魔法使いの勤め方(5)
「ふう。やっぱり、長い時間魔力探知に専念しても、これといった変化は見られないなあ」
調査小屋で鉱山亀に手を向け続けるクルトであるが、気になる点は見つからない。
「これだと、むしろ僕が未熟だからっていう可能性は薄くなるんだよね」
時間は経験を肩代わりしてくれる。難易度の高い魔法技術でも、長時間を掛けるという条件付きならば、なんとかなるものだ。
「だったら、鉱山亀は魔力へ変換できる何かを体の中に持っている。そういう仮説が正しくなるわけか……」
魔力を感じない。しかし転移用の魔力をどこかに用意しているのは確かだろうから、クルトが何となくティリッジに話した仮説は、的を射ていたことになるだろう。
「でも鉱山亀の体内には、そういう変換させるものや、頭脳に成り得る核みたいなのが見つかってないんだよなあ。本当に変な話だ」
肉体はどこまでいっても岩と同じ。鉱山から発掘される以上、惨い話であるが、何度もその体を割られたことがあるらしい。ただ、その体の中からは特別な何かは見つからなかったそうだ。動かなければ、岩に刻まれた彫刻と同じだ。
「核がなければ、どうやって体を動かしているんだ? そりゃあ魔力による物だろうけど、その源泉はどこに?」
疑問符がどんどん浮かび上がる。そもそも、良く考えてみれば、体を動かすために魔力を常に放出し続けていることもおかしい。
「体全体がただの岩なら、内臓なんか無いってことじゃないか。人間なら、常に心臓やら血管やらを動かし続ける必要があるけど、鉱山亀はそうじゃないんだ。なら体を動かす時だけ、魔力を放出すれば良い。その他は無駄だ」
一見無駄なことであるが、そんなことをする生物はなかなかいない。何かしら利益のために、どんな生物も行動している。
「何か見落としがあるんだ。体全体を魔力で覆う理由。それはもしかして―――」
「クルトくん。まだいるかね?」
小屋の扉が開き、ティリッジが顔を出す。そちらを見ると、どうやらもう外は暗く、夜になっていた。
「はい、いますよ。そっちは何かありましたか?」
小屋に二人が揃ったということは、今日の現況報告が始まる。一日毎に情報の共有と整理をしなければ、次の日に新たな目的を定められない。
「そうさなあ。面白い話を幾つか仕入れたが、それが役立つものかどうかは、きみの意見を聞きたい」
なかなかに朗報だった。ティリッジの顔を見れば、それなりの収穫があったのだろう。一方クルトと言えば。
「こっちは駄目でしたね。まったく進展がない。むしろ考え事がいろいろと増えましたよ」
とりあえずテリィッジの話を聞くことにしよう。新たな情報であることは確かなのだから。
「面白い話と言ってもな、真実味があるかどうかは別なんだよ。そう、昔話に近い。ただ、今のわたしの印象として、この鉱山亀は何をしでかしてもおかしはない。そう考えておるから」
事実がどうかは関係ない。ただ、可能性の問題として有り得るのではないか。つまりはそういう話なのだろう。
「まず一つ目の話なんだが、鉱山亀が消える現象について、空の彼方に飛んで行ってしまうからだという噂が、昔語られたことがあるそうだ」
「なんですかそれ? じゃあ、この小屋で消えた鉱山亀は、小屋の天井にでも引っ掛かってるとでも言うんですか?」
まさかと思い上を見るも、当然、亀が見えるわけがない。
「まあなあ。馬鹿な噂だと思うよ。しかしな、噂には何か元がある物だ。この噂を話してくれた相手は、噂自体は馬鹿にしていたが、それでも、その噂の起源はなんだろうかと興味を持ったのだな」
確かに、亀が空を浮くなどと思いつくのは、元となる発想があるはずだ。そうでないとしたら、噂の発信源たる人物はコメディアンを目指せるだろう。
「起源……。その人は、何かを掴めたんですかね?」
「ああ、最初の噂は鉱山労働者内から始まっていたそうで、噂自体もかなり形の違う物だった」
「まあ、話が簡単に変わるから噂なんでしょうけど……」
では、元の噂はもっと真実味があるのだろうか。
「当時、この村に最新鋭の機材が運び込まれていた。それというのも秤でな」
