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魔法使いの家出  作者: 羽良 凪都輝
第5章 王立魔術師学校マギア 後編
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「謝罪」


「久しぶり」

「おう!夏休みは楽しめたか?」

「まあ、ぼちぼちだね」


修学旅行から、3ヶ月がたった。

夏休みは2ヶ月。

その間、アランは色々な任務をこなしてきた。

そのためか、少し目の下にクマができていた。

疲労が溜まっているのだろう。


「あら、久しぶりね、へルック。少し筋肉増えた?」

「おう、レベッカか。そうだぜ、結構頑張ったんだぞ!」


へルックは筋肉を見せつけるように、ポーズをとった。

そこに、アーサーも合流した。

身なりはいつも通りだったが、何かが違った。



「お前、なんかあったか?」

「まあね。色々あってね」

(この雰囲気、師匠と同じだ)


アランは、さりげなくアーサーを観察した。

歩き方、体の動かし方、魔力の流れ。

アランは、思い浮かぶ全てを観察した。

だが、何一つ変わっていなかった。


(何も変わらない...しょうがない、正直に聞くか)

「アーサーさん、何かありましたか?」

「あったよ。そのうちわかるさ」

「そうですか...」


教室に入ると、マリアやベルージュが先に来ていた。

二人は、レベッカを見るや否や、すぐに謝り始めた。


「ねぇ、こないだのことは謝るから、許してよ!」

「私も悪かったと思ってるわ!だから、お願い!」


二人はレベッカに頼み込んだ。

すると、レベッカはそっぽを向いた。

アーサーやへルックは、この状況が理解できなかった。

他のクラスメイトもだ。

そのため、アランがこの状況を説明した。


「夏休みに、二人がレベッカ様にドッキリを仕掛けたんです。ほら、レベッカ様って、怖いの苦手じゃないですか」

「もしかして...」

「まったく、人が留守にしてる間に、あんなことするなんて」


レベッカの言葉で、察したようで、アーサーやへルックは苦笑した。

その後、マリアとベルージュ、その二人はレベッカに謝り続け、やっとのことで許してもらったのは、学校が始まってから3日目のことであった。

アランは移動教室であるため、廊下を歩いていると、背中を軽く叩かれた。

振り返ると、そこには怪我が治ったばかりの、エイムが立っていた。


「話がある」


アランはエイムについていくと、人気のないところへと向かった。


(復讐?でも、取り巻きがいない。流石に、一人で僕に勝てると思ってなさそうだけど...)

「こないだはすまんかった」

「へ?」


エイムは深々と頭を下げた。

アランはその様子を見て、エイムが本気で謝罪をしたいのだと感じ取れた。


「俺は、周りが見えてなかった。自分がしたいようにしか、周りに迷惑をかけ...」


その言葉に、アランは考えるのをやめた。


「良いよ。許すよ」

「ほんとか!?あんなに酷いことをして、本当にすまないと思ってる。だから、俺の取り巻きたちにも改めて謝罪させたい。今日の放課後、空いてるか?」

「そうだね、空いてるよ」

「じゃあ、放課後、空けといてくれ」


エイムはそう言って、去っていった。


「吐き気がする」


(何か聞こえたような...まあ、いっか)


その後、アランはエイムと話していたため、授業に遅れてしまった。


* * *


人気がない。

小鳥のさえずりが聞こえてくる。

丸いテーブルに、4つのイス。

日差しの元に、4人の人影。

3人は成人ほどの身長であったが、残り1人は3人に比べればかなり低かった。


「ほら、お前達、連れてきたぞ」

「本当にすまなかった。俺らも、周りが見えてなかったんだ。頼む、許してくれ」

「良いよ。反省してるっぽいし」


アランは3人の言葉を聞いて、完全に気が緩んだ。

出された紅茶を飲んだ。


(あれ?なんか、めまいが...眠気も...なんで...)


鈍い音がした。

アランは、紅茶を飲んだと同時に倒れてしまった。

すると、そこに座っていたエイムは立ち上がって、こう言った。


「あー、吐き気がする。俺たちが本当に謝ると思ったのか?ばっかじゃねぇの」


そう言って、3人は倒れて気を失っているアランを蹴り始めた。

だが、3人がいくら蹴っても傷一つつかなかった。


「ちっ、体固すぎんだろ。まあ良い。ただの召使ごときにこんなネックレス、分不相応だな。俺様が代わりにつけてやろう」


そう言うと、エイムはアランのつけていたネックレスを奪い取った。

エイムに続き、他の二人もアランのつけているアクセサリーを取ろうとした。

その時だった。

二人の手が寸前まで迫ったところで、アランが立ち上がった。


「は?毒が効いてねぇのか?いや、そんなはずはねぇ。少なくても体を思うように動かせねぇはずだ。おい、二人ともこいつを押さえつけろ」


二人はエイムの言う通りにしようとした。

アランの体を押さえつけようとした。

両手に力を込めた。

だが、アランは大樹のように、びくともしなかった。


「誰の体に触っている」


その声は、アランの声であり、アランの声ではなかった。


圧倒的恐怖。


たった一言聞いただけであった。が、それだけでも、近くの人間を恐怖のどん底に突き落とすには申し分ないほどのものであった。


(か、体が、動かねぇ!俺が恐れている?いや、本能が恐れているのか?そもそも、こいつは本当にあの召使なのか?)


