第51話 渇いた大地と、天文学的な開発費。 〜雨乞いの塔を直して、報酬でスパコンのパーツ代を稼ぎます〜
魔導ワゴン車『ハイエース改』は、赤茶けた荒野をひた走っていた。
王都を出発して数日。エアコンの効いた車内は快適だが、外の景色は過酷さを増していた。
「……先輩。さっき電卓叩いてたんですけど」
助手席でタブレットを操作していたミサが、重い口を開いた。
「次元ゲートを開くための『演算装置』の構築費用……試算が出ました」
「いくらだ?」
「ざっと、金貨5000万枚です」
ブフォッ!!
俺は飲んでいたコーヒーを吹き出しそうになった。
金貨5000万枚。小国の国家予算どころか、大陸全土の流通量に匹敵する額だ。
「……桁、間違ってないか?」
「間違ってないですよぉ。高純度のミスリル基盤に、冷却用の氷竜の逆鱗、他にも諸々……。全部最高級品で揃えたらこうなります」
ミサががっくりと肩を落とす。
次元の狭間にある『運営』の元へ行くには、それだけのスペックが必要ということだ。
ルナを送り届ける旅のついでに小銭を稼ごう、なんて甘い考えじゃ到底届かない。
「はぁ……。どっかに石油王みたいな太っ腹な依頼人、落ちてないかな」
「石油王はいませんが、困っている人はいるようですね」
後部座席のレギナが、窓の外を指差した。
前方に、小さな村が見えてきた。
だが、様子がおかしい。畑はひび割れ、家畜は痩せ細り、村全体が砂埃に沈んでいる。
「おはな、かれてる……」
俺の膝の上で、ルナが悲しそうに窓ガラスに手を当てた。
「ひどい干ばつですね。……寄りましょう、師匠! 見過ごせません!」
エルーカが身を乗り出す。
俺はハンドルを握るミサに合図を送った。
「ああ。まずは情報の補給だ。……あわよくば、金になる仕事があればいいんだが」
◇
村の広場に車を止めると、熱風が俺たちを出迎えた。
井戸の周りには、泥水のような残りを求めて村人たちが列を作っている。
「旅の方……。すまねぇが、分けてやれる水も食料もないだよ……」
村長らしき老人が、よろよろと俺たちに近づいてきた。
「いえ、水なら持ってます。少しだけですがお裾分けを。それにしても……これは一体、どういう状況なんです?」
俺がポリタンクの水を渡すと、村長は涙を流して感謝し、語り始めた。
「三ヶ月じゃ……。もう三ヶ月も、一滴も雨が降っとらんのです。雨乞いの儀式もした、精霊様への供物も捧げた。じゃが、空はあざ笑うかのように晴れたまま……」
村長が指差す空は、雲ひとつない快晴だ。
だが、俺の管理者としての勘が告げている。
これは自然現象じゃない。
「レギナ、この辺りの魔力濃度はどうだ?」
「異常だ。大気中の水属性マナが、完全に枯渇している。まるで何かに吸い取られているようだ」
レギナが鋭い視線で周囲を探る。
「……調べてみる価値はありそうだな」
俺はルナを抱き直し、小声で言った。
「ルナ。ちょっとだけ、力貸してくれるか?また前みたいに俺の力を隠して欲しいんだ」
「うん。……いいよ」
俺の周囲に『認識阻害フィールド』が展開されるのを感じた。
これで運営の監視を欺ける。
「眼鏡、起動。広域気象解析」
俺は空を見上げ、このエリアの気象プログラムを可視化した。
青空の上に、無数の赤いエラーログが浮かび上がる。
『Error: Weather Process Halted.(エラー:気象プロセス停止)』
『Cause: Hardware Malfunction in "Rainy_Tower".(原因:"雨乞いの塔"におけるハードウェア故障)』
「……やっぱりな。バグだ」
上空の雨雲生成プログラムが停止している。
だが、問題はソフト側じゃない。
この地域の天候を管理している物理サーバー――通称『雨乞いの塔』の機械的な故障だ。
「どうしたんですか、先輩?」
ミサがタブレットを持って近づいてくる。
「雨雲を作る装置が壊れてる。ここからコマンドで雨を降らせることもできるが……」
俺は村人たちを見た。
一時的に雨を降らせても、根本的な原因である『塔』を直さなければ、またすぐに干ばつになるだろう。
それに、そんな大規模な気象操作をコマンド一発で行えば、さすがにルナの隠蔽をもってしても運営に怪しまれる可能性がある。
「根本治療が必要だ。……村長さん」
俺は村長に向き直った。
「この近くに、『雨乞いの塔』と呼ばれる遺跡はありませんか?」
「へ? あ、ありますじゃ。北の山頂にある古い塔ですが……あそこは魔物の巣窟で、誰も近づけません」
「俺たちがそれを直せば、雨は降ります」
俺の言葉に、村長が目を見開いた。
「な、なんと!? あんた様方は魔導師様かね!?」
「まあ、似たようなもんです。……で、商談なんですが」
俺は商人モードの顔を作った。
人助けはする。だが、俺たちにも生活と、世界を救うための予算が必要だ。
「塔を修理して雨を降らせたら、報酬を頂けますか? 金貨とは言いません。この村に伝わる『古い書物』や『不思議な石』などがあれば、現物支給で構いません」
田舎の村には、価値の分からない古代の遺物が眠っていることがよくある。
「も、もちろんですじゃ! 村の蔵にあるもの、何でも持っていってくだされ! 雨さえ降るなら、わしらの命以外はなんでも差し出します!」
交渉成立だ。
「よし。全員、何でも屋の仕事だぞ」
俺は仲間たちを振り返った。
「エルーカ、レギナ。お前たちは塔までの露払いと、村の防衛だ。魔物が活性化してる可能性がある」
「了解です! この子たちの未来、守ってみせます!」
エルーカが枯れた井戸のそばにいる子供たちを見て、拳を握る。
「フン、雑魚掃除か。任せておけ」
レギナも杖を構える。
「ミサは俺と一緒に塔へ登って、システムの修理だ。UIが腐ってる可能性があるから、解析を頼む」
「ラジャー! 物理配線なら任せてください!」
そして、俺は腕の中のルナを見た。
「ルナ。お前は俺の『お守り』だ。……ずっと離れないでいてくれるか?」
これが一番重要な任務だ。
彼女がいなければ、俺は力を振るえない。
「ん。……はなれない。ずっといっしょ」
ルナが俺の服を強く握りしめる。
その瞳は、不安よりも信頼の色が強かった。
「よし、出発だ!」
俺たちは再びワゴン車に乗り込んだ。
目指すは北の山頂、『雨乞いの塔』。




