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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの騒ぎ方
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魔法使いの騒ぎ方(2)

 魔法大学ヘックス教室。その名の通り、ヘックス・アーキー師が教鞭を取る教室である。アーキーの姓は領主や貴族、騎士職による姓でなく、魔法使いとして、国家に大きく貢献した際に与えられた物だ。

 その姓は彼だけの物であり、彼自身の実力を裏付けている物でもあった。貢献内容は勿論、彼の研究による。

 『マジクト王国における古代魔法とその系譜』 まあ、そんな感じの論文が高く評価され、国王から直々に褒章を与えられたらしい。

 若くして教師になった彼の元には、彼の実力に肖ろうと、多くの生徒が入門を希望し、そして一流の魔法使いとして卒業していった。途中脱落者を除けばの話だが。

 そんな教室だから、大学内でもその評判はすこぶる高い。なにせ、所属する生徒皆が優等生ばかりだ。向学心があり、才能も備えた理想的な生徒が集まる教室。大学でのヘックス教室の印象はこう言った物である。


「だから、今更大学側の後押しなんてあるとは思えないんだけどなあ」

 ルーナとヴェイク達との相談の後、明けて翌朝に、クルトは調査に乗り出した。どうして今回の学園祭、大学はヘックス教室を支援するのか。それが分からない限り、生徒組合の方針を決められない。宿舎ではヴェイクがてんてこ舞いで生徒対応をしているので、できれば今日中に答えを見つけたいところだった。

「ヘックス教室は大学内でも優良な教室だ。大学からの支援で言えば、むしろ普段から優遇されているんだ。なにせ毎回確かな成果を出すんだもの」

 ヘックス教師自身の能力は言わずもがな。その生徒達も勤勉であり、魔法について多くの研究成果を残している。打てば響く鐘の様な物で、大学側もかなりの投資をヘックス教室にしている事だろう。

「もしそれでも、さらにヘックス教室が支援されているんだとしたら、それは何か凄い事が起こっているって事なんだよ。うん」

 それが何かは分からないが。

 腕を組んで、考え事をしながら、薄らと雪の積もった大学の道を歩く。まだ雪は緩やかに降り続いており、クルトの残した足跡はすぐに消えて行くだろう。こんな寒空の下で、大学の生徒達は元気に学園祭の準備をしている。

「良くやるよね。来年は僕も参加したいところだけど……」

 同期の生徒は、きっと皆、今年の時点で参加しているのだろう。そしてクルトの目的は、その同期の生徒の一人。

「さあて。あいつはどんな事をしているのやら」

 そろそろヘックス教室の研究発表場所だ。何人かの生徒が、自分達の持ち場で模擬店の様な建屋の準備をしていた。教室でまとまって建てているせいで、本当にお祭りの様な雰囲気をしている。

「うん? クルト。お前、こんなところで何やってるんだ? ここはヘックス教室が場所取りしてるんだぞ」

 後ろから声を掛けられる。振り向けば、居たのは目的の相手であるナイツだった。

「残念ながらうち教室は学園祭自体参加しないから、場所を横取りされる心配は無いと思うよ」

「どういう事だ?」

 訪ねてくるナイツに、オーゼ教室の事情を話すクルト。

「ははは! なんだよそれ、教師が学園祭を忘れるか? 普通」

「普通じゃ無いんだ、うちの教室はね……」

 こんな話を続けていても笑いの種にしかならないので、本題に入る事にする。

「ナイツ、聞いた話じゃあ、今回ヘックス教室はいつもと発表する場所と違うらしいね。こんな大学のど真ん中に陣取って、余程重大な研究発表があるみたいじゃないか」

 実際、大学の中心地は複数の教室が分割して使う事が多いのだが、今年の学園祭ではヘックス教室だけが場所取りをしている。

「研究? いや、そんな凄い発表をする予定は無いけどな」

 ナイツは特段考えた様子も無く、そう答える。嘘を言っている様には見えない。

「え? じゃあなんでいちいち余所の教室を追い出して、こんなところで学園祭の準備をしてるのさ。ぶっちゃけ迷惑だよ?」

 実際、生徒組合は増えた相談者のせいで予定以上の労力が必要となっている。

「迷惑って……。そんなの内の教室の勝手だろ。ヘックス教室の生徒は、画期的な研究や重大な発見を繰り返してるんだ。目立つところでその発表をするのはある意味当然だろう?」

