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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの呼び出し方
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魔法使いの呼び出し方(2)

 下水溝内とは当然水が流れており肌寒い物だ。それが冬も近い季節であれば尚更だろう。魔法使いらしいローブを着込み、厚着をして来たクルト達は正解であった。

 一方でガタガタと震えている人間も居る。騎士団員のウォーカーだ。

「なんで制服そのままで来てるんですか。もっと重ね着をしてきたら良いのに」

 下水溝を歩くのはクルトとナイツ。そしてウォーカーの三人。ウォーカーは何故か大学へ来た時と同じ格好をしている。騎士団員の制服だろうか。

「ふん。そうやって、制服を着ないでいれば本当に騎士団員かと疑うつもりだろう。そんな馬鹿な手には乗らない」

 馬鹿はどちらなのだろう。やはりこの女性、かなり融通の利かない性格をしているらしい。

(それだけならともかく、柔軟に思考を動かせないってのが問題なんだろうね。状況が動いてしまえば、まるっきりズレた考えになる)

 などと考えても、状況を大学の王権侵害問題から、王領の調査へと動かしたのはクルトだ。口に出して文句は言わない。

「なあ、クルト。確かここあたりじゃなかったか?」

 特に案内も無く下水溝を進んでいたため、不安になったのか、ナイツが聞いてきた。

「うん。正規の下水溝以外の道があったのはこのあたり。って、なんか人が通った様子が無いんだけど、本当にここが王領だって調査したんですか?」

 道の先で、前回来た場所である遺跡への道を見つける。状態はクルト達がガーゴイルと出会った頃そのままに、あちこちに瓦礫が転がっている。つまり、クルト達以外にあまり人通りは無いと言う事だ。

「騎士団内での確認は行っているはずだ。確かに王領であると言う確認の書類も発行してある」

 ならば確認だけで、調査は深くやっていないと思われる。しっかりとした調査であるのなら、入口付近に転がる瓦礫くらいは掃除するだろう。

「俺達もその調査の一環で来ている訳だから、ここに入っても良いって事ですか?」

 ナイツは一応、遺跡に入る許可をウォーカーから聞こうとする。ここで無断に進み、後であれは違反だと言われても困るからだ。

「あ、ああ。重要度の低い王領は、騎士団員の同行があれば立ち入りを許可されている」

 なるほど、やはりこの遺跡は王家にとってあまり重要な場所では無いらしい。この調子で話を進めて行けば、ウォーカーが持つ情報の幾らかが手に入るだろう。

 向こうはその事に気付きはしまい。

「なら入ります。クルト、先導を頼めるか?」

 ガーゴイルが出てきた遺跡だ。他に何があるか分かったもんじゃない。ナイツはいつでも魔法を使える様、クルトに先行を頼んできた。

 魔法の腕はナイツの方が上なので、正しい判断だろう。

「うん。わかった。ウォーカーさんも、いざと言う時の準備とかはできてます?」

「戦闘訓練は王立騎士団の基本業務の一つだ。この剣は飾りでは無い」

 腰にある剣に手を当てるウォーカー。その言葉が真実であると信じたい物だが。

 手に持った杖に魔力を込めて、先端の緑光石を光源にする。松明は持ってきているが、突然消えた時の事も考えて置く。

 緑光石に一度魔力を通してしまえば、一定時間は光続けるから松明よりも優秀だ。

「それじゃあ進むよ。ちゃんと着いて来てね」

 前来た時よりも慎重に進む。まあ、だからと言って何かがある事も無く、ガーゴイルと出会った小部屋まで着いた。

「暗いな。もっと明るくできないのか?」

 中が良く見えないと文句を言うウォーカー。前回はガーゴイルが居たからか、部屋に存在する緑光石が輝いていたのだが、今はそんな事も無く暗い部屋のままだ。

「おー、クルトー、その杖に付いた石と同じ物がこの部屋にもあるぞー。これを光源にできないかー」

 感情の籠らない話し方をするナイツ。部屋を知らない事にしようとしているのだろうが、もう少し上手く出来ない物か。

「うん? それは良い偶然だな。さっそく明かりを付けてくれ」

 演技が上手く無くても、騙す相手が騙されてくれるのならそれで良いか。

「んじゃあ、さっそく魔力を籠めるよ」

 部屋のあちこちにある緑光石に魔力を放出する。少量であるが、それにしっかりと反応して、部屋が輝いて行く。

 光が部屋を照らすに十分な光量になった頃。クルトの目に見た事のある部屋が映る。

「ここは昔の王城跡らしいですけど、何か明確な証明だったり証拠なんかはあったんですか?」

 部屋自体の作りは立派だが、詳しい調査もせずに王城の一部だと判断するのは難しいのでは無いか?

