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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第95話 結婚前夜。 〜かつての敵との和解と、嵐を消すための最後の徹夜作業〜

 

 結婚式を翌日に控えた王都は、かつてないほどの熱気に包まれていた。

 メインストリートには色とりどりの旗が掲げられ、広場には巨大なテントが設営されている。

 国を救った英雄(俺たち)の結婚式ということで、国を挙げての祭典となっていたのだ。


「おう! ナオトの兄ちゃん! めでたいな!」


 俺が街を歩いていると、方々から声がかかる。


「ボルグのオヤジ! 来てくれたのか!」


 人ごみをかき分けて現れたのは、ドワーフの鍛冶師ボルグだった。

 後ろには、地下ラボで共に汗を流した職人たちがぞろぞろと続いている。


「当たり前だろ! 俺たちの最高傑作(スパコン)を使って世界を救った男の晴れ舞台だ。……ほらよ、祝いの品だ」


 ボルグがドンッと置いたのは、ミスリルで作られた巨大な酒樽だった。

 中身はドワーフ秘蔵の火酒だろう。火気厳禁だ。


「ナオトさん! こちらもお忘れなく!」


 反対側からは、商業都市カレンのギルド長が、これまた豪華な装飾の馬車を引いて現れた。


「カレン商人組合一同より、最高級のシルクの絨毯と、新居用の家具一式です! 全部『本物』ですよ、鑑定済みです!」


 彼はウィンクしてみせる。

 あの偽物騒動以来、カレンの商品は品質保証が売りになっているらしい。


「ありがとう。……みんな、遠いところをよく来てくれた」


 俺は頭を下げた。

 北の村の村長、奴隷オークションで助けた少女たち、さらには以前スライム駆除を依頼してきた下水道管理局の名も知らぬおっさんまで。

 これまで関わってきた人々が、笑顔で俺を囲んでいる。


 エンジニアとして、裏方として働いてきた俺が、こんな風に表舞台で祝福される日が来るなんてな。

 人生、何があるか分からないもんだ。


 ◇


 夕方。

 花嫁たちは「明日の準備《エステと女子会》」があるとかで、王城のゲストルームに隔離されていた。

 俺は手持ち無沙汰になり、一人で城壁の上で風に当たっていた。


「……よう。久しぶりだな」


 背後から声をかけられた。

 振り返ると、そこにいたのは金髪の男――レオンだった。

 かつて俺を追放した、Sランクパーティーのリーダー。


「……レオンか。招待状、届いたんだな」


「ああ。……正直、来るか迷ったがな」


 レギナは気まずそうに頭をかいた。

 以前、焼肉屋で会った時のような棘のある態度は消えている。

 装備も、以前のような「見た目重視」のピカピカしたものではなく、実用的な傷の入った革鎧に変わっていた。


「お前が世界中にばら撒いた『最適化パッチ』……あれのおかげで、俺たちの魔法は劇的に変わった」


 レオンが苦笑する。


「最初は戸惑ったさ。詠唱は短いし、エフェクトも地味だ。だが……威力も、発動速度も段違いだ。おかげで、以前なら苦戦していたダンジョンも踏破できた」


「そりゃよかったな。……俺が口を酸っぱくして言ってた意味、やっと分かったか?」


「ああ。……認めるよ。お前は無能なんかじゃなかった。俺たちが、お前の価値を理解できるほど賢くなかっただけだ」


 レオンは真っ直ぐに俺を見た。


「悪かったな、ナオト。……そして、ありがとう」


 彼が差し出した手。

 俺は少し驚いたが、すぐに握り返した。


「気にするな。……ま、お前らが俺を追い出してくれたおかげで、今の仲間に出会えたしな」


「皮肉かよ。……幸せになれよ、翻訳者(ナオト)


