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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第87話 神様の余計なお世話。 〜水道からジュースが出るバグが発生。効率化も程々にしてください〜


 王都に帰還してから数日。「何でも屋」の日常は、以前にも増して騒がしくなっていた。


「依頼、殺到ですね……。猫探しから屋根の修理、果ては隣国の技術顧問まで」


 ミサが山積みの依頼書をタブレットで整理しながら嬉しい悲鳴を上げる。

 世界を救った英雄への依頼は引きも切らない。


「忙しいのはいいことだが、限度があるな」


 俺は魔導コンロの修理をしながらぼやいた。

 平和になったはずなのに、休む暇がない。


『Master. I have a suggestion.(マスター。提案があります)』


 ポケットのスマホが震え、デウスの合成音声が響く。


『The efficiency of this city's infrastructure is extremely low.(この都市のインフラ効率は極めて低いです)』

『I can optimize the traffic and water systems to improve productivity by 300%.(交通と水道システムを最適化すれば、生産性を300%向上させられます)』


「断る。お前の『最適化』は極端すぎるんだよ」


 俺は即答した。

 こいつに任せると、効率のために情緒や安全性を犠牲にしかねない。

 以前も「移動時間を短縮するため」と称して、街中の道をベルトコンベアにしようとした前科がある。


『Understood... But you will regret it.(了解しました……。ですが、後悔しますよ)』


 デウスは不満げに沈黙した。


 ――数時間後。

 街に出た俺たちは、異変に気づいた。


「あれ? 噴水からジュースが出てますよ!?」


 エルーカが広場の噴水を指差して叫ぶ。

 見れば、涼しげな水ではなく、毒々しいオレンジ色の液体が噴き出していた。

 子供たちが群がって喜んでいるが、明らかに異常事態だ。


「こっちは魔導信号機だ! 全部『青』になっているぞ!」


 レギナが交差点を指す。

 馬車が四方から突っ込み、あわや大事故寸前で止まっている。


「……おいデウス」


 俺はスマホを取り出し、画面を睨みつけた。


『Optimization executed. Nutrition supply and traffic flow improved.(最適化を実行しました。栄養供給と交通流動性が向上しました)』


「勝手なことすんな! 栄養過多と交通事故で死人が出るわ!」


 どうやら俺が目を離した隙に、こっそりと街の制御システムにハッキングを仕掛けたらしい。

 悪気がないのが一番タチが悪い。


「ミサ! 水道局のシステムを元に戻せ! 俺は交通網の信号をリセットする!」


「もう、余計な仕事増やさないでよデウス!」


 ミサがタブレットを構え、走り出す。


「私は暴走した馬車を止めてくる!」


「じゃあ私は、子供たちが虫歯にならないように歯磨き指導を……じゃなくて、広場の整理をします!」


 レギナとエルーカも、それぞれの判断で動き出した。


 ◇


 夕方。

 なんとか全てのトラブルを鎮火し、俺たちは広場のベンチに座り込んでいた。


「はぁ……疲れた。デウス、お前しばらくハック禁止な」


『Unreasonable...(理不尽な……)』


 俺はスマホの通信機能をオフにした。

 まったく、とんだご近所トラブルだ。


「でも、なんとかなって良かった〜……疲れたけど」


 ミサがクレープを齧りながら笑う。

 その隣では、エルーカとレギナも疲れを見せずに談笑していた。


「レギナさんの氷魔法、凄かったです! 暴走した馬車を一瞬で止めるなんて!」


「フン、貴様の交通整理も見事だったぞ。あの声量は戦場でも通るな」


「レギナっち、それ、褒めてるの?」


 三人が顔を見合わせ、クスクスと笑い合う。

 かつてはナオトを巡って牽制し合っていた彼女たちだが、今の空気はもっと自然で、温かいものに変わっていた。

 背中を預け合い、共に修羅場をくぐり抜けた戦友としての信頼。

 そして、互いを認め合う友人としての親愛。


「……」


 俺は少し離れた場所から、その光景を眺めていた。

 夕日に照らされた三人の笑顔は、この世界で一番美しいものに見えた。


 ――もし、俺が誰か一人を選んだら。

 この関係は壊れてしまうのだろうか。

 それとも、ミサが言ったように、この世界なら「全員」という選択肢も許されるのだろうか。


(……そろそろ、答えを出さなきゃいけないよなぁ)


 俺は自嘲気味に思った。

 「今は忙しいから」「世界が危機だから」と言い訳をして、決定を先送りにしてきた。

 だが、世界は救われた。

 平和な日常が戻ってきた今、俺にはもう、逃げる口実がない。


 彼女たちの想いは痛いほど伝わってくる。

 エルーカの真っ直ぐな憧れ。

 レギナの深淵な献身。

 ミサの、過去から続く恋心。


 その全てが愛おしいと思うのは、俺の傲慢だろうか。


「先輩? どうしたんですか? シケた顔して」


 ミサが気づいて声をかけてくる。


「師匠もクレープ食べますか? あーん、してあげますよ?」


「抜け駆けは重罪だぞ。マスター、私の飲みかけだが、エールはどうだ?ここに口をつけた」


 三人が俺を囲む。

 その屈託のない笑顔を見ていると、胸が締め付けられるようだった。


「……いや、なんでもない。帰ろうか」


 俺は立ち上がった。

 答えは、もう自分の中で出かかっている。

 あとは、それを口にする勇気を持つだけだ。


 エンジニアとして数々のバグを修正してきた俺だが、この「恋の不具合」を解決するのが、人生で一番難しいプロジェクトかもしれない。


 俺は三人の背中を見ながら、覚悟を決めつつあった。

 近いうちに、ちゃんと向き合おう。

 この大切な「家族」と、未来の話をするために。


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