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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの騒ぎ方
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魔法使いの騒ぎ方(5)

 学園祭当日。どこに潜んでいたのやら、大学外からの来客で一杯になっている。魔法の研究発表だけでなく、飲食物の販売までしている者もいるため、すっかり雰囲気はお祭りだ。

「まさに学園“祭”って奴だね」

「お前の感想は別に良いから、さっさとその席をどけよ」

 屋台で買った鶏の串焼きを頬張り、配置された椅子でくつろぐクルト。それに文句を言うのは、彼の友人ナイツである。

「わあ、凄いですよー、クルトくん。こんな小さなお人形さんが、ぴょこぴょこと動いてまーす」

 クルトの隣の椅子にはルーナが座っていた。ちなみにこれらの椅子は、ナイツの研究発表場所に配置され、彼の研究を見学しにきた客のために用意されていた。

「魔法だからねえ。ちょっと学べばできるそうだけど、ルーナさんはできそう?」

「やり方さえ聞ければできるかもですねー。それ程難しそうじゃあないですしー」

「いいからそこをどけって言ってるだろ、お前ら!」

 一人、彼が研究発表をする小さな建屋で立ちながら、用意された台を叩くナイツ。台の上には2体の木人形がなにやら踊っている。

「別にお客が来てないんだから良いじゃん。むしろサクラとしては有効活用できるんじゃないの?」

「サクラ自身が言って良い言葉じゃないよな!?」

 人形が動くだけの研究発表をだれが見に来るというのだろうか。ヘックス教室の生徒ということで、人目につく場所に陣取っているが、他の生徒の方に外来の客は向かっている。

「そもそも、なんでこんな場所でダレきってるんだよ」

 他の生徒が研究発表に大変なのに、お前らは何をしているんだという視線をナイツから感じる。止めて欲しい、そういう意見は本当に傷つくから。

「まあ、やることはやったしさあ」

「昨日からずっと、あの大きな舞台を直してましたからねー。実は体のあちこちが筋肉痛なんですよー」

 昨日はシーリアが研究発表をする舞台を、ルーナと共に修復していた。ちなみにその時はシーリアにも手伝って貰っている。そうでなければ、さらに彼女の心情を悪化させるだけだろうから。

 一応、見栄えだけはなんとか形にできたと思う。

「でも、本来修理する予定の他の生徒は、手が足りてるからって返したんだろ? かなり複雑な仕掛けがあの舞台にされてたはずだから、そこらへんは大丈夫だったのか?」

 ヘックス教室の舞台には、魔法陣や魔法の発動を補助する仕掛けがあちこちにされていた。ヘックス教師直々に設計したらしいその舞台は、作るのにはそれなりの労力を必要である。勿論、それを直す場合も必要だろう。

「仕掛けまで修理できるわけないじゃん。あくまで見た目だけだよ、見た目だけ」

 最終的な修理は、クルトとルーナとシーリアの3人だけで行った。ある程度までは、他の生徒の手が加わっていたので、ひたすら頑張れば舞台らしい物は作れる。勿論、その仕掛けまでは手を回せなかったが。

「おいおい、大丈夫なのかよ。あの舞台でするシーリアの魔法は、この学園祭の花だぞ? それが失敗すれば……」

 かなりの悪評が大学へ向けられるだろう。あれだけ目立つ場所で、失敗する魔法研究を見せるのかといった感じの。

「まあ見ておいてよ。一応、魔法を使う彼女には自信があるみたいだからさ」

 少なくとも、生徒組合が立てた計画を聞いて、彼女は活き活きとしていた。やる気があったということだ。暗い顔をされるよりかは何倍も宜しい。

「あ、始まるみたいですよー」

 舞台の上にシーリアが現れる。多くの人の視線が彼女に向けられていた。当然、緊張しているのだろう。動く姿はかなりぎこちない。だが、魔法自体の成功をクルトは疑わなかった。なにせ、彼女が望む魔法なのだから。


 前よりもずっと多い人がいる。前と同じく、その視線は自分に向けられていた。そして緊張も前回と同じ。なら大丈夫。前も緊張はしていたが、成功はしたのだから。

「でも、使う魔法は違うのよね」

 聞こえない様な小さな声をこぼすのはシーリアだ。場所は学園祭の中心。ヘックス教室の魔法研究発表場所。一番目立つ大きな舞台の壇上。

「けど、やってみよう。まだまだ初歩的だけど、自分で研究してきた魔法だもの」

 シーリアは自分の魔力を放出する。しかし周囲に放出された魔法が、魔法陣に反応することはない。そもそも、反応する魔法陣の修復ができてない。先日に降った雪でその多くが消えていた。

(だからこれからは私だけの魔法……!)

 シーリアは放出した魔力を自らの力で変換していく。自身の膨大な魔力は理解している。それらをすべて制御する技術はまだ無いことも。

(まだまだ見習い。できることは限られているけれど、全力を尽くす!)

 拙い制御ではあるが、それでも一つの成果が壇上で発生した。

 それは一条の光である。シーリアの体を根本に、まっすぐ空へと、どこまでも光は向かっている。まるでそこに天まで届く柱が生まれたかの様に。

 光の正体はやはり高濃度の魔力が放つ魔力光。ただそれを一点に収束して空へ向けて放ったのだ。

(ずっと自分の人生はどこかの誰かが決めた物なんじゃないかと思っていた。だから、せめて使う魔法はまっすぐ自分の力で進む魔法であって欲しかった)

 そして魔力を収束させる魔法を研究し始めたのだ。

 どこまで続きそうな魔力の柱は才能の証。柱の周囲から漏れる光は、魔力を十分に制御できない未熟の証。そのどちらも含めて彼女の意思で決めた魔法だった。

 いくらシーリアの魔力が人より多くても、何時かは限界が来る。高揚した精神は、どこまでもこの魔法を使えそうだったが、そろそろ止めねば限界が来るだろう。

 シーリアは自らで判断し、魔力の放出を止めた。

(成功……した?)

