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【完結】『異世界の管理者権限(アドミン) 〜バグだらけの世界を「仕様変更」して無双する。最強の相棒(UI担当)と組んで、物理キーボードで神様をハッキングしました〜』  作者: 文月ナオ
第二章 ウイルス・スキャンとスパムダンジョン

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第99話 楽園の修理屋さん。 〜リゾートに来てまで発電機を直すのが、俺たちらしい休日〜

 

 翌朝。

 王都を出発した俺たちの魔導ワゴン車は、大陸の南端を越え、広大な海の上を飛んでいた。

 ミサが実装した『ホバークラフト機能』のおかげで、波を切るように滑走していく。


「見えてきたよ! 目的地!」


 運転席のミサが声を弾ませる。

 水平線の向こうに現れたのは、息を飲むような絶景だった。


「うわぁ……! なんですか、あの光は……!」


 エルーカが窓に張り付き、瞳を輝かせる。

 そこにあったのは、エメラルドグリーンの海に浮かぶ、大小様々な島々――『サザン・アトール』。


 だが、ただの海ではない。

 海面が、まるで無数の宝石を砕いて撒き散らしたかのように、虹色の光を乱反射させているのだ。


「この海域特有の『発光プランクトン』と、海底の魔鉱石が共鳴しているのか。……まるで、海そのものが巨大な魔法陣のようだ」


 レギナが感嘆の息を漏らす。

 太陽の光が透明度の高い海水を通り抜け、海底の白砂に反射し、さらに水中の魔力素粒子と干渉してプリズムのような輝きを生み出している。

 空の青と、海の虹色が溶け合い、境界線さえ曖昧な幻想世界。


「ナオト、おさかないる! とんでる! ひかってる!」


 俺の膝の上で、ルナが窓の外を指差す。

 跳ねるトビウオたちもまた、鱗がクリスタルのように透き通り、飛沫と共に光を散らしていた。


「おー! すげぇ景色だな」


 戦いも、バグも、締切もない。

 ここにあるのは、ただ圧倒的な「美」と「休息」だけだ。


 ◇


 俺たちは一番大きな島にある、一棟貸し切りのヴィラにチェックインした。

 海に突き出すように建てられた、プライベートビーチ付きの豪華なコテージ。

 床の一部がガラス張りになっていて、足元を泳ぐ光る魚たちが見えるというお洒落な仕様だ。


「荷解きは後! まずは海だーっ!」


 ミサの号令で、女性陣は着替えのために部屋へと消えていった。

 俺は一足先に海パンに着替え、ビーチパラソルの下でデッキチェアに寝転んだ。

 波の音が、心地よいリズムで響く。


『Master. The temperature here is 32 degrees Celsius. High risk of thermal runaway.(マスター。気温32度。熱暴走のリスクが高いです)』


 ポケットに入れたスマホの中から、デウスが文句を言ってくる。

 相変わらず無粋な神様だ。


「お前は防水・耐熱仕様のスマホに入ってるから平気だろ。……少しはバカンスを楽しめよ」


『Illogical... Why do organic beings enjoy UV radiation?(非論理的です……なぜ有機生命体は紫外線を好むのですか?)』


