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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの勧誘方
39/94

魔法使いの勧誘方(1)

「というわけで、マヨサ家からの支援金が定期的に送られてくることになりました。微々たる金額ですけど、あちこち研究旅行に向かう資金にはなるでしょうねえ」

 アシュル魔法大学、オーゼ教師の研究室にて、クルトは師に自らの近況を話していた。

「羨ましい話じゃな。そういう仕事があるのなら、是非わしが請け負っただろうに」

 先日、クルトは貴族、マヨサ家の当主から直々の仕事を請け負い、それを達成することで、研究の支援を行ってくれるという確約を得ていた。

 クルトの魔法研究は、国中、または他国まで出向く必要がある研究であり、そういう後援は非常にありがたいことだ。

「今回は僕が幸運だったってことでしょうね。まあ、その代わり、魔法研究については本腰を入れなければなりませんけど……」

 金銭を貰う立場になるということは、そこにそれ相応の責任が生じるということだ。時には、後援者の意見に左右されることもあるだろう。

 いつまでも学生気分ではいられない。とは言っても魔法大学の学生であることは、これからも変わらないのであるが。

「まあ、一教師としては、そんな教え子の立場を尊重しようではないか。魔法研究について、知りたい知識があるのなら、答えられる範囲で講義をするつもりじゃよ?」

 有り難い話だ。ただ、クルトの魔法研究と、オーゼが行っている魔法研究とは方向性が大きく違う。もし助力を願うとすれば、基礎的な魔法知識や技術によるものだろう。要するに今まで通り、授業を聞いて、実技も行うといった形になる。

「力を貸してほしい時に、丁度良く魔法大学にいてくれることを祈りますよ。お互い、大学を出ることが多くなりそうですしね」

 オーゼは元々、大学外にある魔法知識を集めることを仕事としているし、これからはクルトも学外での研究が多くなる。もしかしたら、こうやって会うことも難しくなってくるかもしれない。

「そうじゃなあ。うん、であれば、今、しっかりと伝えて置く必要があるかもしれんのう」

「なんですか?」

 クルトとの話の中で、ふと何かを思い出したかの様に、オーゼが話す。

「そろそろ、おぬしが大学に入って一年になるだろう。既に今年度の入学試験は終了しておる。つまり新たな入学生が大学に入ってくることになる。ということは………」

「入学式が始まるってことですか!?」

 大声を上げるクルト。魔法大学の入学式とは、学園祭と並ぶ、大学の大きなイベントの一つだ。

 学園祭は自らの研究は発表する機会であり、入学式は新入生を教室へ勧誘する一大行事であった。

「うむ。入学式で教室の紹介をするのは教師の義務じゃが、おぬしが入ったせいで、教室の特色というものが無くなってのう。できれば、上手い具合に教室の紹介をするため、おぬしにも勧誘に参加して欲しいのじゃが」

 普通は教室毎に魔法研究の方向性というものがあり、新入生側はそれを見て、どの教室に入るかを選択する。

 しかし、そもそもオーゼ一人の教室だったところに、クルトが唯一の生徒として入ったのがオーゼ教室の内情だ。

 オーゼ教師は、生徒の自主性に任せて教室を運営しているという名目があり、事実、クルトはオーゼがしている魔法研究とはまったく違う研究をしている。つまり、オーゼ教室がいったい何を目的としている教室なのか、酷く曖昧なのである。

「新入生を勧誘しようとしても、どうやって勧誘すれば良いのか、ちょっと思いつきませんよね………」

 新入生がオーゼ教室に興味を持ったとして、教室をどうやって紹介するのか。クルトにはわからない。

「一応、自由度の高い教室であるという点で紹介しようと思うておる。教師のわしはこういう研究をしとるが、一方で生徒のおぬしはまた違う研究を進めているといった具合にのう」

