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魔法使いの歩き方  作者: きーち
魔法使いの帰り方
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魔法使いの帰り方(1)

 世の中は思い通りに行かぬ物ばかりであり、せめてこれだけは無事であって欲しいと言う願いも、台無しにされがちだ。

 楽しみに取って置いた貰い物のお菓子を、大学の先輩が偶然に見つけて食べてしまったり、どうしても自分では分からぬ魔法知識について師に聞こうとしたら、既に大学から旅立っていたりと、むしろ日常茶飯事であろう。

 見習い魔法使いのクルトは、魔法大学生活の中で、そんな理不尽には慣れてきたつもりである。自分で世界を思い通りに出来ない以上、どれだけ苛立ったり落胆しても、その心を飲み込まなければならない状況は当然有ると理解はしている。

 だが、溜息くらいは吐いても良いのではとも思うのだ。

「はぁ………。先端恐怖症なんだよ……。尖ってる物が大嫌い。目を瞑っても何かがある様な気がするし、夜に眠る時も思い出してしまう。だからそんな物を向けないで欲しいな」

 手を挙げて、無防備な姿をさらす。目の前には盗賊がこちらに刃物を向けていた。刃物は何度か使われた形跡があり、年季を経ている様だが、刃物としての機能を果たす鋭さは健在に見える。

「あんたが金目の物を全部ここで出してくれるんだったら、考えなくも無いけどね」

 盗賊がクルトに話しかける。盗賊は女であり、体格もそれ程良く無い。金目の物なら自分の頭の上にあるだろうと言いたくなるくらいに金髪を伸ばしている。そんな相手に舐められているのかと思うと、自分の背の低さを呪いたくなった。

「良く言うよ。大人しく従った後は、それをブッスリと僕に刺すつもりの癖に」

「かもしれないけど、そうじゃないかもしれない。どのみち選択肢なんてあると思っているの?」

 女盗賊が話す度に、胸近くまで迫った剣のせいでチクチクと痛い。実際には刺さってないのだが、感覚は刺された瞬間の事を想像してしまっている。

「だろうね。こっちは手ぶらでそっちは剣を持っている。敵う訳なんて、多分、無いよね」

「多分じゃなくて絶対よ。わたしはこの剣であなたみたいな人を何人も斬ってきたの」

 嫌になる。そんな風に言われても、どう返せば良いのか。

「なんだよそれ、脅しになってないぞ。やっぱりこの後斬り殺すつもりじゃないか」

「だったらどうだって言うの? 何かが変わるとでも?」

「変わるよ。だって、どうせ死ぬんなら反抗しようって思うのが普通でしょ」

 火が辺りを包む。クルトの魔法である。ただ、一瞬だけで火力もそう高く無い炎だ。周囲への被害は無いに等しい。だが目くらましにはなる。

 女盗賊は突然出現した火に意識が移り、クルトから目を離した。だから身体能力がそう高く無いクルトでも剣を避けて女盗賊の肩に触るくらいの事は出来る様になる。

「何を……! ぎゃっ!!」

 さすがに体に触れられればその事に気づく。盗賊は咄嗟にクルトから体を引き離そうとしたが、その前に体全体が跳ね上がって動かなくなった。気絶したのだ。

「いや、結構役に立つねこの魔法。先生が直々に教えてくれる訳だよ」

 クルトの師、オーゼは頻繁に外へと出向くタイプの魔法使いだ。未知なる知識を求めて東奔西走している以上、身に降りかかる危険は自分で振り払わなければならない。そんな教えの元、クルトも自己防衛用の幾つか魔法を習った。

 今しがた女盗賊に使った魔法もその一つ。雷撃を小規模な範囲で起こす魔法だ。クルトの魔力では威力もそれなりで、遠距離に飛ばす事はまだ不可能なのだが、直接手が触れられる距離ならこの通り。人ひとりを気絶させる事はできる。

「相手の戦力を奪うくらいの魔法だと、火や冷気じゃあ強すぎるからねえ。さすがに命を奪うのは気が引けるし……」

 燃やされても氷漬けにされても、簡単に無くなるのが命だ。例え助かっても重篤な傷になる。

 一方で電気ショックなら衝撃を与えるだけで済むのでその心配は無い。勿論、危険性は十分にあるのだが、先に手を出してきたのは盗賊の方なのだから、そこまで気を使う事もあるまい。

