねー」

「慈善事業か何かでもしてるの? その人は」

 それ程までに他者へ奉仕をして、いったいどんな利益を得ているのだろうか。それが心的な満足なのであるのなら、まさしく慈善の世界だろう。

「うーん。おじ様自身にも、何か特別な理由があって教えているって言ってましたねー。わたしたちを引き取ったことに関しては、あくまで義理立てだって話でしたけどー」

 なんでも、ルーナ達の両親はアナンの魔法使いとは親戚だったらしい。まさしくおじ様だろう。

「となると、やっぱり授業に関しては、特別な何かをしているってことだよね。魔法研究に関する何かかな?」

「でしょうねー。多くの人間に魔法を教えることで、とある統計を取っているって話していましたからー」

「とある?」

「それは詳しく聞いてませんけどもー」

 自分の親戚にも内密にしているのだろうか。だとすれば、ヘックス教師が本人にどういう授業をしているのかと尋ねたところで、聞き出せるかどうか怪しい。

「まあ、やっぱりアナンの魔法使いの授業は特別だってことはわかったよ。それさえ伝えられれば、ヘックス先生からの頼みごとは終了だよね」

 ヘックス教師が予想した通り、アンナは自らの才能以外に、魔法について特別な教育をされているのだろう。結果、彼女は若年にして優秀な魔法使いとなった。

 さらに詳しく知りたいのなら、それこそアナンの魔法使いから直接聞くほかないだろう。

「うーん。アンナ本人からは聞いてみないんですかー?」

 何故か、もっと情報を集めないのかと尋ねるルーナ。

「いや、アンナちゃんに対してはどうやって聞くのさ。ヘックス先生だって、直接聞き出すのは本人にとって嫌なことだろうから、遠回しに僕へ頼んできたんだからさ」

 それに、厄介事をさっさと終わらせられるのであれば、そうしたいとクルトは考えている。詳しく調べて、また余計なことをしなければならない事態はごめんである。

「でもー、わたし、おじ様が他とは違う授業をしているということに、あんまり興味を持ってませんでしたー。人それぞれ教え方が違うのは当たり前だって思ってましたからー。実はおじ様だけが特別なんだって言われれば、気になるじゃないですかー」

 かつて自分が学んだ魔法が、どうにも普通ではないと言われれば、確かに気になるかもしれない。ルーナ自身、詳しく知りたいのだろう。

「ルーナさん自身は思い当たる点はないの? やっている授業は一緒なんでしょ?」

「うーん。変な授業と言えば、光の魔法がありますよねー」

「一番最初に学ぶ魔法だよね。何かおかしなことでも教わったの?」

 光の魔法と言っても、単純に体外へ魔力を放出する行為である。やり方は簡単であり、特別な魔法ではない。

「普通は、とにかく魔力を光らせるまで魔力を集中させる訓練をしますけど、わたし達の場合、全身から魔力放出をして、それが完全に発光するまでは、他の魔法訓練は禁止って言われたんですよー」

「それって大変じゃないの?」

 魔力は一定量が集まれば発光する。見習い魔法使いは、自分の魔力を一点に集中させることで、漸く魔力の発光までこぎつけられるのだが、全身からの魔力放出となると、それができず、純粋に自身の魔力量を向上させるしかないのである。

 個人が放出できる魔力量は一朝一夕で増やせるものでないため、達成するためには長期間の訓練が必要だと思われる。普通はそんなものを課題にしない。

「大変でしたよう。自分が魔法の練習をしているのか、それともまったく違うことをしているのかわからなくなってきてー」

 それはそうだろう。自分の魔力量を増加させる訓練にはなるだろうが、それよりも日常で役に立つ魔法を習った方が良いではないかと思う。

「それでも、一応、上手くできる様になったから今があるんだよね?」

 その全身から魔力を放出する訓練とやらのおかげで、魔法使いとしての技能を身につけられたのだろうか。

「うーん。その練習のおかげと言うかー……。どちらかと言えば、それをしている時点から、どうにも予想より早く習得できたんですよねー。今思えば、不思議です」

「自分の才能のおかげとかじゃあ?」

「そうは思えませんでしたけどねー」

 どうにも要領を得ない。ルーナ自身。かつて行った魔法訓練がどれだけの効果があったのか、把握できていない様子だった。

「やっぱり、アンナにも聞いた方が良いかもしれませんねー。口裏は合わせますから、聞き出してみましょうよー」

 もう既にクルトの仕事というより、ルーナの興味で動いている形になっている。詳しく聞けるのであれば、それは別に構わないのだが、どうにも面倒なことになってきたと感じるクルトだった。


