表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: K-on
第一章 管理者とバグだらけのヒロインたち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/12

第11話 王都が重い(ラグい)と思ったら、防衛ゴーレムが裏で重いファイルをDLしてた。 〜うっかり地雷を踏んで物理ハッキングする羽目に〜

 

 その日、王都の様子はおかしかった。


「……なんか、重くないか?」


 俺は眉をひそめながら、大通りを歩いていた。

 体が重いわけではない。世界の挙動が重いのだ。

 すれ違う馬車の車輪が一瞬カクついたり、街灯の魔導ライトが不規則に明滅したりしている。


 まるで、処理落ち(ラグ)を起こしているオンラインゲームの中にいるようだ。


「そうですか? いつも通り活気があると思いますけど」


 隣を歩くエルーカは、焼き串を頬張りながら呑気なものだ。

 一般人ユーザーには気づかないレベルの遅延らしい。


「マスターの感覚は正しい。大気中のマナの流れが、どこか一箇所に吸い寄せられている」


 レギナが鋭い視線を空に向ける。


「リリス、原因は?」


『検索中……。王都のメインサーバー(魔力供給源)に異常な負荷がかかっています。CPU使用率98%。誰かが裏で、とんでもなく重い処理を回してますね』


 眼鏡のHUDディスプレイに、真っ赤なグラフが表示される。

 その負荷の中心地は――王都の正門。


「……嫌な予感がするな。ちょっと見に行くぞ」


 俺たちは足早に正門へと向かった。


 ◇


 正門広場には、王都の守護神である巨大な『防衛ゴーレム』が鎮座している。

 普段は石像のように動かないはずだが、今日は違った。

 巨体が微かに振動し、ブゥゥゥ……という低い駆動音を響かせている。


「おいおい、なんだあれ」


 俺は眼鏡の倍率を上げ、ゴーレムの内部コードを覗き込んだ。


『Running: Unknown Process(不明なプロセスを実行中)』


『Downloading... 80%... 85%...』


 外部から何者かがアクセスし、ゴーレムの中に謎のデータをダウンロードさせている。

 この膨大な通信量のせいで、街全体の回線が圧迫され、ラグが起きていたのか。


「不正アクセスかよ。どこのどいつだ、公共の回線で重いファイル落としてる馬鹿は」


「師匠、どうしますか? 衛兵に知らせますか?」


「説明しても理解できないだろ。俺が直接切断する」


 俺はガントレットを展開し、仮想キーボードを呼び出した。

 ダウンロードが完了する前に、接続を強制遮断する。


『target: Defense_Golem_01』

『action: Cancel_Download』


 カチャリ。

 俺がエンターキーを叩いた、その瞬間だった。


『Warning! Trap Detected!(警告! トラップ検知!)』

『Counter Protocol Activated.(対抗プロトコル起動)』


 HUDが真っ赤に染まり、けたたましい警報音が脳内に響く。


「しまっ――!?」


 俺の介入を検知した瞬間、ダウンロード中のファイルが即座に解凍され、実行されたのだ。

 これは「罠」だ。外部からの干渉があった場合、即座に暴れるようにプログラムされていたんだ。


 グオォォォォォ――ッ!!


 ゴーレムの岩肌が赤熱し、咆哮と共に再起動する。

 振動で石畳が割れ、周囲にいた衛兵たちが吹き飛ばされた。


「うわっ、やっちまった……!」


「師匠!? 何かしたんですか!?」


「地雷踏んだ! 俺が触ったせいで起動しちまった!」


 完全に犯人の思う壺だ。

 ゴーレムは真っ赤に輝く眼光を、起動スイッチを押した「俺」に向けた。


「敵性体、排除カイシ」


 無機質な音声と共に、丸太のような腕が振り下ろされる。

 速い。この巨体で、さっきまでのラグが嘘のような高機動だ。


「させませんっ!」


 キィィィン!!