 魔法への集中を止めたシーリアの目には、壇上を見つめる人々が映った。人々は少しの静寂の後、両の腕を上げ、手のひらを合わせて音を鳴らす。

 リハーサルの時より、もっと多くの拍手が会場を包んでいた。シーリアはそんな人々を見て、精一杯の礼をするのだった。


 舞台で礼をするシーリアを見る者の中に、一人の教師と一人の生徒がいた。教師と生徒だというのに、二人は同年代である。何故なら片方はさっさと辞めれば良いのに、生徒組合長などという役職を続ける男だったから。

「素晴らしい魔法じゃないか。技術は初歩的だが、それでもあれ程の魔力を使う魔法はなかなか見れん。見た目もショーとして十分に価値のある物だと思うが?」

 中年で小太りの男、ヴェイクは、隣に立つ教師、ヘックスに話し掛ける。ヘックスの視線は舞台を向いたままだが、ヴェイクの声は聞こえているのだろう、返事をしてきた。

「だろうな。私が指示した物より素晴らしいかもしれない。何より彼女自身で選んだ結果だ」

「だからと言って、彼女を別の教室へ移動させようなんて言うなよ」

 ヴェイクはヘックス教師については良く知っている。恐らく、彼が自らの姿勢を反省し、シーリアを適正の合った教室へ移動さえようと考えている事も。

 なぜなら、若い頃から今でもずっと友人として付き合ってきたのだから。

「何故だ。私では彼女の才能を潰しかねないところだったんだぞ? 私の元を離れて、生徒の自主性を発揮できる教室に参加させる。生徒組合長なら、そう勧めるべきだろう?」

 本当に頭の固いというか、柔軟性の欠ける相手である。

「確かに雁字搦めで教育をすれば、彼女の才能は潰れるかもしれん。しかし、彼女の魔力はしっかりとした基礎を積まねば制御できぬ程の物じゃないかね? そのためにはスパルタじみたお前の教育が適正だ」

 何事も柔軟性が必要だ。ある一面が駄目だからといって、他の一面が駄目という訳でもあるまい。

「しかし……」

「ああもう、だから少し手心を加えるだけで良いといっているだろう。基礎の教育は今まで通り、個人研究を本人の意向を尊重する。それくらいできる人生経験は無いのか!」

 ついつい怒鳴りつける。思い出した。こいつは何時も型に嵌った対応を続けるくせに、一度そこから外れると、途端に優柔不断な性格へ変わる奴だった。

「そんなんだから、教師に魔法研究の邪魔をされて、いちいち怖気づき、生徒組合に相談する嵌めになるんだ!」

「貴様! その話はもう既に済んだ話だろう! そもそも、お前が話をややこしくしなければ、教室を出るために教師を目指すなどという方法を取らずに済んだんだ!」

「何!? その時は名案だとお前も納得しただろうに! だいたい平民出のお前が姓を貰えるまでの成果を出せたのは、私が発破をかけたおかげだと思って貰いたい物だが?」

 生徒組合に、AだのBだの個人名称を伏せて話した、過去に生徒組合が行った交渉事の話。そこに登場する生徒Bがこの男、ヘックス教師である。その恩も忘れるとは。

「はっ! 笑える冗談だ。今も昔も、私の成果は私の能力に寄るものだ。それを自分の成果などと、恥を知れ!」

「何を!」

 急に大人二人が怒鳴って喧嘩を始めたので、その周囲は驚きながら視線を向けている。そんな目線を気付かぬ二人は、恥を周囲に晒すことになるが、それは今回の事とあまり関係のない話であった。


「なんだか、向こうの方が騒がしいですけどー。シーリアさんの魔法、凄かったですねー。あれ、わたしじゃあ絶対に使えませんよー」

 ナイツの研究発表場所から、座りながらシーリアの魔法を見ていたルーナは、拍手を続けていた。

 自身の興奮を他の二人とも共有するため、視線をクルトとナイツへ向けるが……。

「はぁ……。僕、ここで何してるんだろう……」

「向こうはアレで俺はコレってどんな状況だっての……」

 何やら二人とも落ち込んでいる。いったい二人に何があったのか。

「ど、どうしたんですかー。さっきの魔法のせいで何か可笑しな影響がー!?」

「いや、ちょっと、彼女の魔法を見てたら、同期生の僕らは一体何やってるのかなあって……。鶏の串焼き食ってるとか馬鹿じゃないのか……」

「あっちが光の柱で、こっちは人形遊び……。ははっ。客が来なくて当たり前だわな……」

 どうやらシーリアの魔法を見た結果、才能の差を見せつけられた気分に陥った様だ。

「もうー! 二人とも、元気出してくださいよー! こんな才能の差、二人ともまだまだ見習いなんだから、取り返せますよー。きっとー」

 学園祭は始まったばかりだというのに、こうも落ち込まれていたら、こちらも楽しくなくなってしまう。

 いくら魔法使いにとって大切な行事といっても、お祭りごとなのだから落ち込まずに騒ぐべきである。

「あ! そういえば、パーニャ教室の生徒さんが、明らかに実力不足の研究発表をするみたいですよー、一緒に見に行って、笑ってやりましょうよー!」

 そうして騒ぐなら、大勢で騒ぐ方が楽しいと思うルーナ。共に騒ぐ相手がこの様子ではつまらないから、必死で元気づけるのだった。


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