「それで、ナイツはどんな研究発表をするの?」

「……人形の……ゴーレム化」

 ナイツの手には、木で出来た玩具の人形があった。なるほど、これをゴーレムの様に動かす訳だ。

「へえ、その研究と言うのは、すごく画期的で重大だったりするんだ」

「いや……まあ、ちょっと魔法に手慣れてきたら出来るくらいの物なんだが……」

 落ち込んだ様子で俯くナイツ。

「最初からそう言えば良いんだよ。僕らまだ大学に入って一年も経ってないんだよ? 別に特別な研究をしているなんて、誰も思ってないんだからさ」

「そうでも無いから問題なんだ。今回、この場所で研究発表をする訳だが、いったい誰のためだと思う?」

 顔を上げるナイツだが、まだその顔は暗い。

「はあ? もしかして、わざわざ発表場所を移したのって、特定の個人が発表するためなの?」

 ナイツの発言をそのまま解釈するなら、そう言う事だ。

「その通りだ。それも、俺達と同じ年の大学入学生がだ。お前も会った事があるんだぞ? ほら、入学の時、教室探しで一緒に歩いたシーリア。この会場はな、彼女のための物なんだ」

 クルトは言われて思い出す。髪を三つ編みにまとめて、優しそうな表情を浮かべていた女性。確かナイツと一緒にヘックス教室に参加していた。

「なんで僕らと同じ年に入った生徒が中心となって、こんな場所で研究発表するのさ。明らかに不適所じゃないか」

「普通はな。彼女、奨学金を貰っているってのはいつだか話したか?」

 何時かは忘れたが、確かにナイツからそんな話を聞いた気がする。

「入学試験の成績が上位10位以内の生徒が受けられるって言う奴だったっけ? まあ、優秀って言えば優秀だねえ」

 その後、いったいどんな勉学に励み、どの様な魔法を身に付けているかまでは知らない。同じ教室であるナイツなら知っているのだろうが。

「少し気になって調べてみたんだが、彼女、トップの成績での合格だったそうだ」

 確かにそれは上位に入る位置である。それも断トツに。

「って、わざわざ調べたの? 試験の詳しい成績は本人以外に内密のはずだけど」

「気になった理由が理由でな。それに、内密たって本人のプライベートに踏み込む内容じゃあ無いんだ。ちょっと試験担当者に聞いてみたら、すぐに情報を漏らしてくれた」

 秘密も何も有ったもんじゃ無い。これではクルトの試験の成績だってダダ漏れだろう。誰かが興味を持ってくれたらの話であるが。

「それで? 試験の成績を調べてまで気になった理由って?」

 本題はそこだ。ヘックス教室の動きに関わってくる話なのだろうか。

「彼女な、天才なんだよ。魔法に関する才能が、他者より飛び抜けてる。試験成績を調べたのも、裏付けを取る目的でな。そうしたら案の定、同期の中で一番の好成績だった」

 試験の成績だけなら努力によって得た成績の可能性もあるが、同じ教室でシーリアを見ていたナイツは、努力以外の何かがあると感じているのかもしれない。

「魔法に関する才能ねえ。具体的にはどんな?」

 一口に魔法と言っても、知識や技術が関わる物から、本人の感性や生来の性質が影響する物まで様々である。どの分野で才能があるのだろうか。

「それについては……。そうだな、自分の目で確かめる方が早いかもしれない」

 ナイツはクルトから視線を逸らして、ヘックス教室の発表会場の中心部分を見る。そこには演劇でもするかの様な舞台が用意されてあった。

 そしてそこに立つ一人の女性。見覚えがある。それは間違いなく噂のシーリアだった。


 壇上に立ち、研究発表のリハーサルをする。まだ本番でも無いと言うのにシーリアは緊張していた。

 そもそも人前に立つ事に慣れて居ない。今にも心臓が爆発しそうであったが、実際はそんな事が起こるはずがない。だから始めるしかないのだが、頭の中が落ち着かないので十分にできるかどうかが不安だ。こんな事では、本番はどうなってしまうのだろうか。

「それではシーリア君。始めてくれたまえ」

 舞台袖で立っているシーリアの教師、ヘックスが指示を出してくる。言われればするしかない。まだまだ緊張の残る面持ちのまま、シーリアは魔力を放出した。流れ出る魔力は留まる事がなく周囲へと広がり、まるで絵を描くようにシーリアはその魔力を調整させていった。

 壇上が光りだす。壇上には至るところに魔法陣が描かれており、それらがシーリアの魔力と反応したのだ。魔法陣の輝きは収まる事を知らず、光の中心地に居るシーリアが、目も開けられぬ程の光量となる。そのまま光が飽和するのでは無いかと思えたその瞬間、光が周囲へ拡散していった。ただの光では無い。七色に光る虹となって、壇上を輝き飾り付けたのだ。

