第97話 世界一の結婚式。 〜神様からの祝福は、ド派手な花火とバフ効果でした〜
王都中央広場。
そこは今、世界で一番幸せな場所に変わっていた。
雲ひとつない青空の下、真っ白なバージンロードが敷かれ、その両脇には溢れんばかりの人々が詰めかけている。
カレンの商人たち、北の村の農民たち、冒険者ギルドの荒くれ者たち。そして、かつて敵対していたはずの魔族や、救い出された亜人の少女たちまで。
種族も身分も関係ない。全員が笑顔で、今日という日を祝いに来てくれていた。
「……緊張するな」
祭壇の前。
俺は、特注の白いタキシードに身を包み、ガチガチに固まっていた。
神との決戦の時ですら、こんなに掌に汗をかいたことはない。
「だらしねぇぞ、ナオトの兄ちゃん! 英雄様がビビってどうする!」
最前列で、ドワーフのボルグが野次を飛ばす。
彼は今日の媒酌人代わりだ。
「うるせぇ。……ネクタイが苦しいんだよ」
俺は首元を緩めようとして、やめた。
今日だけは、完璧にしなきゃいけない。
これから現れる「彼女たち」のために。
「新婦の入場です!」
司会進行役のリリス(特製ドローンに投影されたホログラム姿)が高らかに宣言する。
ファンファーレが鳴り響き、大聖堂の扉が開かれた。
ざわめきが、感嘆の溜息へと変わる。
先頭を歩くのは、フラワーガールのルナだ。
背中に小さな妖精の羽をつけ、花びらを撒きながらトコトコと歩いてくる。
その愛らしさに、会場のあちこちから「可愛い……」という声が漏れる。
そして、その後ろに続く三つの影。
右側を歩くのは、エルーカ。
純白のシルクドレスに身を包み、ヴェール越しでも分かるほど顔を紅潮させている。
その手には、剣ではなくブーケが握られている。
かつて「偽物」と呼ばれ、必死になって戦っていた少女は、今、誰よりも清らかな「聖女」のように輝いていた。
左側を歩くのは、レギナ。
体のラインを美しく見せるマーメイドラインのドレス。
背中が大きく開いたデザインは大胆だが、彼女の持つ高貴なオーラがそれを優雅に見せている。
銀髪をアップにまとめ、赤いルージュを引いた姿は、会場の空気を支配するほどの「女王」の風格だ。
そして中央には、ミサ。
膝丈のミニドレスに、シアンのインナーカラーが映えるモダンなスタイル。
歩くたびにレースが揺れ、彼女の快活さと愛らしさを振りまいている。
前世の職場で見た疲れ切った顔はもうない。ここにあるのは、人生を謳歌する「主人公」の笑顔だ。
三者三様の美しさ。
三色の花嫁たち。
(……マジかよ)
俺は眩暈がしそうになった。
こんな美人たちが、全員俺の嫁になるのか。
前世の俺が見たら、「バグだ! 修正しろ!」と叫んで卒倒するに違いない。
三人が祭壇の前に到着し、俺の前に並ぶ。
「……ナオトさん。似合ってますか?」
「ナオト。見惚れているな?」
「もう、鼻の下、伸びてるよ。そんなに見惚れちゃった?」
小声で囁かれる言葉に、俺は我に返った。
「ああ。……最高だ。みんな、世界一綺麗だよ」
俺が素直に言うと、三人はパァッと顔を輝かせた。
式が進み、誓いの言葉の時間がやってくる。
神父役は、なんと、会ったこともない国王陛下が直々に務めてくれている(断ったのだが、「国を救った英雄の門出だぞ!」と押し切られた)。
「新郎、工藤ナオトよ。汝は、この三名を妻とし、健やかなる時も、病める時も、これを愛し、敬い、慰め、助け、その命ある限り、真心を尽くすことを誓うか?」
重々しい問いかけ。
俺は一人ひとりの顔を見た。
エルーカ。
俺を信じ、俺の背中を守り続けてくれた勇者。
レギナ。
俺の生活を支え、俺の心を溶かしてくれた魔女。
ミサ。
過去を共有し、未来を共に作る相棒。
誰一人欠けても、今の俺はいない。
これは「一夫多妻」なんて制度の話じゃない。
俺の人生における、最強のチーム結成式だ。
「……誓います」
俺は力強く答えた。
「俺の持つ全てのスキルと、知識と、人生をかけて。……彼女たちを、一生守り抜くことを誓います」
会場から拍手が湧き起こる。
「では、新婦たちよ。……誓うか?」
「はい! 誓います! 彼の剣として、盾として、そして妻として!」
エルーカが元気よく答える。
「誓おう。私の魔力も、心も、全ては彼のために」
レギナが妖艶に微笑む。
「誓いまーす! バグ取りも、体調管理も、一生面倒見てあげます!」
ミサがウィンクする。
そして、指輪の交換。
俺が作った三つの指輪が、彼女たちの左薬指に収まる。
サファイア、ルビー、そしてプリズムクリスタル。
それぞれの輝きが、太陽の光を受けて一層煌めいた。
「では、誓いの口づけを」
国王が促す。
会場のテンションが最高潮に達する。
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
……順番はどうする? じゃんけんか?