 アシュルの街にあるとある宿にて、魔法使いアンナは、教室へ所属するために必要な書類を作成していた。

 と言っても、サインをするたけで終わる契約書の様な物である。それ程時間が掛る物ではない。

「時間が余っちゃうな……」

 わざわざ姉が借りている部屋を使わせて貰ってなんだが、この程度なら、大学にいる時にでも書いておけばよかった。

 外に出かけようとも思ったが、目的地があるわけでもなし、目的地を見つけることから始めれば、それを達成する頃には日が暮れているだろう。

「そうだ……いつもの日課を忘れてた……」

 アンナはあることを思い出して、自分の荷物を探る。今日はこのまま姉の部屋に泊まるつもりであり、故郷からの手荷物は、すべてこの部屋に置いてある。

「あ、あった……」

 荷物から取り出したのは布である。何重にも折りたたまれて一見小さく見えるが、広げれば、部屋の3分の1程を覆える大きさになるだろう。

 勿論、家具やベッドがあるので、すべてを広げられる訳も無い。とりあえず、床に布を広げられるだけ広げたアンナは、その中心に立つ。

「大丈夫だよね……」

 いつもは、この布を完全に広げた状態で行っている日課だ。保護者であるおじ(血縁はあるが、家系図的には叔父叔母よりも離れた相手である)からは、別にきっちりと行わなくても効果はあると教えられているものの、心配と言えば心配だった。

「よいしょ……」

 あまり気合の入らない声ではあるが、本人的にはそれなりに区切りをつけるための声だった。

 全身に力を入れる。力だけでなく魔力放出も行う。これから始めるのは訓練だ。いつもの日課である、おじから教えられている“いつもと同じ魔法訓練”である。


 クルトがルーナに連れられて、彼女が泊まっている宿にやってきたのは、夕暮れ時だった。

「そう言えば、場所は知ってたけど、中に入ったことはなかったっけ?」

「そうですねー。中はそれ程散らかってませんから、ご安心をー」

 まあ、今は自分の妹も来ているのだから、整理整頓はできているのだろう。こんな彼女であろうとも、女性の部屋がごみ屋敷の様であるならば、クルトの幻想が一つ壊れるところであった。

「アンナちゃんは部屋の中に?」

「ええ、出掛けてなければですけどー。暫くはわたしの部屋で泊まるそうなんですよー。ちゃんと学生になるまでは、部屋も碌に借りられないって不安がっていましたー」

 見るからに子どもだから、どこかの宿で部屋を貸してくれと頼んでも、なかなか了承してくれないのだろう。魔法大学生であることを証明できれば話は別なのだろうが。

「学生証って、大学に申請すればくれるんだっけ?」

「結構仰々しい物ですから、申請後、暫くしないと発行してくれないんですよー」

 その暫くの間だけ、ルーナの部屋に泊まっているということか。

「そのまま姉妹で住めば良いんじゃない?」

「わたしもそう言ったんですけどー。もうちょっと広い部屋が欲しいらしくてー」

 贅沢からくる発言だろうか? それとも別の意図があるのかも。少し考えるクルトだったが、女の子の事情を深く考えるのはいやらしいことだろうと、思ってそれに関する思考を止めた。

