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魔法使いの家出  作者: 羽良 凪都輝
第5章 王立魔術師学校マギア 後編
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「神の領域」


「図が高いぞ人間」


その瞬間、皆は何かに押しつぶされそうに、その場で倒れ込んだ。

今の一瞬で何が起きたのかわからなかった。

だが、一つだけわかることがあった。


(アランじゃない!)


「それにしても、ここは空気が不味い。何かに阻害されているようだな」


ディンスターが周りを見ると、その正体にすぐに気づいた。


ディンスターは指を鳴らした。

その瞬間、学園を丸ごと囲っている結界が、ガラスのように割れた。

皆は今の一瞬で、何が起きたかわからなかった。

すると、そこへ一人の少女が飛んできた。


「お初にお目にかかります、破壊神、ディンスター様」

「お前は確か...アランの飼い犬か」

「か、飼い犬...ま、まあ、そのような者でございます。今日は、私の願いを...」

「願い?なんだ、聞いてやろう」


「私と、手合わせ願います」


その言葉を聞いたディンスターは、思わず笑ってしまった。

それもそのはず、今まで神に戦いを挑む者など、いつの時代に遡っても、居なかったからだ。


「丁度良い。そこで見ていろ、神の力を見せてやろう」


そう言うと、ディンスターはエイムをそこら辺に放り出した。


(ディンスター?誰のことを言っているの?アランじゃないの?それに、なんでアリシアは戦かおうとしたの?そもこも、体が、動かないんだけど!)


レベッカはなんとか立とうとしたが、それは不可能であった。

レベッカがマリアの方を見ると、少しであったが、横に首を振った。


(マリアでも、打つ手なし...どこに行ったの、アラン...)


レベッカがどうにかしようとしていると、ついに戦いが始まってしまった。


アリシアは、最初から全力を出していた。

周りには、魔力のオーラが溢れていた。

その中で、異様にオーラを放っていたのが、アリシアの右手。


その瞬間、アリシアは一瞬でディンスターの前に移動し、拳を打ち込んだ。


(避けなかった。だが、これで良い!相手が油断している、この時間が一番勝機がある!)


アリシアの攻撃は、あまりの強さに衝撃波を放ち、周りの木々をなぎ倒していた。


(おいおい、妾の持っている魂を、どれだけ注ぎ込んだと思ってるんじゃ!)


煙が晴れると、そこには無傷のディンスター。

アリシアの攻撃は、ディンスターにとって、赤子のパンチに等しいものであった。

ディンスターは、アリシアの右手を掴んだ。


その瞬間、ありえない速度で、ディンスターの拳がアリシアを襲った。

その速さは、本気のアランを超えるものであり、アリシアも対処のしようがなかった。


だが、それでもアリシアも無傷であった。

流石に、ディンスターも異変に気づいたのか、アリシアの右手を離し、少し距離をとった。


「魂で、ダメージを代替したのか」

「流石は神様ですね。そうです、貴方様の攻撃は、私には届いておりません」


(とは言っても、妾の溜めてきた魂の、半分が消し飛んだぞ。このままでは、魂が底をついて負ける。何か打開策を考えねば)


アリシアが打開策を考えている間に、ディンスターは核心の貫きを使い、隙を与えなかった。

核心の貫きは、アリシアをしつこく攻撃して、アリシアは逃げる以外に選択肢がなかった。


(ここに来て、神術の詠唱破棄、終わってる...どうする、妾よ。...あ!あれを使おう)


すると、一瞬にしてアリシアが姿を消した。

レベッカ達は、何が起きたのかわからず、アリシアを探した。

だが、ディンスターは、一瞬で状況を理解し、空に場所を移した。


(流石は神じゃ。妾の狙いがバレておる)


属性付与。

アリシアは闇属性。

ディンスターの攻撃を避けるため、アリシアは闇の代名詞、影に隠れたのだ。

それに気づいたディンスターは、自分の影から奇襲を受けるのを避けるため、空に場所を移したのだ。


アリシアはレベッカ達の影から出ると、攻撃が止んだ。


(まさか、レベッカたちは殺せないのか?これは使えるぞ!)


アリシアは、レベッカたちの周辺から、矢の形をした魔力の塊で、攻撃を始めた。

流石に、ディンスターもレベッカたちを攻撃をすることはできず、防御に徹していた。


と、言っても、ディンスターはどこから持ってきたかわからない紅茶を飲み、優雅に過ごしていた。


(防御結界ではないのか?どう言うことじゃ?アランはあんなもの使ってなかったぞ)


ディンスターの防御方法は、物理的に止める結界とは違い、術式そのものに作用していた。

まるで、アリシアの術式そのものが壊されているような。


(術式の破壊...アランの神は、破壊神...気づきたくなかった事実じゃな!)


