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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第73話 管理者の箱庭。 〜再生怪人《リサイクル・ボス》には、地上からの「遠隔演算《リモート》砲撃」をお見舞いだ〜


 視界を埋め尽くしていた青い光が収束し、世界が再構築される。

 転送酔いの吐き気をこらえながら目を開けると、そこは静寂に包まれた「庭園」だった。


「……ここが、神の領域?」


 ミサが呆然と呟く。

 空には太陽も月もなく、代わりに無数の数式とコードがオーロラのように流れている。

 地面は鏡面仕上げの水晶でできており、どこまでも広がる水平線には、巨大な白い塔が一本だけ聳え立っていた。


「美しいけど……無機質だな」


 俺は眼鏡の位置を直した。

 生命の気配が全くない。風も吹かず、匂いもない。

 まるで、精密に作られたジオラマの中に迷い込んだようだ。


 背後では、俺たちを運んできた『空飛ぶ要塞』が、空間にアンカーを打ち込み、停泊モードに入っていた。

 こいつが俺たちの命綱だ。


「先輩、あれを見てください」


 ミサが指差した先。

 庭園の一角に、見覚えのある風景が「保存」されていた。


「あれは……レイクサイドの街か?」


 巨大なクリスタルのケースの中に、以前消滅したはずの街が、ミニチュアサイズになって閉じ込められていた。

 家々も、通りも、そして人々も。

 時間は止まり、人々は笑顔のまま固まっている。


「アーカイブ……。本当に、データを保存してるだけなんですね」


「ああ。削除されたわけじゃなかった。……これなら、復元(リストア)できる」


 俺は確信した。

 運営は、世界を破壊したいわけじゃない。

 ただメモリを空けるために、データを圧縮して倉庫にしまっているだけなのだ。

 ……住人の意思などお構いなしにな。


『Welcome to Admin Garden.(ようこそ、管理者の箱庭へ)』


 突如、空全体から声が響いた。

 感情のない、合成音声のような声。

 『運営』だ。


『Unauthorized Users detected.(不正ユーザーを検知)』

『Why do you reject optimization?(なぜ、最適化を拒むのですか?)』


 問いかけ。

 俺は空に向かって叫んだ。


「最適化だと? 勝手に人の街を圧縮して、何が最適化だ! 俺たちはデータじゃない、生きてるんだよ!」


『Living beings are also data.(生命もまたデータに過ぎない)』


 運営の声は淡々としていた。

 話にならない。

 こいつは思考することを放棄している。「仕様だから仕方ない」と言って、思考停止しているシステムそのものだ。


『Threat recognized. Executing security protocol.(脅威を認定。セキュリティプロトコル実行)』


 ズズズズズ……!


 鏡面の地面が波打ち、黒い泥のようなデータが噴き出した。

 現れたのは、かつて俺たちが倒したボスの再生体(リサイクル・データ)

 『ヒート・スライム』、『防衛ゴーレム』、そしてカケルの『機械巨人ポリゴン・ロボ』。

 3体の巨人が、俺たちを見下ろしている。


『Recycling deleted data.(削除データをリサイクルします)』


「使い回しかよ!」


 俺は悪態をつきながら、ガントレットを構えた。


「先輩! どうしますか!?」


 ミサが俺の後ろに隠れる。

 彼女も分かっている。

 少しでも「管理者権限」や「外観定義」の波長を出せば、即座に感知され、存在ごと消去(BAN)される。


『Delete.』


 再生カケルロボが腕を振り上げる。

 物理的な質量攻撃。生身の人間なら一撃でミンチだ。


「安心しろ。……俺たちが何のために、死ぬ気であの『スパコン』を作ったと思ってる?」


 俺は振り返り、要塞の壁面に露出している巨大な『魔力伝導クリスタル』に駆け寄った。

 あれは、要塞全体に命令を行き渡らせるための神経中枢だ。

 端子なんて便利なものはもちろんない。だが、エンジニアならこじ開けるまでだ。


開通(オープン)だ、ゴラァッ!」


 俺はガントレットの先端から鋭利な探針プローブを伸ばし、クリスタルに物理的に突き刺した。

 ガキィンッ!

