表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの調べ方
25/94

魔法使いの調べ方(2)

 家に再生能力が無い以上、廃墟はどれだけ時間が経っても廃墟のままだ。唯一存在を変えるのは、廃墟すらも風化した時だろう。

 しかし木や石で家が出来ている以上、風化には時間が掛かる。結果、こんな廃墟が道の途中に残ってしまう。

「床は……軋まないみたいですね。見た目はボロボロなのに、土台はしっかりしてる……」

 普通、手入れのされていない家は、見た目と同じく内部も荒れる物だ。カンガスへの道中に見つけた廃墟へ入ったクルトは、屋敷への感想を口にする。

「屋敷外の荒れ具合は、恐らく人為的な物が大きいじゃろう。見物人や興味本位の人間が、家主の居ない屋敷にいたずらや、何らかの意趣返しを行い続けると、外見は荒れて、内部はそれほどでも無い廃墟が出来上がる」

 だとすると、この家の家主は相当、周囲から嫌われていたのだろうか。屋敷外から開いた穴が人の手による物であるならば、開けた人物はかなりの労力を要したはずだ。

「というか、この屋敷の荒れ具合に人の手が関わってるんなら、この屋敷の近くに人が多く住む町があるってことじゃないですか。絶対、近くにカンガスがありますって」

 個人がこの屋敷を荒らしている訳でもあるまい。不特定多数の人間が雑に扱うことで、初めて家は荒れるのだ。

「そうじゃのう。しかし、この屋敷……」

 クルトとしてはさっさと屋敷を出て町に向かいたいのだが、オーゼ師はまだ屋敷内部を探っている。

「何か気になる物でもあるんですか?」

 今いるのは屋敷内部の一室だ。あちこちに物が散乱しているが、紙でできた本などが原型を留めている点を見れば、家主が居なくなってそれ程の時が経っていないことが分かる。

「ううむ。ほれ、これを見てみろ」

 オーゼ師が、床より拾った一冊の本をクルトに手渡す。

「なんですか? えーっと、魔力の調整と発生する効果一覧表!?」

 別になんでも無い本である。大学の図書館にも何冊か存在する、魔法の教本であった。ただ、一般人は普通そんな物を持たない。魔法の教本を持つのは、魔法使いくらいである。

「ここって、魔法使いの屋敷ってことですか……。まさか―――」

「そうじゃな、ここはわしらの目的地である、ヨアンフの屋敷かもしれん」

 本来はカンガス町に拠点を置き、その後ヨアンフの屋敷を見つける予定だったが、どうにも順序が逆になってしまった様だ。

「どうします? 屋敷中を探索してみます?」

「ああ、ここがヨアンフの屋敷であるならば、そうするしかあるまい。元々、ヨアンフの魔法研究について調査しに来たのじゃからのう」

 仕事となれば、クルトも屋敷を出て町に向かいたいなどとは言わない。オーゼ師と手分けして、屋敷の調査を開始する。


 元から一人で暮らすための屋敷だからか、調査は特に支障もなく順調に進む。

「というより、それぞれの部屋は役割が決まってるみたいで機能的なんだ。魔法の実験室に資料の保管室。普段の生活用と、きっちりしてるから、調べる方も楽で良いね」

 まさに魔法使いの研究屋敷といった風格か。師のオーゼは収拾された資料を探しているため、クルトはヨアンフが魔法実験のために用いていた部屋の調査をしている。

「といっても、部屋の所々に刻まれた魔法陣が、何を意味しているのかはちょっと良く分からないし、変に整理整頓されてるからか、一体どんな実験をしているかを推察できる材料が無いんだよなあ」

 あちこちにゴミだったり何かの実験器具らしき物は転がっているが、恐らくは家主がいなくなってから荒らされたのだろう。本来、ここでやっていた魔法実験を証明する何かは存在しない。

