「神竜降臨」
「まじ、どうなってるのよ!寒すぎでしょ!」
「マリア様はまだマシでしょ...俺達もっと寒いんですけど...」
マリアは体に炎を纏って、雪山の寒さをしのいでいた。
だが、そもそも、ここは雪山ではない。
異常気象、いや竜のせいでこの山は雪山と化したのだ
「まじ見つけたらぶっ殺してやる。私はさっさと学校に帰りたいんだけど!」
山道を進んでいくと、洞窟のような場所についた。
寒さをしのぐため、マリアたちはその穴へと入っていった。
中は暖かく、外とは大違いであった。
「ここ暖かいわね。温泉でもあるのかしら」
だが、マリアは隊員たちに探索させたが、何も見つからなかった。
昼食を取り、休憩をしていると、吹雪の中から一人の男が現れた。
この雪山は立入禁止になっている。
それを覚えていたマリアはすぐに警戒した。
「何者だ!」
「...この山の主と言ったら?」
「山の主...まさか、竜か!」
マリアはすぐに攻撃をした。
だが、煙の中から出てきたのは無傷の男である。
白髪で目はアランと同じような空色。
身長はマリアより少し大きかった。
二十代ぐらいの若い男であるが、一つだけ、人間と異なるところがあった。
「鱗の尻尾...でも竜が変身するなんて聞いたことないわよ!」
マリアは隊員達を下がらせて、自分の周りに無数の炎の矢を作り出した。
流石に男も防げないと感じたのか、氷の結晶を作り出して、炎の矢と相殺した。
一瞬、マリアは勝てるかもしれない、そう考えたが、次の出来事で覆された。
「な、なんだ!?この白いものは...敵の攻撃かもしれない!皆防御結界を張れ!」
「...ちがう。これ、攻撃じゃない...魔力のオーラだ...」
「ほう...君は魔眼持ちかなにかか?」
「アランと...同じ...みんな!下がって!」
マリアは大声で叫んだ。
その様子から、隊員達もただ事ではないと悟ったのだろう。
敵の攻撃が届かないであろう洞窟の、奥の奥の隅で、何重にも防御結界を張った。
「スペースプロージョン!」
マリアは最初から全開であった。
長期戦が自分にとって不利と踏んだらしい。
そして、その作戦は、この状況において、最適解である。
「古代魔法か...その威勢がどこまで続くのやら」
スペースプロージョンは、洞窟の天井を破壊しながら、男に向かっていった。
だが、男は動じることなく巨大な氷の障壁を作った。
炎と氷が触れると同時に、驚愕の光景が映し出された。
「これでもだめ...あの氷、どうなってんのよ」
マリアは予想していたようだが、他の隊員たちはとても驚いていた。
だが、それもそのはず、この国で一番火力を出せる魔術師はマリアなのである。
その古代魔法を防ぐのは、ほぼ不可能。
厄災の守護神でもないと防げないものだ。
しかし、そのような代物を男は簡単に防いでしまったのだ。
「もう終わりかい?」
「まだまだこれからよ!」
マリアは最初と同じように、たくさんの炎の矢を作った。
言葉にすれば、その凄さは伝わらないが、これは人間の領域を超えている。
マリアが作った炎の矢は、およそ十万。
マリアは火力で押し切れないなら、物量で攻めようと考えたようだ。
(これが、現代の魔術師か。あの子供を抜けば、この女が大陸最強魔術師かもね...)
炎の矢は一斉に放たれると、男に逃げる隙を与えないように全方位から攻撃した。
男は自分の周りに氷の壁を球体状に作り上げた。
十万の炎の矢は絶え間なく浴びせられた。
さらに、攻撃している間にもマリアは新たな炎の矢を作り続けていた。
すると、氷の表面が少しずつであるが溶け始めていることに気づいた。
マリアはそれを見つけると、その弱っている部分に集中して攻撃を浴びせた。
徐々に溶けていく氷の壁に、マリアは期待を寄せた。
氷の壁が溶け切り、大きな穴ができた。
だが、おかしい。
その中には誰もいないのだ。
「は?確かにここに入って...」
「入って?」
「逃げ道もないはずなのに...」
「確かに?」
「じゃあ...」
「じゃあ?」
「なんであんたがここにいるのよ!」
振り返ると同時に、マリアは手から炎を出して男に攻撃した。
だが、男はそれを予想していたかのように、氷のブレスで相殺した。
マリアは、あらゆる可能性を考えた。
あれが幻影だったのか、それともどこから抜け出したのか、または...
