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魔法使いの家出  作者: 羽良 凪都輝
第5章 王立魔術師学校マギア 後編
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「学園祭準備2」


「ちょっと暑いですね。これでは汗をかいて、アラン様に嫌がられてしまいますわね」


(は?待って、なんで生きてるの?てか、なんで無傷なの?そもそもなんで服さえも焦げ落ちないの?)


ありえない出来事が連続し、マリアの脳はパニックに陥っていた。

その隙をつき、ビクトリアはマリアのみぞおちに拳を一発入れた。

ビクトリアの拳は完璧に決まり、マリアはその場に倒れ込んでしまった。


「少し強めに殴らせていただきましたよ。私も謝罪はしますが、いくらなんでも殺さなくても良いじゃないですか」

「お、おまえ...何者だ!」


マリアはなんとか立ち上がり、戦う姿勢を見せた。


「本当にすごいですね。あの一撃をくらっても、立ち上がるどころか、戦う姿勢を取るなんて」

「質問に答えなさい!あなたは何者なの!」


ビクトリアは少し考えたのち、笑顔でこう答えた。


「我が主を溺愛するしがないメイドです」

「は?何言ってんのよ!私は、私は!そう言うことを聞いているんじゃないわよ!」

「では、主のために強くあるのは、悪いことなのですか?」

「は?あんた、何言って...」

「あなたなら、わかるでしょう?何かを守るには、力が必要なのですよ」


ビクトリアがそう言うと、マリアは諦め、疲弊している声で言った。


「もう、いいわ」

「ありがとうございます」

「でも、勘違いしないでよね。二度と!あんな事するんじゃないわよ!」

「はい、承知しています」


 * * *


「マリアやつ、冥府の焔を使ったな」

「で、でも、なんでビクトリアが無傷なの?」

「確かに、なんで?それに、イヤリングチカチカしてすっごく眩しいんだけど」


イヤリングは、白と赤が交互に光っていた。

そんな中でも、ぐっすりと眠っているアランは、肝が据わっていると言えるだろう。

爆発音が収まると、二人の人影がこちらに近づいてきた。


「なんで二人ともピンピンしてるんだよ。おかしいだろ」

「本当にアランは寝てるんだよね...こんな爆発があっても起きないなんて...」


レベッカがアランのことを、指で突くと、寝返りをうった。

それによって、アランが無事なことがわかり、レベッカはほっとした。

すると、そこへ、二人の女性がやって来た。


「アランは大丈夫そう?」

「さっきね!寝返りうったの!」

「ほんと!?よかった...アランを起こしちゃったらどうしようかと...」

「そっちなのね...」


すると、ビクトリアがある異変に気付いた。

部屋の周りに、誰もいないのだ。

あれだけ騒ぎを起こしたのにも関わらず、小鳥のさえずりさえ聞こえてくるほど静かだ。


「さあ、二人とも言い分を聞こうか」

「マジで、大変だったんだぞ。俺とアーサーで人払いしたんだからな。感謝しろよ」

「そ、そう...それはありがとう...」

「で、だ。二人とも、何枚がいいかな?」

「何枚?」


ビクトリアは、その言葉の意味がわからなかった。

だが、マリアは違うようだ。

その言葉を聞いた途端、体を震わせ、ベルージュの後ろに隠れてしまった。


「マリアの、大、大、大好きな始末書だよ」

「嫌だ!それだけは本当に!そもそも、ビクトリアが悪いんじゃん!私悪くないし!」

「この壁、誰がぶっ壊したのかな?」


マリアは、自分が圧倒的に不利なことがわかったのか、壊した壁から、外へ逃げようとした。

だが、それは失敗に終わった。


「んん...お姉ちゃん...」

「なっ!ちょ、アラン今じゃないの!お願いだから、今だけは!」

「...お姉ちゃん、一緒に...」


どうやら、アランは寝ているにもかかわらず、マリアを掴み、そのままアランの横に座らせてしまった。

これで逃げ場がなくなったマリアは、自暴自棄になったのか、アランの頬で遊び始めた。


「あはは...うわぁー、アランのほっぺ、ぷにぷにー。このまま一緒に寝ようかな...」

「大丈夫だよ。君の炎でも燃えないよう、特殊な素材を使ってるから。さっさと来ようね?」

「終わった...」


マリアはアーサーに引きずられながら、部屋を後にした。


「なんでマリア様はあんなに嫌がっていたのですか?」

「マリアね、魔術に関しては天才なんだけど...普通の勉強は...ちょっとね...」

「そうなんですね。では、私も仕事があるので、アリシア様、行きましょう」

「行きましょう?何一人で逃げようとしてるのじゃ?お主も行くのじゃ」


ビクトリアも、アリシアに引きずられ、部屋から出て行ってしまった。

部屋に残ったのは、アランとレベッカ、ベルージュの3人のみ。


「ちょっ!ベル何してるの!」

「何って、一緒に寝るだけよ」

「はぁ!?ダメに決まってんでしょ!そもそも、そこは私の場所よ!」

「違いますー!早い者勝ちですー!ほら、子供はさっさと帰りなさい。私たちはこれから楽しい夜を過ごすのよ」

「た、楽しい夜!?な、何言ってんのよ!さっさと離れなさい!」


レベッカはベルージュをアランの元から引き剥がすと、そのまま部屋から出て行ってしまった。


(んん...寒い...)


