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魔法使いの家出  作者: 羽良 凪都輝
第5章 王立魔術師学校マギア 後編
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「へルックの休日 前編 」


「なあ、こいつ起きんのか?」

「もう少ししたら起きるでしょう。それにしても、これ結構大変ですね」


前回のこともあって、ビクトリアは支援魔術に切り替えたようだ。

だが、それは自分のエネルギーを他者に移すこと。

つまり、自分自身のエネルギーが奪われてしまうのだ。


「アリシア様、まだパンは残っていますか?できれば栄養価の高いものを」

「ん?まだあるぞ。それにしてもこれ美味いな」


アリシアはパンを咥えながら、ビクトリアに自分が食べているのと同じものを渡した。

ビクトリアはそれを受け取ると、片手で魔術、もう片方は食事をしていた。


(それにしても、器用だな...)


それはそうと、今日はへルックの服装が長袖だ。

こないだまでへルックは半袖のシャツを肩までめくり、タンクトップのようにしていたのに、今日は袖をまくりさえしていない。

どうやら、季節が秋から冬へと少しずつ変わって来ているようだ。


「それにしても、今日は一段と寒いですね」

「そうだな。俺も急いで長袖を出してきたんだ。アーサーもこの異常気象で朝から忙しそうだったぜ」

「休日の朝から...それはまた大変そうですね」


今日は休日。

学園祭の準備があり、へルックも午後からは忙しくなるのだが、午前は空いていそうだった。


「午前は暇なのですか?」

「まあ、そうだな」

「なら、少し頼み事を頼んでも?」


ビクトリアはそう言うと、懐から一通の手紙を出して来た。

へルックがそれを開けると、中にはこのような文章が書いてあった。


アランちゃんと、ビクトリアちゃんへ


元気にしてる?最近いきなり寒くなってきて風邪とかひいてないかしら。てことで、新しく冬用の服作ってみたわ。ビクトリアちゃんのはいつものメイド服に保温性を兼ね備えたものを。アランちゃんには、トレーナーを作ったわ。少し大きいとは思うけど、今はそれがトレンドだから。アランちゃんには絶対似合うわよ。もう王都に送ったから、この手紙が届く頃には届いてると思うわ。あと、年明けには戻っておいでよ。