「紋章が見つかったらしい。ああ、ここだ」

 ウォーカーは壁の緑光石、その近くに刻まれたレリーフを見やる。

「これは今から21代前にマジクト家で使用された家紋だ。照合も既に済んである」

 家紋付近を指でコツコツと叩きながら答えるウォーカー。刻まれている紋章は、かなり年代が経ているせいで見辛くなっているが、一列に同じ紋章が沢山並んでいるため、照合は楽だろう。

「なら確かですね。でも、王家の城としては、なんだか手狭な様な」

 部屋は一室だけであり、そこには様々な遺物が転がっている。

「道が下水溝と繋がったんだから、下水溝のどこかも遺跡の一部だったんじゃないか? 下水開通の時点で整備されて、跡形も無くなったとか」

 色々と話が進む。魔法使いとは基本的に研究者であり、しなくても良い話をついしてしまう。

「王領地を無断で破壊しただと! 許し難い行為だ」

「下水溝の開通なら国家事業でしょ? 責任も王家側に向かうと思うけど」

 それに、ずっと昔からアシュルには人が住んでおり、地面を掘れば、なんらかの遺跡が見つかる。それをいちいち調査や保護をしていれば、街の発展が阻害されてしまう。

「我々王立騎士団には関係の無い話だ。王家の権威を脅かし、治安を妨げる者には、どの様な事情があろうとも、何らかの対応をしなければならない」

 なんとも頭の固い話である。これが王国騎士団全体の意思なのか、それともこのウォーカー一人の意思なのか。できれば後者である事を祈りたい。

「他国人の俺が言うのも何ですが、そうやって自分達の義務だけを果たして、他のやっている事を無視するのは、結局、自国の力を削いでいませんか? 例えばこの下水溝を作った人達だって、自分達の義務を果たしただけで、王を脅かすつもりなんてこれっぽっちも無い」

 ウォーカーの話し振りが頭にきたのか、ナイツが熱弁を振るう。

「そうやって放って置けば、悪がのさばる結果になるだろう。騎士団のやる事に例外を作れば、そこから穴が出来て、結局は王権が揺さぶられる」

 そうこうしている内に、ナイツとウォーカーの話がどんどん白熱して行く。そろそろ止めるべきだろうか。

「そうやって強権を振るい続けた後には、騎士団以外の何もかもが無くなると言ってるんだ!」

「その無くなる内に魔法大学が入っているかもしれないから、お前は恐れているんだろう?」

「あー、はいはい。そこまで」

 いい加減耳が痛くなる。大層な事を語っているが、二人共日がな一日そんな事を考えて暮らしているでも無いだろうに。

「とりあえずウォーカーさんが言っている様に、ここが王領かもしれない証拠があるのは分かりました。それに再びここへ来た事で、確かに僕らはここに足を踏み入れた事があるのを思い出しました。当然、無断でね」

「おい、クルト」

 ナイツは自供とも取れるクルトの言葉を遮ろうとする。

「ほう、つまり自分の罪を認める訳だな?」

「近いですね。ここが王領であるならば、僕らが無断で侵入したのは事実です。だけど、この遺跡が王家にとってどれだけの価値があるか。そこが分からない限り、僕らの罪ってのはどうやって決まるんですか?」

「それは……」

 王領への侵入は、王権を侵害する罪として罰が執行される。なので当然、王権がどれだけ侵害されたかによって、その罰の重さが変わってくるのだ。

 直接王家に多大な被害を与えた場合は死刑も有り得るし、一方で、いくら王領でも王家に何ら被害を与えていないのであれば、そもそも罰足り得ない。何故なら王権を侵害しては居ないのだから。

「王権を侵害した可能性があるってだけでは、どうにもならないでしょ? 量刑の無い罪でいちいち行動していれば、それこそ組織に穴が出来て形骸化し兼ねない」

 ただ人にお前は悪い奴だと指摘するだけの組織に成り下がる。ウォーカーはクルト達に厳罰を望んでいる様だが、それがどうして厳しい罪と成り得るのかを伝えきれていない。

「ううむ。いや、ここは確かに王家にとって重要な場所であるはずだ……。でなければ、上司が王権侵害の疑いを掛けるはずが……」

 色々と悩んでいるらしい。良い傾向だ。悩んで思考を曲げる事が出来れば、王権侵害についての罪も有耶無耶になるかもしれない。

 我ながら嫌な考え方をすると思うクルト。

「きっと、何かその上司の方にも考えがあるんですって。一度、確認に戻ってみれば?」

 そうしてもう二度と魔法大学へ来ないで欲しいとは、さすがに言わない。

「駄目だ! この仕事は私に任されたんだ。私が責任を負わなければならない。上司に相談など冗談では無い。きっとこの部屋には、王権に関わる重要な何かがあるはずなんだ!」