「こりゃあ、先生が調べている部屋の方が本命かな? 多分、あっちに実験資料なんかもまとめられているだろう……し?」

 実験室を見渡すクルトの目に、ふと薄い光の様な物が映った。すぐに視線は外れたため、良く分からなかった。もう一度視線を元に戻し、観察してみることにする。

「なんだ……あれ」

 光はただの光である。部屋の片隅でポツンと光るそれに不自然なところはない。光源が存在しない点を除けば。

「もしかして、ヨアンフの魔法の痕跡か何かかな?」

 ならば調べてみる必要がありそうだ。近づくのは危険かもしれないが、ある程度の観察を行う。

「といっても、この光が何なのかなんて僕の知識を総動員したところで……!?」

 クルトの視界に映る光が突然膨張し始めた。最初は丸く光るそれが、どんどん大きくなっていく。

 ただしその膨張はすべての方向に同じ速度で広がるのでなく、方向事に膨張速度が違っている。少し大きくなっただけで止まっている場所だってある。

「な、なんだよ、一体」

 以前も魔法使いの屋敷で、死んだはずの魔法使いの魔法に巻き込まれたことがあり、警戒するクルト。

 光はある程度まで大きくなると、はっきりとした形になりその拡大を止めた。

「ひ、人?」

 光は人型だった。クルトよりも背は大きいが、平均で言えば小さ目の身長だろう。薄い輝きを放っているので良く見ることはできないが、どうにも顔には人らしい輪郭や目鼻があるし、体は服を着ている様に見える。服も薄い光で出来ているが。

「あ……ああ…あぁぁ……」

 人型の光は口を開き、何か声の様な物を口からこぼす。しかし声帯が十分に機能していないからか、その声が言葉になることはない。

「幽霊? そんな馬鹿な……」

 今クルトの目の前にいるそれは、明らかに幽霊やゴーストと言った類の物だった。

「み、見た目が似てるだけだ。きっと、魔法で作られた幻覚か何かなんだ……」

 目の前にいる物を受け入れてしまえば、自分の価値観が変わってしまう。そんな戸惑いのせいで、クルトは一番しなければならない行動を起こせなかった。

 襲い来る正体不明の何かからは、とりあえず逃げなければならないのに。

「うわっ!」

 ゴーストの様な何かは、人型になるや否やクルトへと近づく。動くために手足を動かしているが、それらが地に触れることはない。結果、空中を犬掻きで泳ぐ様な進み方をする。

 問題は、それが思いのほか速かったことだ。

「っつ! 触れられた!?」

 クルトは咄嗟に左へと避けたが、横を通り過ぎるゴーストの右腕と、クルトの右腕とが交差する。

 クルトの腕に鈍い痛みが走る。最初はゴーストと触れた部分。次に右腕全体へと。腕がどうにかなったのかと視線を向けるも、何ともない。痛みもすぐに治まった。

「一体、何が?」

 何かあったのは、むしろゴーストの腕だった。右腕部分がすべて無くなっているのだ。

「触れただけで散ったのか? だとしたら―――」

 大したこと無いかもしれない。そう口に出そうとして声を止めた。クルトの右腕が、ゴーストの方へ向いていた。まっすぐ手を伸ばすように。

「………え?」

 クルトは右腕を伸ばしたつもりは無い。脊髄反射で腕が自分の予想より速く動くことはあっても、自分の意思とはまったく無関係に動くことは有り得ない。

 しかしクルトの右腕は、本人の意思に反してゴーストへと伸ばされている。

(憑りつかれた!?)

 そうとしか表現の仕様がなかった。ゴーストの腕が無くなり、代わりにクルトの腕が勝手に動く。

(もしこれが体全体にまで広がったらどうなる?)

 あまり想像したくない状況だ。自分の体が自分以外の者に乗っ取られるなど。

(とにかく逃げないと!)

 クルトは実験室から出ようとする。

「うっ!」

 だが右腕が思う様に動かない。クルトの意思で動かそうとしても、それに反発する力が動きを押し留め、攣った様な感覚が襲ってくる。クルトとゴーストの右腕が、一つの腕の中でせめぎ合うかの様に。

