第52話 サーバー塔の物理障害《ハードウェア・エラー》。 〜熱暴走の原因は「パイプ詰まり」。ついでにジャンクパーツも回収だ〜
北の山頂にそびえ立つ『雨乞いの塔』。
近づいてみると、それは古代の石造りの塔に見えて、細部には明らかにオーバーテクノロジーな金属パイプや排気口が露出していた。
「……古代文明の遺跡って言うより、老朽化した工場だな」
俺はワゴン車を降り、塔を見上げた。
外壁からは蒸気が漏れ出し、ブォォォン……という低い駆動音が響いている。
「師匠。ここを直せば、雨が降るんですよね?」
エルーカが聖剣を背負い直す。
「ああ。ここはただの遺跡じゃない。この地域一帯の気象を管理する『環境制御サーバー』だ。中の機械が熱暴走して、雨雲生成プロセスが止まってるんだろ」
「なるほど。つまり、お掃除ですね!」
ミサが工具箱を抱えて降りてくる。
「それに先輩! ここ、お宝の山ですよ! 外壁に使われてるあの金属、耐熱ミスリルじゃないですか? あれがあれば、スパコンの冷却フィンや筐体に使えますよ!費用大幅削減!」
「あそこのパイプも、冷却液の循環に使えそうだな」
俺とミサは顔を見合わせ、悪い笑みを浮かべた。
今回の目的は修理だが、ついでに「使えそうなジャンクパーツ」を回収(という名の略奪)していけば、開発費を大幅に節約できる。
「……マスター。目が¥マークになっているぞ」
レギナが呆れたように言うが、俺は気にしない。
金貨5000万枚分のスパコンを作るには、なりふり構っていられないのだ。
手持ちの『星の心臓』はあくまでバッテリー。それを動かす本体がなければ意味がない。
「よし、行くぞ! ルナ、離れるなよ」
「ん。……ぴったんこ」
俺はルナを抱き上げ、ルナは俺の頬にぴったりと自分の頬を寄せた。
◇
塔の内部は、蒸し風呂のような熱気で満ちていた。
「暑っ……! サウナですかここは!」
ミサがハンカチで汗を拭う。
通路の至る所から蒸気が噴き出し、床には得体の知れないオイルのような液体が溜まっている。
「ギギギ……侵入者……排除……」
通路の奥から、錆びついた金属音が響く。
現れたのは、球体に手足が生えたような奇妙な魔物――いや、自律警備ロボットだ。
「『警備ドローン』か。随分と型落ちだな」
俺は眼鏡で解析する。
メンテナンス不足で装甲はボロボロ、AIもバグって敵味方の識別ができなくなっている。
「来ますよ! 迎撃します!」
エルーカが前に出る。
ドローンが目から怪光線を放つが、彼女はそれを盾で受け流し、一足飛びに懐へ潜り込んだ。
「はぁっ!」
一閃。
ドローンの胴体が両断され、火花を散らして崩れ落ちる。
「ナイスだエルーカ! ……おっ、こいつのコア、まだ生きてるな」
俺は破壊されたドローンの残骸から、光る魔石チップを引っこ抜いた。
『古代の演算チップ(中品質)』。
新品を買えば金貨10枚はする代物だ。儲け儲け。
「よし、回収。ミサ、袋に入れとけ」
「はーい! ちりつもですね!」
俺たちは敵を倒すたびに、せこせこと素材を剥ぎ取りながら進んでいった。
もはや冒険というより、解体業者の様相だ。
「……マスター。あそこを見ろ」
中層階に差し掛かったところで、レギナが足を止めた。
彼女が指差す先、通路の壁が崩落し、巨大な空洞が口を開けていた。
そしてその奥には――。
「な、なんですかあれ……!?」
エルーカが絶句する。
空洞の中では、赤く発光する巨大なスライムが、太いパイプに絡みついて脈動していた。
スライムの体内には、無数の金属片や歯車が取り込まれている。
『Warning: Cooling System Failure.(警告:冷却システム異常)』
『Pipe Clogged.(パイプ詰まり)』
HUDに警告が表示される。
「……なるほど。あいつが原因か」
俺は状況を理解した。
あの『ヒート・スライム』が、冷却水を循環させるメインパイプに詰まって、熱を吸収して巨大化したんだ。
人間で言えば、血管にコレステロールが詰まっているような状態。そりゃシステムも熱暴走するわ。
「あいつを退かせば、冷却システムが復旧するはずだ。……だが」
俺はスライムのステータスを見た。
熱エネルギーを吸収しすぎて、温度が数千度に達している。
下手に攻撃すれば、大爆発を起こして塔ごと吹き飛びかねない。
「物理攻撃は危険だ。爆発するぞ」
「じゃあ、魔法で冷やしますか?」
レギナが杖を構える。
「いや、急激に冷やすとパイプが割れる可能性がある。……精密作業が必要だ」
「ミサ、あいつの熱エネルギーを『転送』するルートを作れるか?」
「転送、ですか?」
「ああ。スライムの中にある熱だけを、別の場所に逃がす。パイプを傷つけずに中身だけを空にするんだ」
「なるほど! 『排熱ダクト』を仮想的に繋げばいいんですね!」
ミサがタブレットを操作し始める。
「エルーカ、レギナ。お前たちは周囲のザコを頼む。俺たちが作業に集中できるように守ってくれ」
「了解です!」
「背中は任せろ」
二人が散開し、湧いてくる警備ドローンを蹴散らし始める。
俺はスライムの正面に立ち、ガントレットを展開した。
「ルナ、ちょっとじっとしててな」
「ん。……ナオト、がんばれ」
ルナの応援を受け、俺はキーボードを叩いた。
狙うはスライムの構成データ。
『target: Heat_Slime』
『operation: Energy_Transfer(エネルギー転送)』
「ミサ、パスを通してくれ!」
「はいっ! 転送先……塔の屋上! 大気中に放出します!」
ミサが空中に光のラインを描く。
スライムと屋上を繋ぐ、見えないパイプライン。
「――転送開始!」
ッターン!
俺がキーを叩くと、スライムの体が激しく明滅し始めた。
赤かった体色が、徐々に薄まり、青へと変わっていく。
同時に、塔の外――遥か上空に向かって、猛烈な熱風が噴き出した音が聞こえた。
『Energy Level: Dropping...(エネルギーレベル:低下中)』
数分後。
あんなに巨大だったスライムは、熱を失って手のひらサイズのプルプルしたゼリーに縮んでしまった。
パイプの詰まりが解消され、ゴウウウッ! と冷却水が流れ始める音が響く。
「よし! 冷却再開!」
塔内の温度が、急速に下がっていく。
蒸気が晴れ、視界がクリアになる。
「やりましたね、師匠!」
エルーカが駆け寄ってくる。
俺は縮んだスライムを拾い上げた。
「こいつ、高密度の熱耐性を持ってるな。……素材として使えるかもしれん」
「うわ、先輩ちゃっかりしてますね。……あ、ついでにそこのパイプも切り取っていいですか? 良さげなミスリルです」
「ほどほどにな。崩れたら困る」
俺たちは「報酬」をしっかりと回収し、塔の最上階――制御室へと向かった。
ハードウェアは直った。あとはシステムを再起動して、雨を降らせるだけだ。




