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魔法使いの家出  作者: 羽良 凪都輝
第5章 王立魔術師学校マギア 後編
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「へルックの休日 後編 」


「私よ」

「フ、フランシス...」

「私の可愛い客ちゃんに随分とやんちゃしてくれてるじゃん。この落とし前、ちゃんと払ってもらうからね」


スキンヘッドでムキムキの女性はそう言うと店内に戻っていった。

それと同時に、店内はざわつき始めた。


「なぁ、あれってフランシスだよな」

「やべぇな!やっぱ職人の気迫は違うな」


(なんでいるのよ!フランシスって、王都にいないんじゃないの?でも、これはかなりまずいわね。後で圧力をかけないといけないかしら)


メラニンは、冷ややかな目線を向けられながら、店を出て行った。

フェンデスも、一瞬何が起きているのか理解できていなかった。

それもそのはず、滅多に表舞台に立たず、王都にもいるはずがないフランシスが、なぜか店の奥から出てきたのだ。

これは、ちょっとした事件である。


「今日は運がいいのか悪いのか...とりあえず、服は無事だな。さっさと帰ろ」


へルックもその場から離れると、先ほどの店員が医師を呼んできたようだった。

だが、その場にはもうへルックはいない。

店員は店内をくまなく探したが、どこにもその姿はなかった。


「どこへ行かれたのでしょう...医師まで呼んできたのに...」


帰り道、見慣れた寮が見えてきた。

へルックは人生の半分を、この寮で過ごしていた。

そのため、卒業ともなると、少し寂しくなるものだ。


「あと半年か...早いな...時間が経つのは...」


学園の入口が見えてきた。

いつも見張りについている門番が見えてきた。

門番に学生証を見せると、にこやかに通してくれた。

寮までの道には、噴水などがある庭園がある。

そこには、魔術で管理されている花壇などもあった。


寮の部屋に戻ると、置き手紙のようなものが置いてあった。

中身を見ると、ホセが部屋に侵入し、寮の違反を告発しようとしている、そんなことが書いてあった。


「どうっすっかな...やっぱりアラン起きねぇしな...まあ、とりあえず教室に行くか」


へルックは頼まれていた服を机に置くと、制服に着替えて教室に向かった。

廊下を歩いていると、皆半袖を着ており、少し寒そうだ。

急に気候が変わったため、準備できなかったのだろう。

教室に着くと、何やらざわついていた。


「どうしたんだ、そんなにうるさくして」

「いや、お前だよ!男子寮に女子を連れ込んだのか?」


ホセが先手を打ったのだ。

へルックはもう少し時間がかかるだろうと考えていたが、あまりの速さに少し戸惑っていた。


(どう言い訳すっかなぁ...とりあえず...)