 なるほど、それならば確かにクルトも参加した方が上手くやれるだろう。

「わかりました。準備もあるでしょうし、暫くは予定を空けておきます。具体的にはどういうことをするつもりで?」

「いや、それがな。毎年、軽く説明するだけで終わっとったから、どこでどういう風に勧誘すれば良いか、わからんのだよ」

 長らく本気で生徒勧誘をしてこなかったからこそ、生徒がクルト一人のみという現状があるのだ。

 今回、ちゃんとした生徒勧誘をしようと思い立ったのは、生徒がクルト一人のみという状況が不健全なのではないかと感じ、尚且つ、暫くオーゼ師が暇だからだそうだ。

「おぬしだって、学友は欲しいじゃろう。いつまでも教師一人、生徒一人というのはいかん」

「そうりゃあまあ、そうですけど。勧誘の仕方なんて、僕も知りませんよ」

 これからは大学在籍2年目になるのだ。基礎的な魔法知識はある程度学んだし、後輩の面倒だって……いや、ちゃんとできるのか? 自分はこの教師に似て、結構、ずぼらなところがある。後輩が入ったところで、自分と同じ苦労をさせるのでは……。

「ま、まあとにかく、生徒勧誘のノウハウについて、誰かから聞くことから始める必要がありますね」

 先の心配は後に置こう。今は目の前の問題にのみ集中すべきだ。

「アテはあるかの? とりあえずわしは、他の教師から、どういう風にしているか聞いてみるつもりじゃが」

「そうですねえ。こういうイベント事について、良く知っていそうな人がいますから、とりあえずその人に聞いてみることにします」

 話はここで終わり、クルトはオーゼの研究室を出た。

 次に向かう先は生徒組合の宿舎だった。いつもそこにいる、生徒組合事務員のルーナであれば、教室の生徒勧誘について色々と知っているだろう。


 生徒組合宿舎。いつもは来客対応用のカウンター付近にいるルーナが、今日は珍しく慌ただしく動いていた。

「どうかしたの?」

 忙しくしているより、暇そうなことが多いルーナであるので、そんな姿を見たクルトは、少し心配する。

「どうかじゃないですよー。入学式に向けての準備をしてるんじゃないですかー。クルトくんも事務員なんだから手伝ってくださーい」

 いつも通りの間延びした声であるが、切羽詰ったものに聞こえるのは、そういう感情が籠っているからだろう。

「生徒組合側は、入学式に関して特に関与しないんじゃなかったの?」

 入学式の際、新入生がどこの教室に入るのかは、個人の判断に任される。そこに生徒組合側がいちいち文句をつければ、どこかの教室を不当に持ち上げたり、はたまた貶めることに成りかねない。

「確かに新入生の勧誘は、生徒さん個人がしていることじゃなくて、教室団体で行っていることですからー、生徒の扶助を目的とする組合が手を貸すのはちょっと違いますけどー。それとは別に、新入生の方々へ、生徒組合という組織がありますよーといった宣伝や、もしこちらに相談しに来られた時に対応準備もしなきゃいけないじゃないですかー」

「それもそうだね」

 入学式だって、大学全体でのイベントなのだ。生徒組合が何もしないなんてことはないだろう。

「例年、広報不足なんじゃないかと思ってるんですよねー。おかげで、事務員になってくれる人もなかなかいなくてー」

 遂にはめそめそと泣き始めるルーナ。

「あー、そう言えば僕も、大学に入学して何週間かは、生徒組合の存在すら知らなかったっけ?」

「入学の際に、組合員になる旨の契約を交わしているはずなんですよう。それでも何故か認知度が低いんですよねー」

 大学入学の際は、大学側との様々な契約を行う。大学生徒になる登録であったり、自分の出身地や年齢、性別の照会といったもので、その中の一つに、生徒間の互助として、生徒組合の組合員になる契約を交わしている。

