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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第42話 隣町が「404 Not Found」。 〜メモリ不足のため、レイクサイドは削除されました〜

 

 その異変は、いつも通りの朝に起きた。


「マスター。……マ、スタ……?」


 朝食の席で、リリスのホログラムがノイズ混じりに明滅した。

 彼女の動きがカクカクと止まり、表情がフリーズしている。


「おい、どうした? 調子悪いのか?」


 俺が声をかけると、リリスはハッとしたように瞬きをした。


「……いえ。申し訳ありません。一瞬、バックグラウンド処理が重くなったようで。サーバーとの同期(シンク)エラーです」


「サーバー? お前、スタンドアローン(単独稼働)じゃなかったのか?」


 俺が尋ねると、リリスは少し困ったような顔をした。


「基本的にはそうです。ですが……今朝から、何者かが私に『ハンドシェイク(接続要求)』を執拗に送ってきているのです」


 リリスの声に、微かな震えが混じる。


「発信元不明の巨大なシステムから、未知のプロトコルで私の制御権を握ろうとする『割り込み処理(インタラプト)』が断続的に発生しています」


 リリスは俺が魔導書にインストールしたAIだ。外部と勝手に通信する機能はつけていないはずだが……。

 カケルの件があって以来、俺たちは神経質になっている。


「念のため、ファイアウォールの強度を上げとけよ」


「了解です。……ただのパケット迷子だといいのですが」


 リリスは不安げに呟き、姿を消した。


 ◇


 その数時間後。

「何でも屋」に、冒険者ギルドの顔役が血相を変えて飛び込んできた。


「ナオトさん! 緊急依頼だ! 頼む、すぐに出動してくれ!」


「どうしたんですか、そんなに慌てて」


 俺が対応すると、顔役は震える声で言った。


「隣町の『レイクサイド』と連絡が取れないんだ。朝から行商人が誰も来ないし、魔導通信も繋がらない。……様子を見に行ってくれないか?」


 レイクサイドは、ここから馬車で1時間ほどの距離にある宿場町だ。

 通信障害か? またクラッカーの残党が悪さをしているのかもしれない。


「分かった。すぐに行く」


 俺たちはすぐに準備を整えた。

 今回の足は、ミサが新しく開発デザインした『魔導ワゴン車《ハイエース改》』だ。

 これなら全員乗れるし、機材も積める。


「出発しますよー! しっかり捕まっててください!」


 ミサがハンドルを握り、ワゴン車が王都の街道を爆走する。

 なんともファンタジーらしくない光景だ。いや、ある意味ではめちゃくちゃファンタジーな光景か?

 車内では、エルーカとレギナが武器の手入れをしていた。


「ただの通信機の故障だといいんですが……」


「嫌な予感がするな。リリスの不調といい、何かが起きている気がする」


 レギナの勘は当たる。

 俺も胸騒ぎを覚えながら、窓の外の景色を眺めていた。

 やがて、ワゴン車は峠を越え、レイクサイドの町が見える丘の上に差し掛かった。

 そこからは、美しい湖のほとりにある町並みが見えるはずだった。


「……え?」


 運転席のミサが、素っ頓狂な声を上げた。

 急ブレーキがかかり、ワゴン車がキキーッと停止する。


「おいミサ、急に止まるな……」


 文句を言いかけた俺の言葉は、フロントガラス越しの光景を見て凍りついた。


 ない。

 町が、ない。


 瓦礫の山があるわけでも、火事の跡があるわけでもない。

 そこには、ただ真っ平らな「灰色の平面」が広がっていた。

 まるで、地図の上から消しゴムで綺麗に消したかのように。

 家も、木々も、湖の水さえも消え失せ、開発中のゲーム画面のような無機質なグリッド線だけが地面に引かれている。


「な、なんですかこれ……!? 町は!? 人は!?」


 エルーカが車を飛び出し、叫ぶ。

 俺たちも後に続いた。

 近づいてみると、その異常性が際立つ。

 地面の草木は、ある境界線を境にスパッと切断され、その先は何もない灰色の床になっている。


「……また『未実装エリア』だ」


 俺は呻いた。

 以前、カケルのダンジョンで見たのと同じだ。データが存在しない場所。


「マスター! 魔力反応が一切ない! 生命反応もゼロだ! 数千人の住民が、一瞬で蒸発したというのか!?」


 レギナが青ざめる。


「リリス! 解析しろ! 何が起きた!?」


 俺が叫ぶと、眼鏡のHUDにノイズが走った。


『……解析不能。……いえ、これは……』


 リリスの声が、いつになく機械的で、冷たいものに変わっていく。


『通知を受信しました。システムログを表示します』


 空中に、巨大な赤いウィンドウがポップアップした。

 それは、誰かに宛てたメッセージというよりは、世界そのものへの事務的な「通達」だった。


『System Notification:』

『Area "Lakeside" has been deleted due to insufficient memory resources.』

『(システム通知:エリア「レイクサイド」は、メモリリソース不足のため削除されました)』


「……削除、だと?」


 俺は我が目を疑った。

 攻撃魔法で破壊されたんじゃない。

 容量が足りないから、古いファイルをゴミ箱に捨てるように、町一つが消されたのだ。


『Resident data has been archived. Thank you for your cooperation.』

『(住民データはアーカイブへ移動しました。ご協力ありがとうございます)』


 無機質な文字が、俺たちの絶望を嘲笑うように明滅する。


「ふざけんな……! 人が住んでるんだぞ!? それをデータみたいに……!」


 俺は地面を殴りつけた。

 カケルの言っていたことが脳裏をよぎる。

 『サービス終了』。

 これが、その始まりなのか。


「あ、あぁ……」


 その時、リリスのホログラムが激しく明滅し、彼女が頭を抱えてうずくまった。


『マスター……助け……て……。頭の中に……命令が……!』


「リリス!?」


『「次の削除エリアを指定せよ」。……そんな、嫌です……私は……!』


 リリスの体が、黒いノイズに侵食されていく。

 彼女は俺たちに向けて、必死に手を伸ばした。


『逃げて……ください……。私が……私じゃなくなる前に……!』


 次の瞬間。

 リリスの瞳からハイライトが消え、赤く染まった。

 彼女は虚空を見つめ、抑揚のない声で告げた。


『Target Verified. Next deletion area: "Royal Capital".』

『(対象確認。次の削除エリア:「王都」)』


「……ッ!」


 最悪の宣告。

 敵は、ハッカーや魔王なんてレベルじゃない。

 この世界を作った「(運営)」そのものが、俺たちを消しに来たんだ。

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