「それで、どうやって、普段どんな風に魔法訓練をしているのかを聞くつもり?」

 宿へと入り、ルーナの顔パスで彼女の部屋まで向かう。2階にあるらしく、階段を一つ一つ上がる。

「そうですねえ。やっぱり、あの年齢で大学に入学できるのは、わたしから見ても変なんでー、ちょっと疑問に思った感じで聞こうと思います」

 それならば、別に怪しまれまい。勘繰ったところで、姉が自分のことを心配しているのかと思うだけだろう。

「でもそれだと、わざわざ僕がついてくるのは不自然なんじゃあ……」

 ルーナの後について廊下を歩きながらクルトは呟く。

「大丈夫ですよー。単に学友が遊びに来た程度のことって言って誤魔化しますからー。クルトくんだって、直接聞いてみたいでしょう?」

「まあ、そうなんだけどね……」

 廊下に並ぶ扉の一つを目にして、ルーナが足を止める。ここがルーナの部屋なのだろう。

「アンナー、お姉ちゃん、友達を連れてきたんで、入りますよー。良いですかー」

 中にいるかもしれない妹に確認をとるルーナ。姉妹としての気遣いというのはこういうものなのだろうか。

「うん。ちょっと…まだ片づけてないけど、大丈夫」

 中からアンナの声が聞こえてきた。細い声なのに、扉越しでも聞こえてくる。

「片づけ? 何かしてたんですかー?」

 扉を開けつつ、中を覗くルーナ。その目に映るのは、部屋に広げられた、大きな布であった。

「これは……。なんですか?」

「あ、姉さん。これ……、おじ様に貰った、魔法練習用の道具なの」

 クルトも部屋に失礼させてもらい、中を覗く。布は絨毯程厚くは無いが、不思議な絵が描かれていた。線があちこちに引かれていて、全体的には円の印象がある。

「もしかしてそれ、魔法陣か何か?」

 魔法陣とは、複雑な魔法を、自分の思考ではなく外部に刻むことで発生させる魔法技術だ。丁度この布の様に、線が重なって円状の模様になるものが多い。

「あれ……? 姉さんの友達って、クルトさんだったんですか?」

 部屋に入る姉とクルトを交互に見つめながら話すアンナ。

 もっと別に相手が来ると思ったのだろうか。しかし残念ながら、ルーナと親しい同年代の相手と言えば、クルトくらいしかいないのである。

 どちらかと言えば社交的な方だと思うのだが、友人関係があまり厚く無いのは、クルトが常々感じている疑問だ。

「うん。ちょっと用があったというか……。それよりも、その絵はいったい?」

「ご覧の通り、魔法陣です……。魔法練習用にとおじ様から頂いたもので……」

 魔法陣と魔法練習がいまいち結びつかないクルト。

「練習って、これを使って、いったいどういう訓練をするんですかー?」

「あれ? 姉さんも同じ訓練をしたんじゃないの? おじ様は姉さんに教えたことの発展系がどうとか……言ってたと思う」

 どうにもアンナは、この布を使って行う訓練が、一般的なものだと思っていたらしい。しかし、そういう訓練をクルトは聞いたことが無かった。

「わたしは、こういうものを使った覚えはないんだけどー。うーん。クルトくん、この魔法陣がどういうものかわかりますかー?」

「どういうものって言われても、まだ魔法陣関係の知識は専門外だしなあ。アンナちゃん、これをどういう風に使って、訓練をしているの?」

「床に広げて、その円の中心に立って、普通に魔力を放出するだけどすけど……」

 何か、自分のしていたことがいけないことだったのかと、不安そうにこちらを見るアンナ。

「その時、この魔法陣は発動していたりする?」

「うん。私の魔力に反応して、鈍く光るの」

「じゃあ間違いないか。訓練用の道具なんだから、それに関するものなのかな」

 クルトはもう一度、布に描かれた魔法陣を見るも、それがどんな魔法のための物なのかはわからない。

 魔法陣の解析は、まったく違う国の言語を調べる様な物だ。数を見て、意味を覚えなれば、理解できないのである。

「でも……もしかして、ルーナさん。ルーナさんが訓練した時も、こういう魔法陣がどこかにあったりしませんでしたか?」

「魔法陣でしたかー? ちょっと…見た覚えはー」

「じゃあ、訓練する時は、いつも特定の場所だったりは?」

「それはありましたねー。おじ様が用意した、訓練部屋っていうのがあるんですよー。ねえ、アンナ?」

 妹に同意を求めるルーナ。恐らくは同じ場所で訓練をしていたからに違いない。

「うん。私もその訓練部屋。途中で、この布を使えば効率が良いと言われて……」

 アンナは自分の物であるはずの布を見る。

「多分さ、その訓練部屋のどこかに同じような魔法陣があるんだと思うよ? その布は、魔法陣を持ち運べる形にしたものじゃないかな。だから、やっていることは、ルーナさんの訓練とそんなに変わらないから、安心しても良いと思う」

