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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第35話 重力定数(g)=0。 〜空中に「足場《プラットフォーム》」を描けば、アクションゲームも楽勝です〜

 

「きゃあああっ! と、止まりません~っ!」


 無重力空間に突入した直後、エルーカの悲鳴が響き渡った。

 彼女は空中で手足をバタつかせながら、ゆっくりと回転している。

 まるで宇宙遊泳だ。


「うっ、気持ち悪い……。上下の感覚がないというのは、ここまで不快なのか」


 レギナも顔を青くして、空中に漂う岩にしがみついている。

 スカートの裾がふわふわと浮き上がり、慌てて手で押さえているのが涙ぐましい。


物理演算(フィジックス)オフって、ここまで徹底してんのかよ……」


 俺はガントレットのワイヤーを近くの柱に撃ち込み、なんとか体を固定していた。

 この空間には「重力」がない。


 さらに最悪なのは「摩擦」もほとんどないことだ。

 一度地面を蹴って飛び出すと、何かにぶつかるまで永遠に止まれない。慣性の法則だけが支配する世界。


「これじゃ身動きが取れません! どうするんですか先輩!」


 ミサも空中でクロールするように泳いでいる。

 このままじゃ、敵の的だ。


「ミサ! お前のスクーター! あれなら推力移動できるだろ!」


「あ、そっか! 忘れてました!」


 ミサは慌てて空中にウィンドウを展開した。

 彼女のスキルには、デザインしたデータを保存・実体化する『アイテムストレージ』機能がある。


「召喚! 魔導スクーター・ベスパ改!」


 ポォンッ!

 可愛らしい効果音と共に、虚空から愛車のスクーターが出現した。

 ミサは器用に空中で飛び乗り、エンジンを始動させる。


 キュルル、ヴォンッ!