 ただ入学の際はいろいろと忙しくて、細かい部分は見ていないのだ。そうして、良くわからないままに生徒組合の組合員になっているということが殆どの者の例であった。

「それはもう仕方ないんじゃない? まさか無理矢理事務員にしたり、通告したりするわけにもいかないし………」

「そうなんですよねー。生徒の自主性に任せて魔法研究をさせることこそが、大学の役割ですからー、生徒組合が生徒さん側の要請もなく、しゃしゃり出るのはいけないことなんですけれどー」

 しかし生徒組合事務員としては、もっと事務の増員を望みたいのだろう。だから、こんなにも慌てて、広報用のパンフレットなどを作っているのである。

「ええっと、何々? 望む、生徒組合事務員! 生徒組合は、新入生の中で他生徒を助ける熱意を持った人物を募集しています……こんなので来るの? どうにも怪しい団体の勧誘にしか思えないんだけど……。あ、しかもいらなくなった書類の裏面を使って作ってるし」

「どうせポスターみたいにどこかに貼られて終了ですから、それで良いんですよー。けど、こういうのでもしないよりはマシですしー」

 忙しそうなのに、やる気のない返事である。こっちまで気が抜けてきた。

「あー、うん。僕も手伝うよ。ちょっと聞きたいことがあったけど、今は無理そうだ」

 今ここで頼みごとをすれば、彼女のやる気をさらに削ぎかねない。とりあえず一段落させてから話した方が良いだろう。

「そうしてくださーい。クルトくんには、これとこれと、あとこれもお願いできますかー」

 クルトの目の前に積まれる紙束。これらに、事務員勧誘用の宣伝文句を書かなければならないらしい。そう思うと、クルトも少し鬱になりそうだった。


「タニア教室は女性が多い。男性が入れば雑用を押しつけられる可能性が大っと」

 辺りが暗くなったというのに、生徒組合の仕事は終わらない。漸く勧誘用の張り紙を作ったと思えば、次に各教室の概要まで作ることになった。

「あのう、あんまり個人的な見解を書かないんで欲しいんですけどー」

 ルーナはこちらをジト目で見ながら話す。文句をいう暇があるのなら手を動かせばどうなのだ。

「どこそこの教室がどんな感じとか、個人の意見を書かずにどうやって書くのさ。というか、こういうの作って良いの? どう作ったって、どこかの教室を贔屓しちゃうでしょ」

 新入生用に作った教室概要であるが、現在、クルトが作っている分は、教室好き嫌い表になっている。さすがにオーゼ教室については、ルーナがその概要を書いているので、ある程度の公平性が無いわけでは無いとは思う。