 アナンの魔法使いが行っていた訓練方について、なんとなくだが掴めてきたクルト。ただし、本人に会って確かめないことには、詳しく知ることはできないだろう。

 しかし、やはりアナンの魔法使いは、特殊な訓練を自分の教え子に課していたことは確かである。

 確信が持てたクルトは、とりあえずこの場を世間話で濁し、明くる日、ヘックス教師に元へ向かうことにした。


「なるほど、やはりアナンの魔法使いは、われわれにない魔法技術を持っていると考えられるわけか」

 厄介な仕事をさっさと終わらせようと考えたクルトは、ルーナの家に寄った次の日の朝に、ヘックス教師の研究室を訪れた。

 これが昼間であれば、相互の予定が噛み合わず、会うのが少し遅れる可能性もあった。

「そうですね。魔法陣を魔法訓練に活かし、なんらかの才能を底上げしているってことでしょうか? 僕の研究はまだ魔法陣とかそういうものを深く掘り下げないので、専門外でわかりませんが」

「その調査を君に頼むというのは、立場の違う話だからな。前に言った通り、アナンの魔法使いに関する詳しい情報収集は、また別の者に頼むことにしよう」

「それにしても、なんだか複雑な気分ですよ」

「何がだね?」

「だってそうでしょう? アナンの魔法使いに、直接訓練を受けた彼女らの話を聞く限り、人で自分の魔法研究の実験をしているわけなんですから」

 恐らくであるが、アナンの魔法使いの魔法研究とは、昨日見た魔法陣に関係するものだ。それは魔法訓練に応用できるものなのだろうが、訓練をするために魔法陣を生み出したとは考えられなかった。

「一般人に魔法をわざわざ教えるというのは、どういう意図を持ってのことなのか、良くわからないというのが周囲の意見だが、まあ、君の考え通りなら、理屈は通るな」

「例の魔法陣は魔法訓練に応用できる。つまり、それを使って魔法訓練を行えば、それだけ魔法陣の実験が行えるってことです。効果も、対象がどれだけ能力を伸ばしたかを測れば、ある程度知ることができる。そのために一般人にまで対象を広げて、魔法を教えてる。軽い人体実験じゃないですか」

 クルトはそういった物に嫌悪感を覚えている。魔法を使うのは人間なのだから、人間を使った魔法実験を行えば、当然、大きな見返りがあるだろう。だからと言って、他人の許可を得ずにそういうことをするのは、道徳に反する行為だ。

「だが、見る限り危険はないのだろう? むしろ、魔法技能を伸ばす結果になっているのだから、有用な実験だとも言える」

「でも、教え子の二人には、その内容を教えていませんでしたよね?」

「余計な不安を与える可能性がある。そう考えてのことかもしれない。アナンの魔法使いにとっては、危険ではないという確証だってあるかもしれない。そうであれば、教え子の能力を伸ばすためにその魔法陣とやらを使うのも、別に反道徳的とは言えんわけだ」

 ヘックス教師の言う通りかもしれないが、それでも、親しくなった相手が妙な魔法使いの実験に使われたかもしれないと思うと、少し否定的になってしまう。

「それにアナンの魔法使いの教え子皆が、そう優秀な魔法使いになっているわけでもない。今のところ、目を見張る程の力を持つのは、アンナという生徒だけだろう。これはつまり、その魔法陣とアンナの才能が合わさった場合の結果ということだ」

 他の人間にとっては、それ程効果の薄い物だったかのかもしれない。だから危険度だって低い。そう言いたいのだろう。

「まあ、これ以上の詮索は僕の仕事じゃないんで、文句を言いませんけど……」

「ああ、その方が良いだろう。魔法に関する危険性について、あちこち首を突っ込んで心配していると、そもそも魔法実験なんぞできなくなる。肝に銘じておくが良い、魔法には絶対に危険がつきものだ。君がしている魔法研究だって、他人を巻き込む可能性が十分にあるのだからな」

