「学園祭準備1」
「そう言えば、アランは?」
「アランか?あいつなら今日は寝てるぜ」
「どうしたんだよ、体調でも悪いのか?」
アランの席を見ると、そこにはアランの姿はなかった。
アランは、あの日を境に、もう2日も目を覚ましていなかった。
と、言っても熱が出ているわけでもなく、ただ夏休みの睡眠時間を精算しているだけである。
「つまりはもう1週間は起きねぇってことか?」
「そうなるな。もう困ったもんだよ。まじで起きねぇんだよ」
「そりゃあ大変だな。でも、どうするよ。俺ら最後の学園祭だろ?」
マギアの学園祭は主に三つの行事がある。
まず一つ目は、クラスごとの出し物だ。
魔術師学校らしく、魔術の研究成果などを出すのが基本だ。
だが、近年では他にもカフェなどの一般的なものも徐々にだが広がってきている。
二つ目は、クラブ活動である。
クラブには、属性ごとや、攻撃や防御について研究するクラブもある。
クラブは、学園祭ごとに研究成果などを発表する。
その研究成果には、国からお達しが来るものも。
そして、三つ目。
これは、学園祭の中でも1番の目玉だろう。
中等部生徒会と高等部生徒会、この二つの生徒会の決闘である。
特に、今年は白熱するだろう。
なんせ、第一王子と、第三王子の、直接対決。
この結果は、少なからず派閥闘争に影響するだろう。
「アーサー、俺たちどうするよ。魔術の研究は、今からじゃ流石に間に合わないぜ」
「そうだね。一回みんなで意見を出し合おうか」
* * *
「魔術の研究に、魔道具製作、あとは...メイド喫茶...」
「メイド喫茶...」
男子達の視線は彼女らに向けられた。
「な、なんか見られてる?」
「ベルのメイド服が見てみたいんじゃないの?」
「でも、私たちにとっても、良いことがあるわ」
周りの女子達は、キラキラした目で話し始めた。
「ねぇ、つまりはアランが女装するってことでしょ?」
「見たい...見たいよ!みんなもそうでしょ?」
どうやら、女子達にも女子達の目的があるようだ。
投票の結果、賛成多数でメイドカフェと決まった。
そして、議題は誰がメイドをやるかに移った。
「まあ、まずはマリアにレベッカ、ベルだろ、あとはアランもだな」
「アランもか?そもそもへルックよ、アランは起きんのか?」
「まあ、大丈夫だろ」
「貴重な女子達のメイドの席を奪ってでも、入れることか?」
すると、数人の女子達が声を上げた。
「お願い!マリア達にはメイドを絶対にさせるから、アランをメイドに!」
「そうよ!あれはね、絶対に化けるわ。いや、私たちが化けさせるのよ!」
「そ、そこまで言うなら...」
気の強い女子達が珍しく、男子達に頼み込んだ。
アランが女装をする、それがどれだけ重要なことか、言葉の圧がそれを伝えた。
「ちょっ、ちょっと!私たちの意見は?」
「ない!」
「嘘でしょ...」
その日は、仕事の分担を決めた。
メイドは主に女子達が行うことになった。
だが、その中にネタ枠として、へルックなども入れられていた。
そして、今回の大目玉であるアランも。
* * *
「アラン様、起きませんね」
「まったく、どんだけ寝てるんじゃ。これではまるで死人じゃな」
「アリシア様?いくらあなたでも、その言葉は頂けません。そんな縁起の悪いことを。第一に、心臓は動き、呼吸もできていますよ」
アランは静かな部屋で、一人気持ちよく、夢の世界に浸っていた。
一日の授業が終わり、外が騒がしくなってきた頃、ビクトリアとアリシアは、寮の部屋に来ていた。
アランはもう何日も目を覚ましていなかったが、心臓は鼓動を鳴らし、呼吸もしている。
ただ、寝ているだけである。
だが、そんな中にも一つ疑問が浮かんだ。
「ご飯、どうしてるのじゃ?」
「口移しですけど」
「まじか」
かの魔王も、ビクトリアがここまで酷いとは思っていなかった。
一応言っておくが、アランの恋人はレベッカである。
そもそも、支援魔術でエネルギーを与えれば良いのでは?という考えも浮かんでくるが、ビクトリアの私欲が入っているのだろう。
「いつもはこうやって、ご飯を噛み砕いて...」
ビクトリアはアリシアの持ってきていた菓子を、口の中へ入れた。
そうすると、赤子でも食べられるほどにすりつぶすと...