 レオンは背を向け、手を振って去っていった。

 その背中は、以前よりも少し大きく見えた。

 過去の因縁も、これで完全に精算完了(クリア)だ。


 ◇


 夜。

 王都の酒場を貸し切って、男だけの「前夜祭バチェラー・パーティー」が開かれていた。


「飲め飲めーっ! 今日は主役の奢りだぞー!」


「おいボルグ! 俺の財布をあてにするな!」


 店内はむさ苦しい男たちの熱気で溢れ返っていた。

 ボルグ、カレンの職人たち、冒険者仲間。

 みんなが出来上がっている。


「ナオトさん、結婚の秘訣を教えてくださいよ! 三人もあんな美人の奥さんをもらうなんて!」


 若手の冒険者が絡んでくる。


「秘訣? ……そうだな」


 俺はジョッキを傾けながら考えた。


「『デバッグ』をサボらないこと、かな」


「はぁ? でばっぐ?」


「ああ。小さな不満やズレを放置すると、いつか致命的なエラーになって爆発する。だから、毎日顔色を見て、話を聞いて、メンテナンスしてやるんだよ」


 俺が言うと、男たちは「さっすが英雄様、言うことが違うぜ!」と爆笑した。

 まあ、俺なりの処世術だ。


『Warning. Master.(警告。マスター)』


 その時、ポケットのスマホが震えた。

 デウスだ。

 俺は騒ぎを抜け出し、店の裏口へ出た。


「どうした? 空気読めよ」


『Critical Error detected in local weather system.(局所気象システムに致命的エラーを検知)』


 デウスの音声と共に、夜空にホログラムが表示される。

 王都の上空に、どす黒い雲の渦が発生しつつあった。


『Cause: Mana Congestion.(原因:魔力渋滞)』

『Too many high-level magic users gathered in one place.(高レベルの魔導師が一箇所に集まりすぎたため)』


「……あー」


 納得した。

 今、王都には世界中から高名な魔導師や勇者たちが集結している。

 彼らが無意識に放出する魔力が飽和し、上空でショートを起こして嵐を呼んでいるのだ。

 いわゆる「ヒートアイランド現象」の魔力版だ。


『Estimated time until downpour: 6 hours.(豪雨開始まで推定6時間)』

『The ceremony will be washed away.(式典は流されます)』


「明日の朝イチかよ。……最悪だな」


 明日の結婚式は、広場での屋外パーティを予定している。

 エルーカもレギナもミサも、青空の下での誓いを楽しみにしていた。

 それを、こんな「仕様上のバグ」で台無しにさせるわけにはいかない。


「……デウス。修正できるか?」


『Negative. My authority is limited to this device.(否定します。私の権限はこの端末内に限定されています)』

『I need external access.(外部アクセスが必要です)』


「ちっ、使えねぇ神様だな」


『ほんっと、使えないわよね〜デウスって』


「リリス。お前なら何とかできるか?」


 リリスは無言のまま消えた。


「……逃げたな」


 俺は眼鏡をかけ、ガントレットを展開した。

 やるしかない。

 花嫁たちの晴れ舞台だ。雨一滴たりとも降らせはしない。


「はあ……。最後の『徹夜作業』やるか」


 俺は屋根に飛び乗り、王都で一番高い時計塔を目指して走った。


 ◇


 時計塔の天辺。

 風が強く吹き荒れ、雲の渦がすぐ頭上に迫っていた。

 俺は避雷針にガントレットのケーブルを接続し、この塔を巨大なアンテナとして利用する。


視覚化(ビジュアライズ)! 魔力分布マップ!」


 HUDに、王都上空の複雑な気流が表示される。

 魔力の密度が濃すぎて、大気が悲鳴を上げている状態だ。

 これを力技で散らすのは危険だ。反動で地上に雷が落ちるかもしれない。


「……負荷分散(ロードバランシング)を行う」


 俺はキーボードを叩いた。

 王都に集中している魔力を、周辺の地域へなだらかに逃がすパイプラインを構築する。


『Constructing Mana By-pass...(魔力バイパス構築中……)』


 俺は空中に魔法陣のコードを描き、それを風に乗せて広げた。

 北へ、南へ、東へ、西へ。

 詰まっていた川の流れを整地するように、丁寧に、慎重に。


 カチャカチャカチャ……。


 冷たい夜風の中で、俺の指だけが熱を帯びて動く。

 3人分のウェディングドレス。

 あいつらの笑顔。

 それを思い出すだけで、寒さなんて感じなかった。


『Efficiency 80%... 90%... 100%.(効率100%)』

『Storm dissipated.(嵐、消散しました)』


 雲が割れ、月光が差し込んだ。

 どす黒い渦は消え、満天の星空が広がる。


「……ふぅ。完了」


 俺はガントレットを下ろし、その場に座り込んだ。

 間に合った。

 これで明日は快晴だ。


「……何をしているのだ、こんなところで」


 背後から声がした。

 振り返ると、そこには夜着の上にガウンを羽織ったレギナが立っていた。

 どうやら、俺の魔力に気づいて様子を見に来たらしい。


「ああ、ちょっと散歩だ」


 俺がとぼけると、レギナは空を見上げ、呆れたように笑った。


「……嘘が下手だな。今の魔力操作、見ていたぞ」


 彼女は俺の隣に座り、ハンカチで俺の額の汗を拭った。


「明日の天気のために、一人で戦っていたのか?」


「まあな。……せっかくのドレス、泥だらけにしたくないだろ」


「……馬鹿者」


 レギナは俺の肩に頭を預けた。


「貴方はいつもそうだ。見えないところで、誰かのために無理をする。……だが、そういう所が、私が惚れた男の証明でもある」


 彼女の体温が伝わってくる。

 夜風が少しだけ温かく感じられた。


「明日、楽しみだな」


「ああ。……覚悟しておけよ? 三人がかりで幸せにしてやるからな」


「お手柔らかに頼むよ」


 俺たちは笑い合った。

 星空の下、時計塔の鐘が深夜0時を告げる。


 日付が変わった。

 今日が、俺たちの結婚式だ。


「戻ろうか、ナオト」


「ああ。……帰ろう」


 俺はレギナの手を取り、塔を降りた。

 空は澄み渡り、明日の快晴を約束していた。

 最高の1日が、もうすぐ始まる。

 

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