第13話 Sランク元パーティー「武器が壊れた!」 俺「メンテ担当を追放したせいだぞ?」 〜今更「戻ってきて」と言われても、もう遅い(サポート対象外です)〜
王都の大通りに面した、高級焼肉店『ドラゴンの舌鼓』。
一皿で庶民の月収が消し飛ぶ超高級店だが、今夜は特別だ。
「んん~っ! おいひぃ~ですぅ~!」
エルーカが満面の笑みで、霜降りのドラゴンロースを頬張っている。
レギナも無言だが、凄まじい手際で肉を焼き、自分の皿と俺の皿に均等に配分していた。
「よかったな。好きなだけ食えよ〜」
俺はエールをちびちび飲みながら、網の上で焼ける肉を眺めていた。
平和だ。ただ肉を焼いて酒を飲みながら食う。なんと平和なことか。
「おい、そこ退けよ貧乏人! ここは俺たち『黄金の夜明け』様の予約席だぞ!」
入り口の方から、聞き覚えのある不快な大声が響いた。
俺の手がピタリと止まる。
「お、お客様、困ります! ご予約の時間より大幅に遅れられていますので、既にキャンセル扱いに……」
「うるさい! Sランクパーティーだぞ!? 席くらい今すぐ作れ!」
金髪をなびかせた長身の男が、店員を押しのけてズカズカと店内に入ってくる。
その後ろには、露出度の高い魔導師の女や、大柄な戦士。
……うわぁ。
一番会いたくない連中と鉢合わせしちゃったよ。
俺をこの世界から――冒険者という職から追放した、かつての仲間たちだ。
「おい、そこの席! 俺たちが座るから空け……って、あぁ?」
俺たちのテーブルの前で足を止めた金髪の男――リーダーのレオンが、俺の顔を見て目を丸くした。
「お前……ナオトじゃないか! 生きてたのか、『無能な翻訳者』くん」
その言葉を聞いた瞬間、エルーカとレギナの手が止まった。
店内の空気が、急速冷凍されたように凍りつく。
「……レオンか。相変わらずマナーが悪いな」
「はっ! マナーだと? 負け犬が偉そうに!」
レオンが下卑た笑いを浮かべる。
俺はため息をつきながら、彼らの装備を一瞥した。
(……ボロボロだな)
一見すると豪華な装備だが、俺の解析眼には、その悲惨な内部構造が丸見えだった。
魔導師アルマの杖は魔力回路が焼き切れる寸前だし、戦士ガストンの鎧も自動修復機能がバグを起こして機能していない。
俺がいなくなってから、メンテナンスを怠ったツケが回ってきている。
「へぇ、Sランク様にしては随分と装備が痛んでるな。……その杖、もう寿命だぞ?」
「あ? 何を言っている。これは最新の『詠唱短縮カスタム』だ! お前の古臭い翻訳なんかより、よっぽど高性能なんだよ!」
アルマが杖を自慢げに掲げる。
だが、その杖からは「キィィィン」という不快な高周波音が漏れ出していた。
メモリリークの音だ。
「おい、やめとけ。その杖、内部処理がループして熱暴走しかけてる。今魔法を使ったら……」
「うるさい! 無能が嫉妬してんじゃねぇ!」
レオンが激昂し、あろうことか店内で剣を抜いた。
その剣身には、俺が昔組み込んだ『炎属性付与』のコードが残っているはずだが、今は無茶な改造コードで上書きされ、どす黒い光を放っている。
「見せてやるよ! 俺たちの新しい力を! 『深淵より来たりし漆黒の業火よ、我が敵を……』」
レオンが得意げに、無駄に長い「映え詠唱」を唱え始める。
俺は頭を抱えた。
バカだ。本当にバカだ。
最適化されていないクソコードを、壊れかけたハードウェアで実行しようとしている。
「……伏せろ!」
俺が叫ぶのと同時、レオンの剣とアルマの杖が共鳴し、臨界点を超えた。
バチチチッ……ドォォォォン!!
「うわぁぁぁっ!?」
爆発音と共に、黒煙が店内に充満する。
魔法は発動しなかった。
代わりに、レオンの剣は根元から砕け散り、アルマの杖は飴細工のように溶けて折れ曲がった。
「な……な、なんだこれは……!?」
「私の杖が……! 特注品なのに……!」
黒焦げになった二人が、呆然と自分の武器を見つめている。
アフロヘアになったレオンの顔は、煤と絶望で真っ黒だ。
「言っただろ。……お前らの装備は、もう限界だったんだよ」
俺は煙を払いながら、冷ややかに告げた。
「俺がいた頃は、お前らの雑な魔力操作に合わせて、裏で毎回『エラー訂正コード』を走らせてたんだ。……それを知らずに、俺を追い出して、無茶な改造を続ければこうなる」
俺はテーブルの上の肉を一枚ひっくり返した。
「お前らが『自分たちの実力』だと思っていたものは、俺が必死に維持していた『システム』の上で成り立っていただけだ。……メンテナンス担当がいなくなったシステムがどうなるか、身を持って知っただろ?」
「そ、そんな……。じゃあ、俺たちは……」
レギナが静かに立ち上がり、レオンを見下ろした。
「……哀れだな。マスターの偉大さを理解できず、自ら破滅を選ぶとは」
エルーカも、憐れむような目で彼らを見る。
「もう、あなたたちに冒険者は無理ですね。武器も、自信も、全て失ってしまったのですから。そして何より、師匠に敵意を向けたことが許せません!」
レオンたちは反論できなかった。
武器を失い、公衆の面前で失態を晒し、そして何より、自分たちの力が「借り物」だったという事実を突きつけられたのだ。
その顔には、深い絶望と後悔の色が浮かんでいた。
「行くぞ、二人とも。飯食う気分じゃないし、また来よう」
俺は会計を済ませ、店を出た。
背後では、店主から損害賠償を請求され、青ざめるレオンたちの声が響いていた。
店を出て、夜風に当たる。
少し言い過ぎたかもしれないが、まあ、3年分の溜飲は下がった。
「師匠! カッコよかったです!」
「ああ。あの愚か者どもに、現実を教えてやる良い機会だった」
二人が興奮気味に話しかけてくる。
「……翻訳者、か」
俺は夜空を見上げた。
神様がくれたのは「言語翻訳」のスキルだったが、結局俺は、この世界のシステムを読み解く「エンジニア」として生きている。
まあ、やってることは似たようなもんか。
神の難解なソースコードを、人間が扱える形に直してやる。
――異世界の翻訳者。
改めて言われると、悪くない肩書きかもしれないな。
「ま、今はただの『何でも屋』だけど」
俺はニヤリと笑い、二人の背中を押した。
「さあ、帰るぞ。リリスが留守番で怒ってるだろうから、土産でも買って帰るか」
「はいっ!」