「やばいんじゃないかな……これ……」

 自分の動きがノロマなのに対して、あのゴーストは素早い。このままで居れば、すぐに体の自由を奪われかねない。

「アアァ……ア…アア」

 ゴーストがクルトに近寄る。今度は逃げることはできないだろうと言う様に、ゆっくりと。

「この!」

 クルトは左腕に持った杖の先をゴーストに向けて、魔法を放つ。使う魔法は雷撃を放つ魔法。最近、漸く距離を飛ばせる様になった物だ。

 クルトが魔力を放出することで、杖の先に現れた雷光は球体となり、さらには圧倒的な加速度を持ちながら、ゴーストへと直進する。

 威力は人が焼け焦げる程で、実体が無さそうなゴーストでも多少の影響があるのではないだろうかと、希望的観測の結果、選んだ魔法である。

「あいたっ!」

 再び右腕に痛みが走る。しかし今度はどうやら、ゴーストから右腕を取り戻した痛みだったらしい。

 クルトの右腕はもう勝手に動くことも無く、完全にクルトの意識下におかれる。

 一方でゴースト側を見ると、無くなっていた右腕が元に戻ってはいるが、体全体の輪郭が少し崩れている様に見える。

「魔法が効いたのかな?」

 ゴーストの顔は無表情であり、苦しんでいるのかどうなのかも分からない。魔法が通じたと思いたい物だが……。

「よし、それじゃあ右腕も取り戻したことだし、逃げるか」

 今度は判断を誤らない。右腕が自由に動く様になったのだから、すぐに実験室から逃げる。逃げる際にもう一度、雷撃の魔法をゴーストに叩きこんでおく。念のためだ。

 雷撃が再びゴーストを貫き、部屋に埃を巻き上げるのを確認してから、部屋から逃げる。

「先生、厄介事です! さっさとこの屋敷から出ましょう!」

 まだ屋敷内にいるであろうオーゼへと叫ぶ。これで屋敷から出てくれれば良いのだが。

 出来る限り大きな音を立て、如何にも慌てて屋敷を脱出している風を演出しながら、クルトは逃げる。こちらの必死さが伝わらなければ、師は屋敷内の調査を続行してしまう。オーゼ教師とはそんな性格だ。

「よし、出口だ」

 屋敷の玄関を走り抜け、廃屋を脱出する。出てきたのはクルト一人であった。オーゼ師はまだ屋敷の中だろうか。

「大丈夫かな?」

 一応の心配はするが、再び廃屋の中に入るつもりはない。いつだって誰だって、自分の身の方が可愛いに決まっているのだから。

 暫く待っていると、屋敷の中からドタバタとした物音が聞こえてきた。その音は屋敷玄関へと近づき、玄関からはオーゼ師が飛び出してくる。

「いやあ、参った参った。まさかあんな物が潜んでおったとはのう」

 あまり大変そうでないオーゼ師の様子に、拍子抜けするクルト。

「何やってるんですか。せっかく厄介事が起きたから屋敷を出ましょうって言ったのに……」

「うむ。あんな物は初めて見た。いったい正体は何なのか。是非調べてみたくなった」

 どうやら恐怖心よりも好奇心が勝っているらしい。一方でクルトはと言えば、丁度両者の天秤が釣り合った状態だろうか。

「夜は危険ですよ。せめて見通しの良い昼に調べないと」

 結局クルトも、あのゴーストについて調べる点には同意している。ただ、夜の廃屋で調べる気が起きないだけだ。

「わしは実験室から出てくるあの良くわからん人型を見ただけじゃが、何か危険性はあったのかね?」

 オーゼがいたはずの部屋から、クルトが居た実験室まではある程度離れていたはずだ。つまりこの教師、生徒が危険だからと飛び出した実験室を、わざわざ覗きに行ったことになる。

「危険ですよ! ゴーストに触れられた右腕が、自由に動かなくなったんですから! あいつ、人間の体に憑りつくみたいです」

 ゴーストが人間に対して敵意を持っているのかどうかは分からないが、触れただけで危害が及ぶ以上、危険な相手である。

「ゴーストか……。君はアレが人間の幽霊や魂だと思うかね?」

 オーゼ師の頭の中は、あのゴーストへの興味しかない様子。ただ、そんな興味への姿勢は真面目である。

「違うと思いますけど……。ゴーストはヨアンフの魔法実験室から現れたんですから、多分、なんらかの魔法が関わってるんじゃないですか?」

「ふうむ。わしはな、アレはヨアンフ自身じゃと思うとる」

「はあ!? あれがヨアンフの幽霊か何かだと?」

 信じ難い話である。死んだはずのヨアンフが化けて出たなど、死人が蘇るくらいに有り得ない。

「魔法が関わっていることは間違いと思うが、それだけでは無いと感じるんじゃよ。とりあえず、屋敷の調査は一旦取り止めて、カンガスの町で情報収集といこう」

 オーゼ師がすぐに屋敷へ戻るつもりは無いことに胸を撫で下ろすが、やはり疑問は残る。

「先生は、幽霊の存在を信じないんじゃなかったんですか?」

「信じんよ? しかし、実際この目で見た物については信じることにしておる。あの屋敷には死んだはずのヨアンフが出るという噂があり、実際、それらしき物をわしらは見ておるだろう?」

