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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第70話 開かれる扉《ゲート》。 〜神様からの贈り物は、王都を潰す「物理削除ツール(巨大要塞)」でした〜


 地下ラボでの仮眠から目覚めると、既に昼過ぎだった。

 重い体を起こすと、目の前には安定稼働を続ける巨大な装置――次元ゲート開放装置『アカシック・レコード』が、静かに青い光を放っていた。


「……動いてるな」


 俺は眼鏡をかけ、モニターを確認した。

 エラーなし。冷却システム正常。魔力供給率は100%で安定している。

 昨夜のデスマーチの結晶は、完璧な状態でスタンバイしていた。


「おはようございます、先輩。……顔洗ってきました?」


 ミサが濡れた髪をタオルで拭きながら入ってくる。

 彼女も少し顔色は悪いが、その瞳にはやる気がみなぎっていた。


「ああ。……いよいよだな」


「ですね。……これを開いたら、もう後戻りはできませんよ」


 ゲートを開くということは、運営()の領域に土足で踏み込むということだ。

 向こうも黙ってはいないだろう。

 前回のような「警告」では済まない。全力の排除行動に出るはずだ。


「覚悟はできてる。……みんなもな」


 俺が振り返ると、エルーカとレギナが完全武装で待機していた。

 エルーカは聖剣を腰に佩き、レギナはいつもの扇子ではなく、禍々しい魔力を秘めた杖を握っている。


「師匠! いつでも行けます!」


「マスター。私の氷結結界で、この拠点を要塞化しておいた。多少の攻撃なら耐えられるはずだ」


 頼もしい限りだ。

 俺は深く息を吸い込み、メインコンソールの前に立った。


「リリス。座標セット。ターゲットは『次元の狭間・管理領域』」


 俺が呼びかけると、コンソールからリリスのホログラムが飛び出した。

 今日は彼女も、どこか緊張した面持ちだ。


『座標固定。空間接続シークエンス、準備完了です。……マスター、心拍数が上がっていますよ』


「はっ! 武者震いだ」


 俺は震える指先を隠すように、強くキーを叩いた。

 このワンキーで、世界が変わる。


「……行くぞ! 次元ゲート、開放(オープン)!」


 ッターン!!


 エンターキーを叩き込んだ瞬間、装置が唸りを上げた。

 『星の心臓』が眩い光を放ち、膨大な魔力が空間の一点に収束していく。


 ブォォォォン……!!


 地下室の空気が歪む。

 目の前の空間がガラスのようにひび割れ、そこから真っ白な光が漏れ出した。

 次元の裂け目だ。


『Connection Established.(接続確立)』

『Gate Opening... 30%... 50%...』


「開いた……! これが、神の領域への入り口!」


 ミサが息を飲む。

 裂け目は徐々に広がり、人が通れるほどの大きさになっていく。


 だが――。


『Warning! Warning! Unauthorized Access Detected!(警告! 警告! 不正アクセスを検知!)』


 突如、ラボ中にけたたましい警報音が鳴り響いた。

 モニターが赤く染まり、無数の警告ウィンドウがポップアップする。


『Security Protocol Level 5 Activated.(セキュリティレベル5、発動)』

『Target: Illegal User. Execute Immediate Deletion.(対象:不正ユーザー。即時削除を実行)』


「来たか……!」


 俺が身構えた瞬間、開いたばかりのゲートの向こう側から、何かが飛び出してきた。


 ヒュンッ! ヒュンッ!


 それは、光の矢だった。

 いや、矢ではない。光で構成された「剣」を持った、純白の翼を持つ人型。

 以前、電脳空間で戦った『天使型セキュリティ』だ。

 だが、今回はデータ上の存在ではない。

 質量を持った、現実の脅威として実体化している。


「キシャアアアッ!」


 天使たちが奇声を上げ、狭い地下室を飛び回る。


「させませんっ!」


 エルーカが即座に反応し、聖剣を振るう。

 一閃。先頭の天使が両断され、光の粒子となって消える。


「数は多いぞ! ミサ、マスターを守れ!」


 レギナが氷の障壁を展開し、降り注ぐ光の剣を防ぐ。

 次から次へと、ゲートの向こうから天使が湧き出してくる。

 まるで、壊れた蛇口だ。


「くそっ、こっちの世界に逆侵攻してきやがった!」


 俺はコンソールにかじりつき、ゲートの制御を維持しようとする。

 だが、敵のハッキングも激しい。

 ゲートを強制的に閉じようとする圧力と、逆に過負荷をかけて爆発させようとする攻撃が同時に来ている。


「先輩! これマズいです! ゲートが不安定になってます!」


「抑えろ! 今閉じたら二度と開かん!」


 俺とミサは必死に防衛コードを打ち込む。

 だが、絶望は地下だけではなかった。


 ズズズズズ……!


 地響きと共に、天井からパラパラと埃が落ちてくる。

 いや、天井だけじゃない。王都全体が揺れている。


『マスター! 王都上空に、超巨大な魔力反応! これは……!』


 リリスが外部カメラの映像をモニターに映し出す。

 そこには、信じられない光景が映っていた。


 王都の空が、割れていた。

 青空を引き裂くように巨大な亀裂が走り、そこから――都市一つを覆い尽くすほどの巨大な『何か』が降下してきていた。


 それは、真っ白な幾何学立体で構成された、空飛ぶ要塞。

 あるいは、神の鉄槌。


「……『管理者の箱庭(アドミン・ガーデン)』の一部か?」


 俺は戦慄した。

 運営()は、俺たちを消すためだけに、本拠地の一部を切り離して落としてきたのだ。

 質量兵器としての「空からの城落とし」。

 あんなものが墜ちてきたら、王都どころかこの国が消滅する。


『Notification: Physical Deletion of Area "Royal Capital" will commence in 10 minutes.(通知:エリア「王都」の物理的削除を10分後に開始します)』


 無慈悲な宣告。

 猶予は10分。

 地下からは天使の群れ、空からは巨大要塞。

 完全なるチェックメイトだ。


「……ははっ。随分と派手な嫌がらせだな」


 俺は乾いた笑いを漏らした。

 ここまでされると、逆に清々しい。

 向こうも本気ってわけだ。


「師匠! どうしますか!? このままじゃ街が……!」


 エルーカが天使を斬り伏せながら叫ぶ。


「……やることは一つだ」


 俺は立ち上がり、ガントレットを強く握りしめた。

 逃げる場所なんてない。

 迎え撃つしかないんだ。


「総力戦だ! エルーカ、レギナ! お前たちは地上へ出て、あの空飛ぶ要塞を食い止めろ! 街の人々を守るんだ!」


「で、でも! 師匠たちは!?」


「俺たちはここで、このゲートを安定させる! 道が繋がれば、俺たちが直接あの中に乗り込んで、中枢を叩く!」


 敵が降りてきたなら好都合だ。

 わざわざ行かなくても、向こうから出向いてきてくれたんだからな。


「……分かりました! 必ず、守り抜きます!」


「マスター。……死ぬなよ」


 二人は頷き、地下室を飛び出していった。

 残されたのは、俺とミサ、そしてリリス。

 目の前には、依然として天使を吐き出し続ける不安定なゲート。


「さあ、ミサ。俺たちの仕事だ」


 俺はキーボードに指を走らせる。


「この暴れ馬(ゲート)、手懐けて、逆に利用してやるぞ」


「はいっ! ……もう、先輩ってば人使い荒いんですから!」


 地下と地上。

 二つの戦場で、俺たちの最後の防衛戦が始まった。

 時間は10分。

 世界が消えるか、俺たちが神に届くか。

 勝負の時だ。


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