部屋には大穴が空き、外からは少し涼しすぎる風が入ってきた。


「な、なんでレベッカ様に、ベルージュ様がここに?君は何者なんだ?アラン・オブリ...」


 * * *


「なんで俺がこんなことしないといけねぇんだよ」


へルックの両腕には、熟睡しているアランが乗っかっていた。

そして、その横にはアーサーや、他のクラスメイト達がいた。


「全然起きねぇじゃん。てか、何これ、すっごいもちもちしてんだけど」

「え?ほんとだー!私たちより肌綺麗じゃん」


アランは半分おもちゃのような扱いを受けながら、教室に運び込まれた。

今日は服の採寸をするのだ。


「でもよー、誰がやるんだ?」

「服の採寸かい?」

「そうだ。こいつも一応は男なんだからよ」


へルックが周りを見ると、女子達がよだれを垂らしながら、今にも飛びつきそうな目でこちらを見ていた。


「...ダメだ。俺らの中で誰かできる奴はいねぇか?」


へルックは聞いてみたが、誰一人として手を挙げる者はいなかった。


「そうだよな...やっぱ、あいつらに...」


へルックが頼み込もうとした時、一人の男が手を挙げた。


「あ、あの、僕できると思う...」

「ほんとか!?ありがとな、ホセ!」


その男はホセというらしい。

アランの転入する前からこの学校におり、へルック達ともそこそこ仲が良い。


「じゃ、じゃあやるね」


ホセが採寸を始めると、ある異変に気付いた。


(な、何これ...本当に人肌なの?すっごく硬いんだけど...)


ホセは興味本位で服をめくると、そこには鍛え上げられた肉体があった。

あまりの美しさに見惚れていると、その様子に気付いた女子達も寄って来た。


「あ、ちょっ、待っ」

「な、何これ...」


15歳の子供が、ここまで美しい肉体を持っているのか、そんなことはどうでもよかった。

今は、ただこの体を見ていた、その一心であった。

あまりの凄さに、中には鼻血を出している女子もいた。


「ほら、そこまでだ。こいつは見せもんじゃねえ」


すかさずへルックが止めに入ったが、時すでに遅かった。

皆はすでにアランの体の虜になり、へルックを退けようと襲いかかった。


「はい、そこまで」

「れ、レベッカ!」


レベッカは一度手を叩いただけで、皆の理性を元に戻した。

そこへ、マリアやベルージュ、他のクラスメイトも帰って来た。


「さっきから騒がしかったけど、何かあったの?」

「え、えっと...その...アランの体が...」

「アランの体が?」

「そ、その、すごくて...」

「すごい?何がどうすごいの?」

「えっと、その、とにかくすごいのよ!」


語彙力が著しく低下していたため、あまりうまく伝わっていなかった。

だが、"アランの体"という単語を聞いて、戻って来た女子達の興味がそちらに移ってしまった。


「なになに?アランの体がそんなにすごいの?」

「見ちゃおうよ。どうせ減るもんじゃないでしょ?」

「あ、ちょっと!」


レベッカが止めようとしたが、間に合わなかった。

服をめくると、そこには誰もを魅了する、美しい肉体があった。


「嘘でしょ、上玉じゃん」


服をめくった女子はそのまま、アランの腹部を触ると、その凄さはさらに増した。


「まって、まってまって、レベッカ、アランもらって良い?」

「え!?」

「良いでしょ、お願い。別にレベッカは何人でも召使いはいるじゃない」

「そこまでよ。ここでその話をするのはよしなさい。そもそも、アランがここにいるのは服の採寸のためでしょう。あなたはそれを邪魔するの?」

「あっれれ?いつもより少しキツくない?どうしたの?マリアも興奮しちゃったの?」


その女子生徒はここぞとばかりにマリアのことを煽ったが、マリアはそれを冷静に対処した。


「そんなはずないでしょう。それよりあっちの理性が壊れてるからよ。さっさと採寸終わらせてくれない?」

「おっと、これは敵が多そうだね。決戦は...学園祭2日目といったところかしら」


 * * *


波乱の採寸が終わり、アランが部屋へ戻された頃、生徒会室では、一人マリアが紅茶を飲んでいた。


「アーサーにへルックは学園祭のポスター掲示、ベルージュは多学年との打ち合わせ、レベッカはクラスの予算整理...ってことは、今日は私一人かー」


マリアは一人生徒会室で体を伸ばすと、今日一日を振り返っていた。


「今日は1日大変だったな...授業の合間を縫って始末書書いて、放課後には着せ替え人形みたいに遊ばれて...あとは...あっ、アラン...」


ふと思い出したかのように言うと、マリアは静かな生徒会室で一人机を思いっきり叩いた。

だが、マリアの一撃でも、その机はびくともしなかった。

まるで、マリアがこの机を叩くのがわかっていたかのような硬さだった。


「あんの、クソガキ達...私が見ない間にアランになんてことを。なにが『もらって良い?』よ。ふざけるのも大概にしてほしいわ」


マリアが独り言を呟いていると、思い出してしまった。


(アランの体...ああ、ほしい...誰にも渡したくない、アランは、私のもの!)


マリアは生徒会室でひとり、自分のことを抱きしめた。

それを、密かに盗み見る者たちがいた。


「何してんの、あれ」

「わからん。あいつ一人でなんか言ってんだよ」


すると、マリアは何者かの視線に気付いたのか、少しだけ開いた扉を見つめた。


「あ...」

「やべ」


その途端、マリアの頭は今までの自分の行動が筒抜けになっていたことへの恥ずかしさと、それをひっそりと見ていたアーサーとへルックへの、怒りに満ちた。


「お前ら殺す」

「へルック、逃げるぞ」


アーサーはそう言うと、へルックを連れて全力でその場から離れた。

マリアは逃げた二人をすぐに追いかけ始めた。


「テメェらぶっ潰す!」


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