第28話 何でも屋DX(デジタルトランスフォーメーション)。 〜便利すぎるタブレット導入で、勇者と魔女が嫉妬した件〜
ミサが加入してから数日。
俺の「何でも屋」は、劇的な進化を遂げていた。
「はい、次の依頼の方ー。こちらのタブレットに要件を入力してくださいねっ」
ミサがカウンターで手渡しているのは、薄いクリスタルの板。
俺が昨日、彼女の設計図通りに作った『魔導タブレット』だ。
「入力されたデータは即座にデータベース化され、重要度と緊急度で自動的にソートされます。先輩、今のタスク状況はこんな感じです」
空中にホログラムのガントチャートが表示される。
『未着手』『進行中』『完了』が色分けされ、誰がどの依頼を担当しているかが一目瞭然だ。
「……すげぇな。前世の進捗管理ツールより使いやすいぞ」
「でしょ? UIデザインは私の専門ですから! これで無駄な残業ともおさらばです!」
ミサがVサインを作る。
確かに、これまでは依頼書を手書きで管理していたため、紛失や重複が起きていた。それが完全にデジタル化されたのだ。
まさにDX革命だ。
だが、その一方で。
「……むぅ。なんか私たち、置いてけぼりじゃないですか?」
オフィスの隅で、エルーカが膝を抱えていた。
隣のレギナも、不機嫌そうにタブレットを睨みつけている。
「操作が直感的すぎる。これでは私が並列思考でトリアージしていた意味がないではないか。……私の仕事が奪われた」
「エルーカちゃんもレギナっちも、拗ねないでよー。二人は『現場』担当なんだから、事務処理は私に任せて、魔物退治行ってきていいよ?」
ミサが軽い調子で言うと、二人のこめかみにピキッと青筋が浮かんだ。
「ぐぬぬ……! なんか悔しいです! 師匠と『専門用語』で通じ合ってる感じが、すごく疎外感です!」
「同感だ。マスター、私にもその……『たぶれっと』とやらより凄い装備を作ってくれ」
レギナが俺の袖を引っ張る。
どうやら、ミサばかりが俺と連携しているのが相当気に入らないらしい。可愛い奴らめ。
「はいはい。お前らの装備も、おいおい強化していくから待ってろ」
俺がなだめていると、ミサが机に身を乗り出してきた。
「あ、装備といえば先輩! 私も『専用武器』欲しいです!」
「お前、スクーターがあるだろ」
「あれは移動用ですよ! 私、前衛職じゃないんで自衛手段がないと死んじゃいます。……また私を死なせる気ですか?」
上目遣いで言われると弱い。
ズルい女だ。
「……はぁ。分かったよ。どんなのがいいんだ?」
「えっとですね、イメージは『ペンタブ』です! 空中にサラサラって描いたら、それが魔法になるような!」
ミサが目を輝かせて語り出す。
彼女のスキル『外観定義』を活かすなら、確かに「描く」動作をトリガーにするのが一番効率がいい。
「なるほどな。入力デバイスとしての『ペン』と、表示デバイスとしての『板』か。……よし、設計図を引くぞ」
俺のエンジニア魂に火がついた。
ガントレットを作った時のボルグの親父の気持ちが分かる。
頼られると、期待以上のものを作りたくなるのが技術屋の性だ。
◇
その日の深夜。
俺はオフィスの奥の作業部屋にこもっていた。
「素材は……『万色クリスタル』を使うか。魔伝導率は最高クラスだ」
先日、スパム・ダンジョンのボスからドロップした虹色のクリスタル。
これを惜しげもなく加工する。
「形状定義。グリップは彼女の手のサイズに合わせて……重心はややペン先寄りに」
俺は管理者権限で素材を削り出し、一本の美しい『魔導スタイラス』を作り上げた。
軸は純白のミスリル、ペン先には虹色のクリスタルが埋め込まれている。
さらに、タブレットとなる『魔導スレート』も作成。
こちらは極薄のアダマンタイト製で、軽くて丈夫だ。
「あとは……ここに俺の『管理者コード』を少し混ぜて、権限を委譲してやるか」
本来、世界の理を書き換えるのは俺にしかできない。
だが、このデバイスを通すことで、ミサにも限定的な「編集権限」を与える。
いわば、俺のサブアカウントを発行するようなものだ。
「……よし、完成だ」
俺は満足げに息をついた。
我ながら完璧な仕上がりだ。これならミサも文句はないだろう。
ふと、背後に気配を感じて振り返る。
ドアの隙間から、エルーカとレギナが恨めしそうに覗いていた。
「……師匠、楽しそうですね」
「……私には『そのうちな』と言ったくせに、あの小娘には即日納品か。随分と特別扱いだな。チッ」
目が据わっている。怖い。
「い、いや違うんだ。これは仕事効率化のための投資であって……」
「言い訳は結構です! もう寝ます! ふんだ!」
「フン。明日の朝食はパンの耳だけにしてやる」
二人はバタンとドアを閉めて去っていった。
……参ったな。
機嫌を取るために、明日はいちごタルトでも買って帰るか。
◇
翌朝。
完成したデバイスを手渡すと、ミサは子供のように歓声を上げた。
「すごーい!! これ最高です先輩! 重さも握り心地も完璧! さすが私のこと分かってますね!」
彼女は早速、中庭で試運転を始めた。
「起動! ドローイング・モード!」
ミサが空中にスレートを浮かべ、ペンを走らせる。
すると、空間に鮮やかな光の線が描かれ、それが実体化した。
「『アイアン・メイデン(お洒落ver)』!」
彼女が描いたのは、無数の棘が生えた檻。
だが、そのデザインは無駄に洗練されており、ピンク色の棘がキラキラと輝いている。
見た目は可愛いが、岩を粉砕する威力は本物だ。
「うわ、エグいな……」
「可愛いでしょ? これなら敵を閉じ込めても罪悪感ないですね!」
ミサが笑う。
……うん、敵に回したくないタイプだ。
「師匠……。あの武器、なんか凄いです」
「……ああ。魔力の変換効率が異常だ。私の杖より高性能かもしれん」
窓から見ていたエルーカとレギナも、悔しそうだが性能は認めざるを得ないようだった。
「まあ、お前らにも専用の強化パーツを考えてあるから。拗ねるなよ」
俺が二人の頭をポンポンと撫でると、単純な彼女たちはすぐに頬を緩めた。
「ほ、本当ですか!? 約束ですよ!」
「……む。忘れるなよ、マスター」
チョロいな。
だが、この賑やかさが悪くないと思っている自分もいる。
ミサが加わり、戦力も効率も大幅に上がった。
これで、いつあの「クラッカー」が仕掛けてきても対応できるはずだ。
そう思っていた矢先。
リリスの警告音が、脳内に響き渡った。
『警告! 王都の地下水路にて、高エネルギー反応を検知! これは……あの時と同じ波長です!』
「……来たか」
俺は眼鏡の位置を直した。
平和な時間は終わりだ。
DX化された新生『何でも屋』の実力、見せてやろうじゃないか。
「全員、出動だ! 今度はこっちから仕掛けるぞ!」
「「「了解!!」」」
三人の声が重なる。
最強のパーティーが、王都の闇へと駆け出した。