「しかしまあ、物騒になったもんだよね。故郷へ帰る道で強盗に遭うなんて」

 クルトは故郷の村へこれまでの報告をするために、帰郷の旅を行っているのである。その旅ももうすぐに終わり。村がそろそろ見えてくると言った地点で盗賊に遭遇したのは実に嫌な終わり方であった。


 気絶した女盗賊を道の脇に転がした後、村に到着した。この村を出たのは半年と数か月程前。その程度の時間では代わり映えしない程にのどかな風景が広がる。

「相変わらずだねこの村も。昔住んでいた家はっと」

 姉と共に領主の家へと引き取られる前の家に足を進める。クルトたち一家の管轄だった家と田畑は、別の一家の物となっているだが、その別の人達も知り合いと言えば知り合いなので顔を出しておく。

「あら、クルトちゃんじゃない。街に出ているって聞いていたけれど、もう出戻り?」

 元々クルト達家族が住んでいた家には、現在、ラケルタと言う女性が住んでいる。今は畑仕事の真っ最中らしく、道を歩くクルトの顔を見つけて話しかけてきた。

「出戻りじゃなくて、帰郷って言って欲しいなあ。ラケルタおばさんも元気そうで」

 笑いながら話しかけてきた相手には、当然笑い顔で返す。小さな村なので、村人全員がそれなりに顔見知りだ。

「あたしは元気だけど、旦那がねえ……。そろそろ寄りを戻さないかって、冗談じゃないわよ」

 ラケルタはクルト一家の家を継ぐ際、自分の伴侶と別れていた。何があったと言う訳でも無く、夫婦喧嘩の延長としてで、そこに偶然空き家が出来たので、現在の形になった。

 子供の頃は自分達が家を手放した事で、夫婦仲を悪くしたのではと罪悪感を覚えた物だが、適度な距離感が良かったらしく、家は別だが夫婦は続けているらしい。

「いっつもそんな事言ってるけど、仲良さそうじゃん。大丈夫だって」

 何が大丈夫かは分からないが、村の中の出来事と言うのは放っておけば大概が上手く行く。

「そうかい? まあ、領主様の家よりは大丈夫だかもねえ」

「え? ちょっと、あの家に何かあったの!?」

 この村の領主家であるならば、クルトの目的地であり現在では実家と呼べる場所でもある。

「あら、てっきりその関係で戻って来たんだと思ったわ。 領主様のご長男。あなたのお姉さんが嫁いだから、お兄さんになるのかしら。今、ちょっと家庭の事情で揉めてるみたいよ?」

 それは確かに大変だ。小さな村の領主と言っても、土地を所有している以上は貴族である。そこでのお家騒動とはつまり権力闘争も意味していた。

「ちょっと、早めに家に向かうよ。ごめん、ラケルタさん。話の途中だけど……」

「いいよ、いいよ。早く行きなさい」

 ラケルタと別れ、早歩きで領主宅に向かう。自分が向かったところで何が変わる訳でも無いだろう。しかし、直接どうなっているかを見なければ、どうしようも無いじゃないか。


 領主宅は村の中心部にある。カーナと言う姓を王より与えられた貴族であり、この地方の名前もまたカーナと呼ぶ。姓を見れば統治領が直ぐに分かる土地と密着した典型的な小貴族であった。

 カーナ一族の先祖は開拓者としてこの土地を拓き、住民を招き入れ、王より統治の許可を得た。それはこの土地を治める絶対的な正当性を持つと言う事だ。領土を自分達の裁量以上に広げようとせず、領地の統治のみに専念するその姿と相俟って、土地の者には非常に好感を持たれた貴族と言える。