「あれが魔法使いヨアンフだとは限りませんよ?」

 オーゼ師の話には確かに説得力がある。単にこちらが意固地になって認めたくないだけなのかもしれない。それでもクルトはオーゼに尋ねる。アレは本当にヨアンフであるのかと。

「その確認のためにカンガスへ向かう。わしらはヨアンフの顔を良くしらんが、町の者なら知っているじゃろう。そうして、その人物像とわしらが見たあのゴーストの姿が一致すれば……」

「あのゴーストはヨアンフである可能性が高いということですね」

 師の言葉に一応の納得をして、町へ向かうことにする。まだ疑問は残っているが、それに答えられる情報を、師も自分も持ち合わせていないのだ。

 カンガスの町であるが、ヨアンフの屋敷からすぐ近くにその門はあった。


 カンガスに着いたと言っても、時刻は既に深夜。開いている宿も少ないだろう。飛び込みの客を受け入れる宿も少なくはないが、そんな宿は安全と防犯の心配をせねばならず、そもそも見つけることが一苦労である。

「やはりヨアンフの屋敷で一夜を過ごす方が良かったかのう」

 町の中央通りを歩きながら、オーゼ師が愚痴る。街並みの多くは石造りで、しっかりと整備されている。発展しているのだろうし、その発展に見合うだけの文化もあるだろう。ただ、夜となれば身の危険は当然にある。

「たしかに夜の町を出歩くのは危険かもしれませんけど、あの屋敷にいるよりよっぽどマシですよ。なにせ体を乗っ取ってくるゴーストがいない」

 あのまま屋敷にいれば、遅かれ早かれ、ゴーストにもう一度襲われることになっただろう。

「まあ、そうかのう。しかし開いている宿がみつからんなあ。ある程度の規模がある町なのだから、宿も少なく無いはずなのじゃが……。町の入り口近くに引き返してみるか?」

 旅人は必ず道を歩き、町の入口からやってくるため、宿もその付近に多くある。宿を探すならそこが一番適しているのだが、町に来てから多少歩いているため、入り口からは離れつつあった。

「そうですね。このままじゃあ町の中央まで歩き続けることに―――あ、宿じゃないですか、あれって」

 既に人々が寝静まる時間帯だというのに、まだ明かりのついた家を見つける。玄関口には宿であることを示すための掛け看板らしきものもあった。

「おお、これは都合の良い。早く入ってみよう」

 クルト達は急いで宿へと進む。いい加減足も疲れて来た頃合いだ。そろそろどこかで休みたくはあった。

「いらっしゃい」

 宿へと入ると、すぐに店主らしき男の声が聞こえる。

 安っぽい宿のほとんどは町の酒場を掛け持ちしており、ここも例外ではないらしい。カウンターには先程声を掛けて来た男がいて、その近くには何人か酔いつぶれた客と、まだ酔っ払い続ける客が数人。

「夜分遅くにすまんのう。部屋を貸してくれんか? 道中、思いの外時間が掛かってしまって、こんな時刻に町へ来てしまった」

 旅人であることを隠さず、オーゼは店主に話し掛ける。店主は別に驚いた様子もない。クルト達の様な手合いには慣れているのだろう。

「部屋ならまだ幾つか空いているよ。どうする?」

「それじゃあ二部屋で。良いの、クルト?」

「あ、はい」

 男二人旅。一部屋で済む状況で、二つの部屋を用意してくれるのだ、異論があるはずもない。

「案内は……まあいいか。俺がしよう。ついてきてくれ」

 自分の持ち場を離れることへの抵抗というより、カウンターから金目の物を盗まれるかもしれないと不安になったのだろう。周りにいる人間に、物を盗むだけの理性が残っていないことを確認してから、店主はクルト達を案内する。

「助かる。代金はこれくらいでよいか?」

 宿の規模を考えれば、相場よりもかなり高めに代金を渡すオーゼ。店主へのチップと、物騒な雰囲気がある宿への安全代と言ったところか。

「ふん……。十分だ。朝は起こした方が?」

「いや、自分達で支度する。朝飯を注文するかもしれんがの」

「軽い物ならいつでも作る。昼近くは別の奴がカウンターにいるからそっちに頼んでくれ」

 幾つか店主と言葉を交わした後、クルト達は借りた部屋に案内された。かなり疲れる一日だったが、まだ仕事が始まったばかりであることを考えると、体が一層重くなる気がした。


