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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第71話 地上の総力戦。 〜「みんなで支えれば怖くない!」 物理演算で要塞の落下を食い止めろ〜


 王都の上空を覆い尽くす巨大な影。

 真っ白な幾何学立体で構成されたその要塞は、ゆっくりと、しかし確実に降下していた。

 その底面からは赤い光が漏れ出し、触れた空気を焦がしている。


「……リリス! 一応聞くけど、あれ本体か!?」


 地下ラボで、俺はスパコンの物理キーボードを叩きながら叫んだ。

 ゲートから溢れ出す天使たちの処理で手一杯だが、空の脅威を無視するわけにはいかない。


『いえ、違います! 解析結果出ました! あれは運営サーバー本体ではありません!』


 リリスのホログラムが緊迫した表情で告げる。


『あれは、次元の狭間から転送された「物理削除用ツール」……言わば、巨大な消しゴムです! 王都を物理的に圧し潰し、更地にするためだけに送り込まれた自律兵器です!』


「消しゴムだと……? ふざけた質量しやがって!」


 俺は歯噛みした。

 運営は自分たちが安全な別次元に引きこもったまま、この世界をリモートで破壊するつもりだ。


「先輩! ゲートの制御が不安定です! 向こう側からの干渉が強すぎて、装置の処理が追いつきません!」


「くそっ、天使どもの数が増えてる! ……エルーカ、レギナ! 聞こえるか!?」


 俺はインカムのマイクに向かって叫んだ。


 ◇


 地上。王都中央広場。

 そこは既に戦場と化していた。

 地下から湧き出た天使の群れが市民を襲い、空からは要塞の重圧(プレッシャー)が降り注ぐ。


『――エルーカ、レギナ! 空の要塞を食い止めろ! あれが着地したら王都は終わりだ!』


 師匠の声が響く。


「了解です! ……って、簡単に言いますけど!」


 エルーカは聖剣を一閃させ、目の前の天使を斬り伏せた。

 見上げる空には、山脈ほどもある巨大な質量。

 あんなものを、どうやって止めるというのか。


「弱音を吐くな、勇者! マスターが『止めろ』と言ったなら、止めるのが私たちの仕事だ!」


 レギナが杖を掲げる。

 彼女の周囲に展開された数百の氷槍が、空に向かって一斉射出された。


「『氷結弾幕アイシクル・ストーム』!」


 無数の氷が要塞の底面に突き刺さる。

 だが、白い装甲に弾かれ、傷一つ付かない。


「硬い……! それに、重すぎる!」


 魔法の衝撃など意に介さず、要塞は降下を続ける。

 このままではあと数分で、王都の尖塔が接触し、崩壊が始まる。


「一人じゃ無理なら、全員でやるしかありません!」


 エルーカは広場を見渡した。

 逃げ惑う人々の中に、見覚えのある顔があった。

 冒険者ギルドの面々、衛兵隊、そしてカレンから来た商人たち。


「皆さん! 聞いてください!」


 エルーカは瓦礫の上に立ち、聖剣を高く掲げた。

 白金の光が、絶望に染まる街を照らす。


「この街は、私たちが守るんです! 逃げても助かりません! 全員で、あの空の化け物を押し返しましょう!」


 その声は、魔力に乗って戦場全体に響き渡った。

 一瞬の静寂。

 そして――。


「……おうよ! 勇者様の言う通りだ!」


「俺たちの街を潰させてたまるか!」


 冒険者たちが武器を構え直す。

 王宮魔導師団が杖を空に向ける。

 さらに、カレンの魔導技師たちが、持ってきた魔導砲やバリスタを急いで設置し始めた。


「よし! 全火力、上空の要塞に集中!」


「撃てぇぇぇぇッ!!」


 ドォォォォォォン!!


 無数の魔法、矢、砲弾が、逆巻く滝のように空へ昇っていく。

 炎、雷、風。

 属性の異なる魔力が一点に集中し、要塞の底面で炸裂する。


 ズズズッ……!