 その分、マジクト国中央部での覚えは悪いのは愛嬌の一部だろうか。

「家が小さい貴族は、それだけ格が落ちるかもしれないが、内部での揉め事が少ない利点もある。だから今回の件は僕らカーナ一族にとって青天の霹靂と言えるだろうね」

 領主宅。庭に面した小さなバルコニーにて、椅子に座り茶を飲む男の名はテインズ・カーナ。カーナ一族の長、ユルゲン・カーナの長男であり、クルトの義理の兄でもある男だ。

 クルト現在、テインズと机を挟み、反対側にある椅子に座り話をしていた。

「そう言う割には随分と余裕を持っている様に見えるけどね。お家騒動って聞いて、村の端っこから急いで来た側としては拍子抜けだよ、テインズ」

 ラケルタの話を聞いて領主宅まで来たクルトを出迎えたのは、このテインズだった。昔は年上だが同年代の友人であり、今は義理の兄でもある彼は、クルトの帰郷を聞き、まっさきに出迎えてくれたのである。

 クルトにとってはその事が少し嬉しかった。口には出さないが。

「テインズ……。兄さんとは呼んでくれないのかい?」

 少し顔を落として残念そうにこちらを見るテインズ。

「あ、いや、姉さんとの結婚を認めてない訳じゃあ無いんだよ? だけど昔からの呼び方が言いやすいと言うか、なんだか違和感があると言うか」

 むしろ姉とテインズの婚姻はクルトにとっては朗報以外の何物でも無い。唯一の肉親である姉が嫁に行く相手がテインズ以外の者であれば納得しなかったくらいには。

「結婚の話を抜きにしても、君は僕ら一族の一員なんだよ? 家族として見てくれても構わないのに……」

「うーん。その事かあ。でも、そこについてはちょっとなあ」

 腕を組んで悩む。姉と結婚した相手を兄と呼ぶのは別に構わない。しかし……。

「この子は昔から変に体面を気にするの。きっと、ただの農民出の自分が、カーナ一族の一員になるなんて面倒を掛けるのは気が引ける。そんな事を考えて居るんでしょうね」

 クルトとテインズの会話にもう一人が混じる。その人物はお代わりのお茶が入ったポットを持ってバルコニーに現れた。

 クルトの姉、ケレナ。今はテインズとの婚姻によってケレナ・カーナと呼ばれる人物だった。

「なんだ、まだそんな事を気にしていたのか。そう言えば魔法使いを目指している時も、妙に気を張っていたなあ」

「まあ、普通は気にする物よ? カーナ家の人たちだって、私達が家に入る事に少しは反発を覚えていたと思う。あなたは特別だったけど」

 久しぶりに会った姉を見ると、すっかりカーナ一族の一人になったとクルトは感じる。と言うより、姉と友人がちゃんと夫婦になっていると思うのだ。

「おかげで大学には入学できたんだから、文句は無いでしょ? 今回もその件で帰郷したんだけどさ」

 それが突然、家が大変だと言う情報のせいで伝えられないままになっていた。

「そうだった、そうだった。遅ればせながら、合格おめでとう、クルト」

「実を言えば、私不安だったの。でも、クルトがちゃんと元気にしているみたいで良かった」

 本当に嬉しそうに笑う二人。この笑顔が見られたのならば、大学合格の甲斐はちゃんとあった。

「それどころか、向こうでもある程度生活できる基盤だって出来たよ。今でも定期的に仕送りを貰ってるけど、それもそろそろ良いかなって思ってさ」

「あら、暫く合わない内に随分と立派になったじゃない。大学に入学できなかったり、魔法使いになれないーって泣き言を吐かれたらどうしようかと思っていたけれど……」

 大学合格と日々の生活などは定期的に手紙を出していたのだが、信用されていなかったのだろうか?