「天秤とかですか?」
「構造はほぼ同じだな。ただ、鉱物用の秤として作られたらしく、かなりの重量でも細かに重さを測定できるものなのだそうだ」
その秤が噂の元なのだろうか。亀が飛ぶ話とは、繋がりがない様に思うのだが。
「そういう機材が入れば、はしゃぐのは現場の人間だな。試しと称して、色々な物を乗せていたそうだが、その中に鉱山亀も存在していた」
「なるほど、秤に亀を乗せた時、変わったことが起こったんですね?」
だからこそ噂になった。こんな珍しいことが起きたぞと。
「その通り。なんでもな、鉱山亀を乗せた秤は安定しなかったらしい」
「安定ですか? 亀には四本の足があるんですから、秤に乗せるくらいは……ああ、秤の上で動くから、ちゃんと重さを測定できませんよね」
乗っている物の重さは変わらないが、秤の上で動けば測定用の針が誤作動を起こす。そのことを言っているのだろう。
「いや、違う。どうにもおかしな変化だったらしい」
「おかしな? まあ確かにおかしな生物ですから、何が起こっても驚きませんけど」
「まったくだ。秤に乗った鉱山亀はな、ほんの少しずつだが、軽くなっていったそうだ」
軽く? 鉱山亀が? どうして?
「普通、岩は放っておいても軽くはなりませんよね?」
「風化はするかもしれんが……どうなのだろうな。最新の機材でしか分からない程に微々たる量だったそうだが、それでも秤に乗せている内は、重量がどんどん軽くなっていったそうだ」
そうして、亀が飛ぶなどという噂に発展した。体重が軽くなれば、最終的には空に浮かぶのではないかと考えたわけだ。
「勿論、本当に少ない減量だったそうだから、風船みたいに浮かぶことはないだろうがね。ただ、鉱山亀がどうしてだか軽くなっていったのは確かだろう? 面白い話だとは思わんか?」
確かにそうだ。体重が軽くなるのは、鉱山亀の習性かもしれない。ではそれは、いったい何のために?
「普通の動物であれば、餌を食べさせずに放置したら体重は減りますよね? まあでも、鉱山亀は体が岩ですし」
「普通の動物だって、出すものも合わせて測量すれば、そう目減りはせんと思うが……。鉱山亀だからなあ」
クルトが見る限り、鉱山亀が糞をしている様子はまったくない。クルトよりは長く鉱山亀を観察しているティリッジにしても、そういう場面は見たことがないらしい。
では何故、体重がどんどん減ってしまうのか。
「そうだ。さっき思いついた考えがあるんですけど、もしかしたらそれに関わってくるかも……」
「考えか。きみはいつもおかしなことを考えているのかね?」
なんだろうその言い方は。研究者なんてそんなものではないだろうか。
「おかしなことかもしれませんけど、とにかく、僕は鉱山亀の魔力がどこから来ている物なのかを考えていたんです。特に、最終的に魔法で転移するんですから、そのための魔力はいったいどう用意しているかという……」
「ああ、それは前にも聞いた。鉱山亀の体の中に、魔力を代替する何かがあるかもしれないという話だったな」
「そうです。ただ目撃情報を信じるなら、鉱山亀の体の中に、そういう特別な何かは存在していませんでしたよね?」
バラバラに砕かれた鉱山亀を想像してちょっと嫌な気分になるも、話を続ける。
「わたしも昔、解剖じみたことをしたが、何も見つからんかったなあ」
良くできる物だ。知的好奇心によるものか、はたまた若気の至りか。
「ならですよ? 特別な何かがあるのではなく、体全体が既に魔力を代替できる物になっているとは考えられませんか?」
体のどこかに魔力の元があるのではなく、体全体がそもそも魔力の源泉となっているのだ。
「それは……そうなのかな? 確かに体を変化させているのであれば、体重の減少も理解できるが」
魔力を代替できる物質は、魔力放出の代わりに、その質量を減らす時がある。鉱山亀にも同じことが言えるのではないだろうか。
体を魔力代替用に作りかえる過程において、体重の減少が起こる。それが鉱山亀を秤に乗せた時に判明したのかもしれない。
