表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの勤め方
36/94

魔法使いの勤め方(4)

 目の前にあったはずの大岩が消えている。それだけでも驚くべきことなのに、地表に出ている部分だけが綺麗に消えて、崖に埋もれていた部分は違う岩に置き換わっている。そんな不可思議なことが起こっていた。

「なんなんだ? いったい」

 そんな言葉をクルトはつい漏らしてしまう。

 酷く都合の良いことが起こっていた。もし大岩である鉱山亀が、その体すべてをどこかへ消していれば、今頃崖崩れが起きて、クルトは土に埋もれていたからだろう。

「だ、大丈夫か。クルト君」

 崖から逃げようとしていたティリッジが近寄ってくる。まだこの場所が安全かどうかをはかりかねている様で、崖とクルトを交互に見ている。

「ええ。僕はなんとも………。ただ、鉱山亀が」

 綺麗さっぱり居なくなっていた。研究対象がいなくなったことも衝撃的だったが、やはり一番の関心は、鉱山亀が消えた現象の方である。

「その崖には、もう鉱山亀が居ないのか? もしや崖から出ている部分だけが削れて、まだそこに鉱山亀がいるのでは?」

「いえ、魔力も感じません。崖の中の岩は、鉱山亀とは別のものです」

 鉱山亀は確かに消えた。クルト達の目の前で。


「どういうことなんでしょう。まったく理解できません。まさかこのままヒレイさんに報告するわけにはいきませんし……」

 あの後、崖周囲を探索したが鉱山亀は見つからず、新たな発見も無かった。そのまま崖の下にいたところでどうしようも無いので、クルトたちは再び村まで戻って来ていた。

「曖昧なままではなあ。調査結果としてそのまま伝えるのはいかんだろうな」

 小屋に戻ったクルトたちは、既に調査対象がいないこの場所で、今後の調査について相談している。

「これで、直接調査できる鉱山亀もいなくなりましたし、また新しい謎も増えちゃって、本当にどうしようもないですよ。このまま、この村で長々と調査を続けるしかないのかなあ」

 自暴自棄になりそうなクルト。この目で見られる鉱山亀がいなくなったので、これ以上の進展も望めそうにない。

 もしかしたら暫く魔法大学へ帰れそうにないと思えてきて、どうにも憂鬱な気分になる。

「悲観してばかりでは確かに何も始まらんな。こういう時は、進展した物事について考えると良いだろう」

「進展した?」

 わからないことばかりのこの状況で、いったい何が進んだというのだろう。

「鉱山亀は確かに消えた。われわれがこの目で見たのだから間違いない。それはつまり、きみの推測通り、鉱山亀は魔法を使って瞬間移動ができる生物だと証明されたことになる。」

「え、ええ。消える瞬間、僕は魔力による光を見ました。鉱山亀は魔法を使って、自分の体を転移させたんです。どこかへ」

 では、どこへ消えたのだろう。かなりの魔力量だったと思うが、それでも長距離ではないと思う。あの巨大な鉱山亀を遠くへ転移させようと思えば、クルトが見た分だけではとても足りない。

「あと、そうですね。今思うと、ちょっと変だなと感じたことが」

「何だ?」

「僕は、鉱山亀は体の内に魔力を溜める機構があると予想していたんです」

「魔力を溜める?」

 魔法使いではないティリッジには想像し難いのだろう。首を傾げている。

「今朝、鉱山亀は大きさによって、消えてしまうまでの時間が変わるって説明しましたよね?」

「ああ、大きければ大きいほどに、消えるまでに時間が掛かるのだったかな?」

「そうです。それについて、僕は転移のために鉱山亀が魔力をどこかへ保存しているんじゃないかと思ってたんですけど……」

「違ったのか?」

 違っているのかどうかはわからない。まだ消えた瞬間を一度見ただけなのだ。しかし、その一例に限っては予想違っていた。

「転移のための魔力……だと思うんですけど、あの時、突然生まれた様に感じたんです。鉱山亀の中にある魔力が放出されたことは間違いないです。ただ、それが最初から鉱山亀の中に存在していのかどうかについては―――どうかしました?」

