第33話 運営からの招待状。 〜「バグだらけの迷宮」へようこそ。クリア報酬は運営の正体です〜
温泉旅行から戻って数日。
俺の「何でも屋」は、今日も相変わらずの賑わいを見せていた。
「はいはい、そこの筋肉ダルマ。依頼書はちゃんと書いてよねー。順番抜かしは重罪よ。日本人舐めんな」
カウンターで頬杖をつきながら、ミサが冒険者をあしらっている。
相手は強面のオークだが、彼女のペースに完全に飲まれていた。
「あ、エルーカちゃん。この書類、分類間違ってるよ。何度言ったら分かるの?」
「うぅ……ごめんなさいミサさん。文字がいっぱいで目が滑っちゃって……」
「言い訳しない! ほら、レギナっちも。休憩ばっかしてないで手伝ってよ」
「……人使いが荒いな、新入りのくせに。私はマスターの護衛が最優先任務だ」
レギナがソファで優雅に紅茶を飲みながら反論する。
温泉での協定以来、三人の仲は良くなった……というか、遠慮がなくなったようだ。
特にミサは、完全に二人を尻に敷いている。
「先輩、見てくださいよこの二人。もっとビシッと教育してください」
ミサが俺のデスクにやってきて、上目遣いで愚痴る。
「まあまあ。現場は二人に任せてるんだから、事務処理くらい大目に見てやれよ」
「甘いなぁ、先輩は。……ま、そういうとこが好きなんですけど」
ミサが小声で付け加える。
最近、こいつの好意が隠す気ゼロになってきている気がする。
俺がどう反応すべきか迷っていると――。
ザザッ……!
突如、室内の照明が明滅し、空気が張り詰めた。
『警告! 外部からの不正アクセスを検知! ファイアウォール突破されます!』
リリスの悲鳴と共に、店内に展開していた全てのホログラム・ウィンドウが赤く染まった。
「なっ、敵襲か!?」
レギナが瞬時に立ち上がり、杖を構える。
エルーカも聖剣に手をかけた。
「先輩! これ、ハッキングです! しかも、かなり強引な……!」
ミサが自分のタブレットを操作しようとするが、画面がフリーズして動かない。
俺たちのデバイスが、完全にジャックされている。
『Testing... Testing... Ah, connected.(テスト、テスト。ああ、繋がった)』
スピーカーから、ノイズ混じりの歪んだ声が響き渡る。
俺はこの声を知っている。
地下水路の生体サーバーを操っていた、あのクラッカーだ。
「……何の用だ。まだ懲りてないのか?」
俺が虚空に向かって問いかけると、クツクツという不快な笑い声が返ってきた。
『懲りる? まさか。あれはただの実験だよ、管理者さん。……君たちのおかげで、面白いデータがたくさん取れた』
赤いウィンドウが集束し、空中に一枚の「招待状」のような形を形成する。
そこには、地図座標と日時が記されていた。
『君たちを、僕の最高のゲームに招待してあげる。場所は「忘却の遺跡」。そこに、君たちの常識を覆す「新しいルール」を用意した』
「新しいルールだと?」
『ああ。物理法則も、魔法の理も通用しない、バグだらけの迷宮。……クリアできれば、僕の正体を教えてあげてもいいよ』
挑発だ。
だが、単なる遊びの誘いではないことは明白だった。
『来なければ、このバグを王都全域に拡散する。……まあ、正義の味方ごっこが好きな君なら、来るよね?』
プツン。
一方的に通信が切断され、ウィンドウが霧散した。
静寂が戻った店内で、俺たちは顔を見合わせた。
「……やってくれるな」
俺は眼鏡を押し上げた。
脅しではないだろう。あいつなら、本当に王都をバグの海に沈めかねない。
「師匠。行きましょう」
エルーカが、迷いのない瞳で俺を見た。
「あんな奴の思い通りにはさせません。私たちが叩き潰してやります!」
「同感だ。売られた喧嘩は買う主義でな。ムカつくのでボコボコにしたい」
レギナも不敵に笑う。
「先輩。……あの遺跡の座標、解析しました」
ミサがタブレットを操作し、地図を表示する。
「ここ、ただの遺跡じゃないですよ。空間座標が歪んでます。たぶん、入った瞬間に別のレイヤーに飛ばされるタイプのダンジョンです」
「異界化してるってことか。……上等だ」
俺はガントレットを装着し、全員を見回した。
「準備しろ。今回の敵は、世界そのものをバグらせてくる。……俺たち『開発チーム』の総力戦だ」
「「「はいっ!」」」
三人の声が重なる。
俺たちは店を飛び出した。
目指すは「忘却の遺跡」。
そこには、理不尽で、悪意に満ちた「クソゲー」が待っているはずだ。
だが、クリア不可能なゲームなんてない。
俺たちがデバッグしてやる。