「あくまでこれは、生徒組合に相談しにきた新入生の方向けですからねー。相談に来られた以上、対応するのが生徒組合の仕事ですよねー」

「それで、そういう新入生ってどれくらいくるものなの?」

「ええっとー。クルトくんの時だと、3、4人くらいでしたっけー」

 そんな少ない人数が曖昧になるはずがない。3人が実際の数で、4人と言ったのは見栄だろう。

 つまり3人の生徒のために、この概要を作っているわけだ。

「まあ、広報用のポスターよりは、作ってて面白くはあるけどね………」

 実際、各教室にいちいち自己流の感想をつけている気分で、なかなか無い経験だった。こうやると、自分の好みがわかってくる。

 どうにもクルトは、自由度がある教室を好み、がちがちに授業や研究内容を決める教室を嫌っている。

「今のオーゼ教室が、それなりに合ってるってことだよね。ああいう先生でも、一応感謝しとくべきなのかな?」

 自由度だけで言えば、学内でオーゼ教室が一番だろう。なにせ普段の授業も自習が多いのだから。

「そう言えば、クルトくんは何か相談があって来たんでしたっけー。なんなら、ここで聞きましょうかー?」

 作業を進めていると、集中力が切れて来たのか、ルーナがそんなことを聞いてきた。

「良いよ。この仕事が終わってからで。入学式のことなんだけど、まだ時間はあるみたいだし」

 魔法大学入学式まで、あと4日程。学園祭の時の様に研究発表をするわけでもなく、その準備もない。

 オーゼ教師は他の教室の様に、強引だったり派手なことをするタイプでもないだろう。入学式の準備に要する期間は1日あればできるとクルトは考えている。

「そんなつれないことを言わないでくださいよう。生徒の悩みはわたしの悩み。何かあったのなら是非聞かせてくださーい」

 これは親切心からの言葉なのか。それとも今の仕事に飽きが来たので、別の話がしたいのか。

 クルトは事務作業をする手は止めず、自分の悩みを話してみることにした。

「入学式でさ、新入生勧誘をしてみようってことになったんだよ。うちの教室で。けど、先生も僕も、そういう経験がぜんぜん無くって、どうすれば良いのか悩んでて」

「オーゼ教室ってー、クルトくんが入るまでは、そういう活動自体、あんまり本格的にしてませんでしたからねー。なるほどなるほど、なら、わたしが手を貸すことで―――」

「駄目。それじゃあ生徒組合が特定の教室に肩入れすることになる」

 ルーナの提案をクルトは断る。

 当事者である教室の生徒が、入学生の勧誘をするならともかく、関係の無さそうな生徒組合の事務員が手を貸せば、抗議が組合に来る可能性だってあるだろう。

「普通はどういうことをするのか、聞かせてくれるだけで良いんだよ。別にそう凝ったことをするつもりはないし、そもそもできない」

「えー、わたし、入学式当日は暇なんですよー。ここで待ってても、新入生の子たちはぜんぜん来てくれませんしー」

 泣きそうな顔をしてルーナは話す。

 どうにも、オーゼ教室が行う新入生の勧誘を、体のいい暇つぶしにするつもりみたいだ。

「2,3人は来るんでしょ?」

「一日に3人だけですよう! しかも教室毎の概要を見せたら、すぐに帰っちゃいますしー」

 まあ新入生は教室探しのために大学へ来ているのだがから、わざわざ生徒組合に長居することはないだろう。

「だけど、手伝って貰うだけの仕事があるとも思えないんだよなあ。実際、勧誘とかされても、ルーナさんはオーゼ教室の生徒じゃないんだから、新入生側からしてみれば詐欺じゃん」

 一応、ルーナは魔法使いとしての技能は高いのだ。自己流なのか誰かに習ったのかは知らないが、大学に入る前から、ある程度の魔法を使えていたらしい。

 だからこそ、そういう人物が手伝いという形で勧誘を手伝えば、彼女の能力がオーゼ教室の授業の賜物だと勘違いされて、大変なことになる。

「うう……。それはまあ、そうかもしれませんけどー」

 睨まれたって、やっぱり手伝ってくれなどと言えるわけもない。クルトはルーナから目を逸らすことで、彼女の視線を回避する。

「だからこれは、一生徒から生徒組合事務員への頼みで、他の教室がどんな風に生徒勧誘をしているのかを聞いているんだよ」

「そう言われたら、断れないじゃないですかー。そうですねえ、とにかく勧誘の基本としては、自分達の教室で講義を行って、実際、魔法を使うところも見せるってことを、どこの教室もしてますねー」

 なるほど。確かに実際の授業を見せなければ、新入生側はどういう基準で教室を選べば良いか、わからなくなるだろう。

「そういえば、僕の時もそんな感じだったよ。ヘックス教室の勧誘授業を受けたけど、結構、面白かった覚えがある」

 まあ、結局は現在のオーゼ教室の方に惹かれたので、今があるわけだが。

「ぶっちゃけていえば、新入生勧誘って、それだけのものなんですよー。選ぶ権利は新入生側にありますからねー。勧誘する側は、授業内容がどういうものかを知らせるだけで良いわけです」

