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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第77話 次元を超えた逆召喚《リバース・サモン》。 〜バグった東京から脱出せよ! 最強の護衛が空から降ってきた〜

 

 世界一の乗降客数を誇るこの街は、今日も無数の人間と情報で溢れ返っていた。

 騒音、ネオン、巨大ビジョンから流れるCM。

 圧倒的な「現実」の奔流。


「……人が、多いですね」


 隣を歩く三条が、人混みに酔ったように眉をひそめ、俺のジャケットの袖を掴んだ。

 俺たちは会社を早退し、電車でここまで来た。

「ここに来れば何かが分かる気がする」。そんな根拠のない直感だけを頼りに。


「ああ。……だが、変だぞ」


 俺は行き交う人々を観察した。

 サラリーマン、学生、カップル。一見すると普通の光景だ。

 だが、近づけば近づくほど、奇妙な違和感が肌を刺す。


「あそこの信号待ちしてる男。……さっきから一度も瞬きをしていない」


「え?」


「向こうの女子高生グループ。会話の内容を聞いてみろ。……『ウケる』『ヤバい』の2パターンを、ランダムに再生してるだけだ」


 俺が指摘すると、三条の顔色が青ざめた。

 彼女も気づき始めたようだ。この街の「粗」に。


「先輩……。あの看板、見てください」


 彼女が指差したのは、ビルの屋上にある巨大な広告看板だ。

 そこに書かれているキャッチコピーの文字が、一瞬だけ『■■■』と文字化けし、また元に戻った。


「……テクスチャの読み込みエラーか」


 俺は呟いた。

 その単語が、自然と口をついて出たことに自分でも驚く。

 ここは現実の日本じゃない。

 あまりに精巧だが、ここは作り物だ。


「怖い……。みんな、作り物なんですか?」


 三条の手が震えている。

 周囲の雑踏が、急に不気味な環境音(SE)のように聞こえ始めた。

 世界全体が、俺たちを騙そうとしている。


「……確かめに行こう」


 俺は三条の手を強く握りしめた。

 この世界が「作り物」なら、一番情報密度が高い場所に行けば、必ず処理落ち(ラグ)が起きるはずだ。

 この違和感の正体を暴くには、そこへ行くしかない。


「この世界の中心へ」


 俺たちは人波をかき分けて進んだ。

 目指すは、新宿駅東口、アルタ前広場。


 ◇


 広場に到着すると、そこは異様な静寂に包まれていた。

 いや、音はしている。ビジョンの音声、車の走行音。

 だが、そこにいる数千人の群衆が、誰一人として喋っていない。

 全員が彫像のように静止し、ただ一点――大型ビジョンを見つめている。


「……気味が悪いな」


 俺たちが広場の中央に踏み込んだ、その時だった。


 ザザッ……ザザザッ……!