 まるで幻想世界に来たかの様な空間となった壇上で、シーリアは魔法の成功に胸を撫で下ろす。

 魔法の発動が一段落すると、周りからは拍手の音が聞こえて来た。

 周囲を見渡す余裕も出てきたシーリアは、少し離れたところでこちらを見る二人の少年を見つけた。彼らはポカンとした表情でこちらを見上げている。

 二人ともシーリアの知り合いだった。だからシーリアは、気恥ずかしげに笑顔を二人に向けた。


 舞台上のシーリアに笑顔を向けられて、茫然としていた心中を正気に戻すクルト。今のはなんだったのだ。虹色に会場を飾り付ける魔法なんて、聞いた事が無い。まだ魔法の余韻でキラキラと光る舞台をみても、それがなんなのか判別が付かなかった。

「え? ちょっと、凄く綺麗だったけど、何あれ? 新種の魔法?」

 混乱したまま、魔法を行使したシーリアと同じ教室であるナイツに聞く。ナイツはクルトの様に混乱はしてなかったが、心持ち苦々しいと言った風な表情をしていた。

「新種じゃない。俺達でも使える魔法だ。一番最初に習っただろう」

「一番最初に……。火の魔法? その割には会場に火が燃え移るって事は無かったけど。資材って全部木材だよね?」

「いや、最初に習う魔法と言えば、光の魔法だろう。魔力を可視光線になるくらいまで放出するアレ」

 そう言えば、普通の魔法使いが最初に習う魔法と言えばそれだった。クルトは些か非効率な習い方をしていたため、順序が違うのだ。

「光の魔法? あれって、こんな光り方にできる物なの?」

 光の魔法と言っても、ただ単に自分の魔力を周囲に放出しているに過ぎない。そこで調整できるのは放出する魔力の大小しか無い。しかし魔力の放出量を調整したところで、光の強さが変わるだけだと思うのだが。

「光が虹色になったのは、舞台に描かれた魔法陣の影響だな。あの魔法陣、古代魔法を再現した物で、同じく舞台を魔法で飾り付けるための物だったらしい」

 放出された魔力に反応して、魔力の光を虹色に見せる様な調整を、魔法陣自体が行うのだろう。

「でもそれって、凄く魔力量が高く無いと無理じゃない? あれだけの光量を放つ魔力に、魔法陣を起動させる魔力。そもそも古代魔法って必要とされる魔力が、僕らが使ってる物より過大だって聞くけど」

「その通り。普通の人間じゃあ、あの舞台の魔法陣を起動させる事すら無理なんだが……」

 シーリアにはそれができる。生成できる魔力量が、クルト達と比べて桁違いに高いのだろう。まさに才能だ。

「うーん。凄まじい物だねえ。彼女と一度話すってのは無理かな? 今の魔法について感想を言いたいんだけど」

「いや、まあ、出来るが、本当に感想を言うだけか?」

 先程の魔法に感動したと言うのは確かにある。しかし実は他にも聞きたい事があったりする。

「世間話くらいはさせてよ。僕が彼女に会ったのって、入学の時以来なんだよ?」

「そうだったか? わかった。ちょっといって話して来る」

 そのままナイツは舞台まで小走りで向かう。壇上から降りようとしているシーリアまで近づくと、二、三言葉を交わした後、クルトへ振り向き、手招きをしてきた。こちらに来いとの合図だろう。

「すぐ行くよ」

 クルトは急いで向かう。ダラダラと歩きながらでは印象が悪いだろうから。

「シーリア、覚えてるか? 入学式の時、一緒に教室探しをしたクルトだ。さっきの魔法を見て、感動したから話がしたいらしい」

 クルトが話す距離まで来たのを確認したナイツは、シーリアとの会話を再開する。

「感動だなんて、まだ練習だし、やっていることは簡単だもの。そんなに凄い魔法じゃないのよ? 久しぶりねクルト君。あなたは私の事を覚えているかしら」

 恥ずかしそうな様子で話すシーリア。先ほどの魔法について、クルトには到底不可能な物だったのだが、シーリアにとっては簡単な物だったらしい。実力差を大いに感じさせられる。

「久しぶり、シーリア。入学式で一番最初に会った同期生だからね。当然覚えてるよ。さっきの魔法についてだけど、謙遜してると嫌味に思われるよ? 掛け値無しに驚かされる魔法だった」

