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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの呼び出し方
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魔法使いの呼び出し方(3)

 ハンス・チーフ。職場ではチーフ3と呼ばれる男は、とある調べ物をしていた。仕事に関わって来る物なのだが、一方で絶対にやらなければならない事では無い。

 ただ少々不安だったのだ。王立騎士団に入ってまだ日が浅い新人団員が、何か無茶をやらかすかもしれぬと考えるのは、上司として当然の感情だと言える。

「しかし一旦任せると言った以上、迂闊に手を貸す訳にも行かんしな」

 任務とは、他者を信頼してその執行を一任する行為である。それを覆して余計な茶々を入れる事は、相手の自尊心を傷つける。さらには任務を頼んだ側にも、見る目が無いなどと言った批判が来るだろう。だからハンス自身、あの新人団員、イリス・ウォーカーの仕事を手伝う事はしないつもりだ。

「ただ、何か起こった場合、責任を取るのがこちらである点が問題か……」

 ハンスはイリスの上司であり、今回の任務を頼んだ側である。当然、組織の機構上、下の失敗は上が責任を取る事になる。そう、ハンスがである。

「とりあえず、ウォーカー113に頼んだ仕事。その情報くらい集めても、文句はあるまい」

 手を貸せない以上、失敗した時にフォローできるくらいには周りを固めて置きたい。だからこそ、忙しい仕事の合間を縫って、騎士団内の資料を探している訳だ。

 仕事机に積まれた資料である紙束(部下に集めさせた)を眺める。

「かなり前の年代とは言え、そこが元々王城の一部であった以上、何がしかの資料は残っているんだろうが……」

 無い訳では無かった。むしろ雑多過ぎて、どれから探せば良いか見当が付かない。

「うん? これは……」

 目に付く物が一つあった。とある魔法の実験に関する資料である。当時の魔法能力は現在の物よりも優れていたとは良く聞く話である。

 技術的な物に関しては、現在の方が高いにも関わらずそうなっているのは一種の謎らしいが、今のハンスには関係ない。問題は、その有り余る魔法能力を使って、突拍子もない実験や研究が行われていたと言う点である。例えば今、手に取った資料に書かれる人の不老化とかがそれだ。

 不老化。随分と夢のある話である。しかも不死よりかは現実味のありそうな、そんな幻想だ。

「まあ、失敗したみたいだがね」

 どれだけ魔法の能力が高くても、不可能な物は不可能だったのである。人の有り方を自由に変える魔法技術が無かったのだろう。

 現在でもそう言う魔法は発展途上なのだ。当時であれば尚更未熟だ。

「ふうむ。実験はどうにも人目を避ける様にして行われたらしいな。一方で即物的な実験だからか、国家の後ろ盾があったらしい」

不死だの不老だの、王族とは時たまそんな物を欲しがる。ハンスなどは、さっさと定年で騎士団を退職し、恩給生活を開始したいと思うのだが。

「ただ、国家が秘密裏に何かの実験をしたって事は事実だ」

 その構造は、きっと碌な事にならないと考えるハンス。国家が行う物事で公に出来ぬ物とは、非人道的な物ばかりだから。

「資料ではそこらへんが曖昧にぼやかされているな。直接的に残せない物だったからか?」

 ただ一点、実験の結果らしい文章が残されている。実験結果によって生まれたそれは、実験場を脱走して街に逃げたらしい。最終的には捕獲に成功したそうだが、実験が衆人観衆の目に触れると言う事実が立場を危うくしたらしく、不老化実験はご破算となった。

 結果の残らぬ非道な実験など、汚点以外の何物でも無いため、その多くの実験資料は処分対象となったらしい。ただし、実験対象となった物だけは、脱走後に起こした事件によって人々に知られる事となり、とある名前が付いた。