「まだ泣き言を吐けるくらいに大学生活を過ごしてないよ……」

 この家を出てから一年も経っていないのだ。心配される程の期間ですら無い。

「アハハハ。姉なんてのはいつも弟の事を気にする物さ。まあ、今回はそれが問題になっているんだが……」

 そう、今カーナの家に起こっている問題。それはテインズの姉に関する問題だった。

「あんまり会った事が無かったと言うか、顔も思い出せない相手なんだけど、そう言えばテインズには姉が居たんだっけ?」

「君たちが家に来た頃には、既に他家に嫁いでいてね。それでも、何度か会った事があるはずだが……」

 貴族の長女と言えば聞こえは良いが、長男が別に居た場合、家から出るのが慣例だ。主に他の貴族との婚姻によって。

「テインズの姉って事は、僕より結構年上でしょ? 僕にとっては大人の女性って印象しか無かったんだと思うよ」

「大人の女性か……。と言ってもまだ二十代だ。世間では十二分に大人なんだろうけれど、姉はなあ」

 随分と引っ掛かりの有る話し方をする。テインズにとって思うところがある相手なのかもしれない。

「人が大人になるには五十代から。それまではずっと子供だと言う話もあります。少々の問題は仕方ないのでは?」

 テインズが彼の姉に対して悩む姿を見て、ケレナが口を挟む。どうやらその姉の擁護をして居る風に聞こえるが。

「しかし限度がある。こう、在り来たりで無粋な事を言う様だが、あそこまで行くと家の恥になる。貴族が体面を失えば後は悲惨だよ?」

「そのお姉さんが問題になって居るのは二人の話で理解できたけど、具体的にはどういう事なの?」

 クルトの言葉に何かを思い出したのか、二人とも複雑な表情をする。

「「はぁ……」」

二人共、思い通りに行かぬ問題をその心中に思い浮かべたのか、夫婦らしく同時に溜息を吐いた。


 領主宅の廊下をクルトは歩く。土地を持った者にありがちな二階建てだが横幅が広い豪邸の中、自宅の半分以上を占める廊下だ。ここへ来た当初は良く迷った。しかし今では目を瞑ってでも歩けるくらいには内部構造を把握している。

「しっかし複雑な事になってるみたいだなあ。帰ってこない方が良かったかな?」

 腕を組み、この家の現状を整理する。家はある一点を覗いて、基本的にクルトが出る前と変わっていない。ただその一点、テインズの姉が今この家に居ると言う変化がカーナ家に悩みを運び込んだのだ

「おお、クルト。帰ってきていると聞いていたが、どうやらしっかりと魔法使いになって帰って来たみたいだな」

 考え事をしていたせいか、前から人が歩いてきた事に気付かなかった。声を掛けられて顔を上げると、そこにはこの家の主であり、ひいてはこの地方の領主であるユルゲン・カーナが居た。

 クルトとの関係はと言えば、居候とその家の主人程度の間柄だ。

「あ、ユルゲンさん。すみません、挨拶が遅れたみたいで」

 元々は様づけで呼んでいた相手だ。家に入った時点でユルゲンさんと呼ぶ様になったが、領主様に失礼があればどうしようと今でも思ってしまう。

「良い良い。君にとっては、姉や息子に真っ先に会いたいだろうからな。それより大学生活の方はどうなんだね?」

「可も無く不可も無くですね。まだまだ学ぶ事が多くて、ここにも自習用で教本を幾つか持ってきてますから」

 留守の多い師の元で学んでいるからか、すっかり自習に慣れてしまった。どうせ暫く大学を離れるのだから、その間も魔法の勉強が出来る様にと気が回るのはどうなんだろう。

 ちなみにクルトが帰郷しようと考えたのは、また師のオーゼが大学外に出かけてしまったからである。

「うむ。大いに励んで、大いに成長してくれよ。こう言うのは露骨過ぎるかもしれないが、君が大成してくれれば、我が家の家名にも箔が付く」

 たしかに露骨な言い様だが、面と向かって言ってくれればむしろ気分が良い。どんな形であれ人の役に立てるのは励みになるのだ。

「息子の嫁に魔法使いと、私は良い拾い物をしたかな? いや、その分実の娘が問題か……」

 機嫌良く話していたユルゲンの顔に影が差す。どうやら、カーナ家の問題で一番悩んでいるのは、当主自身の様だ。

「その……娘と言うのは、テインズの姉と聞いてる?」

「ああ、ロザリン・カーナ。私の初娘だよ。初めての子供だった事もあり、甘やかし過ぎた……。我が侭に育つのであればまだ良いが、まさかなあ」

 子供が親の理想通りに育つ事はまず無い。優しくすれば怠けるし、厳しくすれば反発する。最終的は予想と遠く離れた人間に育つ訳だが、ユルゲンの場合、そこからさらに突拍子も無い方向に進んでいると言える。