 意固地と言えば良いのか。ウォーカーは部屋のあちこちを探り、この遺跡が、王家にとって重要な意味を持っている事を、証明する何かを探す。

「ちょ、ちょっと待ってください。この遺跡内にある物は、古代の魔法を研究する上で貴重な資料かもしれないんだ! それをそんなに、ああ……」

 古代魔法を研究する教室に属しているナイツは、ウォーカーが遺跡内を探る行為が、荒らしに見えたらしい。必死になって止めようとするが、意外と動きの素早いウォーカーを捕える事ができない。

「これか! それともこれか!」

 あちらこちらにある遺物を持っては放り投げるウォーカー。それが本当に重要な物だとして、鑑定家でも無いウォーカー自身に判断できるのだろうか? 彼女も随分とテンパっているのではとクルトは考える。

「あはは、もう何が何やら」

 ウォーカーを慌てさせている原因を作ったのはクルトであるが、その後の行動まで予測できる訳が無く、既に状況は制御できぬ物となっている。

 まあ、このまま場が混乱すれば、当初の目的である、状況を八方良く収めると言う事を、達成できるのではと思う。

「まあ、上手く行けばだけど……。あれ? なんだか揺れてる」

 地響きとまでは言えないが、視界が少しふら付くくらいには振動を感じる。他の二人は動き回っているせいか、気付いていない様子だ。その場で立ち止まっているクルトだけが分かる。

「地震かな? だとしたら、避難した方が良いかも」

 地下で地震に遭うのは危険だ。頭上から地面その物が落ちてくる可能性がある。

「あのさ、二人と……も…え?」

 ナイツとウォーカーの二人は動きを止めていた。地下を揺らす振動に気付いたらしい。別に二人の感覚が鋭くなった訳じゃあ無い。部屋の揺れが大きくなっているのだ。

「な、なんだ! これ?」

 振動はある程度まで大きくなると、そのまま一定に揺れ続けている。ナイツの言葉は、明らかに自然現象では無いそれに対する疑問だ。

「私か! 私のせいか!?」

 何かしら特別な行動を取ったと言うのなら、ウォーカーが原因で相違は無いだろう。ただ彼女を責めるのは、これから何が起こるかを確認してからでも遅く無い。

「危険な事になったらなっただよね。逃げ場とかあんまり無さそうだし」

 暫く観察していると、振動の原因が姿を現す。それは道だった。部屋に入った時とは違う道。今までの振動は、この道を開かせるためのカラクリによる物だったのだろう。

「隠し、通路か?」

 ウォーカーがポカンと現れた道を見ている。無かった物が現れた以上、その道は確かに隠されていたのだろう。

「古代の遺跡、隠された通路。未知なる場所。これはなかなか……」

 ナイツは何やら興奮している。いくら研究対象だとしても、この様な反応はどうだろうか? もしかしたらこいつも混乱しているのかもしれない。

「なんだか予想も出来ない展開みたいだし、一旦、ここで帰らない?」

 そうしてこの遺跡であった事は別の調査機関に任せて、今日有った事は忘れた方が無難な気がする。

「まて、こんな隠し通路があると言う事は、ここは王家にとって重要な遺跡に違いない。調べれば、お前たちの王権侵害罪が証明できるかも……」

 まだ魔法大学を訴えるつもりらしいウォーカー。仕事熱心なのは良いが、あからさまに怪しい場所を進むのは、王立騎士団員としてどうなのだろう。

「ウォーカーさんが言っている事はともかく、俺も一度調べてみたい。さっきの振動が魔法関係の絡繰りなら、ここは古代魔法の知識が残っている可能性もある。なんたって、ガーゴイルまで居たんだからな」

 自分の研究対象がすぐ近くにあると考えるナイツは、遺跡の奥に進もうとするウォーカーに、同行する気らしい。

「でも、この新しい道の先に危険な何かがあるかもしれないんだよ?」

「そりゃあ、非正規で許可なく侵入するんだから、危険なんて当たり前だろ」

 そんな台詞を言い放つナイツ。

「おい、心外な事を言うな。私が居る以上、遺跡内部の探索は許可される」

 それは、重要度が低い王領に限っての話では無かったか。もし、ここがウォーカーの望み通り、王家にとって重要な場所ならば、ウォーカー自身も罪に問われる可能性が有るのでは。