 コーストライクと呼ばれる事になったそれに、ハンスは興味を魅かれた。子供の頃に聞いた子供騙しの怪談に、それと同じ名前が出てきたからだ。

「死んだ爺さんが良く話してくれたっけ。夜更かしばっかりしていると、コーストライクが叩きに来るぞってな具合に」

 別名「牛叩き」とも呼ばれるそれは、言ってみればもったいないお化けや物に宿る霊の様な、子供に教訓を伝えるための題材とされてきた。

「この実験による事件が、その元ネタかもしれない訳だ。ちょっとした驚きだな」

 家畜数頭を素手で撲殺する事件を起こしたコーストライク。その名前が現在まで受け継がれているのである。その事にハンスは感心する。

「と、いかんいかん。今はあの新人が担当する仕事についてだ。余計な事に気を取られるのは、騎士団員としてちょっとな」

 そう言ってハンスは別の資料を調べ始めた。先ほどまで興味本位で見ていた物が、心配する部下の仕事に大きく関わるとも知らないで。


 隠された道の先には、入口の小部屋よりもっと大きな空間が広がっていた。道と繋がる中央の部屋と、そこから伸びる小部屋が幾つか。

 普通なら暗い場所なのだろうが、至る所に光源用の緑光石が存在しており、魔法使いであれば視界に困らない

「結構しっかりとした造りだね。けど、王城の中って訳でも無さそうだ」

 クルトが見る限り、この空間はまだ半分地下にあると思えた。天井付近には窓らしき物があるが、床へ下がるにつれ、それが緑光石で代用されている

 地上から見れば、屋根の低い建物が、入口も無く、地面から生えている様に見えるだろう。

「こんな建物、地上にあっただろうか?」

 首を傾げるウォーカー。彼女に思い辺りが無ければ、アシュルの街に土地勘が無いクルト達にはもっとわからない。

「街のどの辺りなのか……。クルト、分かる物って無いか?」

「方位磁石じゃあ自分の位置までは分からないよ」

 空から見下ろす視点があれば一番良いのだろうが、そんな便利な物は魔法でも無い。

「何百年か前の遺跡なんだから、外から見ても相当古いはずだよ。そう言う建物ってアシュルにあるんですか?」

 街で働くウォーカーならばとクルトは尋ねる。

「恐らくは王城付近だろう。王城の一部は、それくらい年代が経った建物がゴロゴロしているし、重要な場所でなければ、整備も碌にされていない」

 なんでも街から見える王城とは騎士団や貴族議会の庁舎も含めた物であり、中には誰も使わない建物もあるとのこと。

「ふうん。まあ、本当に王様が住む城じゃないってことは、無断で侵入した罪も軽くなるかもしれませんね」

 もう既に同罪だとばかりにナイツはウォーカーに語りかける。その言葉に睨み返すウォーカーだが、反論は無い。

「建物自体の資料か何かが残っていれば、それが一番分かり易いかもだけど……」

「こーんな場所に長年放って置かれていた資料なんて、とっくの昔に風化してるだろ。石版で作られた物があるんなら別だが」

 いくら古代の遺跡と言えども、せいぜいが300から500年くらい前だ。その時代には既に紙は普及していただろうし、石版を資料にしていた時代なんて物は無い。

「物から推察するしかあるまい」

 腕を組んでウォーカーが話す。なんだか随分と偉そうだ。

「推察って、ウォーカーさんがしてくれるんですか?」

「色々頭を捏ね繰り回すのが魔法使いの仕事だろう? 大学では他にする事などあるまい」

 偏見が大いに混ざった言葉であるが、内容は自分じゃ無理だからお前がやれと言っているだけだ。

「はいはい、じゃあちょっと色々探索してみますよ」

 渋々、遺跡内部を探索するクルト。ナイツは言われなくても、あちこち探しまわっている。こいつの行動力は、対象が趣味と合致すればする程に増すらしい。

「おいおい、クルト見てみろよ。これってもしかして、ガーゴイル作成用の魔法陣じゃないか? 幾つか欠けているが、何かにメモって置こうぜ!」

 興奮するナイツを無視して、今いる場所がいったい何なのか、それを考えるための材料を探す。

「ふんふん。やっぱり魔法関係の物が多いなあ。魔法の実験場か何かの可能性は高いみたいだ」

 壊れた壺の様な物。陶器類に金属片。棚らしき部屋の付属物などを見ると、ナイツが見つけた様な魔法陣らしき物が多く刻まれている。魔法陣は物に何らかの魔法的な作用を施す絵であり、適切な方法で魔力を込めれば、道具本来の機能よりも優れた能力を付与できる。