 クルトが自分の疑問を口に出していると、突然ティリッジがニヤニヤと笑い出した。正直、不気味である。

「いや、なに、さっきまで混乱してやる気が無くなっている様に見えたのに、今ではしっかりと意欲が湧いているじゃないか」

「あれ? そうですね。なんででしょう」

 鉱山亀が消える現象を見て、どうにも仕事が長引きそうで嫌な気分になっていたが、今ではそんな感情は無くなっている。

「新たな興味の対象を見つけたからだ。研究者というのはな、先の心配より、自分の好奇心が勝ってしまうおかしな奴らのことを言うんだ。もちろん、生物専門の学者なんぞをしている私も、そういう類の人間でね」

 防衛本能より、精神的な快楽を求める人間ということだ。駄目人間と呼ばれる対象の一つかもしれない。

「そして、僕もその同類ってことですかね?」

 クルトも、今では鉱山亀の謎について頭がいっぱいになっている。それは仕事を早く終わらせたいからというだけでなく、自分の興味が強くなってきている点が大きい。

「その通りだ。だから先の予定や心配なぞこの際無視して、兎にも角にも、我々の前に現れた謎について、自分の好奇心をぶつけてみんかね? 恐らく、それがもっとも謎を解決に導く最短ルートだと思うのだが―――」

「せんせーい。居ますか?」

 小屋の扉が開き、村の衛兵が顔を出した。確かポールという名前の。

「なんですか、ポールさん。サボりですか?」

「きみまでそういうことを言うか………。ちょっと伝えたいことがあって、ここまできたんだよ」

 頭を掻きながらポールは話す。どういう事情があろうと、持ち場を離れている時点でサボりはサボりだと思うのだが。

「なんだ? 村におかしな客でもやってきたのか」

 ポールの意図をはかりかねて、ティリッジが尋ねる。

「いやいや、おかしな客というのはお二人さんで……って、そうじゃない」

 おかしな客だと? 確かに聞いたぞ。まさかそんな風に思われていたとは。

「亀ですよ、お亀様。また鉱山で発掘されたみたいなんです。先生は確か新しいお亀様を探してたんですよね?」

 おかしな客とはどういうことだと尋ねようとしたが、続くポールの言葉に止まる。鉱山亀が見つかった?

「ほう。これは幸運かな? 働く意欲のあるところには、こういった好事が転がり込む時がある。なあ、クルトくん」

 ティリッジはこちらを見てニヤリと笑う。どういう考えで向けられた笑いかはわからないが、鉱山亀が再び見つかったのは確かに幸運であった。


 見つかった鉱山亀は、前に小屋へ運ばれていた物よりも二回り程小さい。力を込めれば、クルト一人でも持ち運べそうな大きさである。

「まだ子どもの鉱山亀なのかな? いや、何が親で何が子なのかわからないから、決めつけるわけにはいかないか……」

 調査用の小屋の中心には、再び鉱山亀が置かれる。前回の鉱山亀は数人がかりで運び込んだらしいが、今回はティリッジとクルトの二人だけで運べた。

 同じく小屋の中心に鉱山亀が配置されているが、大きさは小さく、小屋全体が逆に大きくなった様にも感じる。

「随分と小さいが、これはつまり、消えるまでの時間も短いということかね?」

 小さな鉱山亀は、他の鉱山亀とは違う点は特にないが、問題は鉱山亀が消えてしまう可能性だった。

 どうしてだが転移の魔法を使えるのが鉱山亀であり、地表から出た鉱山亀は転移の魔法を使ってどこかへ消えてしまう。

 そして消えてしまうまでの時間は、その体が小さい程に早い。

「この大きさですと、どうだろう。もしかしたら、すぐにでも消えてしまうかも」

 消えるまでの詳しい時間は、まだクルトにはわからない。なにせ実例が少ないのだ。大まかな判断しかできず、その判断の内では、今この時間も、消えてしまうまでの時間に含まれている。