 なるほど。それは確かにそうだ。大学に入った時点で、魔法の勉強や研究をする意欲はあるのだ。後は、どこで学ぶかを選ぶのみである。

「でも、その割には教室の生徒が激しく勧誘合戦や魔法の見世物なんかを開いたりしてるけど……」

「そうなんですよう。新入生さん側も、すべての教室の授業を見学するわけじゃあ、ありませんからー。結局、見学する教室は、多くても4つか5つでしょー?」

「だいたいはそうなんだろうね」

 クルトの場合はヘックス教室とオーゼ教室の2つだった。別に他の教室を見学する時間が無かったのではない。ただ、2つ目に見たオーゼ教室の授業が気に入ったから、他を見学する気になれなかったのだ。

「とりあえず授業を見学して貰わないと、教室に入ってくれないじゃないですかー。ですから、新入生を教室側が積極的に勧誘するんですー。教室それぞれがそんな考えなので、どんどん派手なものになっちゃいましてー」

 確かに入学式当日は、とにかく煩かったのを覚えている。教室に在籍する生徒の数によっても、年内の研究予算が決まるため、各教室も必死なのだろう。

「でも、うちはそういうことをしたくはないなあ。積極的に生徒を呼び込むって雰囲気でもないでしょ?」

「そうですねー。教師、生徒共に好き勝手している印象ですもん」

 反論できないのが中々に悔しい。

「となると、やっぱり普通に教室で授業をやってますと伝えておいて、来てくれる新入生に見学授業でもしてあげるのが、一番なのかなあ」

 無理矢理連れ込むというのも、何か違う気がする。というより、オーゼ教室は普通の教室とは少し違うことを自覚しているため、肌に合わない新入生を勧誘するのは、可哀そうに思えてしまう。

「ですねー。あ、でもでも、わたしが手伝えば、凝った勧誘ができる可能性も」

「だから駄目だって」

 この人はまだ諦めていないのだろうか。


 ヘックス教室研究室。そこは様々な魔法の資料になるものが、しっかりと区分け整理されて置かれた、まるで聖域の様な場所だ。見ただけで入る者は躊躇するし、その部屋の主を知る者であれば、さらにそこへ緊張が混じる。

 珍しくそんな部屋に招かれた生徒、ナイツもそんな感情を抱く。

「でだ、今回、君には大学周辺を見回り、目ぼしい入学生を、教室まで連れてきて貰いたい」

 部屋の主人、ヘックス・アーキーに話し掛けられると、ナイツはどうしてだが肩が震えそうになる。

 普段の講義以外では、特別怖い人物ではないのだが、どうにも威厳というかカリスマというのか、そういうものを感じるからだろう。

「え、ええ。他の教室も、そういう仕事は生徒に任せていますから、異存はないのですが……」

 ナイツがヘックス教師の研究室に呼び出されたのは、入学式での授業見学について、ヘックス教師と話し合うためだった。

 話し合うと言っても、力関係は向こうが上、教師の命令を生徒が聞くという状況でしかないと思う。

 事実、現在、ナイツは入学式で生徒の勧誘をして欲しいとの命令を受けた。普通なら、そこではいと答えれば良いのだが……。

「やはり疑問に思うか?」

 ヘックス教師からも、ナイツの心情は読み取れたらしい。顔にでも出ていたのだろうか。

「ヘックス先生は、入学式で新入生を勧誘するという行為に消極的だと聞いていました。俺が入学式で先生に話し掛けられた時も、生徒ではなく、先生自身に授業に参加しないかと誘われましたし、それだって、授業を開くのに人が少ないからという理由ででしょう?」

 自分で言うのもなんだが、ヘックス教室は優等生の集まりだ。魔法使いの優等生とは、ただひたすらに勉学と研究に勤しみ、生活を削ってでも自らの技術を向上させようとする人種をいう。

 そういう人種の集まりであるから、その他の行為、例えば入学式で派手なイベントをするというのは、あまりやりたがらない。これが学園祭であれば、自分の研究発表なのだからと、態度は一変するのであるが。

