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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第30話 生体サーバーと分散処理《クラウド》。 〜不死身の肉塊には、無限増殖する「論理爆弾《フォーク・ボム》」をプレゼント〜

 

 肉塊の中央にある巨大な目玉が、ギョロリと俺たちを見下ろしていた。


『Execute: Attack_Pattern_B(攻撃パターンBヲ実行)』


 無機質な電子音声と共に、肉塊から伸びる無数の触手が鞭のようにしなり、襲いかかってくる。

 それぞれの触手の先端には、鋭利な爪や、魔法を放つ口がついている。


「くっ、数が多い……!」


 エルーカが聖剣で触手を弾くが、切っても切っても、断面から即座に再生する。

 再生というよりは、内部の予備パーツ(魔物)が即座に補充されているようだ。


「マスター! 魔法が効かんぞ! 炎で焼いても、ダメージが分散されている!」


 レギナが焦りの声を上げる。

 彼女の炎魔法が直撃しても、肉塊の一部が焦げるだけで、ダメージが全体に波及しないのだ。


「……分散処理《ディストリビューテッド・コンピューティング》かよ」


 俺は眼鏡の解析結果を見て舌打ちした。

 この生体サーバーは、取り込んだ数千体の魔物を「個別のCPU」として並列接続している。

 攻撃を受けても、そのダメージ演算を瞬時に他の魔物に分散・転送し、本体への負荷を無効化しているのだ。

 クラウドサーバーみたいなもんだ。一部が落ちても、システム全体は止まらない。


『Learning... Analysis complete.(学習中……解析完了)』


 さらに悪いことに、こいつは学習している。

 エルーカの剣筋、レギナの魔法のタイミング。全ての戦闘データをリアルタイムで収集し、最適解を出力してくる。


「うわっ!? 避けた!?」


 エルーカの渾身の一撃が、紙一重で回避される。

 敵の動きが、さっきより明らかに良くなっている。


「先輩! これマズいです! 通信量が爆上がりしてます! このままだと処理速度で負けますよ!」


 ミサがタブレットを見ながら悲鳴を上げる。

 敵の演算能力プロセッシング・パワーが、こちらの対応速度を上回りつつある。


「分かってる。……真っ向勝負じゃジリ貧だ」


 物理攻撃は分散され、魔法攻撃は学習される。

 この巨大なシステムを落とすには、外側から叩くのではなく、内側からクラッシュさせるしかない。


「……リリス。『論理爆弾ロジック・ボム』を生成する」


『ロジック・ボム……ですか? 不正な処理命令を送り込んで、システムを暴走させるウイルスですね。でも、敵のファイアウォールは鉄壁ですよ?』


「ああ。だから『()()』する」


 俺は敵の巨大な目玉――メインコンソールを見据えた。

 あそこが唯一、外部との入出力を行っているポートだ。あそこに俺のコードを直接ねじ込めば、システムの中枢まで毒が回る。


「みんな、聞いてくれ! あいつの脳みそ《演算処理》をパンクさせる! 俺があの目玉にウイルスを撃ち込むまで、道を作れ!」


「了解です! ……でも、どうやって?」


 エルーカが触手を斬り払いながら叫ぶ。

 敵の防御は厚い。目玉の前には、肉の壁が幾重にも展開されている。


「私がガイドを出します!」


 ミサが前に出た。

 彼女は空中に巨大なペイントツールを展開し、敵の肉塊の上に、鮮やかな「赤いライン」を描き始めた。


「魔力伝導の『結節点(ノード)』を可視化します! この赤いラインを辿って切断すれば、再生機能リペアが追いつかなくなるはずです!」


 シュンッ!

 肉塊の上に、血管のような光のラインが浮かび上がる。

 それは、データが流れるケーブルの位置だ。


「ナイスだミサ! エルーカ、レギナ! そのラインを狙え!」


「了解! 見えればこっちのものです!」


 エルーカが走る。

 迷いなく、光るラインを一刀両断する。

 ブチブチッ! と嫌な音がして、触手の動きが止まった。


「データ転送エラーを確認! 効いてるぞ!」


「ならば私は、大技でこじ開ける! 『氷結・多重演算(マルチ・プロセス)』!」


 レギナが杖を掲げ、無数の氷の槍を展開する。

 それらはミサが指定した複数のノードへ、精密誘導ミサイルのように殺到した。


 ズドドドドドドッ!!


