「神の領域」
「図が高いぞ人間」
その瞬間、皆は何かに押しつぶされそうに、その場で倒れ込んだ。
今の一瞬で何が起きたのかわからなかった。
だが、一つだけわかることがあった。
(アランじゃない!)
「それにしても、ここは空気が不味い。何かに阻害されているようだな」
ディンスターが周りを見ると、その正体にすぐに気づいた。
ディンスターは指を鳴らした。
その瞬間、学園を丸ごと囲っている結界が、ガラスのように割れた。
皆は今の一瞬で、何が起きたかわからなかった。
すると、そこへ一人の少女が飛んできた。
「お初にお目にかかります、破壊神、ディンスター様」
「お前は確か...アランの飼い犬か」
「か、飼い犬...ま、まあ、そのような者でございます。今日は、私の願いを...」
「願い?なんだ、聞いてやろう」
「私と、手合わせ願います」
その言葉を聞いたディンスターは、思わず笑ってしまった。
それもそのはず、今まで神に戦いを挑む者など、いつの時代に遡っても、居なかったからだ。
「丁度良い。そこで見ていろ、神の力を見せてやろう」
そう言うと、ディンスターはエイムをそこら辺に放り出した。
(ディンスター?誰のことを言っているの?アランじゃないの?それに、なんでアリシアは戦かおうとしたの?そもこも、体が、動かないんだけど!)
レベッカはなんとか立とうとしたが、それは不可能であった。
レベッカがマリアの方を見ると、少しであったが、横に首を振った。
(マリアでも、打つ手なし...どこに行ったの、アラン...)
レベッカがどうにかしようとしていると、ついに戦いが始まってしまった。
アリシアは、最初から全力を出していた。
周りには、魔力のオーラが溢れていた。
その中で、異様にオーラを放っていたのが、アリシアの右手。
その瞬間、アリシアは一瞬でディンスターの前に移動し、拳を打ち込んだ。
(避けなかった。だが、これで良い!相手が油断している、この時間が一番勝機がある!)
アリシアの攻撃は、あまりの強さに衝撃波を放ち、周りの木々をなぎ倒していた。
(おいおい、妾の持っている魂を、どれだけ注ぎ込んだと思ってるんじゃ!)
煙が晴れると、そこには無傷のディンスター。
アリシアの攻撃は、ディンスターにとって、赤子のパンチに等しいものであった。
ディンスターは、アリシアの右手を掴んだ。
その瞬間、ありえない速度で、ディンスターの拳がアリシアを襲った。
その速さは、本気のアランを超えるものであり、アリシアも対処のしようがなかった。
だが、それでもアリシアも無傷であった。
流石に、ディンスターも異変に気づいたのか、アリシアの右手を離し、少し距離をとった。
「魂で、ダメージを代替したのか」
「流石は神様ですね。そうです、貴方様の攻撃は、私には届いておりません」
(とは言っても、妾の溜めてきた魂の、半分が消し飛んだぞ。このままでは、魂が底をついて負ける。何か打開策を考えねば)
アリシアが打開策を考えている間に、ディンスターは核心の貫きを使い、隙を与えなかった。
核心の貫きは、アリシアをしつこく攻撃して、アリシアは逃げる以外に選択肢がなかった。
(ここに来て、神術の詠唱破棄、終わってる...どうする、妾よ。...あ!あれを使おう)
すると、一瞬にしてアリシアが姿を消した。
レベッカ達は、何が起きたのかわからず、アリシアを探した。
だが、ディンスターは、一瞬で状況を理解し、空に場所を移した。
(流石は神じゃ。妾の狙いがバレておる)
属性付与。
アリシアは闇属性。
ディンスターの攻撃を避けるため、アリシアは闇の代名詞、影に隠れたのだ。
それに気づいたディンスターは、自分の影から奇襲を受けるのを避けるため、空に場所を移したのだ。
アリシアはレベッカ達の影から出ると、攻撃が止んだ。
(まさか、レベッカたちは殺せないのか?これは使えるぞ!)
アリシアは、レベッカたちの周辺から、矢の形をした魔力の塊で、攻撃を始めた。
流石に、ディンスターもレベッカたちを攻撃をすることはできず、防御に徹していた。
と、言っても、ディンスターはどこから持ってきたかわからない紅茶を飲み、優雅に過ごしていた。
(防御結界ではないのか?どう言うことじゃ?アランはあんなもの使ってなかったぞ)
ディンスターの防御方法は、物理的に止める結界とは違い、術式そのものに作用していた。
まるで、アリシアの術式そのものが壊されているような。
(術式の破壊...アランの神は、破壊神...気づきたくなかった事実じゃな!)