「なんらかの魔法が関与している可能性があります。鉱山亀は魔法によって、自らの体を強力な魔力放出を行える体に作り変える。常に魔力を放出しているのは、体を動かす以外に、その魔法のために行っているんじゃあないでしょうか」
「ちょっと待て。その話が本当だとすると、変じゃあないか? 最初に魔法があって、体を魔力の元に作り変えているのなら、最初の魔法はどこから来ている。魔法とは、魔力無しで行使できるものなのか?」
そんなのは無理だ。魔力を元に奇跡を起こすからこそ、魔法なのだから。
「そこなんですよねえ。そもそも、鉱山亀の意思や元々の魔力はどこから来ているのか。それがまったく分からない。さっきも言った通り、体の中に特別な何か、核みたいな物があれば、それが鉱山亀の正体だって言えるんですけど………」
しかしそう上手い話は無かった。現実はもっと不可思議である。鉱山亀は、明確な脳も核も無く、亀の形をしながら生きているのだ。
形だけで生きていけるのなら、そこらの露店で売られる人形も、突然踊り出してしまうではないか。
「あー、そういう風に悩んでいるところ悪いが、次に聞いた話をしても良いかね? どうにもきみの考えを馬鹿にする様な話で、気が引けるのだが……」
「別にティリッジさんが遊び半分で考えた話でもないんですから、怒りはしませんよ? むしろ、積極的に聞かせてほしいです」
いま何かしら得る物があるとすれば、それはやはりティリッジが仕入れてきた情報くらいだろう。
「そうか? なら話すが。この村の人間が鉱山亀を神様みたいに崇めているのは知っているか?」
「それは勿論。長生きする鉱山亀に長寿祈願をするうち、そんな風になったそうですね」
昨日、村人達から話を聞くうちに知ったことだ。
「そう。その長寿の話なんだがな、この村に住む昔世話になった相手がいて、かなりの老齢で、経験だけなら誰よりもある者が言うに、その……」
「その人が何か言ったんですか? 話し難いことでも?」
何やら言いよどむティリッジ。そう話を止められたら、むしろ気になってくる。
「話し難いというか、突拍子も無い話なんだが、鉱山亀が長寿なのは、その体が仮初めの物だからだと言うんだよ。その老人は」
「仮初め………本体じゃあ無いってことですか?」
核となる物が別の場所にあるから、鉱山亀の肉体には何もないということなのだろうか。
「いや、そうじゃない。肉体には確かに意思が宿っている。しかし、その意思は肉体に依存するものじゃあなく、なんというか、魂みたいな物が本質なんだと老人はいうんだよ」
ティリッジはその話を信じてはいないのだろう。幽霊や魂といったものは迷信だと考えているからこそ、戸惑いながら話すのだ。
「魂……ゴースト…」
なんだろう。引っ掛かる単語である。というよりも、クルトが研究題材としている物に関わってくる単語なのだが。
「こっちは当人の思想に近い話だからなあ。信用度で言えば、一番それに欠ける。ただ、鉱山亀の長寿の秘密を探る意見としては、こういうのが初めてだと………どうかしたのかね?」
考え込むクルトを見て、訝しむティリッジ。自分の話を聞いていない様子であるから、心配になったのだろう。
「いえ、こっちも思わぬ情報だったので………。まさか、そんなはずは……」
自分が研究するゴーストというのは、精神が生命化した存在のことを言う。実例は一度しか見たことはないが、それは肉体を持たず、不定形な時もあり、さらに他人の体に憑りつくことができる性質を持っていた。
「なんだなんだ。気になることがあるのなら、どんどん発言したまえ。こっちは本当かどうかもわからぬ話を聞き集めて来たのだぞ? 今更、眉唾物の話をされても驚かんよ」
「………それなら話しますけど、幽霊や魂はともかく、ゴーストという存在は確かに存在するんです」
「何? こう、死人が半透明で蘇るアレか」
「それではありません。もっとこう、特殊な生命体という意味でです」
ゴーストを見たクルトであるが、それが死人の魂や何かだとは信じていない。ゴースト当人がそうなることを望んで変質したものか、それともまったく別の生物か、そんなところだと思っている。