「こうやって...」
その瞬間、寮の扉が開いた。
「アラン起きてる?」
「アランちゃんの好きなお菓子持って来たよー!」
「お姉ちゃんが昔話してあげるっ...はぁ!?」
3人が入って来たと同時に、ビクトリアは口移しを始めてしまっていた。
あまりの衝撃に、3人はその場に立ちつくしかなかった。
そこへ、3人をかき分けてへルックがやって来た。
「おい、マジかよ」
流石のへルックも衝撃を受けた。
「わ、わわ、私、の、アラン、だよ?」
「そ、そうよ!ビ、ビクトリア、なんてことを!」
レベッカとベルージュは、妬ましいような、羨ましいような、悲しいような目でビクトリアを見ていたが、マリアは違った。
「あのね、ビクトリア、この世にはねやって良いことと、悪いことがあるの。それは、わかる?」
「んん」
ビクトリアは、その言葉を聞いても平然としながら、口移しを続けた。
「ビクトリア、あんたはね、弟に手を出したの。しかも、この状況を、利用して。ここまで来たら、私の言いたいこともわかるわよね?」
「あっ...」
ここに来て、ビクトリアがことの重大さを理解したようだ。
マリアはよくキレるが、怒りはしない。
マリアが、本気で怒るのは、ただ一人のため。
それは、自分ではなく、愛する弟のためである。
箍が外れたマリアは、下手したらこの国を滅ぼすかもしれない。
今のマリアはそこまで強いと言われている。
そんな人間を、ビクトリアは怒らせてしまったのだ。
「わ、わたし、用事を思い出しましたわ!そ、それでは...」
ビクトリアは、アランからすぐに離れて、荷物をまとめた。
「あら、話は、終わってないわよ!」
その瞬間、マリアはビクトリア向けて、ファイアーボールを放った。
その威力は、そこら辺にいる生徒の放つ上級魔術に匹敵するものであった。
寮の壁は吹き飛び、ビクトリアはギリギリのところで結界を使って攻撃を防いだ。
「窓が、デカくなった...」
「何言ってんのよ」
「あ、ああ...壁が...」
へルックはあまりのショックで、膝から崩れ落ちていた。
寮中に爆発音が響きわたり、周りが騒がしくなってきた。
だがそんな中、アランは開放感溢れる部屋で気持ちよさそうに寝ていた。
すると、遠くから爆発音が聞こえたり、炎の矢が見えたりした。
流石四天王の一人、炎帝。
ビクトリアは、マリアの追撃を振り切れずに、防戦一方であった。
「ま、待っ」
ビクトリアはマリアを諫めようと、何度も対話を試みたが、その努力も虚しく、マリアの追撃は止まらなかった。
二人は校舎から少し離れた、木々の生い茂った森に来ていた。
「冥府の焔」
* * *
「そう言えばさ、お姉ちゃんの炎帝って、火属性だからそう言われてるの?」
「それもあるけど、もう一つあるわ」
「もう一つ?」
二人が話していると、そこへへルックがやって来た。
「お前知らないのか?あの事件」
「あの事件?」
「ちょうど四天王になりたての頃よね。私の研究してた魔術がちょうど完成したのよ」
その言葉を聞くと、アランはとても驚いた。
あのマリアが、魔術の研究?アランはそう思った。
「まったく、お姉ちゃんを舐めちゃダメよ。私だって頑張ってたんだから」
「頑張りね...頑張っても、あんなふうにはなんねぇよ」
「そんなに凄かったんですか?」
「アランに比べたら全然よ。ちょっと森で使ったら、燃えちゃったの」
「ちょっと、ね...あれのどこがちょっとだよ」
放課後、静かな教室に、へルックの声が響き渡った。
すると、扉の開く音がした。
3人が振り向くと、そこには金髪の成年、アーサーが立っていた。
「3人で何を話しているんだい?」
「マリアが、なんで炎帝って呼ばれてるかって話だよ」
「炎帝ね...あれは流石の魔王軍も、少しかわいそうと思ってしまったね...」
その言葉を聞くと、マリアは勢いよく立ちあがり、怒りをあらわにした。
「魔王軍がかわいそう?ふざけんじゃないわよ!じゃああの街で殺された人たちはどうなのよ!」
「落ち着けマリア。私だってそんな意味で言ったわけじゃないよ。ただ、あれは誰が見てもそう思うだろう。魔物を燃料にするなんてな」
* * *
「冥府の焔」
(冥府の焔?神術?いや、そんなものは聞いたことがないわ。だとすると...オリジナル!)
オリジナル。
魔術は基本的に魔術師学校や、師範から習うもの。
そして、新たな魔術は基本、宮廷魔術師などが生涯をかけ、やっとのことで作り上げて来た。
いわば、魔術は努力の結晶だ。
だが、そんな中にも特殊なものがある。
それが、オリジナルだ。
オリジナルは作成者本人にしか使えない、独自の魔術を指す言葉だ。
普通は、一生をかけて作り出すものだが、マリアはそれをたったの数年で作り上げてしまった。
冥府の焔、その効果範囲は使用者を中心にして、半径100メートル。
周りの魔力を媒介として、火の海を作り上げる。
その中では、マリアは火の海を思うがままに操れる。
簡単に言えば、使えば勝てる、無敵の魔術なのだ。
「防御結界が作れない?いや、魔力が使えない!」
ビクトリアは魔術を使おうとしたが、一瞬で炎に変わってしまった。
マリアは火を纏いながら、ビクトリアに近づいて来た。
(まずいわね。魔術が使えないとなると...まあ、なんとかするしかないわよね)
その瞬間、マリアは炎を操り、ビクトリアを炎の海に飲み込んだ。
「エディに手出すんじゃないわよ!」
マリアは自制心を失い、炎を更に強めた。
「ビクトリアが!死んじゃう!」
その時だった。
火の海から、一人の人影が見えた。
そのメイドは少し煙たそうに出て来た。
「ちょっと暑いですね」




