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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第94話 招待状DDoS攻撃。 〜世界中から返信が殺到して家が潰れそうなんですが〜


 ドレス選びを終えた数日後。

 俺たちは「何でも屋」のオフィスで、山積みになった羊皮紙と格闘していた。


「……終わんない! 全っ然終わんないよナオトさん!」


 ミサが羽ペンを投げ出してテーブルに突っ伏す。

 彼女の指先はインクで汚れ、目の下には薄っすらと隈ができている。


「弱音を吐くなミサ。……まだ『カ行』の途中だぞ」


 俺も肩を揉みながらペンを走らせる。


 今やっているのは、結婚式の招待状の宛名書きだ。

 世界を救った英雄(俺たち)の結婚式ともなれば、呼ぶべき相手は膨大な数になる。


 会ったこともない貴族、各国のギルドマスター、お世話になった村の人々、そしてかつての依頼人たち。


「リストアップだけで3000人を超えています……。これ、手書きでやる量じゃありませんよ」


 エルーカがリストを見ながら遠い目をしている。


「フン。魔王軍の全軍指揮に比べればマシだが……単純作業は飽きるな」


 レギナも優雅にペンを動かしているが、その眉間には深い皺が刻まれている。

 魔法でコピーすれば一瞬だが、招待状は「手書き」がマナーだというこの世界の常識が、俺たちを苦しめていた。


「ナオト、お茶、どうぞ」


 ルナがことりとマグカップを置いてくれる。

 唯一の癒やしだ。


『Master. I have a suggestion.(マスター。提案があります)』


 その時、俺のポケットからデウスの電子音が響いた。

 スマホの画面には、ドヤ顔のドット絵アイコンが表示されている。


『Why do you perform such inefficient analog work?(なぜ、そのような非効率なアナログ作業を行っているのですか?)』


『I can send invitations to all targets instantly via "World Announcement".(「世界告知」機能を使えば、対象者全員に一瞬で招待状を送れますよ)』


 世界告知。

 空に文字を浮かべるあの機能。

 あるいは、対象者の脳内に直接メッセージを送りつけるテレパシー通信。


「……却下だ」


 俺は即答した。


「結婚式の招待状を『全体チャット』で済ませる馬鹿がどこにいる。情緒も礼儀もないだろ」


『Etiquette is unnecessary. Efficiency is justice.(礼儀は不要。効率こそ正義です)』


「うるさい。お前は黙ってろ」


 俺はスマホを裏返しにして、作業に戻った。

 デウスの奴、最近は人間の文化を学習しているようだが、相変わらず「心」の部分が分かっていない。


 ――しかし。

 その数時間後。

 俺がトイレに立った隙に、事件は起きた。


 ドォォォォン!!


 突然、オフィスの外から爆音が響き渡った。

 建物が揺れる。


「な、なんだ!?」


 俺が慌てて戻ると、窓の外がとんでもないことになっていた。


 空から、無数の「鳥」が降ってきているのだ。

 いや、鳥じゃない。


 伝書鳩、使い魔のフクロウ、魔法の紙飛行機、さらには小型のワイバーンまで。

 それらが雨あられと「何でも屋」の屋根や庭に殺到している。


「キャアアアッ! ナオトさん! 窓が割れちゃう!」


 ミサが悲鳴を上げる。

 使い魔たちは、足に手紙や小包をぶら下げていた。


『Congratulation!(おめでとう!)』

『Participation Request!(参加希望!)』


「……なんだこれ」


 俺が呆然としていると、スマホのデウスが得意げに喋り出した。


『I executed the "Invitation Transmission".(招待状の送信を実行しました)』

『Target: All sentient beings in the world.(対象:世界中の全知的生命体)』


「はぁ!?」


『And I set the reply deadline to "Now".(そして、返信期限を「今すぐ」に設定しました)』


 こいつ、やりやがった。

 俺がいない間に、勝手に世界中の人々に招待状(スパムメール)を送りつけやがったのだ。

 しかも「全知的生命体」って、人間だけじゃなく魔族や亜人、モンスターにまで送ったのか!?


