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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第34話 床判定《コリジョン》がない! 〜無限ループする回廊を、転送コード書き換えで強行突破〜


 王都から東へ数十キロ。

 『忘却の遺跡』と呼ばれるその場所は、一見するとただの朽ち果てた神殿だった。

 だが、一歩足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。


「……空間座標がズレてるな」


 俺は眼鏡アンチマジックグラス越しに周囲を見渡した。

 柱が地面から浮いていたり、天井の一部がテクスチャ《壁紙》のように剥がれ落ちていたりする。

 物理法則が仕事をしていない。


「気をつけて進みましょう。ここ、マップデータが断片化(フラグメンテーション)してます。道に見えても道じゃない場所があるかも」


 ミサがタブレットを見ながら警告する。

 断片化。つまり、データが整理されずにバラバラに散らばっている状態だ。


「えっ? どういうことだ? 道に見えるのに道じゃない?」


 レギナが怪訝な顔をする。

 エルーカは「とりあえず進んでみれば分かりますよ!」と、先陣を切って石畳の廊下を歩き出した。


「あ、こら待てエルーカ!」


 俺が止めるより早く、彼女は通路の中央にある、変哲もない床に足を乗せた。


 ズボッ。


「え……?」


 音もなく、エルーカの体が床をすり抜けた。

 まるで、そこが底なし沼か、あるいは幻影だったかのように。


「きゃあああああっ!?」


 上半身だけを残して床に埋まったエルーカが悲鳴を上げる。


「し、師匠! 足が! 足が地面の中に! 抜けないですぅぅ!」


「動くな! 暴れると座標がズレて裏世界(奈落)に落ちるぞ!」


 俺は慌てて駆け寄り、ガントレットを展開した。

 これは『当たり判定(コリジョン)』の消失だ。


「当たり判定……?」


 レギナが俺の背後で問う。


「簡単に言えば『そこに物が存在する』という定義だ。見た目は床があるように描画(えが)かれているが、データ上は『空気』と同じ扱いになってる。だからすり抜けたんだ」


 ゲームでよくあるバグだ。壁だと思って寄りかかったらすり抜けてマップ外に落ちる、あれだ。

 しかし現実で起きると笑い事じゃない。


「リリス! エルーカ周辺の座標データを固定しろ! ミサ、床のコリジョンを再設定!」


『了解! 座標固定(アンカー)、打ち込みます!』


「床判定、上書きします!」


 ミサがペンを走らせ、エルーカの足元に光る板を描く。

 俺はエルーカの腕を掴み、力任せに引き上げた。


 スポンッ!


「はぁ、はぁ……。し、死ぬかと思いました……」


 引き上げられたエルーカは涙目だ。

 足を確認するが、外傷はない。ただ「透過」しただけらしい。


「悪趣味なダンジョンだ。……見た目を信用するな。ここからは俺が『歩ける場所』をマーキングする」


 俺は眼鏡の解析モードを最大にし、床のデータ構造を可視化した。

 すると、廊下のあちこちに「穴(判定のない場所)」が空いているのが見えた。まるで虫食いだ。


「レギナ、右の壁には触れるなよ。あそこも判定がない」


「む……。了解だ。一見すると堅牢な石壁なのだがな」


 俺たちは慎重に、穴だらけの通路を進んでいった。


 ◇


 しばらく進むと、今度は長い一本道に出た。

 先が見えないほど長い廊下だ。


「……おかしいですね」


 10分ほど歩いたところで、ミサが足を止めた。


「さっきから、景色が変わってなくないですか? この松明のシミ、さっきも見ましたよ」


「……『無限ループ』か」


 俺はため息をついた。

 試しに、俺は手近な石を拾い、壁に傷をつけてから、全員でさらに5分ほど進んでみた。

 すると――目の前に、さっき傷をつけた壁が現れた。


「戻ってる!? 一本道だったはずです!」


 エルーカがパニックになる。


「空間が繋がってるんだ。A地点からB地点まで歩くと、強制的にA地点に戻される処理が組まれている」


 プログラムで言うところの『while(true)』――終了条件のない繰り返し処理だ。

 出口へのフラグ(条件)を立てない限り、永遠にこの廊下を彷徨うことになる。


「物理的に壁を壊して進むか?」


 レギナが杖を構えるが、俺は首を振った。


「無駄だ。空間ごとねじ曲がってるから、壁を壊しても『壊れた壁のある元の場所』に戻ってくるだけだ」


「じゃあ、どうするんですか先輩? このままじゃ干からびちゃいますよ」


力技(ハック)で抜ける。……ループの繋ぎ目を強制切断するぞ」


 俺はガントレットのキーを叩き、空間の座標データを洗い出した。

 必ずどこかに、A地点へ戻すための「転送命令ジャンプコード」が埋め込まれているはずだ。


『Search: Teleport_Trigger... Found.(転送トリガー検索……発見)』


 見つけた。

 廊下の継ぎ目、床のタイルの隙間に、微細な魔法陣が仕込まれている。

 ここを踏むと、認識できない速度でスタート地点にワープさせられているのだ。


「ミサ。あそこの座標(X:305, Y:0, Z:10)だ。あそこの転送先アドレスを書き換えてくれ」


「了解です! 転送先を『Start』から『Next_Area』に変更……えいっ!」


 ミサが空中のウィンドウを操作し、書き換える。

 その瞬間、廊下の空気が歪み、先ほどまで続いていた無限の闇が晴れ、奥に巨大な扉が出現した。


「出た! 出口です!」


「ふぅ……。地味だが精神的に来る罠だな」


 俺は額の汗を拭った。

 派手な魔物は出てこない。だが、世界のルールそのものが狂っている恐怖。

 まさに「バグだらけのクソゲー」だ。


 俺たちが扉の前に立つと、スピーカーからあの歪んだ声が響いてきた。


『おめでとう。チュートリアルはクリアだね』


 クラッカーの声だ。


『でも、ここからが本番だよ。……次のエリアは「物理演算(フィジックス)」を切っておいたから』


「物理演算を切った、だと……?」


 ゴゴゴゴゴ……!

 扉が開く。

 その向こうに広がっていたのは――。


「なっ……浮いてる!?」


 大小様々な岩や瓦礫、そして水たまりまでもが、無重力のように空中に静止している空間だった。

 重力がないのではない。

 「物が落ちる」「ぶつかったら跳ね返る」といった、当たり前の物理法則が機能していないのだ。


「水が……球体になって浮いています」


「私のスカートも、めくれないように押さえないとフワフワするな……」


『さあ、楽しんでくれよ。この無秩序な世界を』


 嘲笑う声と共に、浮遊する岩陰から、異形の魔物たちが姿を現した。

 そいつらもまた、上下左右の概念なく、壁を走り、天井に立ち、こちらを見下ろしている。


「……上等だ」


 俺は眼鏡を押し上げ、ニヤリと笑った。


「物理法則がないなら、俺たちが新しい法則ルールを作ればいい。……行くぞ、デバッグの時間だ」


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