 着弾。肉の壁が崩れ落ち、データリンクが寸断される。

 敵の処理が遅延ラグを起こした。


『Warning... Processing Delay...(警告……処理遅延……)』


 巨大な目玉が露出する。

 今だ。


「ミサ! 入力フォームを作れ!」


「はいっ! ドデカイのいっちゃいますよー!」


 ミサがペンを振るうと、目玉の前に巨大な『ファイルアップロード』のウィンドウが出現した。

 ターゲットロック完了。


 俺はガントレットを構え、生成したウイルスコードを装填する。


 中身は、無限にプロセスを複製し続ける「Fork爆弾」だ。数秒でメモリを食い尽くし、OSごと道連れに落ちる。


 『この命令を実行する前に、この命令を実行せよ』という、永遠に答えの出ない問いかけだ。


「食らいな! 計算不能の悪夢を!」


 俺はエンターキーを叩き込んだ。


「『送信アップロード』ッ!!」


 ドォンッ!

 放たれた光の矢が、アップロードウィンドウに吸い込まれ、敵の目玉に突き刺さる。


『Analyzing code...(コード解析中……)』


 敵のシステムが、俺のウイルスを読み込む。

 そして――。


『Error... Error... Infinite Loop Detected...(エラー……無限ループ検知……)』

『CPU Usage 100%... Memory Overflow...(CPU使用率100%……メモリ溢れ……)』


 肉塊が激しく痙攣し始めた。

 計算が追いつかない。矛盾を解決しようとしてリソースを食いつぶし、熱暴走を起こしているのだ。


『System Crash.(システム、クラッシュ)』


 ブツン。

 低い音と共に、巨大な目玉の光が消えた。

 同時に、肉塊を構成していた数千の魔物たちが、泥のように崩れ落ち、ただの動かない残骸へと変わっていく。


「……しゃあ!鯖落ち!!」


 俺は荒い息を吐きながら、眼鏡の位置を直した。

 静寂が戻った地下空間に、腐臭だけが漂う。


「や、やりました……?」


 エルーカが恐る恐る近づいてくる。

 レギナも油断なく杖を構えたままだ。


「ああ。サーバーダウンだ。もう動かない」


 俺の言葉に、三人が安堵のため息をつく。

 だが、俺はまだ気を緩めていなかった。

 崩れ落ちた肉塊の中心に、何かが埋もれているのが見えたからだ。


「……なんだあれ」


 俺は瓦礫をかき分け、その物体を引っ張り出した。

 それは、黒い金属でできた、四角い箱のような魔導具だった。

 表面には、見覚えのないロゴマークと、点滅するLEDランプ。


「これ……『端末コンソール』か?」


 この世界には存在しないはずの技術。

 俺がそれに触れようとした瞬間、箱からホログラムが投影された。


『――テスト、テスト。あー、聞こえてる?』


 空中に浮かんだのは、ノイズ混じりの映像。

 フードを目深に被り、口元だけを歪めた男の姿だった。


「……お前が、このふざけた実験の首謀者か」


『おめでとう、管理者アドミンさん。僕の可愛いペットたちを壊してくれて』


 男は拍手をした。だが、その声に悔しさは微塵もない。

 むしろ、楽しんでいるようだった。


『でも、残念。こっちはただの実験場(サンドボックス)だよ。本命のデータは、もう回収済みさ』


「本命だと……?」


『ああ。この世界の「バグ」を利用して、新しいルールを作るためのデータさ。……楽しみにしててよ。次はもっと面白い「ゲーム」を用意して待ってるから』


 映像が揺らぎ、消えかける。


『じゃあね、先輩たち。……せいぜい、長生きしてね』


 プツン。

 映像が途切れ、黒い箱が煙を上げて自壊した。


「……逃げられたか」


 俺は黒焦げになった箱を握りしめた。

 奴は「先輩たち」と言った。

 俺とミサ、二人の転生者がここにいることを知っていたのだ。


「……嫌な感じですね」


 ミサが俺の隣で、自分の二の腕をさすっていた。

 いつも強気な彼女の顔が、少し青ざめている。


「あの話し方……。私、聞き覚えがあるかもしれません」


「何?」


「いえ、確証はないんですけど……。前世で、ネットの掲示板とかでよく見かけた、悪意のある荒らし(トロール)の文体に似てて」


 ミサの言葉に、俺は背筋が寒くなった。

 もし、この世界を壊そうとしているのが、前世からの因縁を持つ「悪意」だとしたら。

 この戦いは、俺たちが思っている以上に根深いものになるかもしれない。


「……帰ろう」


 俺は顔を上げた。

 今はまだ、情報が足りない。

 だが、一つだけ確かなことがある。


「どんなゲームだろうが、クリアしてやるさ。……俺たち『開発チーム』が揃ってるんだからな」


 俺の言葉に、三人が力強く頷く。

 俺たちは地下水路を後にした。

 地上では、いつもの美しい夕焼けが待っているはずだ。

 

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