 例えば包丁に切れ味を増す様な魔法陣や、物体を離れた場所から別の場所へ移動させる物まである。

「幾つかは大学図書館の教本で見たことあるけど、随分と稚拙に感じるなあ。現代の技術よりも数段落ちてるからだろうけど」

 ナイツが見つけたと言うガーゴイル作成の魔法陣とやらも、現代で再現できる物でしか無いだろう。ならば何故、今でも作るのが難しい魔法生物や物質などを、ポンポンと作り出せたのか。古代魔法には謎が残るばかりだ。

「特別な技術が使われた形跡は無いんだけど……。これは?」

 遺跡内部を探る内に、一つの小部屋で気になる物を見つけた。それは、錆び付いた金属の板と棒であった。

 板は二枚、棒は複数本床に転がっている。

「元々は一つの道具か何かだったのかな。これらで作り出せる物と言えば……檻とか?」

 檻であるのならば、中には何が入っていたのだろうか。恐らくは暴れては困る物だとは思うが―――

「なっ」

 クルトの口から可笑しな声が出た。檻を見るうちに、その横にある何かと目があったのだ。先ほどの声は、驚愕と困惑が瞬間的に混じり合った結果の声である。

「え、あ、う、その……」

 少しずつ後ずさりをする。目の前の何かは生物だった。何百年から閉ざされた遺跡に潜む、まだ息をする生物だったのだ。

「動くなよ、そのままで……」

 それは座った状態でクルトを睨んでいた。それが今にも立ち上がろうとしている事も、生物の動作で直ぐに分かった。何故なら、その生物は人型をしていたから。

「やばい、やばいよな、これ」

 明らかにそれは敵意の眼差しをこちらに向けている。薄暗い部屋のなかでも良く分かる赤色の肌に、額から髪の代わりに生える、太い一本の角。着ている服など無いのに、その肉体は人らしい凹凸が一切無い。だと言うのに、全体的な構造では五体が存在する人なのだ。

 それは座った姿勢から立ち上がると、ゆっくりと、一歩ずつクルトに近寄ってくる。

「目を離したら危ないかもしれない。けど」

 このままの速さであれば、すぐに追いつかれる。こちらの身長は平均より低いのに対して、あちらはクルトの倍はあるのだ。歩幅がぜんぜん違う。随分と高身長で羨ましい。

「いやいや、何考えているんだ僕は」

 頭が混乱しそうになるのを必死で堪える。ここで意味の無い行動をすれば、碌な事にならない。だから冷静に考えて、状況を正確に把握し、無駄の無い行動をしなければならない。

 結果、良く考えて、今の状況を加味したクルトの行動は、振り返り、大急ぎで逃げる事だった。

「皆! 大変だ!」

 助けを呼ぶために叫ぶ事も忘れない。例え、後方に居るであろう人型の何かを挑発する事になっても。

 ウグオォ!

 そんな声が聞こえた。うめき声をそのまま大きくした様な、深く響く声。どう考えても、あの人型の声だ。後ろから聞こえるのだから間違いない。

「おい、クルト、何があった、ってうわあ!」

 眼前にナイツが現れたので、クルトは横を通り過ぎた。今はあれから逃げるのが先だ。一方で、ナイツもあの人型を目にしたらしく、悲鳴を上げる。

「な、なんだ、こいつ。って、危な!」

 重りを地面に叩きつけた様な音と共に、地面に振動が響く。ナイツに何かあったのかと振り返ると、ナイツは地面に転がっており、その横で赤い人型が、拳で床を叩いていた。

「おいおいおい」

 拳があるのは、先ほどまでナイツが立っていた場所。その場所を見るナイツは、目が飛び出さんばかりに驚いている。恐らく、人型の一撃を避けようとした結果、横に転ぶ事になったのだろう。肝心の床であるが、人型の拳によって表面が砕けており、浅い穴が出来上がっていた。

「随分と怪力だね」

「言ってる場合かよ!」

 赤い人型の動きは人並みであったが、その力はかなり強いらしい。床を叩いた拳を引き上げ、もう一度、横で転がっているナイツへ振り下ろそうとする。

「させるか!」

 クルトはもっとも慣れた魔法で人型を迎撃する。火の魔法だ。杖を人型に向け、杖の先端に意識を向ける。魔力を放出、変換。さらに推進力を持たせ、火を人型に放つ。

 時間にして3秒も経たない間でそれを行えたのは、使い慣れた魔法であったからと、魔力をあまり込めずに放ったからだ。

 グワウ!