アリシアはヤケクソになり、攻撃を強めたが、ディンスターには一つも通らなかった。
すると、ディンスターは、アリシアの目の前から姿を消した。
アリシアの動体視力は、アランと同レベルであったが、そのアリシアをもってしてもディンスターがどこに移動したかわからなかった。
周りを見渡していると、背後からカップが、ソーサーに置かれた音がした。
「神眼持ちか。珍しいな。この時代にまだ、神眼持ちが居たとは」
「...封印されていたのでね!」
アリシアはすぐに振り向き、魔術で攻撃したが、指一つで跳ね返されてしまった。
カップが宙に浮いた。
アリシアにも反応できない速さ。
ディンスターの拳がアリシアの目の前まで迫った。
アリシアは直感的に死を感じた。
だが、拳があと数mmというところで、ディンスターの動きが止まった。
「ん?これは...どういう状況?」
「なんじゃ、驚かせおって」
すると、レベッカ達が起き上がれるようになっていた。
そこへ、草むらから血だらけになっている二人の男を運ぶ、ビクトリアが現れた。
ビクトリアは、倒れ込んでいるエイムを抱えると、アーサーに聞いた。
「殺してもよろしいですか?」
「その男は何をした」
「殺人未遂です」
「そうか。だが、申し訳ないが、今回の件は私が受け持つ。君には申し訳ないが、その3人は国に渡してもらおう」
すると、ビクトリアは怒りをあらわにしたが、冷静さを取り戻し、アーサーに言った。
「では、一発なら」
「一発...か。一ぱ...」
ビクトリアはアーサーの返事など聞かずに、草むらから拾ってきた男達を殴り飛ばした。
二人は、遠く離れた校舎まで飛ばされた。
その校舎の壁には、人型の凹みができ、ヒビも入っていた。
「あいつら死んだんじゃね?」
「ビ、ビクトリア、怖い...」
ビクトリアの怒りは収まらず、その矛先は残ったエイムに向けられた。
ビクトリアは校舎とは逆方向に向くと、力を込め始めた。
その様子はあまりにも異常だった。
「ねぇアーサー、あいつ死ぬよ」
「わかってる!ビクトリア!やめるんだ!それ以上やるとエイムが!」
アーサーの静止も聞かず、ビクトリアはエイムを殴り飛ばした。
森が一刀両断され、風圧で周りの木々は曲がってしまった。
「死んではないでしょう。ですが、二度と歩くことも出来ないでしょうね」
ビクトリアはそう言うと、アリシアを連れて帰って行ってしまった。
「え?ちょ、ビクトリア!説明して行ってよ!」
「それはアラン様がしてくれるでしょう」
「え?僕?」
* * *
結局、この事件は生徒間の喧嘩として処理された。
学園を守る防御結界については、老朽化とされた。
「つまりは、お前の中に神がいるってことか?」
「そういうことだね」
流石のへルックも、頭を抱えるしかなかった。
それはレベッカやマリアも同じことだった。
「なんで黙ってたの!そんなに大事なことを!」
「えっと、聞かれなかったから?」
「聞かれなかったじゃないでしょ!なんでお姉ちゃんに相談しなかったの!」
「相談とかの話じゃねぇだろ」
これには、流石にマリアも怒っていた。
そこへ、ビクトリアがやってくると、ある疑問を突きつけた。
「なぜ、アラン様に毒が効いたのですか?」
「あぁ、それはね、まえにエイムをボコボコにしたことがあったじゃん?」
「そんなこともあったわね」
「流石に目立ちすぎちゃったからさ、神の子を封じてたんだよね」
アランはそう説明したが、ビクトリアにはまだ疑問が残っていた。
それは、アランがエイム如きに騙されるのか、ということだ。
「確かに。多分、疲れてたんだと思う。ほら、夏休み忙しかったじゃん?」
「なるほど。アラン様もかなり無理されていましたからね。私がアラン様の疲れをとって差し上げます」
そう言うと、ビクトリアはアランを自分の膝に乗せ、肩を揉み始めた。
ビクトリアは相当上手いのか、アランは今にもとろけそうな表情になりながら、眠りについてしまった。
「ビクトリアだけずるい!私もやる!」
「あら、公爵家の令嬢がはしたないですよ、レベッカ様」
「良いんですー!それより早く変わって!」
レベッカは一歩も引く気はなかったが、ベルージュがそこへ割って入った。
「レベッカ、今回はやめときなさい。アランちゃん、昨日もすごく疲れてたわよ。カフェに行ってもすぐにうとうとしてたし。あなたならわかるでしょ」
「で、ても、私だって...」
「レベッカ?アラン君が私たちを守るために、どれだけ労力を割いてるかわかるかい?」
「そ、それは...」
「アラン君は、このところ寝てなかったんだよ」
「え?」
その言葉に、マリアやレベッカ、皆が驚いていた。
アランは、この夏休みの間、ほぼ一睡もしていない。
理由は簡単、夏休みはレベッカもアーサーも、寮から離れていた。
さらに、最後の夏休みということも相まって、外出することも多かった。
「つまりだ、アランはお前達二人が遊んでる間、不眠不休で働いていたと」
「なんで、黙ってたのよ...」
「今日は、ゆっくり休んでもらおう。それぐらい疲れていたんだよ、エイムの嘘にも気づけないほどにね」
アランは休養をとり、その日は寮へ戻った。