 金属音が響き、俺の目の前で火花が散った。

 エルーカだ。

 彼女はとっさに俺の前に割り込み、聖剣でゴーレムの剛腕を受け止めていた。

 10メートル級の巨人の一撃を、小柄な少女が受け止めている。


「ぐぅ……っ! 重い、です……!」


 石畳がめり込み、エルーカのブーツが地面を削る。

 だが、彼女は退かない。


「エルーカ、離れろ! 潰されるぞ!」


「ダメです! 私が退いたら、師匠が……!」


「マスター、援護する! 『氷結牢アイス・プリズン』!」


 レギナが魔法を放ち、ゴーレムの足を氷漬けにして動きを鈍らせる。

 その隙に、エルーカが弾くように剣を振るい、バックステップで距離を取った。


「はぁ、はぁ……。なんて馬鹿力ですか……」


 エルーカの手が震えている。一撃受け止めただけで限界に近い。

 本来、防衛ゴーレムは「味方」だ。その装甲は、どんな魔法も弾く王都最強の盾。それが敵に回った絶望感。


「リリス! 停止コードは!?」


『ダメです! 物理的に回線を切断して「暴走モード」に入りました! 外部からの操作を受け付けません!』


「チッ、またスタンドアローンかよ!」


 最近のハッカーは手口が巧妙だ。

 遠隔操作が効かないなら、やることは一つ。


「物理ハッキングだ。あいつの胸の装甲を引っ剥がして、中のコアに俺を直結(ダイレクト・イン)させろ!」


「む、無茶ですよ師匠! あんな化け物に近づくなんて!」


「俺が地雷を踏んだんだ、俺が責任を取る! それに……」


 俺は二人を見た。


「お前らなら、道を作れるだろ?」


 俺の言葉に、二人の表情が変わった。

 エルーカは恐怖を飲み込み、不敵に笑う。

 レギナは冷徹な瞳に、静かな闘志を宿す。


「……任せてください。師匠が作った道、私がこじ開けます!」


「マスターの命令とあらば。あの程度の鉄屑、スクラップに変えてみせよう」


 二人が同時に駆け出した。

 エルーカが正面から注意を引きつけ、その隙にレギナが関節部を氷魔法で狙い撃つ。

 完璧な連携コンビネーション

 数日間の共同生活で、凸凹コンビだった二人の息はぴったり合っていた。


「やって、エルーカ!」


「はいっ! 『聖剣・流星斬メテオ・スラッシュ』!」


 レギナが作った氷の足場を駆け上がり、エルーカが空高く舞う。

 聖剣がまばゆい光を放ち、ゴーレムの胸板を唐竹割りに切り裂いた。


 ガガガガッ!

 装甲が剥がれ落ち、内部の赤いコアが露出する。


「師匠ッ!」


 エルーカが叫ぶ。

 俺は既に走っていた。

 崩れ落ちるゴーレムの膝を足場に、一気に胸部へと駆け上がる。

 剥き出しになったコアが、バチバチと火花を散らしている。


「ここか……! ウイルスごと消えろ!」


 俺はガントレットを装着した左手を、コアの端子に直接突き刺した。


「――物理接続ハードウェア・コネクト! 強制介入開始!」


 ビビビッ! と電流のような衝撃が腕を駆け巡る。

 視界がノイズで埋め尽くされ、犯人が仕込んだ悪意あるコードが逆流してくる。

 だが、俺の「青軸」キーボードがそれを上回る速度で叩き伏せる。


『Authentication: Admin(管理者認証)』

『Detect: Malware(ウイルス検知)』

『Action: Delete All(全削除)』


 俺は左手一本で、神速のタイピングを叩き込む。


「眠りな! デカブツ!」


 ッターン!!


 俺がエンターキーを叩き込むと同時、ゴーレムの赤い眼光がフツッ、と消えた。

 駆動音が止まり、その巨体がゆっくりと沈黙する。


「……はぁ、はぁ……」


 俺はゴーレムの胸の上で、荒い息を吐いた。

 ガントレットからは煙が出ている。ギリギリだった。


 下を見ると、ボロボロになったエルーカとレギナが、互いに肩を貸し合いながら俺を見上げていた。

 自分たちが傷つくのも構わず、俺を信じて道を切り開いてくれた二人。


 俺はコアから手を抜き、二人に親指を立てて見せた。


「お疲れ。……最高のチームワークだったぞ」


 その言葉を聞いた瞬間、エルーカはへなへなと座り込み、レギナもフッと笑って意識を失いかけた。

 まったく、世話の焼ける連中だ。

 だが、悪くない。

 俺一人では気づけなかった地雷も、こうしてカバーしてくれる仲間がいれば、怖くはない。


 俺は動かなくなったゴーレムの上で、王都の青空を見上げた。

 しかし、同時に冷たい汗が背中を伝う。


 今のウイルスの署名サイン

 書き方は独特だったが、俺は見覚えがあった。

 あれは――前世で俺が追いかけていた、悪名高いクラッカーの手口に酷似していたのだ。

 同一人物かどうかは分からんが、間違いなくその知識があった。


「……まさか、他にもいるのか? 『転生者』が」


 俺の平和なスローライフに、暗雲が立ち込める予感がした。

 

いつもお読みいただきありがとうございます!

年末年始は継続して、少し多めの更新となります。


【新作のご案内】


「か弱い令嬢」を演じていたのに、ショックで震えて手すりを掴んだら粉砕してしまった。~婚約破棄され実家に帰ったら、いつの間にか『筋肉の聖女(拳聖)』と崇められ、隣国の王様や変態賢者に溺愛され始めました~


本作が『知の無双』なら、こちらは『力の無双』です。

『異世界の管理者権限』とは真逆の、物理(筋肉)に全振りした令嬢の物語です。


理屈抜きでスカッとしたい方、ぜひ一度覗いてみてください。リンクはこちら↓↓↓

https://ncode.syosetu.com/n1675lo/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