 赤い人型が叫ぶ。火が体に当たった事に対する悲鳴だろうか。クルトが放った火の魔法は、人型の胸あたりに直撃した。

 だがそれだけだった。炎は人型を燃やさず、そのまま鎮火する。

「もしかして、体が無機物でできている?」

 この遺跡の入口には肉体が石で出来たガーゴイルが居た。ならば、この生物もその類似品なのか。

「なら、これはどうだ!」

 言葉を発したのは転がったままのナイツだ。彼は上半身だけ体を起こし、手を人型に向けて魔法を放つ。

 それは風だった。それもかなりの突風である。風は人型に向けての物だろうが、少し離れた場所に居るクルトにも、目を開く事が困難になる程に強い。

 魔力を推進力に変えて、魔法を飛ばす事はクルトも良くする。ナイツのそれは推進力だけの魔法なのだろう。形成された力場は、前方の空間を勢い良く押す。空間には空気が満ちているため、力場に押された結果、押された空気が風となって周囲に放たれるのだ。

 団扇みたいな魔法である。

「人型は……ふっ跳んだ!?」

 急に視界に居た赤い人型が居なくなった。少し視界を横に向ければ、すぐに見つかる。人型は、ナイツが手を向けた方向の壁に叩きつけられていた。推進力が直撃した事で、その体が跳ね飛ばされたのだろう。

「……ふふ、どう…だ。なかなかの…物だろう」

 ナイツは魔法の威力にご満悦の様子だが、何故か満身創痍である。

「あ、そうか。こっちにまで強い魔法の風が来てたんだから、使用者なんてもっとだろうね。大丈夫?」

 今にも倒れそうなナイツに近寄る。既に地面に転がっては居るが。

「いや、ちょっと、一人じゃあ立ち上がるのが……。足を捻ったみたいだ」

 変な体勢で威力の強い魔法を使ったからだろう。足が少し腫れている。

「肩貸すよ。でも、あれはいった……い…。やばい」

 壁に叩きつけられた人型であるが、すぐに壁から剥がれた。そのまま倒れてくれれば良いのに、なんと、こちらに走ってきたのだ。

「やばい? あれ? あいつ、まだ動く力が残っている!」

 ナイツも走る人型を確認したらしい。しかし片方は足を捻り、片方はその男に肩を貸している。自由に身動きがとれないのだ。

(どうする? ナイツを見捨てる? それもな……)

 一番は魔法で迎撃する事だ。しかし威力が足りなくて相手を倒せなければ、やられるのはこっちだ。人型の腕力は先ほどの床を見れば十分にわかる。当たれば良くて重傷。悪ければ死に至るかも。

「ああもう、考えても仕方無い!」

 とりあえず魔法の一発でもブチかましてやれと、精神を集中させたクルトの目に、横から飛び込む人影が映った。ウォーカーだ。

「ウォーカーさん!?」

 ウォーカーは剣を抜いていた。軽快に走るその姿は、とても俊敏であり、その勢いのまま、人型を剣で叩く。

「ちっ!」

 ウォーカーの舌打ちが遺跡の中に響いた。剣がカキンと言う音と共に、人型の体に弾かれたからだ。

 人型は標的をウォーカーに変えて、腕を振り回す。しかし、ウォーカーにはその動きがしっかりと見えているらしい、上半身を少しずらすだけで腕を素通りさせる。

 いや、それだけでは無い。襲い来る腕を避けたウォーカーは姿勢を低くすると、自らの足で、人型の足を引っ掛けた。腕を振るった姿勢のままでバランスの悪くなった人型に、体を支える事は不可能だったらしく、尻餅をつく様に倒れた。まだウォーカーの動きは止まらない。倒れた人型の顔に狙いを付けると、そのまま足で踏み抜いたのだ。