アリシアはヤケクソになり、攻撃を強めたが、ディンスターには一つも通らなかった。


すると、ディンスターは、アリシアの目の前から姿を消した。

アリシアの動体視力は、アランと同レベルであったが、そのアリシアをもってしてもディンスターがどこに移動したかわからなかった。

周りを見渡していると、背後からカップが、ソーサーに置かれた音がした。


「神眼持ちか。珍しいな。この時代にまだ、神眼持ちが居たとは」

「...封印されていたのでね!」


アリシアはすぐに振り向き、魔術で攻撃したが、指一つで跳ね返されてしまった。


カップが宙に浮いた。

アリシアにも反応できない速さ。

ディンスターの拳がアリシアの目の前まで迫った。


アリシアは直感的に死を感じた。


だが、拳があと数mmというところで、ディンスターの動きが止まった。


「ん?これは...どういう状況?」

「なんじゃ、驚かせおって」


すると、レベッカ達が起き上がれるようになっていた。

そこへ、草むらから血だらけになっている二人の男を運ぶ、ビクトリアが現れた。

ビクトリアは、倒れ込んでいるエイムを抱えると、アーサーに聞いた。


「殺してもよろしいですか?」

「その男は何をした」

「殺人未遂です」

「そうか。だが、申し訳ないが、今回の件は私が受け持つ。君には申し訳ないが、その3人は国に渡してもらおう」


すると、ビクトリアは怒りをあらわにしたが、冷静さを取り戻し、アーサーに言った。


「では、一発なら」

「一発...か。一ぱ...」


ビクトリアはアーサーの返事など聞かずに、草むらから拾ってきた男達を殴り飛ばした。

二人は、遠く離れた校舎まで飛ばされた。

その校舎の壁には、人型の凹みができ、ヒビも入っていた。


「あいつら死んだんじゃね?」

「ビ、ビクトリア、怖い...」


ビクトリアの怒りは収まらず、その矛先は残ったエイムに向けられた。

ビクトリアは校舎とは逆方向に向くと、力を込め始めた。

その様子はあまりにも異常だった。


「ねぇアーサー、あいつ死ぬよ」

「わかってる!ビクトリア!やめるんだ!それ以上やるとエイムが!」


アーサーの静止も聞かず、ビクトリアはエイムを殴り飛ばした。

森が一刀両断され、風圧で周りの木々は曲がってしまった。


「死んではないでしょう。ですが、二度と歩くことも出来ないでしょうね」


ビクトリアはそう言うと、アリシアを連れて帰って行ってしまった。


「え?ちょ、ビクトリア!説明して行ってよ!」

「それはアラン様がしてくれるでしょう」

「え?僕?」


 * * *


結局、この事件は生徒間の喧嘩として処理された。

学園を守る防御結界については、老朽化とされた。


「つまりは、お前の中に神がいるってことか?」

「そういうことだね」


流石のへルックも、頭を抱えるしかなかった。

それはレベッカやマリアも同じことだった。


「なんで黙ってたの!そんなに大事なことを!」

「えっと、聞かれなかったから?」

「聞かれなかったじゃないでしょ!なんでお姉ちゃんに相談しなかったの!」

「相談とかの話じゃねぇだろ」


これには、流石にマリアも怒っていた。

そこへ、ビクトリアがやってくると、ある疑問を突きつけた。


「なぜ、アラン様に毒が効いたのですか?」

「あぁ、それはね、まえにエイムをボコボコにしたことがあったじゃん?」

「そんなこともあったわね」

「流石に目立ちすぎちゃったからさ、神の子を封じてたんだよね」


アランはそう説明したが、ビクトリアにはまだ疑問が残っていた。

それは、アランがエイム如きに騙されるのか、ということだ。


「確かに。多分、疲れてたんだと思う。ほら、夏休み忙しかったじゃん?」

「なるほど。アラン様もかなり無理されていましたからね。私がアラン様の疲れをとって差し上げます」


そう言うと、ビクトリアはアランを自分の膝に乗せ、肩を揉み始めた。

ビクトリアは相当上手いのか、アランは今にもとろけそうな表情になりながら、眠りについてしまった。


「ビクトリアだけずるい!私もやる!」

「あら、公爵家の令嬢がはしたないですよ、レベッカ様」

「良いんですー!それより早く変わって!」


レベッカは一歩も引く気はなかったが、ベルージュがそこへ割って入った。


「レベッカ、今回はやめときなさい。アランちゃん、昨日もすごく疲れてたわよ。カフェに行ってもすぐにうとうとしてたし。あなたならわかるでしょ」

「で、ても、私だって...」

「レベッカ?アラン君が私たちを守るために、どれだけ労力を割いてるかわかるかい?」

「そ、それは...」

「アラン君は、このところ寝てなかったんだよ」

「え?」


その言葉に、マリアやレベッカ、皆が驚いていた。

アランは、この夏休みの間、ほぼ一睡もしていない。

理由は簡単、夏休みはレベッカもアーサーも、寮から離れていた。

さらに、最後の夏休みということも相まって、外出することも多かった。


「つまりだ、アランはお前達二人が遊んでる間、不眠不休で働いていたと」

「なんで、黙ってたのよ...」

「今日は、ゆっくり休んでもらおう。それぐらい疲れていたんだよ、エイムの嘘にも気づけないほどにね」


アランは休養をとり、その日は寮へ戻った。


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