 習慣とは恐ろしい物で、どれだけ疲れていたとしても、決まった時間に目を覚ましてしまう。眠りについた時間が時間なので、それほど睡眠時間も長くないのだが、目覚めてしまった以上、どうしようもない。クルトは固いベッドから体を引きずり出して、本日の準備をする。

「あ、しまった。この宿を拠点にするかどうか、先生に聞いてなかった」

 もしこの宿を拠点にしてヨアンフの情報を集めるのだとしたら、幾つか荷物になる物を部屋に置いても良いかもしれない。いや、盗難の心配があるかも。

「先生起きてるかな。とりあえず相談しよう」

 別の部屋にいるであろう師の元へ向かう。部屋は隣であり、それぞれの部屋がそれほど大きくないので、数歩歩けば辿り着く。

「せんせーい。起きてますかー。できれば今日の予定について聞きたいんですけどー」

 宿についてすぐ休息を取ることになったので、そもそも本日はどう行動するかを決めていなかった。

「おお、今鍵を開けるから待っておれ」

 師も起きていたらしい。年寄りは朝が早いと聞くが、この教師はどうなのだろうか。

「入りますよ」

 ガチャリと鍵の開く音が聞こえたので、遠慮なく部屋に入ることにする。

「今日の予定じゃが、わしがヨアンフ個人の情報を集めるとして、きみはあの屋敷の噂を集めて欲しい」

 部屋に入るなり、本日の予定を立てはずめるオーゼ師。話が早いのは良いことだろう。

「ヨアンフについてはともかく、屋敷についてもですか?」

「あの屋敷に纏わる厄介な噂の処理も仕事のうちじゃからのう。魔法使いの行動の結果、悪い事件が起こったとなれば、風評被害が大学にまで届く可能性もある」

 事実、あの屋敷にはゴーストが出現し、それが魔法と関係あるかもしれないのだ。なんとかしなければならないのは、魔法使いとしての務めなのかも。

「つまり噂がどれくらい広がっていて、どれくらい悪評になっているのか調べろと?」

「それと同時に、怖い物見たさで実際行って見た者が必ずいるはずじゃ。その時どんなことが起こったかも聞いておいた方が良いの。あのゴーストについての情報が欲しいからの」

 クルト達がゴーストと出会った以上、町の者も出会っている可能性が高い。となれば、クルト達が知らないゴーストについての知識が得られるかもしれない。

「ですね。わかりました。それと、宿はずっとここで?」

 オーゼに今の所一番聞きたかったのがこの話題だ。

「いちいち変更するのもなんじゃからのう。貴重品だけは持ち歩く形で良いと思うが。どうせ、持ち運べる分の荷物しか持っとらんし」

 もっともである。オーゼの提案に賛成して、クルトは自分の部屋に戻ることにした。町中での情報収集にも準備が必要だ。

「あ、そうだ。もし、あのゴーストがヨアンフ自身だとして、先生は霊魂について信じるつもりなんですか?」

 師は見た物は信じるしかないと言った。ならば人が死後、魂となって現れるのも信じるのか。

「いや? そうなったらそうなったで、もっとわかりやすい説明ができるじゃろう?」

「そうですね」

 残っていた疑問が解けたので、今度こそ部屋を出た。オーゼ師はこう言っているのだ。ヨアンフは何らかの魔法を使って、あの姿になったのだと。


 情報を集めるとなると場所が肝心だ。街頭であなたは幽霊屋敷に行ったことがありますか? などと聞いたところで、答えてくれるのは変人だけだろう。そうしてその変人の答えが、信頼性の低い物であるのは当たり前のことである。

「まずは、あの屋敷に行ってみる人達が、どういう人種かを考える必要があるよね」

 町中を歩き、情報を集められそうな場所を探すクルト。おかしな噂が流れる屋敷へ、真っ先に入るのは自警団だろう。ヨアンフの死体が見つかっている以上、その発見者がいるはずである。それが自警団である可能性は十分ある。

「最近町であの魔法使いを見なくなたけど、どうしたのか。そんな話が来て、自警団が屋敷に確認へ向かう状況ってのは有り得る……」

 ならばまずそちらから進めてみよう。こちらが魔法大学の魔法使いであることを明かせば、なんらかの情報を公開してくれるかもしれない。

「というか、それで当てが外れたら、他に心当たりは無いんだよなあ」

 師はどこで情報を集めるのだろうか。聞いておくべきだったと後悔するが、後の祭りである。

 今はとりあえず向かう先があるのだから、歩みを進めることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