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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第一章 管理者とバグだらけのヒロインたち

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第17話 王都の空に「Hello World」が浮かんだ日。 〜セキュリティ・ホールだらけの異世界に、ハッカーからの宣戦布告〜

 

 その日の朝は、不気味なほど静かだった。


「……マスター、今日はやけに通信が重いな」


 朝食の席で、レギナがコーヒーを啜りながら呟いた。

 彼女は並列思考魔法で常に周囲の魔力情報をモニタリングしているのだが、今朝はノイズが酷いらしい。


「ああ。リリスもさっきから『ネットワークの遅延レイテンシが酷くて検索できません』ってボヤいてたしな」


 俺はパンにバターを塗りながら答えた。

 ここ数日続く、街全体の「違和感」。

 水道の水圧低下、魔導具の誤作動、そしてこの通信障害。

 まるで、巨大な嵐が来る前の静けさのようだ。


「師匠! 大変です! 窓の外を見てください!」


 エルーカが窓際で叫んだ。

 俺たちが駆け寄ると、王都の上空に異変が起きていた。


 空が、歪んでいる。

 青空の一部にノイズが走り、まるで映像信号が乱れたテレビ画面のように、景色がバグっているのだ。


「……なんだあれ。空間断裂か?」


『警告! 王都全域で大規模な魔力干渉を検知! これは……オーバーフロー攻撃です!』


 眼鏡のHUDディスプレイに、リリスの緊迫した声と共に真っ赤なアラートが表示された。


 直後。

 ドォォォォォォン!!


 地響きと共に、王都のあちこちから黒煙が上がった。


「なっ……!?」


 俺の目の前で、街の給水塔が破裂し、大量の水が噴き出した。

 信号代わりの魔導灯が一斉に赤く発光し、爆発する。

 さらに、王都を包んでいた透明な「大結界」が、ガラスが割れるような音を立てて砕け散った。


「結界が……消滅した……?」


 レギナが信じられないものを見る目で呟く。

 数百年もの間、王都を魔物から守り続けてきた鉄壁の守りが、一瞬にして無力化されたのだ。


『マスター! 王都のメイン制御システム(マザーコンピューター)が乗っ取られました! インフラ制御権限、すべて奪われています!』


「乗っ取られただと!?」


 俺はガントレットを展開し、強制介入を試みる。

 だが、弾かれた。


『Error: Access Denied.(アクセス拒否)』

『Admin privileges have been changed.(管理者権限が変更されました)』


「……マジかよ。俺以外の『管理者』がいるってのか?」


 俺が舌打ちした瞬間、空のノイズが集束し、巨大な文字を描き出した。

 それは王都の誰もが見上げ、そして誰も意味が理解できない、異界の言葉。


『Hello World!』


 ハロー・ワールド。

 プログラマーが最初に学ぶ、世界への挨拶。

 だが今は、この世界への「宣戦布告」として空に浮かんでいた。


「……ハローワールドだと? ふざけやがって」


 俺はギリッと奥歯を噛んだ。

 これは愉快犯の仕業だ。

 ゲーム感覚で、この世界のインフラを掌握し、住人たちがパニックになる様を楽しんでいる。


『Ladies and Gentlemen!(紳士淑女の諸君!)』


 空に浮かぶ文字が次々と書き換わっていく。

 同時に、街中に設置された魔導スピーカーから、加工された機械音声が響き渡った。


『ようこそ、新しいゲームへ! この街のセキュリティ、ガバガバすぎて笑っちゃいました! なので、ちょっと難易度を調整(アップデート)させていただきますね!』


 軽い口調。人を小馬鹿にしたような笑い声。

 間違いない。ゴーレムを暴走させた、あのクラッカーだ。


『まずは第1フェーズ。街の防衛機能をオフにしました。これで外の魔物ちゃんたちも入り放題です! さあ、生き残りをかけたサバイバルゲームの始まりだ!』


 宣言と同時だった。

 結界の消えた空から、翼竜ワイバーンの群れが降ってくる。

 さらに、地下からはマンホールの蓋を吹き飛ばし、巨大なネズミやスライムたちが溢れ出してきた。


「キャアアアアッ!」


「魔物だ! 逃げろぉぉ!」


 悲鳴と怒号。

 平和だった朝の食卓は、一瞬にして戦場へと変わった。


「師匠! 行きます!」


 エルーカが聖剣を掴み、窓から飛び出した。

 彼女の顔に迷いはない。目の前の人々を守る、ただそれだけを見据えている。


「マスター、私も行く。雑魚の相手は勇者に任せてもいいが、空の敵は私が落とす」


 レギナもまた、杖を構えてバルコニーへ向かう。

 頼もしい連中だ。


「ああ、頼んだぞ二人とも! 市民の避難誘導と、魔物の迎撃だ! 無理はするなよ!」


「はいっ!」


「承知した!」


 二人が戦場へと駆けていくのを見送り、俺は自室サーバールームへと走った。

 俺の戦場は外じゃない。ここだ。


「リリス! 全リソースを防御と解析に回せ! 敵の回線を逆探知して、制御権を奪い返すぞ!」


『了解です! ……マスター、顔が怖いですよ。まるで魔王です』


「うるさい。魔王よりタチが悪いんだよ、あの馬鹿は」


 俺はデスクに滑り込み、複数のモニターウィンドウを展開した。

 ガントレットのキーを叩く音が、機関銃のように部屋に響く。


「俺の(セカイ)で好き勝手やってくれたな。……そのふざけたOS、根元からへし折ってやる」


 眼鏡の奥で、俺の目が冷たく光った。

 エンジニアの意地とプライドをかけたハッキング戦争(サイバー・ウォー)の開戦だ。

 

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