「ああ。私も、君に仕事を任せるというのはやや引ける。能力を疑うのではないぞ? ただ、それをする時間があれば、魔法の勉強にでも使えば良いと思っている」

「では、何故?」

 ヘックス教師が、わざわざナイツの様な教室にとって新参者を呼び出し、勧誘の仕事を任せるというのは、理屈に合わないではないか。

「君は入学の際、当然、試験を受けたはずだな?」

「はい、筆記ですが」

 魔法大学の試験は年1回。2種類が存在する。一つは筆記試験。魔法に関しては殆ど素人である人間が、魔法使いを目指す場合に受ける物だ。一般教養と、魔法使いの歴史についてが主な出題であり、魔法それそのものの知識や技術は必要とされない。しかし、それがなかなかに難解な物で、毎年、試験の合格率は低い物となっている。

「それとほぼ同時に、実技の試験も行われる」

 そう、もう一種類は実技試験である。既に魔法の知識や技能を持つ者が、魔法大学に参加するという形で行われる試験であり、こちらはある程度の力があれば、人数を問わず入学することができる。

 これは、魔法大学がマジクト国に存在する魔法知識の集積所としての役割を、担っているからだ。

 魔法知識を集める以上、大学外で既に存在している魔法使いも、魔法大学の関係者にしたいという目論見があるのだろう。

「実技の内容については、受けたことがありませんので、詳しくは知りません。ただ、そういうものがあるとは知っています」

「試験について、筆記が受験生を振るい落とす物ならば、実技は受験生を測る物だ。対象の魔法使いが、どれだけの技能と知識を持ち、いったい何を研究し、どれ程の力を持つのか。実技に関して言えば、大学側の真意は対象魔法使いの把握と言った方が良いかもしれんな。大学へ入学させるのは、あくまで“ついで”だろう。受けた者はだいたい合格している。まあ、受験生の数はあまり多くはないがな」

 そういうものなのか。実家の商家で、両親の目を盗みながら、魔法大学に入るために勉強を続けていたナイツにとっては、羨ましい話に思える。

 ただ、魔法の力が既に使える者にとって、大学入学はそれ程魅力を感じない物なのかもしれない。

「その実技試験で、何かあったのですか?」

「非常に優秀な魔法使いが現れた」

「良いことに思えますが」

 相手が既に魔法使いであり、しかも才能もあるというのならば、大学にとって朗報だろう。なにせ、大学に入ってくれるということは、その力を大学に活かせるのだから。

「裏に何もなければそうだろう。しかし、優秀過ぎれば疑問に思う。何故、わざわざ魔法大学に? とな」

 在野で既に能力があるのならば、大学に関与するのは枷になる可能性もあると、ヘックス教師は話す。

 組織に属するということは、大方の意思を、組織に委ねてしまうということだ。それを嫌う人間は多い。

「つまり、何か良からぬことを考えて入学してきたと……」

「そうかもしれないし、そうでないかもしれない。本当に向学心を持って入学してきたというのならば、むしろ我が教室に参加させたいとも思う」

 怪しければ探る必要があり、怪しく無いのなら勧誘したい。だからナイツを、入学式の勧誘役に任せるつもりなのだろう。

「授業見学は実技で通った入学生にも開かれている。というより、実際は生徒全般に開かれた物だ。わざわざ受ける相手が新入生しかいないだけでな」

「だからその優秀な入学生も、入学式で教室を探しているかもしれないわけですか……。わかりました、力のある生徒が増えれば、俺にとっても良い刺激になるかもしれません。勧誘役、任せてください」

 実技において、優秀な成績を収める魔法使いを見てみたいという好奇心もあり、ナイツはヘックス教師の提案を了承する。

「君なら、そう言ってくれると信じていたよ。これが対象の資料だ。勧誘する時の参考にしてくれ」

 ヘックス教師から、勧誘対象の情報が書かれた資料を手渡される。受け取った直後にナイツはそれを流し読みするが、とある項目に目が止まる。年齢と性別である。

「11歳!? これは魔法使いというより女の子だ!」

 だから入学目的を探りたくなった。ヘックス教師はそう答えた。



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