「となると、この鉱山亀に直接調べたいことがあるのであれば、今ここですぐにした方が良いということか」

 近い未来に消えてしまうのだとすれば、そうすべきである。しかし、まず何から調べれば良いのやら。

「もう一度、魔力の探知をしてみたいと思ってるんですが……」

 巨大鉱山亀の際は、鉱山亀が魔法を発動する瞬間を探知できた。その件に関しては少し疑問があるため、違う亀でも魔力の探知をしてみたいとは思う。

「出来るのなら、今すぐすれば良いじゃないか。特別な準備は必要ないのだろう?」

「まあ、そうなんですけどね」

 鉱山亀に近寄り、精神を集中させるだけで可能ではある。しかし、本当にできるかどうかは別だ。

「巨大亀にはできましたけど、この小さいのだと、ちゃんと探知できるかどうか不安で……」

 魔力の探知は、当然であるが対象の魔力量が多ければ多いほど用意である。自分の感覚で判断できる可能性がそれだけ多いからだ。

 逆に魔力量の小さい相手から魔力を探知しようとするのなら、難易度は高くなるのである。

「やる前から色々心配しても仕方あるまい。別にリスクがあるわけでもなし」

「それもそうですね。それじゃあいざ!」

 小さな鉱山亀の甲羅に手を触れて、目を閉じる。感覚を集中させるには余計な感覚を閉じるのが一番だ。目から入る情報はその一つだろう。魔力は魔力光が出るまでは視覚で判断できない。

「………駄目だ。やっぱり体を動かす以外の魔力は感知できません」

 すぐに手を離す。巨大鉱山亀の時は転移をするための魔力も感知できたのだが、小さな方は、肉体を覆っている魔力をうっすらと感じ取れるだけだ。恐らくそれは、生物として肉体を動かしている魔力だろう。

「ふうん。その場合、どういったことが予想できるのだね?」

「僕の能力が未熟で、探知できないだけっていうのが一つ」

「その場合、きみの技術が急に発展することはないだろうから、どうしようもないことになるな。次に行こう」

 随分と失礼なことをいう。未熟であることは真実なので、反論できないのが癪に障る。

「その次は、鉱山亀に転移のための魔力が存在しない場合。そもそも存在しないんだから、魔力なんて探知できないってことが考えられます」

「おいおい、転移にはそれだけ魔力が必要といっているのはきみだろう。それが存在しないというのは矛盾しないかね」

 それはその通りだ。だからクルトは、自分の能力が未熟であるからだと考えているのだが、どうにも何かが引っ掛かる。

「あえて、その矛盾する方を事実だと考えてみます。となると、鉱山亀は魔力を溜めるのではなく、どこかから転移のための魔力を持ってきているということになる」

「例えば?」

「そうですね、僕らが魔力を使う場合は自分の精神か何か、まあ詳しくはまだ分かっていないんですが、とにかく心を集中させることで、自分の体から魔力を放出します」

 立証はされていないが、魔力を放出すれば精神的疲労を感じるので、精神が魔力の源泉だと殆どの魔法使いは信じている。

 つまり精神から魔力を持ってきているということになる。

「鉱山亀もそうだと?」

「かもしれませんし、違う方法もあります」

「違う?」

「例えば僕の杖の先についている緑色の石がありますよね?」

 クルトはいつも手に持っている愛用の杖をティリッジの方へ向ける。

「ああ、宝石か何かかね?」

「緑光石と言います。魔力を通せば、緑色に光る石で、光源になるんです」

「なるほどなるほど。それは便利だ」

 興味深そうに指先で石に触れるティリッジ。

「魔法使いが魔法で光源を作る場合、魔力を集中させて、魔力光というものを発生させるという物があります。一方で、緑光石を光らせる場合、その魔力光を発生させるよりも少ない量の魔力で済むんです」

