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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第41話 恋の三者会談《トライアングル・サミット》。 〜議題:「ナオト包囲網」の強化について〜


 屋上での修羅場から一夜明けた、とある日の昼下がり。

 俺の営む「何でも屋」は、かつてないほど奇妙な緊張感に包まれていた。


「……静かだな」


 俺は店番をしながら、手元の依頼品(壊れた魔導ラジオ)を修理していた。

 いつもなら、エルーカが掃除をしながら鼻歌を歌い、レギナが紅茶を淹れ、ミサがタブレット片手に走り回っている時間帯だ。

 だが、今日は三人ともオフィスの奥にある「休憩スペース」に引きこもり、扉を固く閉ざしている。


 『重要機密会議中。立ち入り禁止(マスター含む)』


 扉には、そんな張り紙がしてあった。

 中からは、ボソボソと話し合う声が漏れてくる。


 ……あいつら、この店の壁がベニヤ板並みに薄いの忘れてないか?

 あと、俺の聴力が「管理者権限」による身体強化で地獄耳になってることも。


「丸聞こえなんだよなぁ……」


 俺は苦笑しつつ、ラジオの配線を弄るふりをして、耳をそばだてた。


 ◇


 薄暗い部屋の中、ちゃぶ台を囲んで三人の女性が向かい合っていた。

 全員、なぜか伊達メガネをかけ、深刻な表情を浮かべている。


 議長席(?)に座るレギナが、木槌の代わりにスプーンでテーブルを叩いた。


「――では、これより第一回『恋の三者会談トライアングル・サミット』を開催する」


 レギナが低い声で宣言する。


「本日の議題アジェンダは、昨夜発生した重大インシデント……『屋上における抜け駆けの是非』についてだ」


 レギナの鋭い視線が、対面に座るミサに突き刺さる。

 ミサは「うげっ」と顔をしかめ、視線を逸らした。


「だから謝ったじゃない。あれは星空が綺麗で、いい雰囲気になったから、つい口走りそうになっただけだし……」


「たわけッ!」


 バンッ!

 レギナがテーブルを叩いて立ち上がる。


「その甘さが命取りなのだ! 我々は今、絶妙なバランスで薄氷の上に立っているのだぞ! 私、ポンコツ勇者、そして泥棒猫! この三すくみの絶妙な均衡だ!」


「誰が泥棒猫よ!」


「事実だろう! 誰かが抜け駆けして告白すれば、この薄氷は簡単に割れてしまうのだ! 貴様は私とポンコツ勇者を冷たい海の底に沈め、己の欲求のみを満たそうとした罪深い存在なのだぞ!」


「な、なにもそこまで言わなくても……」


 ミサがタジタジになる。

 隣でエルーカも、うんうんと深く頷いていた。


「レギナさんの言う通りです! 昨日のミサさん、目がトロンとしてて完全に『雄を狩る目』をしてました! あれは有罪(ギルティ)です!」


「うっ……。だ、だって先輩が『お前はキラキラしてる』なんて殺し文句言うから……」


「くぅぅっ! 師匠も師匠です! 無自覚タラシめ!」


 エルーカがハンカチを噛む。


「とにかく! 昨日のような単独行動は禁止です。……こ、告白するなら……全員で、です!」


 エルーカの提案に、場が静まり返った。


「ぜ、全員で……?」


 ミサが目を丸くする。


「そ、そうです! 『せーの』で言えば、誰かがフライングすることもないし、師匠も誰か一人を選ぶプレッシャーから解放されるはずです!」


「……却下だ」


 レギナが腕組みをして首を振った。


「たわけるな! 馬鹿どもが! まだ時期尚早だ!」


「時期尚早?」


「うむ。我々にはまだ……マスターを支える技量と器量が足りていない!」


 レギナは真剣な眼差しで語り始めた。


「いいか? マスターはこの世界の管理者だ。神にも等しい存在だ。その伴侶となる者が、ただ『好き』という感情だけで務まると思うか?」


「む……。それは……」


「家事スキル、戦闘能力、事務処理能力、そして夜の奉仕スキル……。全てにおいて最高水準(ハイスペック)でなければならんのだ! 今の我々で、マスターを真に満足させられる自信があるか!?」