「まあ、そこまで言うのなら、反対する意思は無いけどね。実は僕も興味有るからさ」

 結局、クルトも魔法使いなのだ。その先に魔法に関する知識があるとなれば、危険を承知で進まずには居られない、馬鹿な人種なのである。


 隠されていた通路は、どうやら上へと向かっている様だ。昇り階段がゆるやかに続いているおかげで、それだけは分かった。

「問題は、どうにも道が螺旋状になっているせいで、方向感覚が狂いそうになるんだよね……」

 方位磁石は一応持ってきているが、時々見ると、自身の感覚よりも大きくズレが生じている事があった。

「道が分かれていない事が唯一の救いだな。迷宮って物では無いらしい」

 普通に人が利用する場所だったのだろう。迷宮が存在する建築物と言えば、大きな墓や、権威を象徴する建物くらいだ。人通りのある場所を、わざわざ迷路にする必要性は無い。

「まさかな……」

 ウォーカーは不安そうな顔をしている。自分から道を進む事を決めたのに、どう言う事だろうか。

「まさか、何ですか?」

「ああ、王家の遺跡で地下から地上へ向かっている点がだな……。っと、何を言わせるつもりだ!」

「何って、それを聞きたいんですけど……」

 クルトの質問は、ウォーカーの不安に関わる物だったらしい。王家に関係する遺跡で、尚且つ道が地上に向かっている。そこから導き出される、ウォーカーの不安とは一体。

「そんなの決まっているだろう? あれだ、このまま王城に繋がるんじゃないかと思っているんだ」

「お前、どうしてそれを!」

 答えたのはナイツだった。どうにも、この隠された道について、ナイツとウォーカーは同じ発想を持っていたらしい。ウォーカーの慌てた姿からそれが分かる。

「地下にある遺跡から、どうして王城に繋がるんだよ」

「違う違う、王城が地下まで繋がっているんだ。つまりあの遺跡は出口だって事さ」

 そこまで言われて、クルトも気付いた。

「成る程、城に何かあった時の避難経路って事ね。でも、この遺跡は随分な時間、人の手が入っていないみたいだけど、城から避難する道がそんな事に成り得るの?」

「ここが城へ繋がる道なんだとしたら、作ったのはマジクト王家だ。そして王家は現在もまだ存続して王城に住んでいる以上、使われた事が殆ど無いと考えられる。必要だから作られたんだろうが、結局忘れ去られてしまったって事だろう」

 長い歴史の中で、増改築を繰り返している城と街だ。そう言う事も有るかもしれない。

「その通りだ! お前たちは今、王城に無断侵入しているかもしれないんだぞ! その罪を分かっているのか!?」

 ナイツの話を聞いていたウォーカーは、突然ヒステリックに叫びだす。今の会話のどこに、その琴線が触れたのだろうか。

「なあ、クルト。何故この人は怒っているんだ?」

「多分、王城に無断で侵入したって事は、ウォーカーさん自身も罰せられるからじゃないかな。ほら、騎士団員がその権限だけで立ち入りが許可されるのは、王領の内、重要度が低い場所だけだし」

 勿論、王家がそのまま暮らしている王城となれば、その重要度はトップクラスだ。王権を委任されている騎士団と言えども、然るべき手続きを行わねば罪に問われる。

「う、うう……」

 弱弱しく呻くウォーカー。他人の罪を咎める事には慣れているが、自分が不正をするなど考えもしなかったのだろう。

「なんだ、じゃあ俺達はみんな同罪じゃないか。いっその事、ここに来た事は隠して置いて、無罪放免なんてのには成らないんですか?」

 弱るウォーカーを畳み掛ける様に話すナイツ。中々に酷い奴だとクルトは思うが、ナイツが言わなかったら、クルト自身が提案していた事だろう。

「馬鹿を言うな。そんな言葉に惑わされるとでも思っているのか? 例え私の立場が危うくなろうとも、他人の悪を見逃せるはずも無い」

 言う事は立派だが、この道を進もうとしたのは、ウォーカーの意見もあったからだ。唆した人間の言える台詞だろうか?