「テインズから聞いたんですけど、まだちょっと信じきれなくて、なんと言えば良いのか……。えーと、盗賊でしたっけ? 何かの冗談ですよね?」

 嫁に出した娘が盗賊になって帰って来た。ユルゲンの悩みとはそれであると聞く。普通、こんな話を聞けば担がれていると考えるのが普通だ。実際、クルトは今でもそう思っている。しかし、この家に居る人物の表情を見れば、どうにも嘘に見えないのだ。

「冗談だよ。悪い冗談だ。娘が盗賊などと、現実では無いだろう? きっと、街で何かに被れたに違いない」

 ああ、駄目だ。これは本気だ。本当に娘が盗賊になって困っている親だ。ユルゲンがこれ以上現実から逃避しない内に話を続ける。

「いったいロザリンさんに何があったんですか? 貴族の娘が盗賊にって、物語の中でもあんまり聞きませんよ?」

 一国のお姫様が騎士団の隊長になどと言った昔話が無いではないが、まさか盗賊とは……。

「わからん。嫁ぎ先から放逐されたとは聞いているが、あんなのでは事情も碌に聞けんし……」

 まあ、盗賊になって帰って来た娘に、面と向かって話せる親は貴族で無くても少ないだろう。

「つかぬ事を伺いますけど、ロザリンさんの外見ってどんな風でしたっけ? 昔あった事があるそうなんですが、どうにも顔が思い出せなくて……」

 実を言えば、テインズの姉が盗賊になったと聞いた時点で一つ、嫌な悩みがクルトにも出来た。それはつい最近起こった事柄に関係しており、早急に確認しなければならない物であった。

「覚えて居たとしても、今のあの娘と見比べれば同一人物などと思いもすまい。それくらい様変わりしてしまった……。ただ一つ、昔から美しかった金色の髪だけは元のままだったが……」

 金髪、女盗賊。これで悩みの種がまた一つ増えた。いや、しかし、まだ本人に会うまでは判断などできないだろう。きっと自分の勘違いである。ロザリンに一目会えば、自分の悩みなどすぐに晴れるだろう。だが、もしかしたら道端で気絶している可能性も……。

「大変です! 領主様、ロザリンお嬢様が!」

 メイド服を着込んだ若い女性が走り寄ってくる。この家の家政婦の一人だ。確か村人でもあったはず。

「なんだ慌てて。またあの娘が何かやらかしたのか……」

 この遣り取りは既に日常茶飯事なのだろう。落ち込んで疲れてはいるが、慣れた様子で応対する。

「いえ、それが村の外で倒れているところを村人が見つけたらしく……」

 ああ、クソ。どう考えても心当たりが有りすぎる。

「何! 娘は、娘は大丈夫なのか!?」

 いくら放蕩娘と言え、親としては心配しているのだろう。先ほどまでの様子と打って変わって、慌て始めるユルゲン。

「は、はい。命の別状は無いそうです。本当に、道端に倒れていただけらしく……。屋敷にお運びしても宜しいでしょうか?」

 そうか、大丈夫だったのか。それ程危険な魔法では無かったとは言え、不安は当然あったので心を撫で下ろす。

 いくら自己防衛のためだとしても、恩人の娘を傷つけたとあっては、些か厄介な事になっただろうから。

「勿論、屋敷まで連れて来てくれ。ああ、ついでに医者もな。今度はいったいどんな無茶をしでかしたのか……」

 どうやらユルゲンは、娘が倒れたのは娘自身が原因だと考えている様子。まあ、間違いでは無いのだが、もう一方の原因が、隣に居る少年だと知れば、どう思うだろうか。

 そうこうしている内に、村の男が一人の女性を背負って屋敷の前にやってきた。

「領主様! ロザリンお嬢様を連れてきました。門を開けて下さい」

 村人がそう叫ぶと、ユルゲンは走り寄って屋敷の門を開けた。隣にはクルトも一緒である。

「おお、良くやってくれた。娘は大丈夫か?」

 ユルゲンは背負われた女性の顔を見る。寝息をたてながら気絶しているその女性を見れば、確かに大丈夫そうである事は分かった。

 しかし一方でクルトは胸を高鳴らせていた。別に恋に落ちた訳では無い。ただ、背負われたその女性の顔を見て、漸く認める気になっただけだ。村の外で出会った女盗賊が、カーナ家の長女、ロザリン・カーナである事を。

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