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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第26話 未完の引継書と、深夜のオフィス。 〜「今度は絶対に定時で帰らせてくださいね、先輩?」〜


 最強のUI担当(ミサ)を加えた俺たちは、ダンジョンの奥へと進んでいた。


「はい、ここの床の模様も修正っと。これで目がチカチカしませんよー」


 先頭を行くミサが、スタイラス・ペンを振るうたびに、毒々しい極彩色の迷宮が、落ち着いたモノトーンの通路へと書き換わっていく。

 魔法というよりは、リフォームだ。


「すごい……。本当に一瞬で景色が変わっていきます」


 エルーカが感心したように呟く。

 すると、ミサは振り返ってニカッと笑った。


「でしょ? エルーカちゃんもさ、その鎧の色、もうちょっと彩度落とした方が似合うと思うよ? あとでカラーコーディネートしてあげる」


「えっ? あ、はい……えっと、ありがとうございます?」


 エルーカが戸惑っている。

 無理もない。さっきまで俺には「はいっ!」と敬語だったのに、自分たちには完全にタメ口なのだから。


「貴様、その馴れ馴れしい口調はどうにかならんのか。一応、私は元魔王軍幹部なのだが」


 レギナが不服そうに言うと、ミサはケラケラと笑って彼女の肩を叩いた。


「いいじゃんレギナっち。硬いってー。先輩の部下なら、私にとっては後輩みたいなもんだし? 仲良くしよーよ」


「レ、レギナっち……!?」


 クールなレギナが絶句している。

 どうやらミサの中では、「先輩(絶対的上位)」と「それ以外(いじっていい対象)」という明確なヒエラルキーがあるらしい。

 このコミュ力お化けめ。


 そんなやり取りを見ながら、俺は少しペースを上げてミサの隣に並んだ。

 聞かなきゃいけないことがあった。


「……なぁ、ミサ」


「ん? 何ですか先輩?」


「お前、死因は?」


 直球で聞いた。取り繕っても仕方ない。

 ミサの手がピタリと止まる。

 一瞬の沈黙の後、彼女は「あはは」と乾いた笑い声を上げた。


「過労死ですよ、過労死! あ、正確には過労による貧血で駅の階段から落ちて転落死ですけど。労災認定されましたよ、たぶん!」


 明るく言っているが、その瞳の奥は笑っていなかった。やっぱ、過労死か。確認しといてよかった。知ってれば、二度とそんなことにならないようにしてやれる。


「先輩が……いなくなってから半年後でした」


 ミサがポツリと呟く。


「あの後、大変だったんですよ? 先輩が一人で抱えてたタスク、全部私に回ってきたんですから」


「……悪かった。引継ぎ、間に合わなかったからな」


「ほんとですよ! ドキュメントは書きかけだし、コードはスパゲッティだし! クライアントは『工藤さんはやってくれたのに』って文句ばっかり言うし!」


 ミサは頬を膨らませて抗議する。

 だが、すぐにその表情は曇り、どこか遠くを見るような目になった。


「……でも、仕事が辛かったのは、別にいいんです。あんなの先輩とのデスマーチに比べれば楽勝でした」


「じゃあ、なんで……」


「……寂しかったんですよ」


 ミサの声が震えた。


「独りのオフィス。深夜のコーヒー。エラー音。……いつも、隣を見れば先輩がいてくれたのに」


 彼女は足を止め、俺の方を向いた。

 その瞳が、揺れている。


「『もう帰れ』って言ってくれる人も、『あとは任せろ』って笑ってくれる人もいない。……広くて静かなオフィスに私一人だけ。それが一番、辛かったです」


 俺が死んだ後の半年間。

 彼女は、俺の穴を埋めようと必死に働いて、そして心をすり減らしていったのだろう。

 俺が守ろうとした後輩を、結局は俺の死が追い詰めてしまったのだ。


「……ミサ」


「あーあ! またそんな辛気臭い顔して! 先輩の悪い癖ですよ!」


 ミサはパン! と両手で自分の頬を叩き、強引に笑顔を作った。


「もういいんです。ここなら先輩がいるし! また一緒にバグ取りできますし! 私、今度は絶対に定時で帰りますからね! もう過労死はごめんです! だから、約束ですよ! 今度はちゃんと、私を死なせないでください」


 明るく振る舞うその姿が、余計に胸に刺さった。

 生前から、こいつはそうだった。

 俺の前では生意気な口を利いて、甘えて、でも大事なところでは俺を支えてくれていた。

 ただの後輩以上の感情を、向けてくれていることになんとなく気づいていながら、俺は忙しさを言い訳に無視していた。


 もう、無視はしない。


「……ああ。約束する」


 俺はミサの頭に手を置いた。

 ふわふわした髪の感触。確かにここにいる。


「今度は絶対に、一人にはさせない。ウチ、一応ホワイト目指してるから」


 俺が言うと、ミサは一瞬きょとんとして、それから顔を真っ赤にした。


「……うぅ。そういうとこですよ、天然タラシ……」


 彼女はボソボソと呟き、俺の手から逃れるように前を向いた。


「ほらっ! 行きますよ! さっさとボス倒して、有給申請するんですから!」


「もう有給かよ! まだ勤務初日だろうが!」


「いいの! これから楽しいこといーっぱい起こりそうですもん!」


 ミサが笑顔で駆け出す。

 その後ろ姿を見ながら、俺は眼鏡の位置を直した。


「……行くぞ、お前ら!」


「はい! ……なんか、ものすごく嫉妬するものを見せつけられた気がしますが、多分気のせいです」


「フン、見せつけられたな。新入りのくせに生意気だ」


 エルーカとレギナも、そう言いながらもどこか嬉しそうに俺たちの後ろについてくる。

 過去の後悔も、未練も、全部まとめてこのダンジョンの底に置いていく。

 俺たちはもう、誰も孤独じゃないんだからな。


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