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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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最終話 異世界の管理者《アドミン》。 〜バグだらけの世界で、今日も俺たちは「幸せ」をデバッグする〜

 

 サザン・アトールでの夢のようなハネムーンも、いよいよ最終日を迎えていた。


 夕暮れ時のプライベートビーチ。

 空と海が茜色と紫のグラデーションに染まる「マジックアワー」の中、俺たちは砂浜に並んで座っていた。


「……終わっちゃうね」


 隣に座るミサが、膝を抱えながらポツリと呟く。

 その横顔には、楽しかった時間の余韻と、少しの寂しさが滲んでいる。


「ああ。あっという間だったな」


 この一週間、俺たちは本当によく遊んだ。

 泳いで、食べて、笑って。

 世界を救う重圧も、仕事の締め切りもない、純粋な安息の時間。


「帰りたくないですねぇ……。このままここに住んじゃいたいです」


 エルーカが砂に指で絵を描きながら言う。


「フン。だが、王都が恋しくなってきたのも事実だ。ここの果物も美味だが、やはり肉料理が恋しい」


 レギナが強がりを言うが、その視線は名残惜しそうに水平線を見つめている。


「ナオト、またくる?」


 俺の膝の上で、ルナが顔を上げて聞いてくる。


「ああ。絶対に来よう。……次はもっと大勢でな」


「えっ? まだ奥さん作るつもり〜?」


「そっちじゃないわ」


「あ、()()()ね?」


 俺たちの旅はこれで終わりじゃない。

 これからも、新しい場所に行き、新しい景色を見る。きっとこの先、家族も増える。そんな未来が約束されていることが、何よりも嬉しかった。


『Notification. Return route calculation complete.(通知。帰還ルート計算完了)』

『Estimated travel time: 6 hours.(推定移動時間:6時間)』


『あっ! 先越された! 私がナビゲートしたかったのに!』


 ポケットのスマホから、デウスの無機質な声とリリスの声が響く。

 現実への呼び出し音だ。


「……よし。帰るか!」


 俺は立ち上がり、砂を払った。


「騒がしくて、忙しい俺たちの『職場(まいにち)』にな」


「はいっ!」


「うむ。溜まっている依頼を片付けねばな」


「うん! 充電完了、これならフルパワーで働ける!」


 俺たちは笑顔で頷き合い、ヴィラを後にした。

 魔導ワゴン車に荷物を積み込み、エンジンを始動させる。

 夕焼けの空に向かって、白い車体が舞い上がった。


 ◇


 王都への帰路。

 夜の空を飛びながら(低空飛行)、車内はお土産話で盛り上がっていた。


「あの巨大カニとのバトル、凄かったですね! レギナさんが凍らせてくれたおかげで、新鮮なままお刺身にできました!」


「エルーカの剣捌きも見事だったぞ。殻をあれほど綺麗に剥くとはな」


「私はやっぱり、あの洞窟探検かなぁ。古代遺跡のギミック、UIが最悪すぎて逆に燃えた!」


 後部座席でワイワイと騒ぐ三人。

 ルナは遊び疲れて、ミサの膝の上で丸くなって眠っている。


 俺はハンドルを握りながら、バックミラー越しにみんなの顔を見た。

 出会った頃は、それぞれが孤独や悩みを抱えていた。

「偽物の勇者」「捨てられた魔女」「過労死した後輩」。

 バラバラだった俺たちが、今こうして一つのワゴン車に乗り、同じ家に帰ろうとしている。


(……悪くない人生(ルート)だ)


