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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第27話 動く「×ボタン」とか平成のブラクラかよ。 〜ポップアップ広告のボスを「z-index」操作で最背面へ送ってやった〜


 『七色の洞窟』最深部。

 そこは、まるで巨大なサーバー室のように冷たく、そして狂ったように点滅する空間だった。


 中央に鎮座しているのは、このダンジョンの主――『幻影の支配者ファントム・アドミニストレーター』。

 不定形の身体はノイズ交じりの黒い霧で構成され、その周囲には無数の「ウィンドウ」が衛星のように浮遊している。


『Welcome to my site... Please register...(ようこそ……登録シテクダサイ……)』


 機械的な音声と共に、ボスの周囲に展開されたウィンドウが一斉にこちらを向いた。


「来るぞ! 構えろ!」


 俺の号令と同時、エルーカとレギナが左右に散開する。

 だが、ボスの攻撃は物理的なものではなかった。


 パッ、パッ、パパパッ!


 視界いっぱいに、大量のポップアップウィンドウが出現したのだ。

 『会員登録はこちら!』『お得な情報!』『ウイルスに感染しました!』

 意味のない文字列が、俺たちの視界を完全に遮る。


「うわっ、何も見えません!」


「くっ、鬱陶しい! 消えろ!」


 エルーカが聖剣でウィンドウを切り裂こうとするが、剣は空を切り、ウィンドウはダメージを受けるどころか、「×2」と増殖した。


「物理攻撃無効かよ。……リリス、ウィンドウの発生源を特定しろ!」


『ダメですマスター! これ、全部「最前(Always )面表示(on Top)」属性が付与されてます! 座標を特定しても、視覚情報が上書きされて本体が見えません!』


「チッ、クソ仕様が……!」


 バックエンドの俺には、この「表示の優先順位」をいじる権限がない。

 本体を叩こうにも、ターゲット指定がポップアップに吸われてしまう。


「ウフフッ、先輩、困ってますね~?」


 隣で、ミサが楽しそうに笑った。

 彼女はスタイラス・ペンをくるくると回しながら、余裕の表情で戦況を見つめている。


「笑ってる場合か。どうにかできるか?」


「愚問ですね。こんなの、ただの『モーダルウィンドウの乱用』じゃないですか。……UIデザイナーとして、一番嫌いな実装です」


 ミサの瞳が、冷たく光った。

 彼女は空中に巨大な仮想タッチパネルを展開する。


「エルーカちゃん、レギナっち! 攻撃の手を休めないで! 私が視界(モニター)を掃除するから!」


「は、はいっ!」


「貴様が私に指図するな! 仕方ないから従うが!」


 二人が闇雲に突っ込む。

 ボスは嘲笑うように、さらに大量のウィンドウを展開し、自身のコアを隠そうとした。

 さらに、ウィンドウの右上に小さな「×」ボタンを表示させ、それを高速で移動させ始める。


『Close me if you can...(消セルモノナラ、消シテミロ……)』


「うわぁ、動く閉じるボタンとか、平成のブラクラですか? 古臭いんですよ!」


 ミサがペンを走らせる。


「CSSオーバーライド! 全ウィンドウの『z-index(重なり順)』を強制リセット! さらに『display: none(非表示)』属性を付与!」


 パチンッ!


 ミサが指を鳴らした瞬間、視界を埋め尽くしていた数千枚のウィンドウが、ガラスが割れるように一斉に粉砕された。

 クリアになった視界の向こう、無防備なボスの姿が露わになる。


『Error...!? Window not found...!?』


 ボスが動揺したようにノイズを明滅させる。


「今です先輩! 丸見えですよ!」


「ナイスだミサ! ……へっ、裸の王様のお出ましだな!」


 俺はガントレットを構え、露出したボスのコアに照準を合わせた。

 視界良好。遮蔽物なし。

 こうなれば、俺の独壇場だ。


「リリス、解析コード注入! あいつのHPバーと防御ステータスを可視化しろ!」


『了解! ……解析完了。物理耐性99%、魔法耐性99%……うわ、ガチガチに硬いですね。これじゃ攻撃が通りません。こいつチーターですか?』


 HUDに表示されたボスのステータスは、絶望的な数値だった。

 防御力カンスト。まともに殴り合えば千日戦争になる。


「硬いなら、柔らかくすればいいだけだ」


 俺はキーボードを叩く。

 かつて前世で、ミサと阿吽の呼吸でこなした「緊急メンテナンス」の記憶が蘇る。


「ミサ! あいつの装甲データの『参照先』を書き換えるぞ! 俺がパスを通すから、お前がテクスチャを差し替えろ!」


「了解です! ……豆腐ですか? それともプリン?」


「プリンでいい! 一番柔らかいやつだ!」


「りょーかいっ!」


 俺とミサの指が、同時に走る。

 俺がボスの防御力定義ファイルへのアクセス権を奪取(ハック)し、ミサがそのプロパティ画面を強制的に開き、書き換える。


 『Defense: 9999』 → 『Defense: 1 (Pudding)』


更新完了(アップデート)ッ!」


 ッターン!!