 要塞の降下速度が、わずかに鈍った。


「効いてる! でも、まだ足りない!」


 エルーカが歯を食いしばる。

 支えることはできても、押し返すには至らない。


「ならば、私が支点を作ろう!」


 レギナが前に出た。

 彼女は自分の魔力を極限まで練り上げ、地面に杖を突き立てた。


「『世界樹の雫』よ、力を貸せ! 大地より出でよ、氷の巨柱!」


 彼女の胸元で、ルナから託された雫の欠片(お守りとして持っていたもの)が輝く。


 ゴゴゴゴゴ……!


 広場の四方から、太い氷の柱が天に向かってせり上がった。

 それは要塞の底面に接触し、ミシミシと音を立ててその重量を受け止める。


「ぐぅ……ッ! 重い……な……!」


 レギナの口から血が溢れる。

 都市一つを押し潰す質量を、魔力だけで支えているのだ。


「レギナさん! 私も!」


 エルーカがレギナの背中に手を当て、自身の聖なる魔力を注ぎ込む。

 さらに、周囲の魔導師たちも駆け寄り、次々と魔力を供給していく。


「いけぇぇぇぇッ!」


 人々の想いが、物理的な力となって要塞を押し留める。

 降下が、止まった。


 ◇


『マスター! 要塞の降下が停止しました!』


 地下ラボで、リリスが叫ぶ。

 モニター越しに見る地上の光景に、俺は震えた。


「あいつら……やりやがったな」


 エルーカとレギナ、そしてこの街のみんなが、奇跡を起こした。

 なら、次は俺の番だ。


「ミサ! あの要塞、内部に転送用の回路があるはずだ! 解析できるか!?」


「やってます! ……ありました! あれ自体が巨大な『魔力回路』です! 内部に次元転送用のビーコンが埋め込まれてます!」


「やっぱりな。あいつは別次元から転送されてきた。……つまり、あいつの中には『向こう側』へのパスが残ってる!」


 俺はコンソールに向き直り、キーボードを叩いた。

 俺自身のスキルは使えない。


 だが、俺たちが作り上げたこのスパコン『アカシック・レコード』は違う。


 これは純粋な機械だ。このマシンの演算能力を使って、ゲートの座標設定を物理的に書き換える。


「ターゲット変更! 座標『次元の狭間』への接続を一時中断! 目標、『上空の要塞内部』!」


 本来の目的地である「神の領域」への接続は、妨害が強すぎて安定しない。

 ならば、一度あの中継地点(要塞)飛び移り、そこの回線を乗っ取ってから、本拠地へ逆流すればいい。

 ハッカーの常套手段、踏み台攻撃(ホッピング)だ。


「マシンスペック全開! 演算リソースをすべて座標計算に回せ!」


『Warning: CPU Load 98%...』


 スパコンが悲鳴を上げ、冷却ファンが轟音を立てる。

 だが、耐えてくれ。お前ならできるはずだ。


「繋がれぇぇぇッ!」


 ッターン!!


 俺が物理キーボードのエンターキーを叩き割る勢いで押した瞬間。

 ゲートから溢れ出していた赤黒い光が、瞬時に鮮やかな青色へと変わった。

 天使の放出が止まり、空間が安定する。


『Connection Established to Target "Flying Fortress".(対象「飛行要塞」への接続確立)』


「よし、繋がった!」


 俺はインカムのスイッチを入れた。


「エルーカ、レギナ! よく耐えた! ゲートは繋がったぞ!」


『ぜぇ、はぁ……! し、師匠……もう限界です……!』


「十分だ! 今から俺たちがそっちに行く! 要塞の制御を奪って、空へ還してやる!」


「行こう、ミサ。楽しい空の旅だ!」


「はいっ! ……あ、酔い止め飲んでおきます?」


「いらん! 冗談言う余裕があるならまだ大丈夫だな!」


 俺たちは青く輝くゲートへと飛び込んだ。

 チート能力は封印されたままだ。

 だが、俺たちには知識と、仲間と、作り上げた最強の武器(スパコン)がある。


 俺たちの姿が光の中に消えると同時に、地下室は静寂を取り戻した。


 残されたモニターには、要塞の内部構造図と、赤く点滅する『DANGER』の文字だけが映し出されていた。


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