エイムが数秒考えている間に、アラン?はどこから持ってきたのかわからない茶菓子と、先程の紅茶を飲み始めた。


(こ、こいつ、毒入りの紅茶を飲み干したぞ!こいつは馬鹿なのか?いや、だがこれで良い。この毒は、飲み干せば、後遺症が残るほど強いものだ。数秒経てば、口から血反吐を出し、身体の自由は効かなくなる)


エイムは顔をにやつかせながら待っていたが、いくら時間が経っても、何も起きやしなかった。


「な、なんで、毒が効かねぇんだよ!」

「誰が発言を許可した」


その瞬間、エイムは血反吐を吐き、その場に倒れてしまった。

他の二人は、あまりの恐怖に気を失っていた。

そこへ、一人のメイド服を着た女がやって来た。

エイムは、なんとか意識を保って、そのメイドに助けを求めたが、そのメイドは、エイムをゴミを見るかのように見た。


「お久しぶりですね、ディンスター様」

「久しぶり?そんな歳月は経ってないはずだが」

「...そうですね」


ディンスターは、紅茶を飲みながらビクトリアに聞いた。


「奴は?」

「申し訳ございません。今のところ、所在は...ですが、目撃情報はいくつか。その情報を辿れば、いつかは...」

「そうか。なるべく早く頼んだぞ。できれば、この身体の全盛期が過ぎるまでにだ」


その会話を聞いているエイムは何が何だかさっぱりであった。

奴とは誰か、この身体とは誰か、アランいや、ディンスターとは、何者か。

エイムの思考はこれらで埋め尽くされていた。

もう、復讐どころではなかった。


「ところで、いつ替わるのですか?」

「いつ替わる?あぁ、アランのことか。そうだな、久しぶりの現世だ。少し遊んでいこう」

「なるべく、早くお願い致します。そろそろ、自分の理性が止められそうにないので」


ビクトリアは、自分の右手を左手で押さえつけていた。

どうやらビクトリアは、ディンスターがアランの体を使っているのが、脳では許せても体が許せていないのだろう。


「少し、この無礼な男を借りていくぞ。終わったら好きにして良い」

「壊さないでくださいね。その男は私が壊すので」


ビクトリアは、そう言うと気を失っている二人の男を、近くの茂みへと隠した。

エイムは、なんとか逃げようとしたが、やはり体が言うことを聞かない。


「小僧、お前はわれに無礼な態度をとった。その勇気に評して、見せてやろう。人間と神の差を」


 * * *


「その耳飾りすごいね!なんかの魔道具?光るアクセサリーなんて、聞いたことないよ!」

「光る?何を言っているのか?これはただの...光る...光る!?」


マリアはすぐに耳飾りを外し、耳飾りを確認した。

耳飾りは普段は白色だが、今は違った。

色は青、いや、澄んだ水色といった方がわかりやすいだろう。


「この色...今助けに行くわ。もう奪わせない!」


マリアは友人たちを置き去りにして、どこかに行ってしまった。

その友人は何が起きたかわからないまま置いてかれてしまったため、その場に一人ぽつんと立ち尽くしていた。


「あ、あれ?私のお菓子がない...」

「さっき食べたんじゃない?食べたものを忘れるなんて、ほんとにおっちょこちょいね」

「もう!レベッカひどい!...って、あれ?なんか光ってるよ?」


「え?」


レベッカはすぐに耳飾りを確認した。

その色は、マリアが見た色と同じ。

そして、レベッカはアランから放課後の予定を聞いていた。

レベッカは、言葉より先に、体が動いていた。


「あっ、どこに行っちゃうのー!」


友人の声など頭に入らなかった。

初めてのこと。

確かに、この世に絶対はない。

だが、アランに限ってこんなことが起きるとは思わなかった。


「なあ、今度の文化祭だが、予算をどうするよ」

「あんた馬鹿なの?レベッカがいないのに、どうやって決めるってのよ」

「で、でもよ、ある程度は決めとかないとだな...」

「へルック。今日は生徒会は休みだよ。その話は明日にしようか」

「確かに...」


その時、ベルージュがアーサーの耳飾りの異変に気づいた。


「殿下!光ってます!」


アーサーは急いで確認すると、その色は、初めて見る色だった。


「冗談はよしてくれよ!」


アーサーは座っていた椅子を、倒しながら生徒会室を飛び出した。


「お、おい、何があったんだよ!」

「アランくんが、襲われた」


「は?」

「え?」


二人の思考回路が止まった。

ただ、死に物狂いで走った。

この場において、今一番失ってはいけない者。

もし、アランを失えば、レベッカはおろか、アーサーまで危険に晒される。

しかも、文化祭が近づいているこの時期にだ。


 * * *


「マリア!今どういう状況だ!」


マリアが振り返ると、アーサーたちに加えて、途中で合流したレベッカも一緒だった。


「わ、わからない...で、でも、とりあえずは無事みたい...」


皆の心がホッとした。

アランの方へ目を移すと、無傷で、エイムを抱えていた。


「あ、アラン、大丈夫なの?」


マリアはアランに話しかけた。


「誰に向かって言っている」


マリア達が予想していた言葉とは、程遠い言葉が返って来た。


「あ、アラン?どうしちゃったの?」


「図が高いぞ人間」

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