「そうなのかしら? 魔力の調整は殆ど会場に描かれた魔法陣が行ってくれるし、私は魔力を籠めただけなのだけれど……」

 その籠める魔力の量が他とは大きく違っているのだが。同期一の秀才は、やはり才能溢れる人物でもあるらしい。

「僕じゃあできないのは確かだね。あの魔法については、先生から教えて貰ったの? ヘックス教室独自の物とか」

「古代魔法だからな。ぶっちゃけ魔法陣自体については特別な何かがある訳でも無いと思うぞ」

 ナイツが答える。どうやら、教室独自や秘密の技術が使われているのでは無いらしい。

「技術や知識は残っているけど、実際に使うとなれば問題となる魔法のたぐいって事だね」

 古代魔法と言うのはそんな物ばかりらしい。既存の技術で再現可能、時には劣っている物さえあると言うのに、結果に関しては再現できない物。それを古代魔法と呼ぶ。

「昔はさっきの光を、数時間輝かせる事ができたらしいのだけれど、私には一瞬だけで精一杯だったわ」

 胸に手を当てて自分の未熟を嘆くシーリアだが、シーリアが力不足であれば、クルト達はどうなるのだ。

「さっきの魔法の後に起こった拍手については、嘘の無い物だと思うから、胸を張るべきだと思うよ。僕も本番を楽しみにしているからさ」

「ありがとう。そう言ってもらえれば嬉しいわ」

 笑うシーリアを見ると、つい自分の仕事に関わる質問をするはずだった事を、忘れそうになる。

 ただ実際には忘れていない以上、これからは仕事の話だ。

「魔法についてだけど、魔法陣や会場の設営なんかは、シーリアが主体となって始めた事なの? 僕らと同期にしては、こう、随分と労力を使っていると言うか……」

 小さな模擬店で、ゴーレムもどきの人形を動かすナイツとは大違いであろう。

「ああ、それに関してはヘックス先生が準備をしてくれたの。まだ私達、大学に入って一年でしょう? 凝った研究より、見栄えの良い魔法を使った方が良いって言われて」

「シーリア自身は魔法を使う以外には何を?」

「殆ど何も。教えてくれれば、何とか理解できるかもしれないけれど、今回の学園祭は初めてだから、研究発表の感覚だけを知って置けば良いと言われて……。なんだか自分の力はまだまだだって言われている様で、恥ずかしいわね」

「………へえ」

 シーリアの話に、どうにも引っ掛かりを感じる。具体的には、生徒組合の仕事に関わりそうな気がする。 

「ま、それだけ期待されてるって事だろう。俺なんかは、勝手に調べて勝手に発表内容を決めてるから気楽で良いが、やっている事はなんとも……」

 手に持った木人形を微妙な顔をしながら見やるナイツ。さっきシーリアが見せた魔法と見比べているのだろうか。

「あら、私は少しナイツ君が羨ましいわ。先生に何もかも決められているって、やっぱり面白味が無いもの」

「それって、ヘックス教師自身には言ったの?」

「ええ。だけど、知識や技術が未熟なまま試行錯誤するよりも、方針を決めて取り組む方が最初の発表には良いだろうって言われてそのまま」

 なるほど。つまり今回、ヘックス教室が発表場所を移動した理由は、ヘックス教師自身の意向が強いと言う事か。

「うーん。まだ話したい事は色々あるけど、そっちも忙しいだろうし、機会があればまたどこかで」

「あら、もう良いの?」

 聞くべき事は聞いたと思う。生徒組合事務員としての立場でもそうだ。

「うん。なんだか魔法練習の邪魔をしたみたいで申し訳なかったけど、ありがとう。久しぶりに話せて良かった」

「邪魔だなんて、そんな事ないわ。こちらこそ、これからも宜しくね」

 話す機会を与えてくれたナイツにも礼をして、クルトはその場を立ち去る。向かう先は生徒組合宿舎。ヴェイクが必死に動いているだろう仕事場だった。


 生徒組合宿舎内は相変わらず騒がしい。予算や発表場所を作るための資材要求、実験器具の調達などなど。生徒達が望む物は多種多様だ。

「あ、クルトくーん。良いところで帰ってきましたねー。さっそく事務処理の手伝いをしてくださーい」

 本日はルーナも宿舎で生徒の対応をしている。ヴェイク一人では捌ききれない量の仕事があると言うのもあるが、これ以上、外回りを続けて生徒組合への依頼者が増えても困るからだ。