「転移魔法...」
転移魔法とは、神話の時代にあったとされる古代魔法である。
この男が何者かはわからないが、もし、神竜などであれば、可能性はなくはない。
「まあ、30点と言ったところかな」
「つまり...違うってことね」
「私はね、少し特殊なのだよ。ほら、この気候は私が作り上げたものなんだ。とても心地よいだろう?」
「はぁ?心地よくないからここに来てんのよ!」
マリアは炎を一点に集中させて、一直線に打ち出した。
速さこそ雷属性には劣るが、威力は上級魔術にも見劣りしないものである。
マリアの攻撃は、何重もの氷の壁を貫き、男の目の前まで迫っていた。
だが、そこで初めて、真実に辿り着いた。
「...きえ、た?」
攻撃が当たる瞬間、男の体が雪と化し、その場から消え失せた。
すると、洞窟の外、大吹雪の中から、一人の男がやってきた。
その男は、マリアが先程攻撃をした男であった。
「やあ。どうしたんだい?そんなに驚いて」
「...」
「無視か...そうだ、自己紹介をしていなかったね。私の名前は、グラシス。氷零のグラシスだ」
氷零のグラシス。
一度はその名前を聞いたことがあるだろう。
神話に登場する、”災害”の名前である。
国中が凍りつき、一夜にして大国が滅んだ。
その、伝説の災害の名前である。
「なんで、そんな化け物を見る目をするんだい?君も十分化け物じゃないか」
「...神竜なの?」
「...はぁ。なんでみんな、神竜、神竜、って...そんなに神竜が好きなのかい?」
マリアはわかっていた。
氷零のグラシス、それは災害の名前ではない...
「災害を起こした、”神竜”の名前...」
「へぇ?わかってるね、君」
マリアの状況は、絶望的に見えた。
魔術師一人対、神竜一匹。
炎帝と呼ばれる魔術師であっても、伝説に勝てるほど世界は甘くない。
皆は、そう思えた...
「冥府の焔」
(オリジナルか...面白いね。どういう魔術なんだろうね?)
グラシスが笑った。
久しぶりの戦闘、グラシスという神竜は戦いが好きなのだろうか。
だが、その表情も一瞬で崩れてしまう。
「この雪は、あなたが作ったもの。つまり、魔力で作られた...あなたの負けよ」
雪山が火山へと変貌した。
マリアを取り囲む炎は、今までの比にはならないほどの威力、そして殺意が込められていた。
炎はグラシスへと牙をむいた。
慌てて氷の壁を作ったが、マリアの攻撃が防げるほど強いものではなかった。
(ん...どうしよう。ちょっと、予想外すぎるし、私と相性が悪すぎるな...まあ、一番は遊びすぎたってことだけど)
その瞬間、マリアの炎が爆発によって吹き飛ばされてしまった。
爆風で、咄嗟にマリアは目をつぶってしまった。
(何が起きたの?爆発?でも、氷属性でそんなものは...)
マリアが目を開けると、そこには最悪の光景が待っていた。
魔力の制限を解除し、アランを超えた魔力量、威圧感。
完全にまずかった。
「驚いたかい?あんなの、赤子と遊ぶ程度のものだよ」
「...私たち人間は、神竜にはかなわないってこと?」
「いや、そうでもないさ。まあ、結構楽しめたよ」
マリアは、一瞬走馬灯のようなものが見えた。
どれも、エドワードと過ごした日々、そしてある結論に至った。
(もっと、一緒に過ごしたかった...)
「なんでそんな顔をしているのだ?」
「もう、死ぬからよ。さっさと殺してくれない?」
「え?別に君のこと殺しに来たわけじゃないんだけど」
「え?」
二人の思考回路が止まった。
グラシスは別にマリアのことを殺すつもりなどなかった。
だが、マリアからしてみれば彼の縄張りに入った、大罪人だと考えていた。
”遊び”
グラシスがただの暇つぶしとして行ったことだ。
だが、マリアからしてみれば、命を取り合う戦いと考えていた。
「えっと、じゃあ、私死なないの?」
「まあ...」
「...良かった。私、死なないんだ...」
マリアは腰が抜けたように、膝から崩れ落ちた。
その目には、少しだけ、雫のようなものも見えた。
戦いの音がやみ、他の隊員たちも外に出てきた。
「ま、マリア様!?」
「あぁ...あんたたちか...」
「貴様!俺達のマリア様を!」
「え?ちょ、待ちなさい!」
隊員たちは矛をグラシスに向けたが、その瞬間マリアは隊員たちを殴打し、制止した。
それから、状況を説明し、自分たちの立場を理解させた。
「と、とんだご無礼を...」
「まあ、普通はそうなるよね」
「すみません、私の部下が...」
「とりあえずそれは、置いといて...話をしようか」
グラシスは、まるでマリアがここに来ることがわかっていたようだ...
なぜだろう、マリアは不思議と疑うことができなかった。
まるで、世界の理のような...
「覇竜の所在だ」
「覇竜?」
「別名、デリート。我が兄だ」