 硬質な音と共に、探針がクリスタルを貫き、内部の魔力光に接触する。


「リリス! 聞こえるか!?」


『はい、マスター! 信号、来ました! 要塞を中継アンテナにして、地下ラボの『アカシック・レコード』と接続完了!』


 インカムからリリスの頼もしい声が響く。

 俺は要塞をハックした時に、この回線を確保しておいたのだ。


「よし! 『外部からの通信』までは遮断されてない!」


 俺はガントレットの物理キーボードを叩いた。

 この入力は、純粋な電気信号だ。

 その信号は要塞を経由し、次元を超えて地上の地下ラボへ送られる。

 そこで『アカシック・レコード』が膨大な演算を行い、結果を魔法式として送り返してくる。


 つまり――。


「ここは圏外でも、Wi-Fiは繋がってるってことだ! ……行くぞ、遠隔演算リモート・プロセッシング開始!」


『了解! 演算リソース、フルドライブ!』


 地上の地下ラボで、巨大なファンが唸りを上げる音が聞こえた気がした。

 ガントレットのモニターに、膨大な計算結果が表示される。


「ミサ! お前は俺の端末のサブパネルを使え! UI操作を頼む!」


「了解です! リモートデスクトップですね! 任せてください!」


 ミサが俺のガントレットの側面にあるサブキーボードを操作する。

 俺たちの指が走る。


「再生怪人ごときが、オリジナルに勝てると思うなよ!」


 俺は再生ゴーレムの足元の座標データを、地上のスパコンで計算させ、その結果を「座標干渉ビーム」として要塞の砲塔から発射させた。

 俺自身が魔法を使うんじゃない。要塞に撃たせるんだ。


『Target: Golem_Data』

『Action: Gravity_Compress(重力圧縮)』


 ズドンッ!!


 要塞の砲塔から青い光が放たれ、ゴーレムを直撃する。

 ゴーレムの体がメキメキと音を立てて押し潰された。


『Error... External Attack Detected...(エラー……外部攻撃ヲ検知……)』


「効いた! こっちの権限じゃなく、純粋な魔力砲撃なら通る!」


 運営は「俺たち」の権限は封じているが、「外部からの物理干渉」までは防ぎきれていない。

 俺たちが作ったスパコンは、神の想定外のパワーを持っている。


「次はカケルロボだ! ミサ、視界を塞げ!」


「はいっ! エフェクト『砂嵐ノイズ』、出力最大!」


 ミサがコマンドを打ち込むと、要塞の幻影投影機が作動し、カケルロボの顔面にホログラムのノイズを張り付かせた。

 ロボが虚空を殴り始める。


「よし、いけるぞ! このまま押し切る!」


 だが、敵もさるもの。

 再生スライムが体を分裂させ、酸の雨を降らせてきた。

 物理的な攻撃だ。俺たちにバリアはない。


「くっ、避けろ!」


 俺たちは要塞の陰に隠れる。

 酸が地面を溶かす。

 危ない。一発でも当たれば終わりだ。


「先輩! もっと決定的な一撃を!」


「……ああ。なら、『アレ』を使うぞ」


 俺はリリスに指示を飛ばした。

 このスパコンの最大出力。一撃必殺の切り札だ。


「リリス! 『星の心臓』のリミッターを解除しろ! 全エネルギーを一点に収束!」


『了解! でもマスター、ケーブルが焼き切れます! 一発限りですよ!』


「十分だ! まとめて消し飛ばす!」


 俺はガントレットで照準を合わせる。

 3体のボスが重なる瞬間を待つ。


『Energy Charge... 120%... 150%...』


 地上の地下ラボで、スパコンが悲鳴を上げているのが分かる。

 ボルグたちが必死に冷却水をかけている姿が目に浮かぶようだ。

 エルーカ、レギナ、職人たち。みんなの想いが、この一撃に乗っている。


「今だ……! 『ディメンション・バスター』ッ!!」


 ッターン!!


 俺がエンターキーを叩き割った瞬間。

 要塞の主砲から、極太の青い閃光が放たれた。

 それは次元の壁すら震わせる、純粋な魔力の奔流。


 ズゴオオォォォォッ!!


 光が3体のボスを飲み込む。

 再生怪人たちは断末魔を上げる暇もなく、原子レベルで分解され、消滅した。


「……はぁ、はぁ。……やったか」


 俺はガントレットから煙が出るのを見ながら、その場に崩れ落ちた。

 モニターには『Enemy Eliminated(敵性体排除)』の文字。


「やりましたね、先輩! 私たちの勝ちです!」


 ミサが抱きついてくる。


『マスター! ラボの方は限界です! これ以上の砲撃は不可能です!』


「ああ、ご苦労さん。……十分だ」


 俺は要塞の壁にもたれかかり、正面の白い塔を見上げた。

 邪魔者は消えた。

 あとは、あの中にいる本体に会いに行くだけだ。


『Proceed to the Core.(中枢へ進メ)』


 正面の白い塔の扉が、重々しい音を立てて開く。

 運営からの招待状だ。


「……行くぞ、ミサ」


「はい、先輩!」


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