 いくら細い女性の体とは言え、これは効く。人型は踏まれた顔に手をやって、その場で悶え苦しんでいる。

「おい、魔法使い!」

「え、あ、はい!」

 ウォーカーの動きに見惚れていたクルトに、声が届く。

「逃げるぞ、そいつの片方の肩をしっかり支えておけ!」

 そう言うとウォーカーはこちらへ走り寄り、クルトが持っていない方のナイツの肩を持ち、人型が居る場所とは逆側に向かう。つられてクルトも走る。

「ちょ、待って、引き摺ってる! ズレてる! もっとゆっくり!」

 叫ぶナイツを無視して、ウォーカーと共に走る。場所はこの遺跡に入った時に通った道。そこまで来ると、ウォーカーは足を止めた。

「ここなら、あの化け物から身を隠せるな」

 かなり離れたところでまだ呻いている人型を窺い、ウォーカーが話す。

「は、はい、多分。でも、このまま逃げないんですか?」

 先ほどまでの行動を見て、ウォーカーを凄い人だと思い始めたクルト。少し気遅れしてしまう。

「駄目だ。あんな物が、王城近くの建物に潜伏しているとなれば、何かの対処が必要だ」

 ウォーカーの言う事は正しい。あの人型は、明らかに人間に対して敵意を持っているし、その力も一般人に対しては脅威だろう。

「けど、あいつをどうやって倒すんですか? 火もダメで吹っ飛ばされてもピンピンしてるし、顔面を思いっ切り踏まれたのに、もう立ち上がろうとしてる」

クルトの目には、倒れていた人型が立ち上がり、辺りを見回している様子が映った。恐らく、こちらを探しているのだろう。

「倒し方? そんなものは分からん。お前たちが考えてくれ」

 クルトは頭を抱えたくなった。そうだ、そうなのだ。いくら戦う技術が優れていたとしても、性格はそのままなのだ。頑固で融通が利かなくて、しかも考え無しである事に変わりは無い。

