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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第37話 未実装エリアの死闘。 〜無敵モード《ゴッド・モード》のGMを、「チート行為」でBANしてやった〜


 街の中央にそびえる「管理者タワー」。

 その内部に足を踏み入れた俺たちは、異様な光景に息を飲んだ。


「……色が、ない?」


 エルーカが呟く。

 そこは、灰色の空間だった。

 壁も床も天井も、全てがグレー一色。さらに、床には等間隔に黒い線が引かれ、方眼紙のようなグリッド模様になっている。


「『未実装エリア(開発用マップ)』だな。テクスチャも貼られてないし」


 俺はため息をついた。

 ゲーム制作の初期段階で使う、オブジェクトの配置テスト用の空間だ。

 手抜きもいいところだが、逆に言えば、ここがシステムの深層に近いということでもある。


「なんか、落ち着かない場所ですね。足音が響かないし」


 ミサがコツコツと床を叩く。

 物質的な感触が希薄だ。まるでデータの海を歩いているような浮遊感がある。


『Welcome, intruders.(ようこそ、侵入者たち)』


 突如、無機質なアナウンスが響いた。

 前方の空間にノイズが走り、一人の人影が実体化スポーンする。


 全身を金色の鎧で覆い、背中には大袈裟なマント。

 そして頭上には、これ見よがしに『GMゲームマスター』というアイコンが浮いている。


「……出たな。お前がここのボスか?」


 俺が問うと、金色の騎士はクツクツと笑った。


『ボス? 違うな。私はこのエリアの管理を任された「モデレーター(監視役)」だ。……君たちのような不正プレイヤーを排除するためにね』


「不正プレイヤーだと? ふざけんな。先にルール違反してんのはそっちだろうが」


『口の減らない奴だ。……消えろ』


 モデレーターが指を鳴らす。

 瞬間、俺たちの足元の床が消失した。


「うわぁっ!?」


 エルーカとレギナが落下しかけるが、ミサが即座に反応する。


「させないっての! 『空中足場(プラットフォーム)』!」


 ミサが空中に光の床を描き、二人を受け止める。

 俺はガントレットのワイヤーで天井のグリッドにぶら下がった。


「いきなり落とし穴かよ。陰湿だな」


『ほう。耐えるか。ならば直接排除するまで』


 モデレーターが剣を抜く。

 その刀身は、バチバチと赤黒いスパークを放っていた。明らかに「即死属性」が付与されている。


「来るぞ! 迎撃!」


 俺の合図で、エルーカが飛び出す。


「はぁぁぁっ! 『聖剣・一閃』!」


 渾身の一撃が、モデレーターの首を捉える。

 間違いなく直撃コースだ。

 だが――。


 ガィィィン!!


 硬質な音が響き、聖剣が弾かれた。

 モデレーターは身じろぎ一つせず、傷一つついていない。


「なっ……!? 手応えがあったのに、斬れません!」


「私の魔法ならどうだ! 『極大氷結(アブソリュート・ゼロ)』!」


 レギナが絶対零度の冷気を叩き込む。

 しかし、モデレーターの体には霜一つ降りない。


『無駄だ。私の設定値(パラメータ)が見えないのか?』


 モデレーターが嘲笑う。

 俺は眼鏡で奴のステータスを確認し、舌打ちした。


『Status: Invincible(状態:無敵)』

『HP: ∞ / ∞』


「……『無敵モード(ゴッド・モード)』かよ。チーターが」


 開発者用のデバッグ機能だ。

 あらゆるダメージを無効化し、HPが減らない設定になっている。

 まともに戦って勝てる相手じゃない。


『ハハハ! どうした? 攻撃が通じなくて絶望したか? これが「運営」の力だ!』


 モデレーターが剣を振るう。

 赤い衝撃波が飛び、俺たちがいた足場を消し飛ばす。


「卑怯な男は嫌われるわよ! 自分だけ無敵なんてズルいしそんなんの何が楽しいのよ!」


 ミサがスクーターで回避しながら叫ぶ。


『ズル? 違うな。これは「仕様」だ』


 奴は勝ち誇ったように腕を広げた。


『この空間では私がルールだ。私が白と言えば黒も白になる。君たちに勝ち目はない』


「……ルール、ねぇ」


 俺は柱の影に着地し、眼鏡を押し上げた。

 確かに、無敵モードは厄介だ。物理攻撃も魔法も通じない。

 だが、それはあくまで「ゲーム内」での話だ。


「リリス。あいつのIDを特定しろ」


『了解です。……特定完了。「User_ID: 002_Moderator」。権限レベルは……「Level 3(中間管理職)」ですね』


「なんだ、最高権限(ルート)じゃないのか」


 俺はニヤリと笑った。

 奴はただの「与えられた権限」を使っているに過ぎない。

 なら、話は早い。


「エルーカ、レギナ! あいつの動きを止めろ! ダメージは通らなくていい、拘束するんだ!」


「了解です! ……動きを止めるだけなら!」


 エルーカが聖剣を収め、体当たりで突っ込む。

 無敵でも「質量」はあるはずだ。


「ぐっ……! この小娘……!」


 モデレーターが体勢を崩す。

 そこへレギナが氷の鎖を放ち、手足を縛り上げる。


「捕らえたぞマスター!」


『馬鹿め! こんな鎖、すぐに解け……』


「はっ。黙って解かせるわけ、なくね?」


 俺はモデレーターの目の前に躍り出た。

 ガントレットを展開し、奴の鼻先に仮想キーボードを突きつける。


「お前がルールだってんなら……俺はそのルールを管理する『管理者(アドミン)』だ」


『なっ……貴様、何をする気だ!?』


「教育的指導だよ。チーターには退場(BAN)がお似合いだ」


 俺は高速でキーを叩く。

 奴の無敵設定を解除するんじゃない。

 奴の存在そのものを、この空間から弾き出す。


『target: User_ID_002』

『action: Ban_User(アカウント凍結)』

『reason: Cheating(理由:チート行為)』


「――執行(エンター)ッ!!」


 ッターン!!


 俺がキーを叩いた瞬間、モデレーターの体に赤いノイズが走った。


『ガッ……!? な、なんだこれは!? 体が……動かな……』


 奴の頭上の『GM』アイコンが砕け散り、『BAN』という不名誉な文字に変わる。


『馬鹿な……! 私は管理者だぞ!? 権限が……剥奪されただと……!?』


「中間管理職が、社長(オーナー)に勝てるわけねぇだろ」


 俺は冷たく言い放った。


「地獄で反省文でも書いて(チーター乙w)な」


『ア、アアアアアアッ……!!』


 モデレーターの体はデータの藻屑となって霧散し、虚空へと消え去った。

 後に残ったのは、静寂と、ただの広い灰色の空間だけ。


「……はい、BAN」


 俺は息を吐き、ガントレットを下ろした。


「さ、さすが先輩! 問答無用でBANするとか、容赦ないですね!」


 ミサが駆け寄ってくる。


「当然だ。ゲームバランスを崩壊させる奴は、客じゃないからな」


「師匠……すごいですけど、今の敵、何か可哀想でしたね」


 エルーカが苦笑いする。

 まあ、何もできずに消されたんだからな。自業自得だが。


 ズズズズ……。


 その時、部屋の奥の壁がスライドし、上へと続く階段が現れた。

 最上階への道だ。


「……行くぞ。この上に、本玉がいる」


 俺たちは階段を見上げた。

 この悪趣味なダンジョンを作った張本人。

 そして、俺たちを「先輩」と呼ぶ謎のクラッカー。


「どんなふざけた顔してんのか見ものだな」


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