「はいはい、今行きますよ」

 ヘックス教室について話したいこともあったが、今は宿舎内の生徒対応をすべきだろう。会議はまた夕方からになりそうだった。

「やはり相談者は、予算の執行を認められるかどうかの怪しげな研究をしている生徒が多いな。ヘックス教室について、分かった事はあるかね?」

 仕事の合間を縫って、ヴェイクが話しかけてくる。それでも書類整理をする手を止めないのだから器用な物だ。

「はい、一応気になる事が……あ、資材支援の要求ですね。こちらの用紙に量を。えーと、何だったか……」

 一方のクルトは、慣れぬ仕事と言うのもあってか話が飛びがちになる。

「忙しい様なら後にしよう。ルーナ君も、今日の仕事が終わったら残る様に。今後の対策会議だ」

「わかりました」

「はーい」

 ヴェイクの提案に賛成して、仕事に専念する事になった。今日の仕事も日が暮れるまで。前日よりはまだ少なかったが、それでもかなり疲れる仕事量だった。


「ヘックス教室の件に関してですけど、生徒組合としては、やはり何らかの対処をすべきですね」

 仕事が終われば会議の時間。どれだけ疲れていようと、これが終わらなければ明日へ繋がらない。

「生徒に自分の研究を押し付ける行為が、そんなに不満かね?」

 生徒組合に備え付けられた、木椅子に座りながらヴェイクが話す。随分と年季を経ているためか、ヴェイクが動く度に軋む音が鳴っている。

「ええー。でも、クルトくんから聞いた話の通りだと、ヘックス教師はそのシーリアさんの能力に目を付けて、自分の研究の手伝いをさせてるみたいじゃないですかー」

 シーリアは、自分で自分の発表をしたいとヘックス教師に提案し、それは無理だからヘックス教師が指導する研究発表をする様にと指示を受けた。

 それはつまり、生徒の自主的な行動を教師が阻害し、逆に教師が望む研究を、生徒に押し付けたと言う形になる。

 かなり強引な考えであるが、実際に現在ヘックス教室がシーリアの才能を用いて、大学から支援を得ているのだから事実に近い。

「だからと言って、生徒側が困っているから相談に乗ってくれと頼んで来ている訳でもあるまい? 教師が生徒の育成方針を決めるのは普通の事だ。今回の場合、それが少し行き過ぎている程度の事でしかない」

 ヴェイクの言う事ももっともだ。生徒組合は生徒からの依頼によって動く物であり、問題が発生していないのに、勝手に対処できる組織では無い。

「シーリア君と言う生徒に関しては、これは経験則なんだが、教師と生徒がそう言う関係性の場合、かならず生徒側が不満を持つ。その時になって相談に乗ったところで遅くはあるまい」

「一応、本当に相談に来た時、どう対処すれば良いのかは知っておきたいんですが……」

 いきなり、自分の教師に不満があるからなんとかしてくれと言われても、クルトではどうやって解決すれば良いか分からない。

「それに関しては、学園祭準備の中、空いた時間があれば教えよう。ただ、今の問題としては、大学側の予算配分がヘックス教師主導の研究によって偏りが生じている点だ。この部分に関して言えば、生徒組合は積極的に動かなければならない」

「生徒の研究発表が、教師の研究発表によって阻害されてますからねー。大学側だって、そう言う事態を懸念して、生徒組合が生徒支援に乗りだすよう、いくらか予算を回しているんですからー」

 身を乗り出すような姿勢でルーナが話す。生徒助けと言う単語に関して、乗り気になるのは彼女の良いところであろう。

「予算が無限に無い以上、生徒全員を手助けするのは無理ですね。生徒組合側としては、支援対象を、予算配分が例年通りであれば、研究発表をできたはずの生徒に絞るべきです」

 生徒支援に限りが有り、生徒間で優先順位を付けるならそうなるだろう。

「ふむ。ではその考えをどうやって実行する?」

「生徒がどんな研究発表をするかについては、内容を書類で提出して貰っています。かなり厳しいですが、それらの書類を参考に、生徒組合側で判断するしか無いかと」

「仕事量はどうなる? 動かせる労働力はここに居る3人だ。許容量なぞ簡単に超えてしまうぞ?」

 クルトへの質問だけを口にするヴェイク。その表情はどこかで見た事がある。教師が生徒を見る目だ。

「そもそも研究発表の優劣に関しては、大学側が既に資料を作っているはずです。それをなんとか手に入れれば……。交渉事なら僕が―――」

「いや、大学側への交渉は私がしよう。これでも大学側に少ない額だが寄付もしていてね。話も通り易いだろう」

 話がトントン拍子に進む。ヴェイクはクルトの考えをある程度予想していたのだろう。不満気で無い点を見れば、及第点よりは上の回答でもあった様だ。

「なんにせよ、生徒の方々には十分な配慮を。ですねー」

 最後のまとめはルーナがした。明日からの方針が決まったところで、今日の会議は終了する。

 明日になれば、学園祭本番まで4日を切る事になるだろう。


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