「見た目はまさしく幽霊みたいな物だから、そう呼んでいるんですけど、多分、ゴーストは魔法的な存在なんですよ。明確な頭や体は存在しませんけど、魔法かそれに類する物によって、思考を維持している」
だから人間の体に憑りつけば、その体を乗っ取ることができる。自分の思考で、相手の意思を移し替えてしまうのだ。魔法使い限定でではあるが。
「鉱山亀も魔法的な生物だぞ。魔法を使って体を動かし、転移もする」
「そうなんですよ。魔法生物なんです。もし、もしですよ? 鉱山亀の本体がそういう精神的な生物だとすれば、肉体に核がない理由にも―――ああ!」
突然、声を上げるクルト。驚くのはティリッジだ。
「ど、どうかしたのか?」
「肉体は移動手段なんだ! 本当に仮初めの体で、転移だってそんな長距離を飛んでいるわけじゃあない。ただ僕らの目には見えないだけで……」
「おいおい、本当にどうかしたのか? 随分と興奮しているが」
頭に渦巻いていた疑問が、一気に流れ出した気分だ。謎が謎でなくなり、矛盾が合理になっていく。ある種の快楽だ。研究者はこのために研究を続けるのかもしれない。
「わかったんですよ! 鉱山亀の生態、少なくともその一部が! 確認のために準備をしないと……。この小さな鉱山亀。重さを量れる秤はありますか? そうだ、つるはしとスコップの用意もお願いします」
「だから落ち着け! 何に気が付いたのかは知らんが、準備にしたってこの時間だぞ?」
「あ、えっと、そう言えばもう夜中でしたよね」
先ほど確認した覚えはあったが、湧いてきた興奮に我を忘れていた。
「何をどうするにも、働き手がいるだろうに。言っておくが、この村の夜は早いぞ?」
朝が早い分、夜はさっさと休息するらしい。そう言えば、夜中になると物音が極端に少なくなっていた。
「あー、えっと。それじゃあ、準備は明日からということで……」
急に勢いを削がれて、少し落胆するクルト。
「村がどうであれ、わたし達が眠るのはまだ早いだろう。時間があるのだから、その気が付いたことを教えてくれないか? 多分、その喜び様を見れば、今回の仕事が解決するかもしれんのだろう?」
その通りだった。クルトの予想が当たりならば、今回の仕事はそれで終了する。鉱山亀が決して危険な存在ではないことを証明するのだから。
マヨサ領、領主宅。そこは大貴族の相応しくない小さ目の邸宅である。と言っても、一般人が持つ様な家と比べれば、何倍もの大きさを持つ。
あくまで、クルトが予想していたよりは小さいというだけだ。
「てっきり、王城みたいな場所に住んでいるのかと思いましたよ」
「機能の問題だな。うちは権力を分散している家でね、王城の様に統治機能を一つに集約する必要がない」
その分、家内での権力闘争は相当激しいのだろう。あまり想像したくないし、できもしないが、目の前の机にて肘を突く老人、ヒレイ・マヨサが、そこを勝ち残って来た人間であることだけはクルトにも理解できる。
「まあだからこそ、こうやって魔法使い一人で出入りが許可されたのかもしれませんけどね」
「それはまったくその通りだ。私一人の裁量で、それくらいの自由ができるというのは、素晴らしい状況だと思わんかね?」
そうしてクルトは、そんな彼の裁量によって鉱山亀の調査を行い、それを完了してきたのである。
「鉱山亀について報告する前に、一つ聞いて良いですか?」
「仕事の前置きは常々短い方が良いと考えているのだが、度量を示すには長話も時には大事だろうな」
要するに話を聞いてやると答えているのだろう。遠回しな話し方が好まれるのが、貴族というものだ。だから苦手なのである。
「なんでわざわざ仕事の内容をごまかして依頼したんです? 現地に行けばすぐわかることじゃないですか、鉱山亀の調査は、あなたが昔やった調査の上塗りだなんて」
今回の調査の目的は、鉱山に被害を与えるかもしれない鉱山亀に対して、ヒレイが若い頃に関与していた証拠を消すことだ。