 レギナの熱弁に、エルーカとミサが押し黙る。


「……確かに。私、この前オムライス焦がしちゃいましたし……」


「私も……UIデザインは得意だけど、料理はレンチン専門だし……」


「だろう? 今のまま告白しても、『可愛いペット』止まりだ。マスターの『パートナー』にはなれん」


 レギナが重々しく告げる。

 なんという高い意識か。

 これにはミサも、呆れ半分、尊敬半分といった顔をした。


「……レギナっちってさ、普段クールなくせに、先輩のことになると重いよね。愛が」


「さえずるな! 魔族の愛は重力に従うのだ!」


「じゃあどうするの? このまま指をくわえて待ってろって言うわけ? 私そういうの苦手なんですけど。肉食系目指してるんで」


 ミサが頬杖をつく。


「それをどうしようかという話をするのだろうが!」


「……つまり、何も思いつかないと」


「ぐっ……! い、意見を聞くのだ! 三人の! 集合知(ブレインストーミング)だ!」


 レギナが開き直った。

 結局、ノープランらしい。


「はぁ……。仕方ないなぁ」


 ミサが眼鏡の位置を直し、ホワイトボードに見立てた空中ウィンドウを展開した。


「じゃあ整理しましょう。まず、先輩の『好みのタイプ』を分析しよう。これ超重要」


「おおっ! さすがミサさん、話が早いです!」


「まずはエルーカちゃん。君のアピールポイントは?」


「えっと……若さと、元気と、胸の大きさと、あと聖剣が使えることです!」


「物理だね。でも先輩、意外と『健気さ』に弱いから、そのポンコツ犬属性は刺さってると思う」


「い、犬じゃないです!」


「次、レギナっち」


「私は……包容力と、家事全般、そして大人の色気だ。マスターは疲れている。癒やしを求めているはずだ」


「自己評価高いねー。でもまあ、先輩はマッサージ好きだし、膝枕作戦は有効かな」


「フフン。だろう?」


「で、私だけど……」


 ミサは自分の胸に手を当てた。


「私は『共有』かな。先輩の過去も、仕事の辛さも、言葉のニュアンスも、全部共有できる。これって最強のアドバンテージでしょ?」


「……ぐぬぬ。そこが卑怯過ぎるのだ! チートだ! チートではないか!」


「確かにズルいです……」


 三者三様。

 属性は見事にバラけている。


「チートかどうかはともかく、結論としてさ。先輩って『全属性耐性』持ってるけど、同時に『全属性弱点』でもある気がするんだよね」


 ミサがペンを回す。


「来るもの拒まず、去るもの追わず。でも懐に入れた相手にはとことん甘い。……つまり、今の『三人でわちゃわちゃしてる状態』が、先輩にとって一番居心地がいいんじゃない?」


「……それは、あるかもしれん」


 レギナが頷く。


「マスターは争いを好まない。誰か一人を選べば、他の二人が傷つく。それを恐れて、決定を先送りにしている可能性が高い」


「優しい師匠らしいです……」


「だからこそ!」


 ミサが立ち上がった。


「今は『現状維持』が最適解! 抜け駆け禁止! その代わり、全員で先輩を囲い込んで、外堀を埋めていくの! 他の女がこれ以上寄り付かないように!」


「なるほど……! 『ナオト包囲網』の強化ですね!」


「うむ。毒を食らわば皿まで。三人でマスターを骨抜きにし、逃げられないようにしてから……その先は、正々堂々の勝負だ!」


「異議なし!」

「異議なし!」


 三人の手が重なる。

 奇妙な連帯感が、そこには生まれていた。


 ◇


「……盛り上がってるとこ悪いけど、全部聞こえてるんだよなぁ」


 俺はラジオの修理を終え、深いため息をついた。

 骨抜きにするとか、外堀を埋めるとか、物騒な単語が飛び交っている。

 俺の平穏な老後はどうなってしまうんだ。


 でも。


「……選ぶ、か」


 俺の手が止まる。

 もし、あいつらが本気で告白してきたら。

 三人が同時に、俺に想いをぶつけてきたら。


 俺は、誰を選べばいいんだろう?


 エルーカ。

 真っ直ぐで、眩しいほどの信頼を寄せてくれる少女。

 彼女の笑顔を見ると、心が洗われるような気がする。守ってやりたいと思う。あと胸がでかい。


 レギナ。

 献身的で、俺の全てを肯定してくれる女性。

 彼女の膝枕で感じる安らぎは、何にも代えがたい。ずっと甘えていたいと思う。意外と太ももがぷにぷにしているのも芸術点が高い。


 そして、ミサ。

 過去を共有し、背中を預けられる相棒。

 彼女と交わす軽口は、俺が「工藤ナオト」であることを思い出させてくれる。隣にいるのが当たり前だと感じる。一番懐かしくて、素の俺をさらけ出せる。


 誰か一人を選ぶということは、他の二人を拒絶するということだ。

 今のこの、騒がしくて温かい関係を、壊すことになる。


「……無理だな」


 俺は首を振った。

 そんな度胸、今の俺にはない。

 俺はやっぱり、ただの事なかれ主義の「何でも屋」だ。


「誰を……選ぶんだろうな、俺は」


 答えの出ない問いを、宙に投げる。

 その時、奥の扉がバタン! と勢いよく開いた。


「先輩! 会議終わりましたー!」

「師匠! お茶にしましょう!」

「マスター、今朝焼いたクッキーを食べよう」


 三人が、何事もなかったかのような笑顔で出てくる。

 その顔を見て、俺は自然と頬が緩んでしまった。


「おう。……ちょうどラジオも直ったところだ」


 今はまだ、これでいい。

 この騒がしい日常が続く限り、俺は「選ばない」という選択をし続けるだろう。

 それが、今の俺にできる精一杯の()()さだ。


「さあ、休憩だ! レギナ、特濃のミルクティー頼む」


「承知した。愛情たっぷりにしてやろう」


「ずるい! 私も愛情入れます!」


「じゃあ私は、スパイス効かせちゃおっかなー」


 ……やっぱり、前言撤回。

 こいつらに囲まれてたら、胃に穴が空くかもしれない。


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