「よしっ! これなら動けます!」


 ミサがスクーターに跨り、空中で体制を立て直した、その時だ。


「先輩! 来ますよ! 上……いや、下から!」


 ミサが叫ぶ。彼女の指差す方向――天井付近から、異形の魔物たちが降ってくる。

 壁を走るトカゲや、浮遊する眼球の怪物たちだ。


「ちっ、こっちはまともに動けんってのに!」


 俺はガントレットを構える。

 だが、この環境では攻撃すらリスクになる。


「はぁっ!」


 エルーカが近くに来たトカゲを斬ろうとして、聖剣を振るった。

 だが、剣を振った反動で、彼女自身の体が逆方向へクルクルと回転し始めてしまった。


「あわわわっ! 目が回りますぅ~!」


「アホか! 足場がない場所で剣なんか振るな! 作用反作用の法則だ!」


 俺が叫ぶが、もう遅い。


「あ〜れぇ〜……」


 エルーカは独楽(コマ)のように回転しながら、どこかへ飛んでいってしまう。


「私が撃ち落とす! 『炎弾ファイア・バレット』!」


 レギナが魔法を放つ。

 だが、火の玉は一直線に飛んでいくものの、発射の反動リコイルでレギナ自身も後ろへ吹き飛んだ。

 しかも、火の玉は空気抵抗がないため減速せず、狙った敵を通り越して遥か彼方の壁に激突した。


「くっ、制御できん! これでは的にならん!」


 近接職も魔法職も機能不全。

 敵はそれを嘲笑うかのように、四方八方から飛びかかってくる。


『Error: Gravity Not Found.(エラー:重力が見つかりません)』


 俺は必死にコードを書き換えようとするが、エリア全体にかかった強力なプロテクトが弾く。

 システム設定で「重力定数 g = 0」にロックされている。これを書き換えるには時間がかかりすぎる。


「くそっ……! ミサ! 何か手はないか!?」


「あります! 重力がないなら、作っちゃえばいいんです!」


 ミサがスクーターの荷台から立ち上がり、スタイラス・ペンを抜いた。


「物理法則は変えられなくても、『当たり判定のあるオブジェクト』なら追加できます! エルーカちゃん、そこ蹴って!」


 ミサが空中に素早く線を引く。

 すると、光のラインが実体化し、空中に「床」が出現した。


「えっ? は、はいっ!」


 回転していたエルーカが、足裏に触れた光の床を蹴る。

 ガッ! と確かな感触。

 回転が止まり、彼女は弾丸のように敵へ向かって加速した。


「すごい! 踏めます!」


「どんどん行くよー! 『空中足場プラットフォーム』生成!」


 ミサが次々と空中に板を描いていく。

 それはまるで、アクションゲームの足場のようだ。

 エルーカはその足場を次々と飛び移り、三角跳びの要領で加速していく。


「いっけえぇぇぇっ!」


 加速に乗ったエルーカの聖剣が、トカゲの魔物を一刀両断する。

 斬った反動で体が浮くが、すかさずミサが背後に「壁」を描き、受け止める。


「ナイスだミサ! レギナ、お前もだ! 体を固定しろ!」


「承知!」


 レギナがミサの作った手すりに掴まり、体を固定する。

 反動を殺せれば、砲台としての火力は健在だ。


「固定砲台モード、起動! 『追尾氷弾ホーミング・アイス』!」


 無数の氷のつぶてが放たれる。

 重力がない分、射程は無限大だ。敵がどこへ逃げようと、誘導弾が執拗に追いかけ、撃ち落としていく。


「よし、反撃開始だ!」


 俺もガントレットを操作し、敵の動きを阻害する。


『target: Enemy_Group』

『set: Friction = 100(摩擦係数:最大)』


 敵の周囲の空間だけ、空気抵抗を極大にする。

 すると、自在に飛び回っていた魔物たちが、急に泥水の中を泳ぐように動きが鈍くなった。


「今だ! 畳み掛けろ!」


「はぁぁぁっ!」

「燃え尽きろ!」


 エルーカの剣とレギナの魔法が炸裂する。

 物理法則が壊れた空間でも、俺たちの連携とミサの機転があれば関係ない。

 次々と魔物が駆逐され、光の粒子となって消えていく。


「……ふぅ。片付いたか」


 最後の敵を倒し、俺たちはミサが作った大きな「浮き島」の上に集合した。


「助かりましたミサさん! あの足場がなかったら、一生くるくる回ってるところでした」


 エルーカが目を回した顔で礼を言う。


「へへん、どういたしまして! 2Dアクションゲームのギミックみたいで楽しかったでしょ?」


 ミサが得意げに胸を張る。

 確かに、彼女の「見た目を作る能力」は、こういう異常な環境下でこそ真価を発揮するな。


「だが、油断はできんぞ。まだ奥がある」


 レギナが杖で指し示す先。

 宙に浮いた瓦礫の道の向こうに、次なるエリアへのワープゲートが渦巻いていた。


「……次はどんなバグが待ってる事やら」


 俺は眼鏡を拭き直した。

 重力消失なんて、まだ序の口だと言わんばかりの不吉な気配が漂っている。


『Notice: Next Stage... "Glitch City"(次ノステージ……"バグの街")』


 どこからともなく響くアナウンス。

 バグの街?

 嫌な予感しかしないが、進むしかない。


「行くぞ。足元に気をつけろよ。……あ、エルーカ」


「はい?」


「お前、さっき回転してた時、スカートの中丸見えだったぞ。白地に薄いピンクのレースか、いいセンスだ」


「ひゃあああああっ!?」


 エルーカが顔を真っ赤にしてスカートを押さえる。

 レギナが「……マスター、どこを見ていたのだ」と冷たい視線を送ってくるが、不可抗力だ。


「先輩、セクハラですよ」


「不可避の事故だ。俺に罪はない」


「うわ、やば」


 俺たちは騒がしくも頼もしい足取りで、次のゲートへと飛び込んだ。

 

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