 だから確かに緑光石は便利な道具である。昔はこの緑光石を大量に生産する方法があったらしいのだが、今では失われており、結構貴重な石だったりする。

「その石に何かあるということか」

「はい、魔力光と緑光石の光。実はこの二つ、同じ種類の光なんです。おかしいですよね、ならなんで緑光石の方が少ない魔力で済むのか」

「つまり、その石はなんらかの機能で魔力を代替しているのだな」

 その通りだ。魔法使いでもないのに、すぐさまに察することができるのは、ティリッジの勘が鋭いからだろう。年の功というやつか。

「緑光石は、光を放つ毎にほんの少しずつですが、大きさが小さくなるんです。それは肉眼で判断できない程に微量な量なんですが」

 杖の先に付いている量の緑光石でも、何年間も光源として使えるくらいに微々たる物なのだが、それでも確かに擦り減っている。

「物質が魔力に変換されていると考えられるんです。ほんの少しの量でも、魔法使いがそれなりの魔力を発動させることができるくらいの魔力量に」

 マジックアイテムと呼ばれる魔法関連の道具には、そういう物が多々あるらしい。

「そうか。鉱山亀の体にも、そういう魔力の代わりになる物が存在するかもしれないわけだな!」

 合点がいったらしいティリッジは、両の掌を合わせてパンと音を鳴らす。

「とりあえず、そういう観点から鉱山亀を調べたいと思います。他にももしかしたらっていう考えはありますけど、進展が望めそうなのはこれくらいですから」

 暫くは鉱山亀の魔力探知に専念しようと考える。詳しく感知できれば、まだ知らない何かがわかるかもしれないし、そうでなくても、様々な観点から鉱山亀を見るのは必要なことだろう。

「ティリッジさんはどうするつもりですか?」

「そうだなあ。生物として鉱山亀を調査するのは、きみがこの村に来るまでに幾らかしたし、今度はきみに倣って、村中の聞き込みでもしてみるか。鉱山亀に関する胡散臭い伝承や噂も、もしかしたら本当なのかもしれんからな」

 鉱山亀が魔法生物であることがわかったのだから、どんな不思議なことをしてもおかしくはない。そういう考えの元で聞き込みをすれば、面白い情報がわかるかもしれない。

 テリィッジはそう話して小屋から出て行った。小屋に残ったのはクルト一人。クルトはもう一度鉱山亀に手を伸ばして、再び魔力を探知し始めた。


 他人の視点というのはこうも学問に役立つ物か。ティリッジは村を歩きながらそんなことを考えていた。

「自分とは違う観点、考え、知識。それがまた良い刺激になる。今まで一人で動物調査なんぞをしておったが、これからは助手でも雇ってみるか」

 旧友に紹介された、あのクルトという魔法使い。まだまだ垢抜けぬ子どもに見えるが、魔法使いとしての考えは、ティリッジに新たな視点を与えてくれる。

 こうやって、昔さんざんした村人への聞き込みをもう一度しようとする気にもなってしまう。

 あの亀が不思議な生物であることは昔から知っていたが、そこでティリッジは止まっていた。それ以上を調べようとはしていなかった。

 わからぬものはわからぬ。わかるものから始めてみよう。それこそティリッジが学者として進んできた道であった。

「それが間違いではないがね。進んでいることには変わりない。ただ、置き去りにしてしまう知識がある」

 そして置いてきた知識が重要な物であるのであれば、調査をどれだけ進めても、完全な物はできないということになる。

「ふむ。ヒレイの奴が魔法使いを雇う気になったのも、そういう理由かもしれんな。自分には無い、自分とは違う知識と見識」

 あれは中々に堅物であるが、時々突拍子もないことをしでかす。若い頃はそれに散々苦労させられたが、彼を今の地位に伸し上げたのはその性格だろう。

「そのおかげで、わたしも幾らか支援を貰っているのだから、文句はないな」

 とりあえず、遠くにいる友人について考えるのは後にしよう。今すべきなのは、村人から鉱山亀について聞き続けることだ。

 昨日はクルトがやっていたことを引き継ぐ形になる。大した情報は見込めないだろうが、視点が変われば手に入る物も変わるかもしれない。そう考えて、ティリッジは足を動かすのだ。

「確か……ここらだったか、まだ生きているかな?」

 ティリッジが目指していたのは、この村で恐らくもっとも高齢であろう相手だ。クルトも、年配の相手からの情報を積極的に集めていたらしいが、村内で目に付いた相手だけに話を聞いていたらしい。

 それでは駄目だ。本当の老人というのは、あまり外へ出ず、家の中でじっとしている者が多いのだ。そして、そういう人物こそが、村で起こった出来事について良く知っていたりする。

「と言っても、若い頃にこの村で調査をしておった頃でも壮年だったからなあ。今じゃあジジイもジジイだろうし、生きているかどうかも………」

 自分のことを棚に上げて、他人をジジイ呼ばわりするティリッジ。心だけはまだまだ若いつもりなのだ。

「ふむ、あの家だな。随分と古錆とるが、まあ年月とはそういうものだろう」

 一軒の家を見つけて、その門の前に立つ。小さ目の家でかなりボロい。ずっと昔、鉱山亀調査のため村に滞在していた時、この家の主に良く世話になっていたことを思い出す。

 気前が良く、はつらつとした男。鉱山労働者の指導者的な役割をしていたと思う。そのせいか、鉱山亀についても良く知っていた。掘る前から、あの場所には鉱山亀が埋まっていると指摘し、本当に発掘されるということも何度もあったそうだ。