「私がお願いして入ったのよ」

「えあ、お前...」

「私はアランの主人よ。主人が、使用人の体調を心配する、それの何が悪いの?それに、ちゃんと許可はとってあるわ。それでも疑うなら、先生にでも聞いてみたら?」


レベッカの言葉には、ところどころに棘があった。

アランのことを卑下されて少しイラついているのだろう。

だとすると、マリアも黙っているはずだが、その肝心のマリアの姿が見えなかった。


「ま、まあ、そういうことだから...まずは学園祭の準備しようぜ。もうすぐ二カ月切るんだからよ」

「確かに...」

「俺ら本腰入れようぜ!」


レベッカの援護もあり、どうにかピンチを切り抜けられた。

だが、それと同時にホセの敵対心は強まる一方であった。


そんなことが起きていることとはつゆ知らず、クラスの皆たちは服の制作に取り掛かっていた。

今日はまず生地の製作である。


「ほら、そっち!丁寧にやらないと歪な服になるわよ!」

「は、はい!...まじこぇ...女子たちってこんなことやってたのかよ...俺らにはできる気がしねぇな」

「でも、見てみろよ。あのへルックが器用に切ってんぞ。あの筋力でよくできるよな」


へルックは、褒められると失敗するタイプである。

友人に褒められた途端、持っていたハサミを、持ち前の握力で粉々に破壊してしまった。


「やっちまった...」


それからというもの、へルックは何度もハサミを壊し、挙げ句の果てには現場監督という名のお荷物になってしまった。


「俺の筋肉が、何をしたって言うんだ...」

「いや、お前予備のハサミ全部壊してんだよ」


作業で足りなくなるかもしれない、そう考えて余分に持ってきていたのだが、まさか壊されるとは思いもしなかっただろう。

この日を境に、へルックにはこのようなあだ名がついてしまった。


「よぉ、ハサミ破壊魔!」

「だからちげぇって!」


午後の予定が終わり、寮に戻ると嬉しい知らせが待っていた。


「今何時?」

「起きたか!お前何日寝るつもりだったんだよ!」

「へ?何日ってまだお昼でしょ?」

「23日目の午後6時な」


アランの思考が止まった。

23日、これはアランが寝ていた間に経った日数である。

だが、アランにとってせいぜい一日中寝ていた、そのぐらいの感覚なのだ。


「え、本当に23日も寝てたの?」


へルックはベッドの上に座り、アランは床に正座していた。


「んだから、さっきから言ってんじゃん!お前のせいでこっちは大変だったんだぞ!壁が吹き飛ぶわ、勝手に部屋漁られるわで、疲労困憊だぞ」

「ご、ごめんね?みんなに迷惑かけたね...」

「そうだぞ。だから、せめてレベッカたちには元気な顔見せてやれよ」


へルックは、落ち込んでいるアランに対して、さりげなくフォローを入れた。

意外な事実だが、へルックは意外と気が利くのである。

すると、へルックは立ち上がると頼まれていた服を渡した。


「これは?」

「天下のフランシス様からの贈り物だと良い。なんで俺に頼むかな...せめて近衛騎士団にでも頼めよ...」

「うわぁ!あったかそうだね!こっちは、ビクトリアの服か。後で渡しておこう。そういえばさ、この部屋寒くない?」


すると、へルックは握り拳に親指を立てると、その指先で壁を指した。

壁を見ると、そこは他のと違う色をし、修復されたあとがあった。


「壁が吹き飛んだって...もしかして、ここ?」

「お前の姉がぶっ壊したんだよ」

「...お姉ちゃん何してるの?」

「まあ、それだけでもないんだけどよ。今日になって、すっげぇ寒くなったんだぜ。アーサーも異常気象だって、招集されてたしな」

「へー、大変そうだね」


そんな話をしていると、夕食の時間になっていた。

アランはビクトリアが持ってきてくれた長袖のシャツを、荷物の中から引っ張り出すと、魔術でアイロンがけのようなものをしてきれいにした。

その後、制服を着ると、二人は部屋を出て食堂に向かった。

廊下を歩いていると、久しぶりに起きたアランに話しかける生徒が多く居た。


「なんか、今日人多いね」

「いや、お前のせいだけどな」


食堂に着くと、レベッカとベルージュが先に二人で食べていた。


「おはようございます」


アランが優しい声で、レベッカの耳元で囁くと、驚いた様子で後ろを振り向いた。

そこには、元気に立っているアランの姿があった。

その様子を見て、心のなかでレベッカはホッとした。

だが、それを外に見せるわけにはいかない。


「遅かったわね。心配したのよ?」

「アランちゃん!起きたの?三週間ぐらい寝てたのよ」

「へルックから聞きましたよ」


その後アランとへルックは、食事を持って来て、席に座った。

それから三人は、学園祭のこと、ホセのこと、アランが寝ている間に何が起きていたのかを順序立てて説明した。


「なるほどね...それで、アーサーさんとお姉ちゃんは?」

「ああ、それがね?殿下はこの異常気象で招集されちゃって、マリアも何処かに行っちゃったのよね」

「私の予想だけど、マリアも殿下と一緒にいると思うわ。ほら、寒いときには暖炉が必要でしょ?」

「確かに...炎帝だしね」


すると、後ろから聞き慣れた声が聞こえてきた。


「やあ、起きたのか」

「アーサーさん!」


緊急招集がかかっていたアーサーも、ちょうど寮に戻ってきたところであった。

だが、その顔色は深刻そうで、疲れている様子もみえた。

なにかが起きているのだろう。


「なにか、あったんですか?」

「いや、ちょっとね...まあ、大丈夫だろう」

「それは、どういう意味で...」

「ごめんね。ちょっと疲れているんだ。今日は部屋でもう寝るよ...」

「そ、そうですか...」


どうやら、異常気象はただの偶然、というわけではないのだろう。

アーサーがこんなにも疲弊しているところを、アランは見たことがなかった。

そのため、アランはかなり心配した。

だが、へルックやレベッカなどは平気な顔をしているため、よくあることなのだろう。


「大丈夫かな...アーサーさん結構疲れてたよね」

「まあ、大丈夫だろ。でも、何かが起きていることは確かだ。だって、いま10月だぜ?流石に寒すぎやしないか?」

「え、まだ10月?こんなに寒いのに?」

「そうよね...私もエレンに頼んで家から服を持ってきてもらったわ」


食堂の中はかろうじて暖かかったが、廊下などは息が白くなるほど寒い。

これは、異常気象というより、災害である。


 * * *


「マリア様!なんで俺達招集されたんですか?」

「知らないわよ!私だって嫌なのに、なんでこんな雪山を登らないといけないのよ!」


アーサーが招集されたあと、すぐにマリアも招集された。

マリアは端的に言えば、休暇中だった。

なのに招集された。つまり、それほど事態は切迫してることになる。

さすがのマリアも、これには応じるしかなかった。


「はぁ...つまりはこの異常気象を生み出した竜を討伐してこいと」

「そうなるね。多分だけど、レベル的には白竜または神竜クラスだよ。まあ、頑張ってくれたまえ、マリア君」

「死ねクソ王子」


竜にはいろいろな種類がある。

飛竜、地竜、火竜、いろいろな竜がいる中で、ひときわ目立つのが、色竜と神竜である。

色竜は、四天王と互角レベルの竜である。

神竜は神話ともされているおとぎ話の竜であるが、実在する。

数万年の歴史上、数回しか現れていないが、そのたびに国が数個壊滅している。

そのような竜が現れているのかもしれないのだ。

だが、そのような事態に陥ってもなお、マリアは平気で愚痴を言っている。


「ほんと、何が神竜よ、その前にこの雪山をどうにかしなさいよ!」


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