ヒレイやティリッジが若い頃に行った鉱山亀の調査について、それらの資料を今回クルトが行った調査としてしまうことを第一の目的としていた。
「それはティリッジから聞いたのか? それとも自分で?」
「そりゃあティリッジさんからですよ。変だなとは思っていましたけど」
「ふうん。あいつには次会う時に注意しておくか……」
クルトと同じく鉱山亀の調査をしていたティリッジはここにいない。調査報告をできるならばクルト一人でやって欲しいとの要望だった。
別にヒレイに会いたくないわけではないらしく、クルトの報告が終われば、個人的に会うそうである。
つまりヒレイという人物は、私事では会える友人だが、仕事上では出来るだけ会いたくない相手ということだろう。クルトも大凡同感だったが、調査報告をしないわけにいかず、貧乏くじを引いた形になる。
「さて仕事内容についてだが、別に最初から伝えても良かった。だが、それは私個人の感情では恥であるし、なにより、君が乗り気にならないと思ったからだ」
クルトはヒレイに紹介された、不思議な生物の調査をして欲しい、それは彼の趣味だからだという話を聞いて、仕事を請け負うことになった。まさにヒレイに言う通り、彼の策に嵌ってしまったのだろう。
「そんなことだろうと思ってましたけどね……」
別に反論するつもりはない。こういう場合、騙されたクルトが悪いのだ。相手が大貴族で、こっちが一魔法使い。裏に何も無いと思う方がおかしい。
「そう嫌な顔をするな。鉱山亀そのものに興味があるというは、嘘じゃあないんだ」
「そうですね。そういう興味のせいで、今、僕みたいなのを雇って、昔やった調査の隠ぺいをする破目になったんですから」
根底にあるのは、ヒレイの考えなしな行動だろう。若き日のヒレイはそれを理解しつつも、自分の好奇心に突き動かされていたのかもしれない。
「はは。言い訳の仕様が無いな。さて、そんな私の興味を満たしてくれて、若気の至りを解消してくれる仕事結果についてはどうなのだ? 私がいつまでも笑っていられるのは、君の報告に掛かっているのだが……」
ヒレイはクルトが彼の執務室にやってきてから、ずっと笑顔である。ただ、いま現在になって、彼の笑顔は威圧感を増している。
もし仕事のためにここへ来ているという自覚がなければ、クルトはこの場で震えだしていたことだろう。勿論恐怖で、である。
「とりあえずの概要を話すなら、鉱山亀には特段危険性はなく、かといってまったくの不安がないわけでもない。非常に不安定な生物であるといったところでしょうか」
まさに概要だ。具体的な内容がどこにもない。
「まあ、好ましい報告の類なのかな? 詳しく聞いてみないことにはなんとも言えんが。続けてくれ」
ヒレイから伝わる威圧感が少しは緩まる。ただ、いつなんどき、それがもう一度クルトを襲うかわかったものではない。
「ヒレイさんは鉱山亀について、どの様な認識を持っています? 生物? 鉱物?」
「生物……だろうな。ただの岩くれが、どうしてだか意思を持つに至ったおかしな生物だ」
ただしい見解と言える。そう、鉱山亀はただの岩なのだ。意思を持って動くという点を除けばだが。
「ええ、ただ岩くれが意思を持つ。だからこそ鉱山亀と呼ばれています。では、鉱山亀にとって重要なのは、岩くれの方なのか、意思の方なのか」
「勿論、その意思だ。岩くれに意思がなければそれはただの鉱物だが、意思は石を除いても、何らかの価値を持つ」
鉱物にも価値はあるとは思うが、確かにこの場合は、鉱山亀の意思が重要だった。
「そうです、意思、精神と言い換えても良いかもしれません。それこそが、鉱山亀の本質なんです」
「うん? 意思を持つのは素晴らしいといった話か? そういう哲学的な物は―――」
「そうじゃありません。こう表現した方が良いですか? 鉱山亀とは、その亀の形をした体を指すのではなく、その体を動かしている精神。それそのものを指しているんです。つまり鉱山亀は、精神によって存在している生命体だと」
それはクルトが研究をしているゴーストと呼ばれる存在と、ほぼ同質の存在だった。




