第39話 管理者権限 vs 世界改変。 〜お前のチート設定、全部「初期値《デフォルト》」に戻してやるよ〜
カケルが変身した巨大な機械巨人。
その圧倒的な質量の拳が、俺たちめがけて振り下ろされる。
「1箇所に集まるなッ!」
ドゴォォォォォン!!
俺の指示と同時に全員が飛び退く。
床のグリッドが砕け散り、衝撃波が空間を歪ませる。
『ハハハッ! 逃げ回るだけですか先輩! この「神の体」の前では無力でしょう!』
巨人の胸部にあるコアから、カケルの声が響く。
「神だか何だか知らんが、趣味の悪いアバターだな!」
俺はガントレットを展開し、解析コードを走らせる。
だが、弾かれた。
『Error: Access Denied. Object is protected by "Game_Master".(アクセス拒否。対象はGM権限により保護されています)』
「チッ、自分のデータに『変更不可』属性をつけてやがる!」
これではステータスをいじれない。
カケルは勝ち誇ったように笑う。
『無駄ですよ。今の僕は無敵だ』
巨人の目が、俺を捉える。
『こんなもんですか? ガッカリだなぁ! 美咲先輩から「工藤先輩はすごかった」「あの人は天才だった」って聞かされてたから楽しみにしてたのに!』
「……ミサが?」
俺は視線をミサに向けた。
ミサは気まずそうに目を逸らしている。
『でも、実際はどうですか? ただ会社に使い潰されて、過労死した負け犬だ! 僕に手も足も出ない!』
カケルが叫ぶ。
『僕はあなたとは違う! この世界に来た時、誓ったんです! ルールに従う側じゃなく、ルールを作る「神」になるんだって!』
「……なるほどな。それが、罪のない人々を巻き込んで、バグだらけの実験を繰り返す理由か」
俺は眼鏡のブリッジを押し上げた。
こいつはムカつくクソガキだが、言ってることは理解できる。
現実世界で認められなかった承認欲求を、この異世界で暴走させているだけのただのガキだ。
「おいミサ。あんな奴にお前の後輩を名乗らせといていいのか?」
「……いいわけないです!」
ミサがタブレットを構え、叫んだ。
「カケル君! 君には才能があると思ってたのに……。こんなことに力を使うなんて、最低ね!」
『うるさい! 美咲先輩も、工藤先輩と一緒に消えちゃえ!』
巨人の胸部コアが赤く輝き、膨大な魔力が収束していく。
広範囲殲滅魔法だ。発動すれば、この空間ごと俺たちは消滅する。
「させねぇよ。……ミサ! あいつの『足場』を崩せるか!?」
「やります! あんな奴、顔も見たくないんで!」
ミサがタブレットにペンを叩きつける。
「地形データ上書き! 『床』属性を『泥沼』に変更!」
ズブブブブ……!