「ふむ。すまん、誰かいるか?」

 家の扉をノックし、家内に聞こえる様に挨拶をする。相手は老人も老人なので、聞こえるかどうか怪しく、そもそも既にこの世からおさらばしているかもしれない。

「はーい。ちょっと待ってくださーい」

 家の中から、若い女性の声が聞こえる。勿論、目当ての相手ではないことは確かだ。

「これは……はずれかな?」

 だとしたら別の対象人物を見つけなければならない。

 家の玄関に向かうバタバタとした足音を聞きながら、ティリッジは目的の人物がいない場合のことを考えていた。

「はい、どなたでしょうか?」

 玄関が開き、案の定、若い女性が顔を出してきた。少女と言って良いかもしれないが、最近は若い成人女性もそう見えてしまうので、詳しい年齢はわからない。

「すまない、わたしの名前はティリッジという。ここはアーサーという男の家だったと思うのだが、間違っているかね?」

 アーサー。そう、そういう名前の男だった。当時は筋骨隆々の典型的な鉱山労働者の外見をしていたが、今ではどうなのだろうか。

「あ、もしかして、お爺ちゃんの友達か何かですか? 最近はすっかり寝たきりで、外に出掛けられないから、退屈してるみたいなんですよ。もし、御用があるのなら、家に上がって会ってくれませんか?」

「あ、ああ。勿論、そのために来たのだが、まだ生きているのかね?」

「ええ。そうですけど?」

 少女の話を聞くに、どうやらアーサーはまだ生きている様だ。

(しかし友達か。彼とわたしとでは、まだ大分年齢が離れていると思っていたのだが、若い相手からしてみれば、どっちも同じ老人なのかもしれんな)

 複雑な気分になりながらも、アーサー宅に案内されるティリッジ。

「こちらです。付いて来てくださいね?」

 家奥の一室にて、彼はアーサーと久しぶりの再会をした。

「お、おお。覚えとるぞ。確か、てりっじの坊か」

 部屋に入って掛けられた、第一声がその言葉だった。

 小さな部屋の小さなベッドから聞こえて来た、小さいその声は、つい聞き逃してしまいそうになる程に弱弱しい。

 しかし、その“てりっじ”という呼び方には聞き覚えがあった。

「お久しぶりです、アーサーさん。お元気そうで何よりですよ」

 ティリッジは、一礼と挨拶をベッドに向かって行う。ベッドにはこれまた小さな老人が、顔と肩を掛布団から出して、こちらを見ていた。

(随分と小さい。わたしの知るアーサーは、もっと大きい印象があったのだが……)

 年齢によるものか、それとも自分が大きくなったのか。とにかく時間の隔たりを感じる。

「元気、か。この齢じゃあ、生きとるだけでも元気な方かな」

「もうお爺ちゃん。またそういうことを言って」

 老人の弱気な発言を注意する孫。どこにでもありそうな家族に見える。ティリッジとは縁遠い物だが。

「てりっじ坊。それで? 今回は何の用があって村に来た? またお亀様を調べにきたのか?」

 当たりだ。そもそも、そういう用以外で村に来るはずがないので、テリィッジを少しでも知る者ならば、予想は容易いだろう。

「ええ、まあ。若い頃、中途半端に置き去りにした物が、今更ながら気になり初めまして」

 頭を掻いて話す。若い頃に世話になった相手と話すのは、どうにも気恥ずかしい。

「ははは。お前ももう、過去ばかり思い出す歳になったか。なんだ? 聞きたいことがあれば、なんだって話してやるぞ? 時間なら、幾らでもあるんだ」

 昔は仕事が忙しくて、話してやる時間がないと良く言っていたことを思い出す。今では真逆だ。

「ええ、そうですね。鉱山亀について二、三気になることが出てきたので、それに関わる話を聞きたく思いまして」

 ティリッジは、相手が聞き取りやすい様ゆっくりとした口調で、鉱山亀についての聞き込みを開始した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