 前世の俺が見たら、羨ましがって呪うかもしれない。

 でも、今の俺には胸を張って言える。

 これは俺たちが、自分の手で選び取り、デバッグして作り上げた「ハッピーエンド」なのだと。


 窓の外に、王都の灯りが見えてきた。

 宝石箱をひっくり返したような、温かい光の海。


「着いたぞ。俺たちの街だ」


 俺の言葉に、みんなが窓に張り付く。


「ただいまー!」


「帰ってきたな」


「いつ見てもこの夜景は綺麗です」


 ワゴン車は高度を下げ、夜の王都へと滑り込んでいった。


 ◇


 翌朝。

 王都の路地裏にある「何でも屋」は、早朝から騒がしい空気に包まれていた。


「ナオトさん! 起きてください! 大変です!」


 エルーカが寝室に飛び込んでくる。

 俺は重いまぶたを擦りながら起き上がった。


「……なんだよ、朝から。まだ開店前だろ?」


「それが……お店の前を見てください!」


 俺はあくびをしながらリビングへ降り、玄関の扉を開けた。


「うおっ!?」


 そこには、長蛇の列ができていた。

 店の前から路地を抜け、大通りまで続く人の波。


「あ! 店が開いたぞ!」


「ナオトさん! おかえりなさい!」


「待ってましたよ! 依頼が山積みなんです!」


 ドッと押し寄せる依頼人たち。

 俺たちが長期休暇を取っている間に、街中のトラブルが蓄積していたらしい。


「こりゃあ……休む暇なしか」


 俺は苦笑して頭をかいた。

 だが、不思議と嫌な気分ではない。


「ナオト、着替えを用意した。さっさと顔を洗え」


 レギナが、パリッとアイロンのかかったシャツとコートを渡してくれる。

 その手際の良いサポートに、仕事モードのスイッチが入る。


「システム起動! うげっ……。今日の予約、すでに120件オーバー!? タスク管理ツール、フル稼働させるね!」


 ミサがカウンターでタブレットを操作し、テキパキと客を誘導し始める。


「ルナも、おてつだいする」


 ルナがエプロンをつけて、お茶配りの準備をしている。


「……よし。やるか!」


 俺は眼鏡をかけ、ガントレットを装着した。

「何でも屋」、営業再開だ。


 ◇


 その日の店は戦場だった。


「こらー! 割り込み禁止です! 整理券を持って並んでください!」


 エルーカが列の整理に走り回る。


「その魔導具はリコール対象だ。メーカーに送り返せ。……なに? 自分で直したい? 仕方ない、貸せ」


 レギナが強面の冒険者を相手に、的確な対応をしている。


「ナオトさん! こちらの商会さんから『在庫管理システムの構築』依頼です! 報酬弾むって!」


 ミサが金になりそうな案件を優先的に回してくる。

3人の妻を養うためには金も必要だ。仕方ない。


 俺はデスクで、次々と持ち込まれる「故障品」や「バグった魔導書」を片っ端から修理(デバッグ)していた。


「この剣、付与魔法の構文エラーだ。書き直しておいたぞ」


「このポーション製造機、温度センサーがイカれてる。物理的にバイパス繋いどくから、あとで部品交換しろ」


 目が回る忙しさ。

 だが、客たちは皆、笑顔で帰っていく。

「ありがとう」「助かった」という言葉を残して。


 カランカラン。


 昼過ぎ。ドアベルが鳴り、一人のドワーフが駆け込んできた。

 顔なじみのボルグだ。


「おう! ナオト! 帰ってきたか!」


「オヤジ。また厄介事か?」


「へへっ、バレたか。実はよぉ……ドラゴンの巣の近くで、魔導通信が繋がらなくなったんだ! これじゃ商売あがったりだ! ドラゴンたちも『動画が見れない』って暴れててよぉ……」


「……ドラゴンの巣で魔導通信ねぇ」


 俺は眼鏡の位置を直しながら、ため息交じりに笑った。

 かつては「人食い」として恐れられたドラゴンが、今や動画配信を楽しみにしているなんて。

 世界は確実に、俺たちが望んだ形へとアップデートされている。


 少し変な方向に、かもしれないけどな。


「……しゃーない。ちょっくら『修理』してくるか」


 俺は立ち上がり、コートを翻した。

 冒険の匂いがする。

 ただの修理じゃ終わらない、一筋縄ではいかないトラブルの予感。


「ナオトさん、行ってらっしゃい! お弁当、持ちましたか?」


「気をつけてな、ナオト。夕飯までには戻れよ」


「お土産よろしくね! ドラゴンの鱗とか、新しい素材があったら手当り次第採取してきてね!」


 愛する妻たちが、作業の手を止めて送り出してくれる。

 この「帰る場所」があるから、俺はどこへだって行ける。


「ナオト、いってらっしゃーい!」


 ルナが手を振る。


「ああ。行ってくる」


 俺はガレージへ向かった。

 そこには、ハネムーンで酷使されたにも関わらず、ミサの手でピカピカに整備された『ハイエース改』が待っている。


 エンジン始動。

 重低音が響き、車体が浮き上がる。

 ガレージのシャッターが開き、午後の青空が目に飛び込んでくる。


 俺はハンドルを握り、空を見上げた。


 かつて、「無能」と言われて追放された翻訳者。

 過労死して、この異世界に流れ着いた社畜エンジニア。

 そんな俺が、今では世界を管理し、こんなにも多くの大切なものに囲まれている。

 帰る場所がある。


 前世の俺よ、見てるか。

 お前が命を削って求めていた「バグのない完璧な世界」なんて、どこにもなかったよ。

 世界はいつだってバグだらけだ。

 理不尽で、面倒くさくて、騒がしい。


 だけど。

 俺は、このバグだらけの世界が大好きだ。

 完璧じゃないからこそ、直す楽しみがある。

 足りない部分を、互いに補い合う喜びがある。


「……さあ、とっとと終わらせて、みんなと家でゆっくりするか」


 俺はアクセルを深く踏み込んだ。

 魔導ワゴン車が、爆音と共に空へと駆け上がっていく。


 俺は、異世界の翻訳者。

 神様の言葉を人の言葉に、人の願いを世界の形に翻訳する、ただの「何でも屋」だ。


 今日もまた、新しいバグが俺を待っている。

 最高の家族たちと共に、俺たちの物語はこれからも続いていく――。


これにて、完結となります!


全100話+幕間1話、ここまでお読みいただき、ありがとうございました!


そして、追ってくださった皆様、本当にお疲れ様でした!

ブクマ、星評価、リアクション、ありがとうございました!とても励みになりました!(^^)


ナオト、エルーカ、レギナ、リリス、ミサ、ルナ……(デウス……?)の日常はこれからも騒がしく、けれどラブラブにドタバタに過ぎていくことでしょう……。


彼ら(彼女ら)ならきっと、どんな困難も笑って吹き飛ばしてしまうんでしょうねw


まだ見守りたい気もしますが、それは野暮というものですね(笑)


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