第14話 行列のできる何でも屋。 〜伝説の剣の鑑定からコンロの修理まで、「管理者権限」でサクッと解決します〜
「おいおい、なんだこの行列は……」
翌朝。
俺が重い瞼を擦りながら玄関を開けると、そこには長蛇の列ができていた。
路地裏のボロ屋の前から、大通りまで人が並んでいる。
「あ! 出てきたぞ! 噂の『何でも屋』だ!」
「Sランクパーティーを論破したっていう翻訳者はここか!?」
「うちの壊れた魔導コンロも直してくれー!」
わっと人々が押し寄せてくる。
どうやら昨夜の焼肉屋での一件が、尾ひれがついて広まっているらしい。
『無能だと思われていた男が、実は凄腕の技術者だった』という噂は、庶民の好物だからな。
「師匠! 大変です! 依頼人が殺到してます!」
奥からエルーカが飛び出してくる。
彼女はなぜか、パリッとした白いシャツにタイトスカートという、どこぞの「受付嬢」のような格好をしていた。
「……なんだその格好」
「へへっ、どうですか? 何でも屋の看板娘として、形から入ってみました! 似合いますか?」
エルーカがくるりと回る。
普段の鎧姿とのギャップが凄い。というか、スタイルの良さが強調されて目のやり場に困る。
「マスター。受付業務なら私に任せておけ」
対抗するようにレギナも現れた。
こっちは黒のスーツに伊達メガネ。完全に「出来る秘書」のオーラを出している。
「並列思考魔法で、同時に10人の話を聞き分け、重要度順にトリアージできる。そこのポンコツ勇者には無理な芸当だ」
「そうやってマウント取りに来るのやめてください! 私だって笑顔で愛想振りまくのは得意です!!」
朝から騒がしい。
だがまあ、人手があるのは助かる。
「よし、分かった。二人ともそれ採用だ。……リリス、お前は裏で依頼内容のフィルタリングを頼む。無理難題や詐欺案件は弾いてくれ」
『了解です、マスター。……まったく、ブラック企業体質が抜けてませんね。労働基準法って知ってます?』
リリスの憎まれ口を聞き流し、俺はガントレットを装着した。
さあ、業務開始だ。
◇
その日の「何でも屋」は戦場だった。
「次の方どうぞー!」
「こちらの魔導ランプですね。……ふむ、回路がショートしている。修理費は銀貨3枚になります」
エルーカとレギナが見事な連携で客を捌いていく。
俺のデスクには、次々と「故障した魔導具」や「解読不能のスクロール」が持ち込まれた。
「すいません! この魔導コンロ、火力が安定しなくて……」
持ち込まれたのは、旧式の魔導コンロだ。
俺は眼鏡越しに内部コードを覗く。
「あー、これ着火シーケンスのループ回数が設定ミスってるな。あと、温度センサーの閾値が低すぎる」
俺はキーボードを叩き、数行のコードを修正する。
「はい、直ったよ。ついでに『強火モード』も追加しといたから」
「おぉっ! 火がついた! しかも前より使いやすい! ありがとうございます!」
客が喜んで帰っていく。
次は商人が持ち込んだ「鑑定依頼」だ。
「この剣、ある遺跡で見つけたんですが、呪われてる気がして……」
「どれどれ……」
俺は剣に触れ、解析コードを流す。
『Item: Rusty_Sword(錆びた剣)』
『Enchant: None(付与効果:なし)』
『Note: Just dirty.(注:ただ汚いだけ)』
「呪いじゃないな。単に手入れ不足で錆びて、魔力伝導率が悪くなってるだけだ。磨けば普通に使えるよ」
「な、なんだ……よかったぁ!」
そんな調子で、俺たちは昼食もとらずに依頼をこなし続けた。
スライム退治のような汚れ仕事はない。
修理、鑑定、データの復旧。
どれも俺の「管理者権限」を使えば一瞬で終わる仕事ばかりだが、客たちは奇跡を見るような目で感謝して帰っていく。
「……悪くないな」
俺は伸びをした。
前世では、バグを直しても「当たり前」だと思われ、感謝されることなんて稀だった。
納期に追われ、怒鳴られ、心身をすり減らすだけの日々。
でも今は違う。
俺の技術を必要としてくれる人がいて、それを支えてくれる仲間がいる。
「師匠! 差し入れ貰いました! アップルパイです!」
「マスター、コーヒーを淹れ直した。少し休憩しよう」
エルーカとレギナが、笑顔で俺を労ってくれる。
ここが、俺の新しい居場所なんだな。
◇
夕方。
最後の客を送り出し、俺たちは「閉店」の札をかけた。
「ふぅ……疲れましたぁ……」
エルーカがソファに沈み込む。
レギナも少し髪が乱れているが、充実した顔をしている。
「今日の売上、過去最高を突破した。これなら今月は余裕で黒字だぞマスター」
「二人ともよくやってくれた。ボーナス弾むよ」
俺は洗面所に向かい、顔を洗おうと蛇口を捻った。
キュッ。
ポタ……ポタ……。
「……ん?」
水が出ない。
いや、出ているが、極端に水圧が低い。
「おいリリス。水道局のサーバー、落ちてるか?」
『いえ、正常稼働してますよ。……あれ? でも王都全体で、水圧制御のパケットロスが発生してますね』
リリスの声に、俺は眉をひそめた。
昨日の「ラグ」と同じだ。
一見するとただの故障や不具合に見えるが、街のインフラ全体に、目に見えない「小さな穴」が空けられているような……そんな違和感。
「……気のせいか?」
俺は蛇口を閉めた。
今日は疲れている。考えすぎかもしれない。
「マスター? どうした?」
「いや、なんでもない。飯にしよう」
俺はリビングに戻った。
だが、この時の俺はまだ気づいていなかった。
この小さな違和感が、やがて王都を揺るがす大事件の予兆であることに。
そして今夜――俺は、忘れていた「あの日」の夢を見ることになる。




