うなぎパイ 50音順小説Part~う~
「うなぎパイってさ、どんな食べ物なのかな?」
初は物知りな同級生、といっても学年は1つ上である美咲に聞いてみた。
「さぁ、、、食べたことないし見たこともないし。」
さすがの美咲も知らないようだった。
なんといっても彼女たちが暮らしているのは離島、本州からはだいぶ離れている。
島人口も少ないのでそのため小学校・中学校それぞれに一クラスずつしかない。
情報源はテレビ、新聞、雑誌くらいでパソコンなんてまだ普及していない時代。
テレビもチャンネル数は少なく、雑誌は文芸誌・週刊誌ばっかりだ。
「だよねぇ。」
「初、そんなのどこで知ったの?」
「あのね、静岡に引っ越したおじさんが今度こっちに来るときに
それをおみやげに持ってきてくれるんだって。お父さんもお母さんもどんなのか分からないっぽい。」
「あぁ、初のおじさん婿入りしたんだっけ。お嫁さんの家が静岡なんだ。」
ムコイリなんて単語を普通に使う小学4年生の女の子は自分が知っている中でも美咲だけだ。
とはいえ初が知っている小学4年生は彼女だけだが・・・。
「でもわざわざ持ってきてくれるんだからきっとおいしいよ。」
美咲はいまだ悶々としている初にそう言い聞かせた。
「じゃあ美咲ちゃんも食べてみる?」
すると困り笑顔で、
「いやぁ~、私はいいよ。」
とあっさり断られた。
やはり未知の食べ物は嫌がられるらしい。
『うなぎパイ』なんて名前ならなおさらだ。
「あっ!もうこんな時間。初、はやく帰らないと。」
時計を見ると針は午後5時を指していた。
「うん。」
帰宅するとすでに母が夕食の支度をしていた。
匂いからして今日はカレーのようだ。
「初ー、あまり遅くならないようにっていつも言ってるでしょ。
もう夕ご飯できるから手洗ってらっしゃい。」
「はーい。」
自室に荷物を置き洗面所で手洗い・うがいをして
茶の間に行くと祖父母に父母、兄と家族全員そろっていた。
「初。遅い。」
そういったのは初の5才上の兄。
「そんなにおそくないもん。お兄ちゃんはいっつもうるさいんだから。」
兄弟げんかの幕開けかと思ったが。
「あんたらいい加減にしなさい。」
と母の一喝で幕を閉じた。
その後もくもくとカレーを食べてると、
「そういえば・・・。」
唐突に母が口を開いたので何を言うのかと思ったら
「おじさん、来られなくなったそうよ。」
今週末に来るはずのおじはどうやら急な仕事が入ったらしい。
「じゃあうなぎパイは?」
おじさんのことよりうなぎパイの方が気になった初。
「そんなのおじさんが来ないんだから、お土産もなしよ。
大体あんたはうなぎパイに不満があったんじゃないの?」
カレーにマヨネーズをぐにょぐにょとかけながら母は言う。
「だって・・・」
「俺はうなぎパイなんて気味の悪いものより、
安倍川もちとかの方がよかった。」
兄もカレーにソースをドロドロかけて言う。
まだうなぎパイに未練が残す初に
「ほらチャッチャッと食べちゃいなさい。」
母が急かしたのを機にこの話は終止符を打たれた。
「・・・でね、美咲ちゃん。結局うなぎパイは来ないんだって。」
翌朝、学校に登校すると美咲に昨晩の話をした。
「そうなの?残念だね。」
「どんなものだったんだろ・・。」
少しため息交じりに言うと、美咲があのねと言いだし
「昨日帰った後お父さんに聞いてみたの。そしたらお父さんうなぎパイ知ってた。」
「えっ。」
諦めかけていたところに一縷の望みがみえた。
「うなぎパイってね、うなぎの骨のだし汁を粉にしてパイの中に入ってるんだって。
最近静岡で人気なんだってお父さんが言ってた。」
美咲は父親に聞いたままを初に伝えた。
「へぇ・・・」
目をキラキラさせるかと思いきや、浮かない顔をしている。
初の頭の中で『うなぎパイ』は勝手に
『とんでもなくすごいもの』にふくらんでいた。
きっと今まで見たことのない形をしていて
きっと今まで食べたことのない味がするんだと
その正体に心躍らせていたのだ。
「けっこう普通の食べ物だったんだね。」
初のうなぎパイへの興味はスゥ~ッと消えていった。
「私はそれなら食べてみたいけど。」
初とは対照的に最初は嫌がっていた美咲は興味を示したようだった。
うなぎパイ食べてみたい。