「ば、馬鹿野郎! DDoS攻撃じゃねぇか!」


 世界中から一斉に返信(物理)が届いた結果、俺たちの拠点が物理的にパンク(サーバーダウン)しかけている。


「ナオト! 変なのが混じってるぞ!」


 レギナが叫ぶ。

 空から降ってくる使い魔の中に、明らかに敵意を持った魔物や、怪しげな黒い封筒が混ざっている。

 中には「俺の求婚を断った恨み!」とか「結婚するなら俺を倒してからにしろ!」といった、勘違いした果たし状まであるようだ。


「迎撃だ! 返信を受け取る前に家が潰れる!」


 俺はガントレットを展開した。

 幸せな結婚準備が、一転して防衛戦だ。


「エルーカ、庭の使い魔をさばけ! プレゼントは壊すなよ!」


「はいっ! 『聖剣・峰打ち』!」


 エルーカが庭に飛び出し、殺到する使い魔たちを傷つけずに叩き落としていく。器用なことだ。


「レギナ、上空の大型便を迎撃しろ! ワイバーンがプレゼント()を落とそうとしてる!」


「任せろ! 『氷結対空砲アンチ・エア・アイス』!」


 レギナが屋根に飛び乗り、氷の礫でワイバーンを追い払う。


「ミサ! デウスの機能をシャットダウンしろ! これ以上この馬鹿に拡散させるな!」


「やってるけど、アクセス集中しすぎて操作できないのぉ! サーバーが重いぃぃ!」


 ミサがタブレットを連打するが、画面はフリーズ寸前だ。


「ルナ! お前は……お菓子食べてていいぞ! 危ないから隠れてろ!」


「ん。ポテチたべる」


 ルナだけが平和にポテトチップスを食べている。癒やしだ。


「くそっ、キリがない! ……こうなったら!」


 俺は物理キーボードを叩き、拠点の周囲に強力な「フィルタリング結界」を展開した。


『Create Barrier: Spam_Filter(結界生成:スパムフィルタ)』

『Condition: Malicious Intent = Block(条件:悪意あるもの=ブロック)』

『Condition: Gift Value < 1000G = Return(条件:価値1000G以下の贈り物=返送)』


「――着払い(エンター)ッ!」


 ブォンッ!


 拠点を包む青いドームが出現した。

 殺到していた使い魔のうち、悪意のあるものや、ただの冷やかしの手紙が弾かれ、空の彼方へと飛んでいく。

 残ったのは、本当に俺たちを祝福してくれる人々からの手紙と、高価なプレゼントだけ。


「……ふぅ。静かになったな」


 俺は額の汗を拭った。

 庭には、選別された山のようなプレゼントと手紙が積まれている。


「ナオトさん……これ、どうする?」


 ミサがプレゼントの山を見上げて引きつった笑みを浮かべる。


「……片付けるしかないだろ。式までに」


 俺はスマホを取り出し、デウスのアイコンを指でグリグリと押し潰した。


『Pain... Apology...(痛み……謝罪……)』


「反省しろ。お前のせいで、仕事が3倍に増えたぞ」


「でもナオト。……みんな、お祝いしてくれてる」


 レギナが、一通の手紙を拾い上げて微笑んだ。

 それは、かつて雨乞いの村で助けた子供たちからの、拙い字で書かれたお祝いのメッセージだった。

 『ナオトお兄ちゃん、お姉ちゃんたち! 結婚おめでとう!』


「……そうだな」


 俺も手紙を覗き込む。

 エルーカも、ミサも、プレゼントの山を漁りながら嬉しそうに声を上げている。


「見てください! カレンの街からも最高級のワインが届いてます!」


「こっちはドワーフの親父さんからだ。『新居の家具一式、作ってやるから寸法送れ』だってさ!」


 迷惑メールだと思ったが、その中身は世界中からの温かい祝福だった。

 俺たちが駆け抜けてきた旅の軌跡が、こうして形になって帰ってきたのだ。


「……悪くないな」


 俺はルナの頭を撫でた。


「よし! 今日は招待状書きは中止だ! 届いた祝いの品を開封するぞ! 開封の儀だ!」


「おー!」


「賛成です! このお肉、すぐに焼かないと!」


「酒もあるぞ。今夜は宴会だな」


 結局、俺たちはその夜、世界中から届いたグルメと酒でどんちゃん騒ぎをすることになった。

 結婚式の準備は遅々として進まないが、まあ、こういうのも俺たちらしいか。


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