いや、ここは男らしく……。
「……行くぞ」
俺はまず、エルーカの手を取った。
ヴェールを上げると、彼女は潤んだ瞳で俺を見上げていた。
「ナオトさん……」
俺は彼女の唇に、優しく口づけた。
柔らかくて、甘い感触。
会場から「ヒュー!」という冷やかしと歓声が上がる。
次に、レギナ。
彼女は自分から少し背伸びをして、俺のネクタイを引いた。
「……覚悟はいいな?」
情熱的なキス。
一瞬、息ができなくなるほど深く、濃密な口づけ。
離れた時、彼女の顔は真っ赤で、とろんとしていた。
そして、ミサ。
彼女は悪戯っぽく笑っていたが、俺が近づくと、急に神妙な顔になった。
「……もう逃げられないからね?」
「ああ。捕まったよ、お前に」
俺は彼女の肩を抱き、キスをした。
懐かしくて、新しい、パートナーの味。
三回の口づけが終わると、拍手喝采が巻き起こった。
フラワーシャワーが舞い、ルナが俺たちの足元で飛び跳ねて喜んでいる。
その時だ。
『Wait. I haven't given my blessing yet.(待ってください。まだ私の祝福が終わっていません)』
俺のポケットから、デウスの声が響いた。
空気が震える。
『System Command: Execute "Heaven's Blessing".(システムコマンド:「天の祝福」を実行)』
デウスが勝手にプログラムを走らせた瞬間。
王都の上空に、巨大な魔法陣が展開された。
だが、それは攻撃魔法ではない。
ポンッ、ポンッ、パァァァン!!
青空に、無数の花火が打ち上がった。
昼間だというのに、鮮やかな極彩色の光が空を埋め尽くす。
さらに、空から光の粒子が雪のように降り注ぎ、触れた人々を温かい光で包み込んだ。
「うわぁっ! なんだこれ!?」
「空から光が……! 体が軽いぞ!」
「肩こりが治った!」
それは、デウスによる全住民への「状態異常回復」のプレゼントだった。
『Congratulation. Be happy, Admin.(おめでとう。お幸せに、管理者)』
スマホの画面で、ドット絵の神様がクラッカーを鳴らしている。
粋な真似をしやがる。
「……ありがとな、デウス」
俺は空を見上げて笑った。
「ナオト! 空、キラキラ!」
「すごいですね……! 世界中が祝福してくれてるみたいです!」
「フン、やるではないか元神様」
ルナ、エルーカ、レギナが空を見上げる。
「ふふっ! 最高の演出だね!」
ミサが俺の腕に抱きつく。
「んなっ! ミサ! 貴様協定を忘れたのか!」
「ぬ、抜け駆け禁止です!!」
つられて、エルーカとレギナも俺にしがみついてきた。
「ちょ、重いって! ドレスが汚れるぞ!」
「いいでしょ? 今日は私たちが主役なんだから!」
「そうだ! この愛を受け止める義務があるぞ!」
「そうですッ!」
三人の花嫁と、一人の天使に囲まれて。
俺は世界で一番の幸せ者として、広場の中心で笑っていた。
前世の俺よ、見てるか。
お前の人生の結末は、バッドエンドなんかじゃなかったぞ。
ここからが、本当のスタートだ。
「よし! 式は終わりだ! これからは……披露宴だ!」
俺が叫ぶと、会場全体が歓声で応えた。
終わらない宴が始まる。
俺たちの新しい「家族」の門出を祝う、最高の宴が。




