第80話 絶対拒絶領域。 〜神の装甲に「物理的な穴」を開けて、LANケーブルを直結《ハードウェア・ハック》してやった〜
白い塔の最上階。
目の前に鎮座するのは、世界を統べるシステム管理者――神。
巨大なモノリスは、静かに、しかし圧倒的な拒絶の意思を放っていた。
『Warning. Anomaly detected.(警告。異常検知)』
『Executing Quarantine Protocol.(隔離プロトコル実行)』
神の声と共に、空間が歪んだ。
モノリスの周囲に、無数の白い板――「ポリゴン」が出現する。
それらは鋭利な刃となり、弾丸となって、俺たちに殺到した。
「来ます!」
エルーカが叫び、前に出る。
聖剣が一閃。迫りくる白い板を粉砕する。
だが、砕けた破片は消えることなく、再び結合して襲いかかってくる。
「チッ、再生速度が異常だ!」
俺はPCを抱えて走りながら叫んだ。
今の俺たちには、スキルを使うという選択肢がない。
このPCを奴に接続しない限り、反撃の手立てはないのだ。
「先輩! どこに繋ぐんですか!? あいつ、ツルツルですよ! USBポートなんてありません!」
ミサが悲鳴を上げる。
そう、あのモノリスは完全な密閉構造だ。外部からの物理干渉を一切受け付けない『絶対拒絶領域』。
「ないなら作るまでだ! 装甲をぶち破って、中の回路を露出させる!」
俺は腰のポーチから、ある「部品」を取り出した。
地下ラボでボルグ親父に特注で作ってもらった、ミスリル合金製の『強制接続探針』だ。
見た目は、ケーブルのついた巨大な「杭」そのもの。
「エルーカ、レギナ! 道を開いてくれ! あいつの土手っ腹に風穴を開ける!」
「了解です! 私の剣で、こじ開けてみせます!」
エルーカが加速する。
襲い来るポリゴンの嵐を、超人的な反射神経で回避し、切り伏せていく。
「援護する! マスター、私の背中から離れるな!」
レギナが杖を振るう。
放たれたのは『極大氷塊』。
巨大な氷の塊が、盾となって敵の攻撃を受け止める。
『Target Verified. Elimination Priority: High.(対象確認。排除優先度:高)』
神の輝きが増す。
モノリスの表面から、赤いレーザーのような光線が無数に放たれた。
触れたものをデータごと消去する、即死攻撃だ。
「危ないっ!」
ミサが俺を突き飛ばす。
俺たちがいた場所をレーザーが貫き、床が円形に消失した。
ヒヤリと冷たい汗が流れる。
掠っただけでアウトだ。
「くっ、近づけない……! 弾幕が厚すぎます!」
エルーカが歯噛みする。
距離はあと50メートル。だが、その距離が無限に感じるほど、神の防衛システムは完璧だった。
「このままじゃマズイ。……一点突破するしかない」
俺は叫んだ。
「レギナ! 全魔力を防御に回せ! エルーカを突っ込ませる!」
「正気か!? 防御を捨てれば、マスターたちが死ぬぞ!」
「死なない! 俺たちはただの『一般人』だぞ? 神様の攻撃判定から外れる方法がある!」
俺はミサと顔を見合わせた。
「ミサ! やるぞ! 『ステルス・モード(物理)』だ!」
「えっ? あ、はい! 了解です!」
俺とミサは、同時に地面に伏せた。
そして、瓦礫の陰や、レギナが作った氷壁の裏に、徹底的に身を隠す。
気配を消し、存在感を消す。
システムにとって、脅威度の低い(攻撃能力のない)対象は、処理優先度が下がるはずだ。
『Threat Level Reassessment... High Priority Targets: Two.(脅威度再評価……高優先対象:2体)』
神の攻撃が、エルーカとレギナに集中した。
俺とミサへの攻撃が止む。
「今だ! 行けぇっ!」
レギナが全ての魔力を氷の盾に注ぎ込み、レーザーの嵐を受け止める。
氷が砕け、蒸発していく。
「ぐぅ……ッ! もってくれよ、私の魔力……!」
その影から、エルーカが飛び出した。
彼女は聖剣を構え、一直線にモノリスへと走る。
障害物はない。レギナが全て受け止めてくれている。
「うおおおおおおっ!!」
エルーカの咆哮。
聖剣が眩い光を放つ。
それは、ナオトによって「彼女専用」にチューニングされた、世界で唯一の、神に届く刃。
「貫け! 『聖剣・一点突破』ッ!!」
ドォォォォォォン!!
聖剣の切っ先が、モノリスの中央に突き刺さる。
激しい衝撃波。
絶対的な強度を誇る神の装甲に、ピキリ、と亀裂が入った。
『Warning. Armor Breach.(警告。装甲破損)』
亀裂から、光り輝く「内部回路」が漏れ出した。
血管のように脈打つ、神の神経系だ。
「師匠! 今です!」
エルーカが叫ぶ。
俺は飛び出した。
手には『強制接続探針』と、無骨なハンマー。
モノリスは傷を修復しようと、周囲のデータを集めている。
塞がるまで、あと数秒。
「間に合えええぇぇッ!」
俺は全力で駆け抜け、亀裂の前へと滑り込んだ。
溢れ出す光が熱い。データの奔流が肌を焼くようだ。
だが、怯まない。
俺は探針の先端を、露出した光の回路にねじ込んだ。
「繋がれッ!」
ガァンッ!!
ハンマーで探針を叩き込む。
まるで釘を打つように、物理的に、強引に。
探針が奥深くまで突き刺さり、カチリという手応えがあった。
ビビビッ!
ケーブルを通じて、俺の持っているPCに信号が走る。
「ミサ! 接続確認!」
後方でPCを開いたミサが叫ぶ。
「来てます! 信号受信! デバイス認識しました!」
成功だ。
神の体に、俺たちのPCという「異物」が直結された。
『Error. Unknown Device Connected.(エラー。不明なデバイスが接続されました)』
『Rejection Failed.(拒絶失敗)』
神が動揺するように明滅する。
物理的に突き刺さった杭は、プログラム上の拒絶命令では排除できない。
「よし……! ここからは俺たちの土俵だ」
俺は探針から伸びるケーブルを、自分のPCに接続した。
黒い画面に、膨大な文字列が滝のように流れ始める。
神の思考、世界の構成データ、全てが丸見えだ。
「お待たせ、管理者様。……メンテナンスの時間だ」
俺はニヤリと笑い、エンターキーを叩いた。
物理攻撃フェーズ終了。
これより、論理戦を開始する。




