サークル対抗PVP戦
ついに、年末のイベントが近づいてきた。
SHOT D RAINでは新規シナリオのメインルート終えた人も多くなってきて、サークル対抗PVP戦の練習始まったことから対人戦がトレンド入り。イベントに向けてどこもかしこも大盛り上がりしてる。
今回の大会では時間帯を三つに分けて、それぞれ十人ずつエントリーが可能だ。
部門は朝、昼、夜の三部門で、予選の開催時間は一時間ずつ。
サークルリーダー同士が近くにいれば始まるバトルロイヤル方式だから、時間内に何回他のサークルに勝てたかを、予選ではポイント形式で争うことになってる。
うちのサークルも参加が決まって、メンバー選抜も行われた。
エントリーは十人だけど、試合に出るのはそのうち七人。三人は補欠。
私も夜組の補欠に参加出来たけど……発表されたメンツが充実してて、これで勝たなきゃどうするのって思うくらい頼もしかった。
剣士のリーダー、回復のヒーラーちゃん、銃火器職のタツキも入ってるし、大盾のドドさん、短気なドラゴンライダーさん、魔法使いのウエイさん、盗賊のマゼンタさん……とにかくゲーム慣れてて周回でも強いメンツが選ばれた。
期間中はライバルサークルとも大会と同じ条件で試合出来るようになってて、観戦モードで見ることも可能。
だからとにかくバトルが熱かった。
上級者サークル同士の対戦は見てるだけでも話題になった。
仲が良いサークルとはお互いに反省会もしてるけど、切磋琢磨してる感じも最高に楽しかった。
……うん、楽しかったんだ。
リーダーもお祭りを楽しもうって感じで、私たちはどこまで行けるかエンジョイしようって話してた。
補欠だから私なんて人数合わせ。だから気楽なものだった。
とあるサークルが、現れるまでは。
「お久しぶりです、タツキさん。私のこと覚えてますか」
リーダーに試合持ち掛けてきたサークルがいた。
『姫を守る十人の刺客』
新規サークルだったけど、メンツは古参が多くてリーダーも知り合いがいたらしい。
サークルリーダーなのか、お姫様みたいなドレス姿の魔法使いがタツキの前に立った。
メンツが背後に傅いてるのを見ながら「誰?」「すげーサークル」って話題になってたら、お姫様がにっこり笑った。
「ピエナです」
ピエナちゃんきたー!!
本気で焼夷弾になって帰ってきた相手を観戦モードで見て、サークルチャットも大盛り上がりした。
タツキ相手にバチバチだって、愛が憎しみに変わってるって、すぐにログが流れていく。脳と繋がってるから文字起こし早くてログすら追えない。
「ミツハさんはお元気ですか?」
『ミツハwww お前まじで狙われてんぞwww』
やめて話題に出さないで。
タツキは知らないふりしてるけど、劇場型らしいピエナちゃんはお姫様っぽく周囲を守る自分のサークルメンツを示してる。
剣士に銃火器、斧、槌、弓……すごい、全員攻撃職ばかりだ。回復一人もいない。
「ミツハさんとタツキさんに酷い目に遭わされたから、私も考えたんです。
サークル対抗戦なら、タツキさんもランカーだから出場するはず。
PVP強いタツキさんを私が負かしたら、ミツハさんどんなに悔しがるのかなって……」
『どうしてもピエナ姫はミツハにマウント取りたいらしいぞ』
『新規サークルまで作ってご帰還とか愛されてるなー憧れちゃうなー』
笑いを堪えて鎧カチャカチャ鳴らしてるリーダーまでサークルチャットに流してくるから、とりあえずピエナちゃんに通報ボタン入れた。怖いって。めちゃくちゃ恨まれてるじゃん。
「皆さんを倒すのが楽しみです。
今日の試合、ぜひミツハさんにも教えてあげてくださいね」
補欠でよかった。
チャットがバンバン盛り上がる中で、とにかくピエナちゃんとの試合は始まった。
バトルフィールドの中で、お互いの陣地内の自由な位置からスタートだけど、相手はとにかくHP減らす作戦らしくて突撃してきた。
『ダメージ効率良い技重視か? 剣士がバッシュ取らずに鼓舞でバフ掛けてるな』
『タツキをボコボコにしたいだけなんじゃね。
パーティ構成が範囲攻撃と追撃スキル多めっぽいし、多分防御力低い銃火器職のダウン狙い』
『私の拳が、真っ赤に染まるまで! 愛するあなたからダウンを取り続けるわ!
って執念怖いなー……あ、タツキも察して中衛に下がった』
『通報入れてるんだけど、運営動いてくれないー仕事してー』
『俺も入れたけど、前回禁止用語で垢BAN食らったからか、ピエナちゃんも考えてしゃべってるしなー。おふざけの通報程度でBANまでは無理っぽいな』
『まあ正直、他のメンツはそこそこ戦えるけど、ピエナちゃんは初心者みたいなものだから一人欠けてるようなものじゃね?