「そう返すかあ。いや、冗談ですよ? ただ、このまま何かの罪に問われるのは釈然としない物があるってだけすから。なあ、クルト」

「うん? ああ、そうだね。そうかもしれない」

 少しばかり他の事に気を取られ、返事が遅れてしまった。当然、こんな状況でそんな様子は、相手の不信感を呼ぶ。

「なんだ、貴様も何か良からぬ事を考えているのか」

 もう周りがすっかり敵にしか見えぬのだろうウォーカーが、クルトにも敵意を向ける。

「いや、僕はちょっと違う事を考えていただけですから」

「違う? 見知らぬ隠し通路を進んでいると言うのに、気にもせず別の事を考えていたと?」

 理解できぬとこちらを見るウォーカー。

「ええっと、この道に関しての事には違い無いですよ。ただ、ちょっと二人とは違う視点から見てみようかなと」

 おかしな道を進んでいるのだ、その事を考えない訳が無い。ただ、ナイツやウォーカーが同意見を出した以上、クルトが別の意見を出さなければ、釣り合いが取れぬでは無いか。

「違う視点? それはいったい?」

 興味深そうにクルトの言葉を促すナイツ。魔法使いとは、自分に無い知識をとても好ましく思う物だ。

「二人はこの道を、王家が城から脱出するための道だと考えている訳だよね?」

「その通りだな」

 同意するナイツと、頷くウォーカー。

「だとすると、一つだけ疑問が残るんだ。この道の扉が開いた理由。それは、あの部屋でウォーカーさんが何かをしでかしたからだけど……」

「しでしかしたとは何だ! 私はだな……」

「良いから。話を聞きませんか?」

 ナイツの興味はすっかりクルトの話に移っているらしい。ウォーカーの行動を止めるのに躊躇が無い。

「あれってつまり、あの遺跡からの操作で、道を開く事ができるって事なんだ。おかしくない? もしこの道が脱出経路なんだとしたら、扉を開く術は、あの部屋じゃなく、この道側にあるはずなんだ。だけど、扉のノブは部屋側にあった。それが意味するのは」

「それは?」

 言葉を発したのはウォーカーだった。どうやらクルト説明について、聞く価値があると判断してくれたのだろう。

「やっぱりあの部屋が入口って事。入口が地下にあって、向かう先が地上にある」

「なんだそれ。そんな頓珍漢な建物、なんのためにあるんだ」

 呆れてクルトを見るナイツ。少々傷つく目線だが、まだこちらに意見を求めている以上、興味自体は失っていないらしい。

「一つだけ思い付いた物があるよ。入口が地下にあるってのは、人目に付かないからだね。目的地が地上にあるのは、普通に暮らす場所と、違わない環境にするため。この作りって、とある場所と良く似ているんだ」

 その発想は、魔法使いとしてのクルトの知識から来る物だ。つまり、魔法に関わる物事だと言う事。

「勿体ぶってないで、さっさと言えば良いだろう。会話は端的に。そう親に習わなかったのか?」

 苛立つウォーカーの言葉は、かなり辛辣な物だが、長く付き合えば慣れもする。

「残念ながら、子供の頃に親を亡くしてまして」

 そんな皮肉めいた言葉くらいは返せる様になる。

「それは……、申し訳ない事を聞いた……」

 だが、こうやって殊勝な態度を示されると、どう対応して良いか分からなくなる。正直、止めて欲しい。

「ま、まあ、良いですけれど。問題は、この道とあの小部屋の状態。隠された道と、通常の環境へと戻る道筋。それに、小部屋内にあった緑光石。あれは魔力でもって輝かせる物だから、あの小部屋には魔法使いが関わっている事になる」

 もうクルトの話を止める事はしないらしい。ただ、続きを聞こうとしている。

「これって、魔法使いが実験場所を作る時と良く似た環境なんだ。実験をするくらいの物事だから、情報を外部から遮断するために、実験場所は一般的な場所から隔離しようとする。けれど、実験は変わった環境でしても意味が無いから、普通の環境を作ろうとする」

「随分と矛盾した考えだ」

 当然の疑問を、ウォーカーはクルトに投げ掛ける。勿論想定済みだ。

「そう、我が侭な考えだよね。当然、完全な環境なんて作れない。だから、せめて入口くらいは隠そうとするんだ」

 不可能な状況を目の当たりにした結果、妥協して出来る限り求める環境に近づけようとするのは、どこでも良くある事だ。

「おいおい、クルト。それってつまり―――」

「その通り。この道が向かう先。それは、魔法使いの実験室の可能性があるってこと。それも、小部屋が古代の遺跡だった以上、古代魔法使いの実験室だね」

 王城からの脱出経路より、余程夢がある結論だとクルトは考える。


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