16 : 大陸の力。5 追記。
ツェイル視点です。
痛いのは、いつも一瞬。
悲しいのや寂しいのは、長引くけれど。
痛いのはいつも一瞬で、あとは我慢すればやり過ごせる。
だからツェイルは、ズキズキと痛んでいた左肩の傷を、すぐに忘れた。
その声を、聞くまでは。
「ツェイ……っ」
自分を呼ぶ声に、薄目を開ける。ぼんやりとした視界には、きらきらと光る銀糸があった。そうして徐々に、その輪郭がはっきりとしてくる。それでも周りはまだぼんやりとしていて、見えるのはそれだけだ。
「……サリヴァンさま」
「! ツェイっ」
聞き取れないほどの掠れた自分の声に、しかしサリヴァンは気づく。
「ツェイ、ツェイ、もうだいじょうぶだ、おれがいるから」
「……サリヴァンさま」
「だいじょうぶだ、おれがいる、おれがそばにいるから」
ツェイルに「だいじょうぶだ」と言いながら、とてもつらそうなサリヴァンに、ツェイルは歯噛みする。わたしのほうこそだいじょうぶだから、と手を伸ばそうとして、左腕が動かないことに気づいた。
ああ、そういえば邸が襲撃されて、その狙いが小日向にあって、護ろうとしたのだった。
それで肩を、剣で刺される、などという失態を犯したのだ。
「こひな、は……?」
無事だろうか。
あんなに怯えていた。
あんなに驚いていた。
だいじょうぶだろうか。
「しのがいる」
「しの、も……きて、くれた?」
「ああ。だから今は自分のことだけを考えてくれ。頼む、ツェイ」
ゆっくりと、優しく、サリヴァンは頬を撫でてくれる。その心地よさに、ツェイルはほっと息をついた。
「ツェイ……ツェイ」
泣きそうな顔になっていたサリヴァンは、ツェイルがほっと息をつくとさらに顔を歪めて、ツェイルの胸に顔を埋めてくる。動く右手は、サリヴァンの左手に絡め取られた。
「おまえが傷つくなんて…っ…いやだ、ツェイ。おれをひとりにするな、ツェイ、ツェイ」
肩の怪我は、今は腕を動かせそうにないけれども、痛みもなくだいじょうぶだ。それなのに、サリヴァンはひどく、悲しんでいる。
その悲しみが、痛い。
「だい、じょうぶ……わたし、へいき……こひな、ぶじなら、だいじょうぶ」
「おれにはおまえしかいないんだ……っ」
絡め取られている右手に、サリヴァンの震えが伝わってくる。
ひどく悲しませてしまったことには申し訳なさを感じるが、小日向を護れたのだから後悔はない。
ツェイルは幾度も、だいじょうぶ、と繰り返し、サリヴァンに幾度も「ツェイ」と呼ばれながら、そばにいるサリヴァンのぬくもりに久しぶりの安眠を得た。
ツェイルを書きたかっただけです。
スミマセン。