『もう、うるさいですよ元神様! せっかくのリゾートなんですから、黙っててください!』


 スマホの画面横から、リリスのウィンドウがポップアップする。

 彼女のアバターは、既にハイビスカスの髪飾りをつけたアロハシャツ姿に着替えていた。


『見てくださいこの海のデータ! テクスチャ解像度が無限大ですよ!』


『Hmph. It is just H2O and impurities.(ふん。ただの水と不純物です)』


 AI同士の喧嘩を聞き流していると、テラスのドアが開いた。


「お待たせしました!」


 声がして顔を上げると、そこにはこの世の楽園が広がっていた。


「……ッ!」


 俺は思わずサングラスをずらした。

 試着姿を見た事があるとはいえ、実際にこの場で改めて見てみると、試着室で見たのとは全く別に見える。


 輝きが違うのだ。輝きが。


 エルーカは、恥ずかしそうにパレオを腰に巻いているのが、逆にまたいい。

 アップにした髪から覗くうなじが、破壊的に色っぽい。


「ど、どうですか……? 少し、露出が多い気がするんですけど……」


「いや、良い。それでいい」


「えへへ……」


 次に、レギナ。

 砂浜に立つだけで、そこがグラビアの撮影現場になるような圧倒的な存在感。

 自信ありげなポーズだが、俺と目が合うと少しだけ頬を染めた。


「フン。暑いからな。これくらいが機能的だろう?」


「グッジョブ」


 俺はそう言ってレギナに親指を立てて見せた。


 そして、ミサ。

 やはり、現代っ子。洗練され具合が一人だけ違う。いわゆる、シティーガール感が溢れてる。


「ナオトさん。ドキッとした?」


「もう、心臓があと二つくらいないと持たんよ」


 そして足元には、浮き輪を持ったルナ。

 スクール水着のようなシンプルなワンピースだが、背中に小さな羽の飾りがついている。


「ナオト、およぐ!」


 俺は立ち上がった。

 こんな美女たちと小さな天使に囲まれてバカンスか。社畜だったくせに、俺も良い身分になったもんだ。


「よし! 遊ぶぞ!」


 俺はルナを抱え上げ、虹色に輝く海へと走り出した。


 ◇


 日中は、童心に帰って遊び倒した。


「そーれっ! 『聖剣・スパイク』!」


「甘いな! 『氷壁レシーブ』!」


 エルーカとレギナの人間離れしたビーチバレー。

 ボールが衝撃波を纏って飛び交う。


「あーもう! 物理演算がおかしいよこの人たち! ナオトさん、私とルナちゃんチームに加勢してよ!」


「無理だ。俺が入ったら即死する。お前よく無事だな」


 俺は審判席(パラソルの下)から動かない。賢明な判断だ。あんな嵐の中に飛び込むのなんて自殺行為だ。


 ◇


 日が暮れると、俺たちはヴィラのテラスでバーベキューを始めた。

 新鮮な魚介類と、現地のトロピカルフルーツ。


「ん~っ! このエビ、プリプリです!」


「この酒も悪くない。南国の果実酒か」


 波音をBGMに、穏やかな時間が流れる。

 空には満天の星。


「……幸せだね」


 ミサが、カクテルグラスを傾けながら呟いた。

 その頬はほんのりと赤い。


「そうだな」


 俺は星空を見上げた。

 その時。

 ヴィラの奥から、ゴウン……という嫌な音がした。

 同時に、テラスの照明がフッと消え、エアコンの室外機が停止する音が聞こえた。


「……あれ? 停電?」


 エルーカがキョロキョロする。

 辺りが闇に包まれる。


「……見てくる」


 俺は立ち上がり、懐中電灯(魔導ライト)を持って裏手の動力室へ向かった。

 ミサたちも「手伝う!」とついてくる。


 動力室の扉を開けると、そこには旧式の魔力ジェネレーターがあった。

 煙を上げ、歯車が噛み込んで止まっている。


「うわ、古っ。これ、メンテされてないじゃん」


 ミサが顔をしかめる。


「島の管理人がサボってたんだろ。……どれ」


 俺は上着を脱ぎ、工具を取り出した。

 管理者権限(チート)を使えば一瞬で直せる。

 だが、今は使わない。

 これは「仕事」じゃない。「日曜大工」だ。

 それに、家族の前でいい格好をしたいという欲もある。


「エルーカ、そこ照らしてくれ。レギナ、歯車を押さえててくれ」


「はい」


「任せろ」


 俺はスパナを回し、錆びついた部品を外し、回路を繋ぎ直す。

 油にまみれ、汗をかく。

 ミサが横で、配線の図面を即興で書いて渡してくれる。


「ここのコンデンサ、容量不足! 予備の魔石でバイパス作るね!」


「よし、頼む!」


 カチャカチャ、カンッ!

 暗闇の中、俺たちの連携作業が続く。

 世界を救うような大掛かりなハッキングじゃない。ただの発電機の修理。


 南の島にハネムーンに来てまで、やる事じゃない。

 だけど、不思議と楽しかった。

 こうやって、みんなで一つの問題を解決する時間が。


「……よし。繋いだぞ〜」


 俺がスイッチを入れると、ブルルンッ! とジェネレーターが息を吹き返した。

 照明が灯り、エアコンの風が戻ってくる。


「ついたー!」


「さすがですナオトさん!」


 三人が歓声を上げる。

 俺は手の油を拭いながら笑った。


「こんなもんだろ。……さあ、飲み直すか」


 俺たちがリビングに戻ると、ルナが目を擦りながら起きてきた。


「……ナオト? でんき、ついた?」


「ああ。直したぞ」


 俺が言うと、ルナはへにゃりと笑った。


「ナオト、なんでもなおせる。すごーい」


 その言葉が、どんな勲章よりも誇らしかった。

 俺は「何でも屋」だ。

 世界の危機から、家の停電まで。

 大切な人たちの笑顔が曇るなら、どんなバグだって直してやる。


 ◇


 その夜。

 俺たちは一つの大きなベッドで(ぎゅうぎゅうになりながら)眠った。

 窓の外には波の音。

 隣には愛する妻たちの寝息。

 俺の腕の中には、世界で一番大切な「日常」があった。


 ハネムーンは、まだ終わらない。

 だけど、この旅が終わっても、俺たちの毎日は続いていく。

 バグだらけで、騒がしくて、最高に愛おしい日々が。


「……おやすみ」


 俺は誰にともなく呟き、幸せな眠りへと落ちていった。

 

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