フランシスより


「なあ、このフランシスっていうのは...」

「へルック様が想像しているフランシスさんです」

「お前ら、王様より良いもの着てどうすんだよ」

「それより、その服をとって来て欲しいのですよ」


へルックは自分で行けよと言おうとしたが、寸前のところで止めた。

今、アランは使い物にならない。

となると、ビクトリアとアリシアはこの学園からは動けないのだ。


「はぁ、俺に国宝を持ってこいと」

「まあ、そんな感じですね。お願いできますか?」


へルックはビクトリアから、すやすやと寝ているアランに目を移した。

少しすると、覚悟を決めたように言った。


「しょうがねぇ、やってやるよ。今動けるのは俺ぐらいだからな」

「ありがとうございます。今度礼をさせていただきますね」

「良いってことよ」


へルックはすぐに支度すると、紙に何かを書き始めた。


「それはなんじゃ?」

「これは外出届だ。これを寮に出してからじゃねぇと、あのジジイにブチギレられんだよ。じゃあ行ってくるわ」


そう言うと、へルックはフランシスからの手紙を持って、扉を開けて行ってしまった。

その様子を密かに見ている者が居た。


「...外出?まあ、その方が僕にも助かるんだけど」


アランとへルックの部屋に、一人近づく者がいた。

その足音に、二人はすぐ気づいた。


「殺しますか」

「いやだめじゃろ。流石にこの部屋を血の海にするわけにはいかないぞ」

「では、どこかに隠れましょうか」


二人はクローゼットの中に隠れた。

すると、扉が開く音がし、何者かが入って来た。

どうやら、その者はアランに用があるようだ。


「本当に起きないね。はぁ、憎い。君が来るまでは、僕が一番だったのに...なんで?なんで君は僕の邪魔をするの?」


身長は、アランと同じほど。

顔立ちもアランと同じように幼い。

まだ半袖を着ており、少し寒そうである。


これに該当する人間はアランとの交流の中で、一人しかいない。


「このホセ様を無碍にしたこと、後悔させてあげる。可愛い可愛い、召使さん?」


ホセの表情は不気味で怒りに満ちていた。

すると、ホセは何かを探すように部屋を漁り始めた。

タンスの中、机の引き出しの中、あらゆるところを探していた。

ビクトリアとアリシアも、見つかるのは時間の問題であった。


クローゼットの扉が開かれようとした。


 * * *


「受けちまったけど...どうすんだよ。もし落っことしたりしたら...あー考えたくねぇ」


へルックは街中を歩いていた。

王都の休日ともなると、かなりの人が街を歩いていた。

時には同じ学園の生徒とすれ違うことも。

だが、それにしても皆寒そうにしている。

いきなり気候が変わったとはいえ、それにしてもおかしい、とへルックは思っていた。


「異常気象、か。困るねぇー、本当に」


へルックは店の前に到着すると、ある自分の失態に気づいてしまった。


「俺、こんな服なんかで良いのか?」


仕立て屋フランシス、そこは王族御用達の服屋だ。

いくら貴族とはいえ、学生が一人で入るのは気が引けるだろう。


「あー、行きたくねぇ、でも行かないと、あーでもやだ...」

「へルック・フォン・ログル」

「はぁ、今日ついてねーなー...どうして殿下がここに?」

「会ってそうそうため息とは...僕も嫌われたものですね」


そこには、第三王子フェンデス・ハワードと、その取り巻きがいた。

その取り巻きたちは、どうやらへルックのことを蔑むように見ていた。


「あなたはここで何を?」

「少し用事がありまして。そちらこそ何を?」

「僕たちは買い物に。でも、あなたのような人がなぜこんなところに?」


それもそうだ。

ログル家は伯爵家だが、へルックはその中でも忌み子。

差別の対象である人間が王族御用達の服屋に来ることは、身の程をわきまえない行為と感じるのだ。


「では、私は用事を済ませないといけないので」

「計画、忘れていないですよね?」

「ちっ、わかってますとも。おうせのままに、"殿下"」

「話のわかる忠犬で助かりますね」


へルックが店の中に入ると、驚きの光景が待っていた。

そこかしこに、国中の大貴族がいた。

へルックは初めて仕立て屋フランシスに来たのだが、まさかここまでとは思っていなかった。

その中には、第三王子派のフェルメン公爵家なども...


(うわ...関わりたくねぇ奴らが、うじゃうじゃいんじゃん...さっさと用事済ませて帰ろ)


へルックはカウンターに行くと、店員にあの手紙を見せた。

すると、すぐに手紙に書いてあった服が出て来た。


「一応聞いときますけど、ビクトリア様か、アラン様の執事か何かでよろしいですよね?その手紙はビクトリア様かアラン様にしか開封できないものなので」

「え、まじ?そうだったのかよ」


へルックが手紙をよく見ると、うっすらと魔術式のようなものが見えた。


(まじかよ...こんなペラッペラの紙に...)


へルックは服を受け取ると、さっさと帰ろうとした。

だが、そんな簡単には事が運ばず...


「いって...」

「きゃっ!」

「す、すみません、怪我はありませんか?」


へルックは、服を持ったまま後ろに下がった女性とぶつかってしまった。

今回に関しては、どちらにも非がないと思われるが...

貴族社会とは残酷なものだ。


「ちょっと!私にぶつかっといて謝罪がそれだけ?土下座でもなんでもしなさい。私はフェルメン家の当主、メラニン・フォン・フェルメンよ!」


(まじかよ!?よりによって、フェルメン家の当主かよ!?)


フェルメン家。

ラファエル王国の中でも一番と言っても良いほど、傲慢で三度の飯よりプライドが大切、そんな貴族だ。

そして、へルックとぶつかったのはその家の当主、メラニン・フォン・フェルメン。

見た目は四、五十代と言ったところで、赤色のワンピースを着ている。

目つきが悪く、典型的な悪女。

そんな女性に、へルックは絡まれてしまったのだ。


「す、すみません...私の不注意で、大変申し訳ございませんでした」

「ふっ...あんた、ふざけてんの?土下座しなさいって言ってんのよ!」


頭を下げているへルックに向かって、メラニンはその顔を殴り飛ばした。


「お、お客様!」

「黙ってなさい!この身の程知らずが土下座しないのが悪いのよ!」


メラニンはそう言うと、再びへルックの前へと立ちはだかった。


(どうする...流石にこの服を傷つけるわけにはいかねぇよな...)


へルックが土下座をしようとした時、一人の店員がやって来た。


「頭を上げてください。あなたは悪くないのです。医師を呼んだので、その傷を診てもらってください」

「ちょっと!なんで止めるのよ!店員の分際で!」


メラニンが店員のことを殴ろうとした瞬間、一人の男が止めた。


「フェルメン公爵、周りの目もありますのでそこまでに」

「ちっ、フェンデスか。よかったわね、王子様が止めてくれて」


メラニンはバツが悪そうにその場から去ろうとしたが、先ほどの店員がそれを許さなかった。


「"出禁"です」

「は?」


出禁、その言葉はこの店では大きな意味を持つ。

この店で出禁になった者は、こぞって他の店も出禁になることが多い。

それぐらいこの店の出禁は、影響力がある。


「ちょっと!それはどういうことよ!」

「あなたは、無実の方に暴力を振るい、秩序を乱しました」

「で、でも、私は七大公爵のフェルメン家よ!そんな家を侮辱する気?」

「これは、この店の総意であり、店主様の意向でございます」

「て、店主って...」

「私よ」


* * * 


ホセの手が止まった。


「なに?これ」


ホセの注目は、一本の髪の毛に移った。

それは金髪で、明らかに女性のものであった。

ホセが床に注目すると、他にも赤やら紫などの髪の毛が落ちていた。


「男子寮に女子を連れ込むのは、大罪。掴んだ、掴んだぞ!これで、やっと君に勝てる」


ホセはそう言うと、見つけた髪の毛を袋に入れ、部屋から出て行った。

ビクトリアはクローゼットから出ると、紙に何かを書き始めた。


「なにを書いてるのじゃ?」

「このことを、へルック様にと。誰かは知りませんが、何かを企んでいるのは事実です」

「なるほど。それは、置き手紙といったところじゃな」


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