 俺とミサが同時にエンターキー(と決定ボタン)を叩いた。

 瞬間、ボスの黒い霧状の体が、プルプルとした黄色い質感に変質する。


『W-What is this...!?(ナ、ナンダコレハ……!?)』


「エルーカ、レギナ! 今だ! そいつはもうただのデカいプリンだ!」


「プ、プリン……!? よく分かりませんが、行きます!」


 エルーカが聖剣を構え、地面を蹴った。

 レギナも最大火力の炎魔法をチャージする。


「『聖剣・十文字斬り』!!」

「『紅蓮爆砕プロミネンス・バースト』!!」


 二人の必殺技が、無防備なボスに直撃する。

 普段なら弾かれるはずの攻撃が、まるでスプーンで掬うように、ボスの体を容易く抉り、焼き尽くしていく。


『System Critical... Fatal Error...』


 ボスは断末魔を上げることもできず、ドロドロに溶けて崩れ落ちた。

 そのHPバーが一瞬でゼロになり、霧散する。


「……ふぅ。ご馳走様」


 俺は眼鏡を押し上げ、ガントレットの排熱を行った。

 隣では、ミサがVサインを作っている。


「楽勝でしたね、先輩! やっぱり私たちが組めば最強じゃないですか?」


「まあな。……お前のCSS捌き、前世よりキレてたんじゃないか?」


「そりゃあ、こっちに来てからずっと、不便なUIと戦ってましたからね。鍛え方が違いますよ」


 ミサがケラケラと笑う。

 その笑顔を見て、俺はようやく実感が湧いてきた。

 本当に、帰ってきたんだな。あの騒がしくて、頼りになる日常が。


「師匠~! やりましたよ~!」


 エルーカが、ドロドロになったボスの残骸から、何か光るものを拾い上げて駆け寄ってきた。

 レギナも涼しい顔で戻ってくる。


「これがドロップアイテムか? 虹色の……クリスタルだな」


「おお、こりゃ凄い。『七色水晶』の純度SSランクだ。これ一つで城が買えるぞ!」


 俺が鑑定すると、ミサが目を輝かせた。


「わっ、綺麗! ねえ先輩、これ私のスクーターのライトに使いましょうよ! ゲーミングPCみたいに七色に光らせたら絶対カッコいいですよ!」


「却下だ。そんな暴走族みたいな仕様にするか。……まあ、眼鏡の予備レンズには使えるか」


「えぇー、ケチー」


 ワイワイと騒ぐ俺たち。

 エルーカとレギナは、俺とミサのやり取りを少し離れたところから見ていた。


「……なんか、入る隙がないですね」


 エルーカが少し寂しそうに言うと、レギナがフンと鼻を鳴らした。


「勘違いするな。あれは男女の仲というより、長年連れ添った戦友の空気だ。……悔しいが、今の私たちには出せない『阿吽の呼吸』がある」


「戦友、ですか……」


「だが、負けるつもりはないぞ。マスターの日常を支えるのは、あくまで私だ」


「私もです! 師匠の一番弟子は私ですから!」


 二人は顔を見合わせ、頷き合った。

 どうやら、ミサという強力なライバル(?)の出現が、逆に二人の結束を固めたらしい。


「おーい、置いてくぞー」


 俺が声をかけると、三人が同時に返事をして駆け寄ってくる。

 ポンコツ勇者に、脳筋魔女に、生意気な後輩。

 ……随分と大所帯になったもんだ。


 こうして俺たちは、スパム・ダンジョンを完全攻略し、王都への帰路についた。

 新たな仲間と、騒がしい未来を予感させながら。


 ◇


 数日後。

 王都の「何でも屋」には、新たな看板娘が増えていた。


「いらっしゃいませー! 修理受付はこちらですよー! あ、その依頼書、フォーマットが見づらいので書き直しておきますねっ!」


 彼女は持ち前のコミュ力とデザインセンスで、瞬く間に店に馴染んでいた。

 店のレイアウトも勝手に変更され、なんかお洒落なカフェみたいになっている。


「……おいミサ。勝手に内装いじるなと言っただろ」


 俺が文句を言うと、彼女はカウンターから身を乗り出して舌を出した。


「いいじゃないですか! 顧客満足度(CS)アップですよ! それに……」


 彼女は声を潜め、少しだけ顔を赤くして囁いた。


「……これからはずっと、先輩の隣で働けるんですから。職場環境は大事にしないと、ね?」


 その言葉に、俺は何も言い返せなくなった。

 まあ、いいか。

 俺は苦笑して、積み上がった依頼書に手を伸ばした。


 異世界の「何でも屋」は、今日も大繁盛だ。

 最強の開発チームが揃った今、どんなバグでもどんと来いだ。負ける気がしねぇ!


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