「あれは多分、ガーゴイルみたいな物なんだ。対処法もガーゴイルと同様だろう」

 恨みがましくこちらを見ながら、ナイツは話す。引き摺りながら運ばれたのが気に障ったらしい。

「肝心のガーゴイルへの対処法に関しては?」

「融合している物による。鉱物と生物の合成なら、その鉱物が何に反応するかとか……」

 何の鉱物との融合なのか。クルトには思い当たる節があった。

「あいつ、肌が赤い。赤い鉱物か何かじゃない?」

 赤い皮膚と言うより鎧だったのだろう。使用されている鉱物も、その色に関する物のはずだ。

「赤か……。だったらラテライトか銅かな。ウォーカーさん。剣で叩いた感触はどうでした?」

 直接剣で叩いたのであれば、それがだいたいどんな物であるかは分かる。そう思ったのであろうナイツは、ウォーカーに尋ねた。

「ラテライトと言うのはあれか、赤レンガか。そう言う感触じゃあ無かったな。もっと金属質だった。そもそも石だったら、さっさと砕けているんじゃあ無いか?」

 熱を浴びせられ、壁にぶつけられ、剣で叩かれ、最後には顔面を踏まれた。確かに単なる赤レンガであれば、普通は壊れる。

「となると、銅で出来ている可能性が高いな。金属なら弱点は熱だ」

「さっき、僕が火の魔法を当てた時は平然としてたけど……」

 その後ナイツが風の魔法を使って対処できたが、火の魔法に関するダメージは無かった様に思う。

「単純に熱の放射時間が短かったんじゃないか? 一定熱量まで行かないと、金属は溶けないからな」

「それって要するに弱点じゃ無いって事じゃん。普通、火が一発当たれば、だいたいの生き物は焼けちゃうって」

 一定時間火で焼かなければ倒せないとなら、それはむしろ強みだろうに。

「まあそうだが、隙さえあれば、それくらいの時間は火の魔法を出す事ができる」

「僕には無理だ。そこまでの魔力量は無いよ。ナイツはできるんだろうけど、足を引き摺りながらあいつに近づける?」

 魔法使いとしての能力で言えば、ナイツはクルトの先を行っている。ナイツと同じ魔法をクルトは使えない場合が多いが、クルトが使える魔法を、ナイツは使える事が多々ある。

 ただ今の問題はそこで無く、人型を倒せる力を持った者が、一人では十分に動けない状況にある点が問題なのだ。

「ウォーカーさんに頼むとか……」

「お前を背負って戦うなんてのは無理だ。それに相手に一撃を与えるくらいの時間であれば作れるだろうが、長時間必要ならかなり厳しい」

 結局は手詰まりだ。今居る人員で、あの人型を倒すのは不可能と言う事である。他に何か作戦に使える知識材料があれば別だが。

「まだ出し合ってない知識……。そうだ、あれがガーゴイルの一種なら、融合された元の生物が存在するはずだよね? そっち方面から弱点を推察できないかな? あれが何を元にしているかは分からないけど」

 残念ながら、クルトの知識に角の生えた人型生物の心当たりなどは無い。

「あれはコーストライクだ。空想の話だと思っていたんだが、実際、ああして存在するのだから、実在の動物だったのだろう」

「コーストライクって、あれですか? 大人になっても寝しょんべんを治さないと、枕元にやってきて頭を叩くと言う」

 親がまだ生きていた頃には良く聞かされた。赤い肌と額の角一本。ギラギラとした目で悪い子供を叩きに来る。

「まあ、話に聞く通りの外見ですけど……」

 柳下の幽霊が実在すると言われた様な物で、どうにも納得できない。

「私の所は、夜中にいつまでも出歩いていると背後からやってくるだった。それはそれとして、あれは間違い無くそうとしか見えまい。どうだ、お前はどう思う」

 同意を求めようと、ウォーカーはナイツを指さす。

「俺の国には、そんな話無かったけどなあ。マジクト国特有の話だろう。それに、あれがそのコーストライクそっくりだとしても、元になった生物はまた違う物じゃないか?」

「何故だ?」

「そのコーストライクってのは、アレ通りの外見をしているんでしょうが、あの赤い人型の外見は、ガーゴイル化された時点での後付です。ガーゴイルを見て、元になった生物を予想する場合、特徴的な物より、全体的な輪郭を見て………」

 ナイツの説明が止まった。どうにも深刻な表情をしている。

「どうしたの?」

 心配になり声を掛ける。挫いた足でも痛いのだろうか。

「なあ、ガーゴイルを作る際、時々、意味の無い飾りや身体的特徴を付与する場合があった。どうしてだか分かるか?」

 いきなりそんな事を聞かれて、すぐに答えられる訳が無い。

「外見を良くするためとかかなあ。他には思いつかないや」

「概ね正解。ただ、見栄えを良くするってのがどう言う事かって話さ」

 随分と遠回りな会話をしている。どうにも直接話し難い内容らしい。

「外見を良くするって事は元あった物を変えるって事だろ? つまり、元々の形を残しておきたくなかったのさ。犬や猫、牛に蛙なんかのガーゴイルまで存在したらしいが、どれも生物の体を弄っているのには変わりない。罪悪感ってのが、作成者側にもあったんだろうな。外見的特徴を、元の生物から遠ざけようと、可笑しな飾り付けをする事が多々あった」

 そうする事で、生命を実験に使う事への罪意識から、少しでも逃れようとしたのだろうか。現代人のクルトには分からない。ただ、古代人と現代人との間に、それ程意識の差があるとも思えないので、恐らくそうなのだろう。

「あの人型もそうだ。あの頭の角。あんな物が付いた人型生物なんて見た事が無い。一方で無ければ、あれに近い生物を、俺達は良く知っている事になる」

「おい、お前が話そうとしている事が、どう言う意味なのか、良く理解して言ってるのか?」

 ウォーカーが止めに入るも、ナイツは言葉を続ける。

「あれの輪郭を見ればすぐに分かるはずの事だったんだ。だけど、俺達みんな、その事に関して考えようとしなかった。思考から遠ざけてたんだな」

 もう既に、ここに居る三人共、あの人型ガーゴイルの正体が何であるのかに気付いていた。あえて、それを口にしないのは抵抗があるからだろう。

「けど、もしあの人型が、“人体実験の成れの果て”だったとして、僕らが何がしかの行動を起こさなければならないってのは変わり無いよね」

 例え言い難い事だとしても、話さなければ何も始まらない。だからあえてクルトは口に出したのだった。


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