巨人の足元の床が、突如として粘度の高い泥沼に変わった。
巨大な質量が仇となり、カケルの体が沈んでいく。
『なっ……小賢しい! こんなもの!』
カケルが空を飛ぼうとスラスターを噴射する。
だが、そこへレギナとエルーカが突っ込んだ。
「逃がすか! 『氷結鎖』!」
レギナが無数の氷の鎖を放ち、巨人の手足を泥沼に縫い止める。
「今です! 『聖剣・断空』ッ!」
エルーカが跳躍し、巨人の背中にあるスラスターを一刀両断した。
プスンッ、と煙を上げて飛行機能が停止する。
『ぐあああっ! 離せぇぇぇッ!』
「俺はお前を知らないがな、カケル」
俺は巨人の目の前に躍り出た。
ガントレットからケーブルを射出し、巨人の装甲の隙間にある「外部端子」に無理やり突き刺す。
「お前みたいな、自分一人で世界を回せると勘違いしてる馬鹿は、前世でも腐るほど見てきたんだよ!」
――物理接続。
『うぐっ!? 僕の中に……!?』
「見つけたぞ、カケル。お前の『GM権限』の認証キー!」
脳内に流れ込む膨大なデータストリーム。
カケルは自分のステータスをロックしているが、そのロックを管理している「認証サーバー」自体は、この空間のシステムを使っている。
なら、そこを叩けばいい。
「リリス! 認証バイパスを構築しろ! 俺の権限を『スーパーユーザー』に偽装する!」
『了解! セキュリティ突破……残り3秒!』
『やめろ! 僕のデータをいじるなァァァッ!』
カケルが暴れるが、泥と氷に拘束されて動けない。
俺は左手のキーボードを、指が残像になるほどの速度で叩き続けた。
『Authentication: Success.(認証成功)』
『Admin Mode: ON(管理者モード起動)』
俺の視界に、巨人の全てのパラメータが表示される。
無敵設定、攻撃力無限、HP固定……ふざけたチートの山だ。
「ゲームオーバーだ、カケル。……お前のチート、全部『無効化』にするぞ」
俺は最後のコマンドを打ち込んだ。
『Execute: Restore_Default_Settings(初期設定に戻す)』
ッターン!!
強烈なエンターキーの音が響いた瞬間。
巨人の体を覆っていた金色のバリアが霧散し、赤く輝いていたコアの光が消滅した。
『あ、あれ……? 力が……抜ける……?』
カケルの困惑した声。
巨人の装甲がボロボロと剥がれ落ち、ただの鉄屑へと変わっていく。
「今だ! 全員で畳み掛けろ!」
「はいっ! 『聖剣・エクスカリバー』!」
「『終焉の氷河』!」
「『デリート・コマンド』! 消えちゃえ!」
エルーカの極大の光、レギナの絶対零度、そしてミサが描いた消去ビーム。
三つの必殺技が同時に直撃する。
『いやだ……嫌だぁぁぁぁぁっ!! 僕は神だ! 主人公なんだ! こんなところで……!』
カケルの絶叫が響く。
だが、その声も爆発音にかき消され――。
ドォォォォォォン!!
巨大な爆発と共に、機械巨人は跡形もなく消滅した。
◇
煙が晴れると、そこには半透明になりかけたカケルが倒れていた。
アバターの維持ができなくなり、魂だけの存在になりかけている。
「……チート使って負ける気分はどうだ?」
俺が見下ろすと、カケルは虚ろな目で天井を見ていた。
「……なんでだよ。僕の方が……才能も、スキルも、上だったのに……」
「簡単なことだ」
俺は静かに告げた。
「お前は一人で『神様ごっこ』をしてただけだ。俺たちは『チーム』で仕事をした。……システム開発はな、一人じゃできないんだよ」
カケルが視線を動かし、俺の後ろに立つミサ、エルーカ、レギナを見る。
そして、自嘲気味に笑った。
「……ハハ。美咲先輩の言ってた通りだ。工藤先輩は……すげぇや……」
カケルの体が、光の粒子となって崩れ始める。
消滅の間際、彼は俺を睨みつけ、最期に不穏な言葉を遺した。
「……勝ったと思うなよ、工藤先輩。僕はただの『プレイヤー』だ。……この世界には、『運営』がいる」
「運営……?」
「気づいてないのか? この世界自体が……もう『サービス終了』に向かってるってことに……」
言い残し、カケルは完全に消滅した。
後に残ったのは、静寂と、不気味な予言だけ。
「サービス終了……?」
ミサが不安そうに呟く。
俺は崩れゆくダンジョンの天井を見上げた。
カケルを倒しても、まだ終わらない。
いや、むしろこれが始まりなのかもしれない。
このバグだらけの世界の、本当の真実に触れるための。
「……帰ろう。みんなが待ってる」
俺は振り返り、仲間たちに笑いかけた。
先のことは分からない。
だが、このチームなら、どんな無理ゲーでもクリアできるはずだから。
第2章、完結。