戦ったら実力差も分かって、作戦失敗したってお察ししてもらえるっしょ』
五人まとめて向かってきたのと大盾のドドさんがぶつかり合ったけど、うちのメンツは火力もサポートもバランス良くて、真剣にやってるリーダーを軸に確実に相手を減らしてく。
実力差が確かに出てる。
うまいからHP削られたってフォローしあって下がるし、回復役のヒーラーちゃんがダウン前にサポートしてくれるから火力は常に減らない。
ピエナちゃんは初心者のままで、タツキを魔法で狙っても当たってなかった。
後ろで騎士に守られてるから、実質五対七の状態が続く。
『ん。斧がダウン復帰しなくなったな』
『回復アイテム、職ごとに所持制限あるし。枯渇したんじゃね?』
姫サークルはチーム構成上、アイテム以外の回復が入らない。
だからうちのサークルは確実に相手を倒して姫に近づいてく。
タツキも冷静に残りHP少なくて下がった敵をスナイプして倒したし、これはもう楽勝かな、って誰もが思ってたその時だった。
「今じゃね?」
「だよね、ミラくん。みんな、起きてー!」
ピエナ姫が、アイテムを使った。
途端に倒したはずの敵が全員立ち上がって、後ろから猛然とリーダーたちに向かってきたから急いで号令かけてた。
『今回のバランスブレイカーって話題のアイテム、きたー!』
その名も『エレメンタルグレイス』。略称EG。
グランディエメレのガチャでもらえるペットが被った場合には小瓶が渡されるんだけど、中に全体回復蘇生の精霊が入ってるって話らしい。
手に入れるの大変だけどその分だけ強い消費アイテムが出てきて、リーダーたちも流石に陣形崩されてる。ダウンしてた相手に背後から囲まれたから、追い込まれた形になった。
「タツキさんたちを倒すために、ピエナは本気なんです」
それでもリーダーが指揮して包囲から脱出、また相手を減らして追い詰めようとした時だった。
全体回復がまた入った。
火力職にずっと削り入れられるからヒーラーちゃんも味方の回復必死に入れてるけど、SP尽きてきたらしくてスパン落ちてる。
持ち込めるアイテムは職業によって個数に限りがあるから、周りにもSP回復アイテム借り始めたくらい徐々に追い詰められてく。
相手に回復役いなくて火力職ばかりな理由把握して、流石にサークルチャットも静かになってきた。
『ゾンビ戦法やばい。
ピエナちゃん、まさか持ち込みアイテム全部EGだったりして』
『ただの練習試合でここまでする?
被りめちゃくちゃゲットするまで古参のメンツとヤリまくったってこと?』
『ミツハ、復讐のために体捧げるほど恨まれてるじゃん』
怖いってぇ。
タツキもしつこく狙われてるし、サークル内にも絶望ムードが漂ってくる。
相手は全体回復何度も入れてくるから時間が経つほど不利だし、サークルメンツに回復アイテムなくなってからは崩れるのも早くて、各個撃破が始まった。
リーダーたちも最後まで粘ったけど、ピエナちゃんたちの前で全員ダウンして終了した。
疲れて座ってるタツキに近づいて、ピエナちゃんが愉悦顔で笑った。
「タツキさん、初心者だって思ってたピエナに負けてどうですか」
タツキは何も言わない。
ただ、見下ろしてくるお姫様相手に無視は決め込んでた。
「ピエナはもっともっと、タツキさんたちと遊びたいです。
大会のルールで許される限り、タツキさんたちをお誘いしますから……楽しみにしていてくださいね」
大会は、開始時刻からのポイント奪取制。
負けた相手には一定時間申し込めないけど、リーダーの近くにいる相手が自動的に選ばれるから、同じ相手に粘着しておけば時間を浪費させることも作戦としては可能。
つまり。
『姫を守る十人の刺客』に狙われて、何回もぶつかられたら……その分だけ他のサークルとも戦えないし、大会は楽しめないってことだ。
「本番も楽しみです。……タツキさん、ミツハさんにもよろしくお伝えください」
バトルは終了したけど、爽快感はゼロだった。
サークルチャットでは議論が盛り上がったけど、タツキを外した方が良いんじゃないかって案も出たし、本人も『ピエナ面倒くさいから大会辞退させてください』って言い始めた。
タツキはみんながイベント楽しみにしてたの知ってるから、前と同じくピエナちゃんが粘着するなら距離置いた方が良いって思ってるみたい。
『え、姫が何度も来るなら来るで良いだろ。
来た分だけポイント稼いでやろうぜ』
リーダーは、違った。
『絶対に来るって分かった上でゾンビ戦法晒してくれたんだし、うちも戦い方を変えればいい。
ただ動き回るのにスピード欲しいから、大盾は外していいか、ドド』
『ピエナと関わりたくないんで、補欠にしてください』
『よし成立。代わりにミツハがメンバー入りな』
私がしばらくフリーズしたのは仕方ないと思う。
リーダーが立ち上がって、フルフェイスの兜を外した。
金髪の一流イラストレーターが描いたイケメンが、楽しそうにエンジョイしてるのを観戦モードで見た。
『俺らもあっと言わせてやろうぜ。
自分たちに勝てないって思ってる奴らに勝つのは、最高に気持ちいいからな』
リーダーのこういうところ主人公なんだよなぁ、って絶望ムードも失せていく。
盗賊のマゼンタさんがタツキと肩を組んで、お互いにやり合ってるのも青春っぽかった。中身年上の上司だけど、男の子同士仲良い感じで微笑ましい。
『でもリーダー、私出たくないです。ピエナちゃん怖いんで補欠のままでお願いします』
『タツキとミツハが揃ってピエナと戦うから面白いんだって。
多数決取ろうか? 賛成の人ー』
『禿同』
めちゃくちゃ賛成票が集まって、結局私も出ることになった。
こういうところもリーダーだよなぁ、って渋々頷いた。
『タツキチ、ミツハ、やろー。
大人の力結集させて勝とうよ。私も燃えてきちゃった』
ヒーラーちゃんが立ち上がって、にっこり笑った。
『リア充爆発四散させてやろうよ。
周りに侍らせてるの、全部ピエナのカレピッピなんでしょ? 許せないよね』
もしかしてヒーラーちゃんに、タツキと付き合ってるのバレたらやばいのかなって、ちょっとだけ思った。
冗談だとは思ってるけど、怨念のエフェクトすら見えそうなヒーラーちゃんに『どうか早く新しい彼氏が出来ますように』ってお祈りした。