 なんとも因果な職業である。知らない内に天罰を受けていたとしても、疑問には思うまい。

「それでですね……例のどこかの教室が不正に資料を受け取った件に関してですが……」

 こちらもまた因果な話である。悪い事を隠し通そうなどと言う話は、当然、表で話せる内容ではないのだ。

「ああ、私はそういうことに興味がなくてね。資料? 知らんな、まったく」

 これで取引成立ということだ。ヘックス教師が口をつぐんでくれた以上、ここからクルトのやったことが、外部に漏れる可能性は低くなった。

「それじゃあ、今回の件はこれまでということで。ぶっちゃけ、あんまり好い気がしない仕事でしたよ。他人の過去を詮索するみたいで」

「それは申し訳ない話だな。私だって、魔法に関わらないことなら、いちいち調べたりはしなかった」

 それは、魔法に関わるのであれば、嫌な行為でもするという意思の表明であった。こういう考えができなければ、一流の魔法使いなんてできないかもしれない。

 自分の前途はまだまだ多難である。身に染みてそれが分かった。


 仕事の話が終われば、大学で行うのは勉強だ。暫くはオーゼ師が大学にいる様なので、今日も彼の授業を聞く。

 ただし、入学式の前と後で違う光景が一つ。

「人間の魔力量には多少の差異があるが、それはどこから来るものなのか。他の魔法生物においてもそうであるのか。明確に答えをだせた者はおらん」

「えー、でもー、魔法生物に関しては人間と同じように個体毎の違いがあるって、どこかで聞いた気がするんですけどー」

「うん? そうじゃったかな? まあきみが聞いたのであれば、そうなんじゃろう。うむ、であるから―――」

 オーゼ教室での授業は、いつもオーゼ師とクルト二人だけだったのが、入学式以後になると、ルーナも混じるようになった。

 彼女は正式に、オーゼ教室所属の生徒となったのである。ルーナから聞くと、オーゼ師の授業はおもしろいが、ところどころ穴があるため、授業中にそれを訂正していくつもりらしい。

(普通は、そういうことをされると嫌がる教師が多いけど、うちの先生は気にしないんだろうなあ)

 かつてはその関係から、教室を追い出されたルーナであるが、現在のオーゼ教室ならば、そういうこともあるまい。オーゼ師自身が自分のことをだらしない人間であると理解しているのだ。それを授業中に指摘されたところで、どうとも思わないくらいに図太くもある。

「ふむ。そろそろ時間じゃのう。いや、新たに生徒が入ってどうなるかと思ったが、なかなかに有意義な授業になった」

(むしろ、生徒に教えられてた様な……)

 まあ、これはこれでバランスの良い授業になったのかもしれない。そう思って、クルトは納得することにした。

「わしは午後から別の用事があるので、二人は自習なり魔法研究なり自由にすごしてくれ。それではのう」

 相変わらず締まらない言葉を残して、教室を去るオーゼ師。

「ほ、ほんとうにああいう風な先生なんですねー」

 オーゼ師の言葉を聞いて、さすがのルーナも驚いている様子だ。

「前から言ってたでしょ? 個性的な先生だって」

 雑談ついでに、オーゼ教室の状況についても話していたと思うのだが。

「話に聞くのと、実際に授業を受けるのとはだいぶ違いますよう」

「やっぱり、オーゼ教室に所属するのはやめる?」

「いいええ。多分、わたしもクルトくんと一緒で、こういう教室があってるんでしょうねー」

 むしろ気に入った様子のルーナ。

「前の教室をすぐに追い出されてからー、特定の教室に所属したことがなくてー、正直、不安だったんですよねー。でも、自分に合った教室が見つかって、ホッとしてます」

 なるほど。ならばルーナとアンナの姉妹は、同じ時期に自分に合った教室を見つけられたわけだ。

「クルトくんのおかげですねー」

「アンナちゃんの方ならともかく、ルーナさんには何かした覚えはないけどなあ」

 勧誘すらしてないのだ。いきなり自分のおかげと言われても、実感なんてないだろうに。

「普段から、この教室の状況を話してくれたじゃないですかー。それに、普段から楽しそうに魔法研究をしている姿を見せられると、わたしもどこかの教室にって思っちゃいますよー」

 そうして、オーゼ教室に参加することになったのか。

「なるほど、なら、僕の生徒勧誘も、まんざら捨てなものじゃないってことかな?」

「かもしれませんねー。新入生相手だと、まだまだですけどー」

 それでも、生徒が自分一人だけだった教室に新たな生徒が参加したのだ。なかなかに良い成果じゃないか。

 確かにルーナの言う通り、まだまだなやり方かもしれないが、これがクルトの勧誘方だ。



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