 大型ビジョンの映像が乱れ、砂嵐が走った。

 同時に、周囲のスピーカーから不快なハウリング音が響き渡る。


『Target Verified.(対象確認)』

『Awakened Factor Detected.(覚醒因子を検知)』


 ビジョンに赤い文字が浮かび上がる。

 機械的な合成音声が、広場に響いた。


『Isolating Subjects "Naoto Kudo" & "Misaki Sanjo".(対象「工藤ナオト」「三条美咲」を隔離します)』

『Executing Deletion of Bugs.(バグの削除を実行)』


 ――削除。バグ。

 その単語を聞いた瞬間、俺の脳内で何かが弾けた。


 激痛と共に、霧がかかっていた記憶が一気に鮮明になる。

 神の領域。白い塔。

 俺たちが挑んだ最後の戦い。

 そして、『システム復元』による強制ログアウト。


「……思い出した」


 隣を見ると、ミサもハッとした顔で俺を見ていた。


「先輩! 私……全部、思い出しました! ここ、現実じゃないです!」


「ああ。()()! ここは運営()が作った『ゴミ箱』だ。俺たちを隔離するための仮想空間だ!」


 思い出した。確信した。

 ここは日本じゃない。俺たちの魂を閉じ込めておくためのサンドボックス。

 そして今、運営()は俺たちが「覚醒(バグ化)」したことを検知し、消去しようとしている。


「気付いたことに気付かれた……!」


 俺が身構えると、周囲で静止していた群衆が、一斉に首を回してこちらを向いた。

 ギギギ、という関節が軋む音。

 彼らの顔から表情が消え、目が赤く発光し始める。


「嘘……! みんな、敵なんですか!?」


「NPCが暴徒化しやがった! 逃げるぞミサ!」


 俺はミサの手を引いて走り出した。

 だが、遅い。

 サラリーマンが、学生が、主婦が。

 人間離れした動きで襲いかかってくる。鞄を振り回し、傘を槍のように突き出してくる。


「くっ!」


 俺はタックルしてきた男を避けるが、足がもつれる。

 今の俺はただの30代の社畜だ。身体強化も、ガントレットもない。

 こんな数の暴力に勝てるわけがない。


「先輩! あっちも塞がれてます!」


 逃げ道を塞がれ、俺たちは広場の真ん中で包囲された。

 赤い目をした群衆が、じりじりと距離を詰めてくる。

 ゾンビ映画のクライマックスだ。


「……ふざけんなよ……」


 絶望が頭をよぎる。

 せっかく思い出したのに。

 あっちの世界で待っている仲間たちの顔が、走馬灯のように浮かぶ。

 エルーカ、レギナ、ルナ。

 約束したのに。戻るって。


 その時だった。


 ピ――ッ!!


 甲高い電子音が響き、大型ビジョンの赤い文字が、強引に書き換えられた。


『Connection Request... From "Another Dimension".(接続要求……「別次元」より)』

『Gate Open!(ゲート、開放!)』


 砂嵐の画面に、見覚えのあるツインテールのシルエットが浮かび上がる。


『――マスター! ミサさん! 聞こえますか!!』


「リリス!?」


 俺とミサは同時に叫んだ。

 スピーカーから響くのは、間違いなくあの生意気なAIの声だ。


『やっと見つけました! その空間は隔離された閉鎖領域です! 内側からは出られません!』


「やっぱりな! で、助かるのか!?」


『こじ開けます! 座標固定! 次元穿孔(ドリル)、最大出力! ……行きますよ、お二人さん!』


 リリスの声に、力がこもる。


 ズズズズズ……!


 新宿の空が、ガラスのようにひび割れた。

 亀裂の隙間から、眩い光と、懐かしい「魔力」の奔流が溢れ出す。


『System Error! Intruder Detected!(システムエラー! 侵入者検知!)』


 運営のアナウンスが慌てふためく。

 群衆の動きが止まり、空を見上げる。


 パリーンッ!!


 盛大な音を立てて、空の亀裂が砕け散った。

 そこから、二つの影が流星のように降ってくる。


「えぇぇぇぇい!」


「どけ愚物共がっ!私のマスターへの道を遮るな!!」


 ドォォォォォォン!!


 二つの影は、俺たちを取り囲んでいた群衆のど真ん中に着地した。

 アスファルトが粉砕され、車が吹き飛び、衝撃波でNPCたちが紙切れのように舞い上がる。


 土煙が晴れると、そこには二人の女性が立っていた。


 一人は、手には鞘に収まったままの剣を持った少女。

 もう一人は、鋭い眼光を放つ美女。


「……ゲホッ。ここが、異界か」


「す、すごい空気の味です……。鉄の味がします」


 二人はむせながら、周囲を見渡した。

 そして、呆然としている俺たちを見つけると、満面の笑みを浮かべた。


「師匠ーーっ!!」


「マスター! 無事か!」


「お前ら……なんで……」


 俺が声を絞り出すと、懐かしい電子音が響き、エルーカはポケットから小型のモニターを取り出す。スパコンを作成する時に使用していた監視用モニターだ。

 画面にはリリスの顔が映っている。


『説明は後です! 今は逃げますよ! この空間のセキュリティが総動員で来ます!』


 リリスが叫ぶ。

 周囲のNPCたちが、バグった動きで再び襲いかかろうとしていた。

 さらに、上空には「削除プログラム」である天使の群れまで出現し始めている。


「……状況は分からんが、敵だな?」


 レギナが拳を鳴らす。

 この世界にはマナがない。魔法は使えないはずだ。

 だが、彼女の気迫は少しも衰えていない。


「師匠に手を出す奴は、全員ぶっ飛ばします!」


 エルーカが鞘に入ったままの聖剣を構える。

 たとえ魔法がなくても、彼女たちの身体能力フィジカルは、こちらの世界の常識を遥かに超えている。

 ゴリラ勇者と、武闘派魔女。

 頼もしすぎる援軍だ。


「行きますよ、レギナさん!」


「ああ。マスターとミサの帰還ルートは、私たちが切り開く!」


 新宿のど真ん中で、異世界最強の二人が駆け出した。

 アスファルトを蹴り砕き、信号機をへし折り(武器代わりにして)、彼女たちは群衆の波へと突っ込んでいく。


「……ははっ。夢じゃねぇな」


 俺は笑った。

 こんなデタラメな光景、俺の妄想で作れるわけがない。

 これが俺たちの「現実」だ。


「先輩! 行きましょう!」


 ミサが俺の手を引く。


「ああ。……帰るぞ、俺たちの世界へ!」


 俺たちは走り出した。

 最強の護衛を従えて、バグだらけの東京からの脱出劇が始まった。

 

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